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龍児と刀夜 ―異世界サバイバル―  作者: 滝ノ森もみじ
第1章 サバイバル編
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第26話 遭難

「これは……もう山って感じじゃないよね……」


 腰の高さまで伸びきった鬱蒼(うっそう)とした雑草の塊。湿っていて絨毯(じゅうたん)のようにお生い茂る苔。大小様々な岩が点々とする。そして空は高く生えた木の枝と葉で光を(さえぎ)っていた。


 葵がへばって座り込んでしまった。行けども進めど森、森、モリ……同じような光景がずっと続き、自分達はまっすぐ進んでるのかさえ分からなくなった。


 極度の緊張と疲労は早いペースで水を浪費してすべて使い切ってしまった。食料もなく、日も傾き始めている。


 緩やかな下り斜面はもうない。尾根道があったはずの崖もいつの間にか無くなっていた。まっすぐ進んできたはずと思いこんでいたが、思い返せば指標にしていた道は結構うねっていた。


 そもそもこのような場所に道などあるはずもない。いわゆる獣道であり、そんなところを進めば迷って当然なのだ。


「みんな、もう日が傾く。これ以上進むのは危険だ。この辺りで野宿をしよう」


 拓真は皆の様子から限界を感じ取った。


「こんな、開けた場所で寝るのですか?」


 舞衣が不安がるのも無理からぬことであった。日が落ちれば360度、漆黒(しっこく)の闇と化する。


 昨日の夜の時は片側は絶壁で校舎もあった。だがここにはなにもかも無い。どこから獣が現れるか、その恐怖が(ぬぐ)えないのである。


 その懸念(けねん)は皆も感じていた。全員で検討した結果、まず野宿できるか四方八方の状況を確認して情報を集めることから始めた。


「先生のいるこの場所を中心として、必ず視界に入る範疇(はんちゅう)で行動してくれ。くれぐれも奥に行きすぎないように」


 拓真が行動の指針(ししん)を示す。


 探索に選らばれた者が四方に散って水と食べれそうなものと隠れる場所を探す。しかし上がってくる報告はどれも残念なものばかりであった。


 ところが颯太が帰ってこない。彼の向かった方向を見ても彼の姿はなく、誰しもが嫌な予感を募らせた。


 どうするか皆で協議する。いくつか出てきた案から拓真は選択して決断した。


「では視界範囲内で数珠(じゅず)繋ぎで捜索しよう」


 再び選らばれたメンバーにより颯太の捜索にでる。


 この時、すでにクラスの中で役割のようなものができつつあった。行動の基準点は智恵美先生となり、提案は皆で考えて持ち寄る。それらをまとめて決断するのは委員長こと河内拓真が行っていた。


 その為、拓真には最も重い責任がついて回ることとなる。常に無難に安全にとやっているつもりではあったが、それでも己が身にかかるプレッシャーは大きい。


 捜索の先頭を歩いていた晴樹、由美、葵は窪地(くぼち)で足を滑らせた跡を発見した。


 恐らく颯太がここて足を滑らせたものと考えた。だが颯太の姿は見当たらず嫌な予感がする。晴樹と由美が降りてみる。


「まったく、何処(どこ)に行ったんだか」


「三木君、ここに這い上がった跡があるわ」


 そこには足をかけたのであろう、傾斜した地面にえぐれた跡が残っていた。


 由美はその場所から這い上がってみる。晴樹も上がろうとしたとき、何か音がしたような気がした。由美が手を差し伸べようとするが、晴樹は別方向を向いていた。


「三木君?」


「水だ、水の音がする」


 由美も耳を澄ませると確かに水の音がしている。晴樹が窪地(くぼち)から這い上がってきた。


「もしかしたら水を探しに行ったんじゃないか?」


「私もそう思うわ」


 葵をその場で待機させ、二人は奥へと進むことにする。茂みをかき分けてしばらく進むとやがて沢に出た。


 そこにはペットボトルに水を汲んでいた颯太の姿があった。


「久保!」


「久保君」


 二人に呼ばれて颯太は振り向く。悪びれることもなく普通に返事する彼に二人は(あき)れた。だが彼のいたこの場所には水と隠れる場所があり、拓真が探し求めていた場所そのものであった。


 伝言で颯太の発見と水と隠れ場所について拓真に連絡が行と彼はその場所への移動を決断した。


 颯太のいた沢には高さ6メートル以上はありそうな大きな岩があり、地面のとの接地部分に人が入れるほどの(くぼ)みがある。ここなら雨が降っても()れずに済みそうであった。


 そこへ両手に薪を抱えて皆がやって来る。颯太の捜索中に集めておいたのだ。やや湿っており、着火に手間取りつつも何とか火を起こす。


 今朝の残りの果実を夕飯にするが残り少なかった為、空腹感を擺脱(はいだつ)することはできない。ゆえに空腹を(しの)ぐために皆は早めに就寝することにした。


 見張り役で智恵美先生と拓真、舞衣が焚き火を囲んでいる。


 唐突に先生が謝ってくる。


「河内くん御免なさいね。リーダーの役をやらせてしまって。本来なら私がやらなきゃならないのに……」


 その表情はどことなく寂しげだった。


「先生、もう少し気楽に行きましょうよ」


 拓真は細い枝で焚き火の灰を取り除きながら語る。


「確かにリーダーの決断は皆の命を左右します。でも皆の命の重みまで背負ってしまったら、いずれ潰れてしまいます。個人の命は各々で背負うべきなんじゃないかと、だんだんそんな気がしてならないんです」


 智恵美先生と舞衣は拓真の言っていることが理解できずポカンとした表情で拓真を見ていた。


「最初、僕はクラス委員長として皆の命を預かるつもりで指示を出したりしていたのですが、逆にそれがプレッシャーとなって空回りする結果となってしまいました。八神君の機転がなければ全滅していてもおかしくなかった」


 拓真は焚き火の灰を取り除くと新しい薪を焚き火にくべた。


「正直なんて凄いヤツだと思いましたが、だけど彼は最初っからクラスの全員の命を抱えるつもりなんて、無かったんじゃないかと……今はそう思っています。一見、無責任のように感じますが余計なことを考えずに済むわけですから最善の一手に思考をすべて回すことで結果、最悪は免れています」


「自分達の命は自分でなんとかしなくてはいけないのね……」


「でも、自分の言葉で命が左右されることには代わりないわ。命の重みを感じられずに、そんなロボットみたいにできるものなの?」


「わからない。少なくとも僕には無理だった。だけどそれを意識するようになってからはかなり楽になったのは事実だよ。もしかしたら何か方法があるのかも知れないな」


 拓真の考えは合っていた。刀夜は剣術道場の師範から習った自己暗示をかけることで感情をコントロールしていたのだ。彼がこのようなものを身につけなければならなかったのには訳がある。


 だが刀夜とて感情を100%コントロールできるわけではなく、命の重みは楔となって刀夜の心にゆっくりと、ゆっくりと突き刺さっていた。


「宇佐美君」


「え、はい?」


 いつも副委員長と呼んでいたのに、急に名字で呼ばれて彼女は驚いた。


「もしもだ、もし僕の身に何かあった場合、次のリーダーは君にお願いしたい」


「え、えぇー。きゅ、急に言われても……」


「急にならないように今いっているのさ。君は委員長をやりたがっていたじゃないか」


「そ、それは内申書に影響があるからであって、こんな状況で、責任が重すぎますわ……」


「だから、どうすればいいか話したんじゃないか。他の皆には悪いが適任者は君だと僕は思っている」


「どうして私ですの、先生とかは?」


「ご本人を前に言いにくいが。向いているとは思えない」


 舞衣は確かにと納得せざるを得ない。元より分かっててふったからだ。


 先生は落ち着いているときは良いが、それでも機転がきくとは言えない。パニックになればもうまともに指示はだせないだろう。だからといって自分がてきるのかと言われればこなせる気などしなかった。


「ご免なさいね、頼りにらない先生で……」


「あ、いや、そういう事ではなく。適材適所という意味です。現に先生の手術は見事でした」


「……あ、有り難う」


 智恵美先生は複雑な心境で苦笑いを返す。誉められているというより(なぐさ)められているのが情けなかった。


「じゃあ龍児君は?」


「彼は眼前の出来事には滅法強いが、先の事はあまり見通せない」


「えっと、じゃあ姫反さんは?」


「彼女は冷静沈着で頭の回転もいいが、機転に弱く人を導けるタイプじゃないな」


「え、えっと、じゃ、じゃあ三木君は?」


 舞衣の人選は段々苦しくなってきた。

 拓真はもう他に選べる余地が無いことぐらい彼女は理解しているはずだと、彼女の苦悩に苦笑した。


「君ならもう分かっているだろう?」


「…………」


「まあ、僕も簡単に死ぬつもりはないからね」


「河内くん……それ死亡フラグじゃなくて?」


「なぬ!?」


 二人のやり取りにクスクスと先生は笑った。



 暫くして拓真は大地に下ろしているお尻から地響きを感じたような気がした。驚いてあたりを見回すが特に変化はない。


「ど、どうしたの?」


 拓真の突然の警戒ぶりに先生にも緊張が走った。


 先生の声をそっちのけで今度は地面に耳を当ててみる。微かだがズシンズシンとヤツの足音が聞こえる。


「まずい、早く火を消して、ヤツだ! 巨人だ!」


 先生と舞衣は慌てて火を消した。足音は少しずつこちらに向かっている。


「こっちに向かってる!」


 二人は音を立てないよう皆の体を揺すって起こしにかかった。疲労がたたり、辛そうに起きる面々。


 だが緊迫した状況を悟るとすぐに脱出準備にかかる。もう何度も襲撃を受けているのでさすがに皆も切り替えが早くなっていた。


『皆起きたわ、脱出しましょうか?』


 先生が拓真の耳元で話す。だが拓真は片手でちょっと待ってと手を上げた。


 拓真の様子を皆が息を殺して見守る。


 拓真は悩む。脱出か、隠れるべきか?


 だがほどなくして足音は遠ざかってゆく。だが拓真は慎重(しんちょう)を期して足音が聞こえなくなるのを待った。


「どうやら、もう大丈夫のようだ」


 拓真の声に皆が胸を(なで)で下ろした。


「念のためだ今夜はもう火を()かないようにしよう」


 拓真の提案に皆は同意すると見張りの面々を交代して残りの者は再び眠りについた。

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