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龍児と刀夜 ―異世界サバイバル―  作者: 滝ノ森もみじ
第1章 サバイバル編
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第36話 アーグ討伐1

 ――時は(さかのぼ)る――


 刀夜達がプルシ村に宿泊して次の朝が訪れた。村は朝早くから何やら騒がしい。刀夜は異変に気づいて窓を開けると慌てて走ってきた村人に声をかけた。


「どうかしたのか?」


「アーグだ! アーグに襲われた!!」


 『アーグ』刀夜はあの悪夢のような夜を思い出す。この世界に来たときに最初に襲ってきた黒い獣の事だ。


 刀夜は急いで梨沙と美樹をたたき起こす。二人は夕飯のあと昨日買った服のままベッドで寝ていた。


「おい、村が大変なことになっている。早く起きろ!」


「ふえぇぇぇーなぁーにー」


 掛け布団の上で梨沙は横向きのまま伸びをしている。


 美紀は寝相が悪く大の字のままで返事はしているが、寝ぼけている顔は緩んだままだ。見るに耐えない刀夜はスカートがはだけてパンツ丸出しの美紀の頭を(はた)いた。


「いったーい! 刀夜、女の子の頭叩くなんてサイテーよ!」


「まだ寝ぼけているのか?」


「どうしたのよ?」


 梨沙は目覚めが良かったのか、すぐに靴を履いて準備をしている。


「例の黒い獣、アーグが現れたそうだ」


 その言葉に悪夢の光景を思い出した美紀は一気に目が覚めた。そして慌てて体を起こしてキョロキョロと靴を探す。


「ふええん、靴どこぉ~」


「どうするの?」


 靴を履き終えて準備ができた梨沙が尋ねた。だがやることなど一つしかない。


「まずは情報だ。現場に向かおうと思う。お前達はどうする?」


「行くに決まっているわ」


「じゃあ急ごう」


「ま、まってぇ~一人はいやぁ~」


 美紀はいまだ靴を履ききれておらず、中途半端な姿でピョコピョコと跳ねて追いかけた。


 宿屋を出て皆が駆け寄って人だかりができている所に刀夜達も向かう。人だかりの中にブランキの姿を見つけると大事なことを思い出した。


「ブランキ!」


「と、刀夜か大変なことになった」


「大変なことは分かったが、俺達の見張りはいいのか?」


「――あ……いやいや今はそれどころじゃない」


 刀夜は自分の使命を忘れてごまかしている男に(あき)れた。

 しかし一大事なのは確かである。


「ブランキ、何が起きたんだ?」


 刀夜が訪ねるとブランキは険しい顔で答えてくれた。


「イブリ爺さん夫婦が朝早く収穫に出たところ、アーグに襲われて亡くなった。連中は夜型なので朝に出没することは無かったのに……」


 ブランキのいうとおりアーグは夜に行動するのが大半なので日中に襲われることはない。しかしながら日が上がりきってからの農作業はキツイために、老夫婦は涼しい早朝に作業を行っていた。


 そしてたまたま運悪く明け方まで行動していた獣に出くわすと、さらに運の悪いことに手にしてた鎌で反撃して相手を傷付けていた。


 現場には獣の皮膚と体毛、老夫婦の遺体が転がっている。


「これからどうなるんだ?」


 刀夜のその問いに村人が一斉に死んだような目で彼を見た。ブランキも肩を落としながら無念そうに答える。


「もう村を捨てるしかないだろうな……山賊の連中でも敵わなかったヤツらだ、この村程度のバリケードではどうにもならんだろう……」


 アーグは必ずやり返しに来る。刀夜達の時も再襲撃された。連中の性格は獰猛(どうもう)にて粘着質だ。一度戦った刀夜はそのことをよく知っている。


 だがそれでもブランキの答えに刀夜は怒る。


「なぜそんなに簡単に諦めれる? ここはあんた達の大事な村じゃないのか? 村を捨ててどこか移り住む宛はあるのか?」


 村人達に移り住む宛などなかった。街は閉鎖的だ。元々追い出されてできた村だけに愛着や誇りもある。だが、もしアーグが一斉に攻撃してきたら対抗できるだけの若者はこの村にいない。


「ブランキ――俺と一緒に奴等と戦わないか?」


 刀夜の提案に村人達は正気なのかとざわめく。


「なんでそんな事をいうんだ。お前には関わりのないことだろう?」


 確かによそ者の刀夜にはこの村がどうなろうと知ったことではない。だが刀夜には戦いたい理由があった。


「俺も、俺達の仲間が奴等に大勢殺られたからだ!」


 刀夜の目が据わって復讐心を(たぎ)らせた。冷たい視線から放たれた殺気にブランキは冷や汗が流れる。


「し、しかし、どうやって戦うのだ?」


 村長が訪ねる。この村は老人、女、子供が大半であった。稼ぎの苦しい家庭の多くの男は出稼ぎに出ていてそうそう帰っては来ない。


「俺のやり方は一つしかない。罠にはめて皆殺しだ」


 不適な笑みを浮かべ、ドスを効かせて答えるこの男に村長やブランキはとんでもないヤツを村に泊めてしまったと感じた。


 果たしてこの男は村の救世主となりえるのか、それとも壊滅に導く悪魔なのかと……


 刀夜は彼らに有無を言わさず即座(そくざ)に皆に指示を出した。


「作戦指揮所を村長宅にする!」


 村長宅には大きなテーブルがあり、村の中央に位置していたからである。それに加えて家の前には広場があって雑貨屋もある。作業状況を確認しながら指揮を取るにはうってつけだ。


「まず山の詳細な地図を。そして地理に詳しい者は村長宅へ集まってくれ。使える武器を集めるんだ。ありったけのロープ。杭や棒もたくさん。短いのもだ。釘、ガラス瓶、あと台車も」


 刀夜は村人の返事も待たず次々と指示をだしたため、村人達はオロオロとするばかりであった。それを見かねた刀夜は彼らに(げき)を飛ばす!


「どうした! 村を捨てたいのか! ここを失っていいのか!」


「や、やろう。村長! ここを捨てたらの垂れ死ぬが落ちだ」


 刀夜の声に押されたブランキが村長の後押しをする。


「わ、わかった。だが実行するかは君の案を聞いてからだ。それで良いな」


 村長の言葉に刀夜は(うなず)いた。


 村人達の了解を得ると刀夜の行動は早かった。


 テーブルに村周辺の地図が広げられる。そこに刀夜に頼まれてリュックを取りにいった梨沙が戻ってくると、刀夜はそれを受けとりノートと筆箱、定規を取り出す。


 ノートの一頁を引きちぎって地図の上に置くと、村から山賊のアジトまでの地図をトレースした。


 刀夜が地図をトレースしたのは地図があまりにも簡素過ぎた為である。地理に詳しい者の話を聞きながらトレースした地図に情報を書き込んでいく。


 村からアジトまでは基本なだらかで急な箇所は二ヶ所のみだが台車でも何とか上れるのはありがたかった。元々山賊達が戦利品を運んでいた道なので当然と言えば当然である。


 刀夜は木や草の密集状態、高低差を書くと罠を仕かけられそうな箇所に記号を入れた。さらにアジトの詳細な地図を今度は別の紙にフリーハンドで描いていく。


 山賊のアジトはもともと木で作られていたがアーグの襲撃の際に殆どが潰されていた。アーグの寝床は砦の奥にある洞穴で、ここは元々は宝物庫である。


 部屋の数まで詳細な情報を得て刀夜は疑問に思った。


「なぜ盗賊のアジトの奥まで、こんなに詳細な情報があるのだ?」


 長老達の話しによれば、元々山賊達とこの村は交流があったのだと。悪く言えば結託(けったく)していたのだ。したがって村人の中には元山賊だった者がいたりする。だがそれも今となっては貴重な情報源であり、作戦の成功率を高めることとなる。


 刀夜は図面に新たなトラップを書き記すたびに悪魔のような笑みを浮かべた。


 梨沙と美紀はそんな刀夜を見て、この男は本気で村を助けたいのか、それともゲームでも楽しんでるつもりなのかと不安に駆られた。


 地形情報を一通り集め終えると、今度はかき集めた武器や道具が並ぶ広場へと出る。


 それらを実際に触って確かめるとノートに作成してほしい武器や道具を絵に描き、身ぶり手振り、時には道具を手にして説明する。村人総出で準備に取りかかった。


 刀夜は地図を睨みつけて更に思案する。時折村人を呼んでは道具の製作を依頼する。そして日が傾く前に作業は終わった。


 刀夜は討伐隊の8人を村人から選抜した。狩猟経験の有るもの、若く力の有る者を選んだ。


 日が暮れて村長宅にて作戦の手順を彼らに叩き込んだ。そして道具の使い方、罠の設置方法を実物で教える。作戦の実行はアーグの習性から明朝とする。


 刀夜達は宿屋に戻ったが村の何人かは村長宅に残り刀夜の作戦を再検討していた。


「非の打ち所もないな……勝てそうな気はするがここまで徹底するか。恐ろしい……」


 何度再検討してもこれ以上の案を彼等は出せなかった。


「こいつは、本気で1匹残らず殺る気ですぜ」


「最悪のパターンはアーグが日常以外の行動を取った場合のみか?」


「それでもこれだけの仕掛けがあれば相当数は倒せるぞ」


「最初だけだ。最初がうまく行けば勝ったも同然だ」


 その言葉に皆が(うなず)いた。


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