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龍児と刀夜 ―異世界サバイバル―  作者: 滝ノ森もみじ
第1章 サバイバル編
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第20話 龍児は素直になれない

 刀夜の前にいた葵と美紀は彼に道を開けると刀夜は輪に入る。


 智恵美先生はまた何か策があるのかと一瞬期待したが即座に青ざめた。刀夜が獣のバッグからナイフを取り出したからだ。その行動は誰もが水沢有咲の一件を連想させられる。


 だが刀夜はその場に座り込んでしまう。肩に背負っていたエコバッグを地面に下ろすと、そこから果実を取り出した。また背負っていた自分のバッグからコップを取り出す。


 お腹を空かしていた面々はその果実に目を奪われて『ゴクリ』と喉を鳴らした。


「や、八神君、それはいったい何処(どこ)から……」


 委員長が尋ねたが刀夜は無視した。


 刀夜は慣れた手つきで果実をナイフで剥いていく。器用に左手をまな板のようにして果実を切り裂くと種のある芯を捨てる。ナイフを置いて果実を握り潰すと果汁がコップに注がれた。


 刀夜はコップを俊介に渡すと受け取った彼はコップの果汁を見て疑問に思ったことを口にする。


「あ、ありがとう八神君。でも、この果実は大丈夫なのかな?」


「毒味は済ませてある」


 そう言うと手にしていた絞りカスの果実を食べてみせた。シャリシャリと音を立てて梨のような食感が伝わる。しかし果汁は絞ってしまったので甘味は弱い。


 俊介は彩葉の口元にコップを当てると彼女は飲み出した。よほど喉が乾いていたのか一心に飲む。


 飲み終えた彼女の顔が少し緩んだように見えた。それを確認した刀夜はエコバッグからさらに果実を取り出して剥こうとすると、俊介がその役を譲ってほしいとお願いをしてきた。


 そんな彼の心情を察した刀夜は果実とナイフを彼に渡すと、彼は不器用ながらも果実を剥きだした。


 中溝俊介は津村彩葉にずっと思いを寄せていた。だが内気な彼は彼女に思いを伝えられずにいるうちにこのような事件に巻き込まれて余計にチャンスを失うこととなる。


 そして彼女の命が危うくなると、じっとしていられなくなって先生に頼んで介護を代わってもらったのだ。


 だが苦しんでいる彼女を前に告白はできなかった。俊介は後悔していた。もっと早く勇気を出しておけば良かったと。


 彼は果汁の入ったコップを再び彼女の口元へ運ぶと彩葉はそれをおいしそうに飲んだ。


◇◇◇◇◇


 唐突に委員長が刀夜に謝ってきた。


「や、八神君。君に不快な想いをさせてしまった。その……済まなかった」


 刀夜がここに戻っては来たが皆を許したわけではない。自分の為に体を張ってくれた晴樹の為に帰っただけである。晴樹の面子を潰さない為に許した振りをしなければならなかった。


 しかし、謝ってきたのは拓真だけである。他の者はバツが悪そうにうつ向く者、視線を反らす者が大半であった。刀夜としてはそれまでもかまわない。


 むしろ変に謝られてはまた何かあったときに情が湧いてはやりにくい、そう思った。特にあの男はと、その相手に視線を移すと目があった龍児は顔を反らす。


「ああ、彼はその……ちょと素直じゃ無い所があって……」


 委員長が苦しそうに弁明をしようとした。


「……悪かったよ……」


「え?」


 龍児の言葉に逆に驚いたのは委員長のほうだった。


「だから、悪かったよ!」


 龍児は散々つかかった相手だけに委員長のようには謝れなかった。他人からしたらとても本気で謝っているようには見えない。


 龍児は殴りかかったことについては大人げなかったと反省していた。


 だが水沢の一件は本当にあそこにトラップが必要だったのかと疑問視していた。奴の自己満足のために彼女は亡くなったのでは無いかと疑念(ぎねん)を持っている。


 さらに戦いに不向きな金城雄真と藤枝一郎が殿(しんがり)になったのも解せなかった。確証は無い。刀夜は最もらしいことを言っていたが不良との抗争で培われた経験と野生のカンが偽りであると警鐘(けいしょう)をならしていた。


 刀夜はエコバックから果実を3つ取り出して残りとナイフ2本を委員長に渡した。お腹を空かしていた皆がエコバッグに群がり、ようやく彼らからお礼と謝罪の言葉が出た。


「龍児君、君もいただくか?」


 委員長は取りに来ない龍児に気を使って声を掛けた。


「い、いい。いらない。自分で取りに行く」


 龍児は腰をあげて刀夜が降りた谷へと向かう。刀夜が谷から戻ったときに持っていたのでそこにあると踏んだ。この男の世話になるのが我慢ならなかった。


 そんな龍児に刀夜はボソリとアドバイスを入れる。


「緑色は食えない。黄色に熟しているのが旨い……」


「ッ! ありがとヨッ!」


 龍児はひきつった顔で吐き捨てるように礼を言う。


「素直ではないな彼は……」


 委員長はそう言ったものの、刀夜にはどうでもよいことであった。


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