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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

或るありがちな異世界転生

作者: てぃしぃ

 ある日、寝て起きたら目も見えず耳も聞こえず鼻も利かず、ただ肌に触れる地面と風の感触らしきものだけがあった。

 ただし手や足の感覚はないため、偉大な先達の書いた小説に倣って五感以外のもので周囲が把握できるか否かを確かめてみる。

 ここが何処で自分が何かを把握しなければ動く事さえ多大なリスクを伴うのだから。

 もっとも闇雲に動くべき時であったと後悔する可能性は勿論あるが。


 しばらくして此処が草原の真っただ中で、俺が粘体状の身体をしているのが解った。

 昨日はキャンプをしていた覚えは無く、むしろ自室の布団の中にいたはず。

 そもそも人間だったはずがこのありさまだから、尋常な出来事では有り得ない。

 夢であってくれればいいが、逃避を苛む現実感が否応なしに夢想を否定する。

 ……ホントどうしようか。

 取り敢えず適当に食べられそうな物を探して食べ、周囲の様子を探りに行こう。

 このままでは余りにも埒が明かんからな。

 べったりした身体でずりずりと這いずって動く……と思いきや、急ごうとすると重いが弾むボールにでもなった如くポンポンと跳ねて動けるようだ。

 まるで水風船かドラ○エのスライムみたいな感じか。

 動き回って様子を見るついでで、良さそうな草、通りすがりの色々な虫、不運な小動物……次々と捕まえ、食べる。

 口?に入れたら噛み砕いたり飲み込んだりする前に溶けたのに驚く。

 俺の身体が透けているなら中々グロい絵面になりそうな気もする。

 余り美味しくはないが、そうそう贅沢も言えん。

 べっとりした粘液状の身体と弾む水風船の如き身体を使い分け、移動と戦闘をこなす。

 使い分けは何となく自然とできていたので、身体の本能というヤツだろうか。

 淡々とこなし続けると、食った相手の肉や良く分からない力みたいなものを取り込んで徐々に大きく強くなっていく実感が何故か湧いて来る。

 この力みたいなものは周囲の様子を見るのに使っている何かと似たようなものだから、まとめて魔力とでも仮称しよう。

 まあ魔力でも気でも存在力でも何でも良いっちゃ良いんだがな。

 ともあれ大きくなり過ぎても危険そうだから、サイズは猫ぐらいで抑えておこう。

 それ以上は圧縮と集中……いっそ異空間に身体の一部を収納できれば便利だが、流石に現段階では高望みにも程がありそうだ。ライトノベル的には高難度技法の扱いだし。

 あとは保護色的な迷彩や気配を消す事による隠蔽を身に付けたい。こっちは漫画的な発想と、見晴らしが良さそうな草原にいる事で現在進行形で感じている危機感からだ。

 できるだけ留意して気配を消したり隠れたりを試みて、効果は周囲の動きで推測するしかないだろうけど。

 こういう時にステータスが見られると便利なんだが。


名前:未決定  種族:スライム  レベル:2

スキル:【打撃耐性】1、【吸収】2

スキルポイント:17


 ……見れた。それは良いが、もしかしなくても今の自分は雑魚そのもの。

 強酸性体液も毒液も持っておらず、動きも速くなく力が強くもないからな。

 良くある異世界ファンタジーものでお馴染みの冒険者が狩りに来たらイチコロだ。

 救いはスキルポイントの存在だが、使い方が分からん。

 手に負えない強敵と遭遇する前に何とかしないと。

 そう思ったのがフラグだったのか、二人組の人間らしき反応が近づいて来る。

 所詮ここは丈高くも無い草原、遮蔽物としての期待は全く持てない。

 せめても逃げてみよう。

「あsdfghj!」

「ぽいういytれwq!」

 こらあかん。

 思わず関西弁もどきになるぐらい詰んでる。

 訳分からん叫びを上げた二人が明らかにスピードアップした。

 俺と向こうの速度差は歴然、どんどん近づいて来る。

 二人とも手には棒のような物を持っているようだ。恐らく剣か槍か棍棒だろう。

 棍棒の場合が一番マシだが、それでも1レベルの耐性如きでいつまでも堪えられるものではない。

 この状況を打開できるスキルが……これだ!

 そう。

 切実に新たな力が欲しいと願った刹那、意識に閃くスキルポイントの使い方。

 すなわちスキルポイントを消費してすぐさまスキルを取得する方法が開示されたのだ。

 とうとう追いつかれて棒を振り上げられた瞬間を狙って【光魔法】で強い閃光──ストロボフラッシュ──を発し、弾む身体で懐に飛び込んで腹へ【体当たり】をかます。

 もう片方が棒を持ってたはずの腕で顔を覆ってるのを横目に、尻餅をつかせた相手へ追い討ちで魔力を極力注ぎ込んだ切り札のスキルを打ち込む。

 不可視の魔力が飛んで行き、したたかに打ち据えたようだ。

 さて、次はさっき棒を落として拾ったばかりのもう一人が相手だ。強い光で目潰しされただけで武器を取り落とすほど戦い慣れしていないようだが、油断は禁物。

 眩んだ目が回復しきってないのか、ふらつくもう一人は棒を上段に構え直して……

 さっき体当たりした人間に殴り倒された。

 立ち上がりざまに鋭く振った棒の一撃が不意打ち気味に決まったのだ。

 すかさず、もう一人にも切り札を打ち込めば、どうやら効果があったようだ。

「な、なんで……」

 状況が理解できずに混乱する人間へ、一つだけ質問をする。

『何故人間だけがテイムされないなんて思った?』

 【テイム】スキルによる魔法的な契約の繋がりを通した念話で。

「え? まさか」

 どうやらこの二人は勘違いしていたようだが、【テイム】は人間が動物や魔物を従えるためだけのスキルではなかったりする。

 テイムは屈服させた、あるいは納得させた異種族を従属させる魔法系スキルなのだ。

 1レベルの【魔力強化】スキルで魔力を若干強化していたとはいえ、駆け出しだからか一発殴っただけであっさり屈服してくれたのは幸いと言っていいだろう。

 命令を伝えるための繋がりが翻訳機代わりにもなるらしく、とても便利である。

 余談であるが、人間はテイムを奴隷契約魔法に改変しても使っていると後で知った。

 デフォルトの【テイム】スキルのままだと同種族や近似種族には効かないし、他人同士の契約を仲介する事もできないからな。

 閑話休題。

 テイム契約の繋がりで視覚を共有する事で動画カメラの代わりもできるらしく、二人の容姿が判明した。

 どうやら顔は多分十人並みだが、細身というよりガリガリ一歩手前な荒れ放題で薄汚れた肌の若い女性二人組だ。

 片方は白い肌に青い目とくすんだ金髪をしたリリィという娘で、もう片方は肌も瞳も髪も小麦色で形良く大きな双子山が特徴のケティという娘と分かった。

『これから二人には我が手足として働いて貰う』

「そんな……」

「い…ぃゃ……」

 絶望を湛えた女の子二人の表情にはそそるものがあるが、これは精神支配が甘いという事でもありそうだ。

 ならば面倒事になる前に躾けねばなるまい。

「「きゃああ!!」」

 【巨大化】スキルとついでに【分身】スキルを取得し、二人の身体を粘液化した身体の中に取り込んで沈め、再び水風船形態に戻る。

「くっ、ころ…あああああああ!!!」

 さわさわぺろぺろつんつんぺたぺたと、テイムで一足先に屈服した体のあちこちを延々と撫でられて、果たして何時まで心が屈しないでいられるものやら。

「もう……やめてぇ……」

 ケティは早くも泣きが入っているが、垢を食った肌に薬草成分を塗り込んで肌理細やかにしたり、水洗いだけの荒れ放題で油じみてノミもいる髪をさっぱりさせたりしなければならないため、まだまだ解放するには早過ぎる。

 加えて体内に悪性の寄生虫や病原菌が巣食ってる恐れもあり、そちらにも早急に手を打たねばなるまい。

 彼女らの装備も、先を尖らせただけのボロい木の短槍はともかくとして、ツギハギだらけの薄汚れた麻の貫頭衣と擦り切れかけた皮のサンダルは洗濯と補修をしておこうか。

 なお二人のステータスを見たところ、リリィが1レベルでスキルポイント2、ケティがレベル2でスキルポイント3で、どちらも習得済みのスキルは無かった。

 スキルポイントでスキルを1レベル上げるためには、今のスキルレベルに1を加えた値を費やさねばならないので、二人とも最弱レベルの冒険者だと思われる。

 もしかして俺がレベル2でスキルポイントが17あったのは破格なのか?

 二人をテイムしたらレベル3に上がったけどスキルポイントは1増えただけだから、どうやら初期値が多くなっただけらしい。

 正直地味な転生特典だと思うが、無いより断然マシだな。




 そして一夜が過ぎた。

「これからよろしくお願いしますね」

「良く考えれば変な男に捕まるよりマシかも」

 ほぼ一日かけてのケアと躾を経て、二人は身も心も生まれ変わった心地のようだ。

 ちなみに容姿も様変わりし、くすんだ金髪と思われたリリィの髪は薄桃色、ケティは髪が鮮やかな蜂蜜色で瞳は紫紺が地色だったと判明。

 病的な細さにも回復の兆しが見え始め、素肌も健康さと清潔さを獲得した。

 整体やツボ治療の真似事もやってみたのが、まだ若い身体と薬膳もどきな流動食の強制摂取との相乗効果で目覚ましい結果に繋がったのやもしれない。

 冴えなかった顔も、こびりついていた疲労や汚れがあばたやニキビと共に拭い去られて魅力的な微笑みを浮かべている。

 絶世の美貌や傾国傾城と形容するには足りなさ過ぎるが、それでも村一番の美人の候補に挙げられるぐらいの美貌には多分届いているだろう。

 これで気品ある所作を身に付けたならば、どこぞのお嬢様でもギリギリ通りそうだ。

 襲われる危険が増えたかもしれない事態に、何か対策を講じないとなるまい。

 通訳と町の入場証にもなるペットがいないと、面白くもない弱肉強食の野生で延々過ごした挙句、強い冒険者に狩られる運命が遠くなさそうだからな。


 そこでリリィとケティを、二つに分裂して巨大化した俺の身体に下半身を埋め込んで騎乗させ、更に【装甲化】スキルでビスチェ状に変形させた俺の身体で彼女達の胴体部を守りつつ落馬(?)しないように固定した状態で冒険する事になった。

 下僕を守ってるように見えるかもしれないが、スライムの弱点である核を二人の体内に収納しているので、彼女らを守るのは当然とも言えよう。

 サイズが大きくなって【乗騎】と【疾駆】のスキルを習得したので、二人を乗せたままでも常人が走るよりも速く移動できるようになったのも、この形態を取る理由だ。

 なお、この形態での戦闘を試してみたところ《ノービス》だった二人の職業が《スライムナイト》に変わった。

 新たな職業で得た能力は、仲間のスライムと接触してる間は能力が全般的に若干向上するという俺に都合の良いもので、乗騎の制限が無い《ナイト》の下位互換だそうだ。

 どうやら心から今の状況を受け入れてくれたと世界が認めた証らしい。



 こんな風な姿に表向きは【偽装】スキルで俺の方がテイムモンスターだと見せ掛け、村や町に入る時は手乗りサイズにまで【小型化】スキルで小さくなる予定である。

 余り大きいと常識的には馬屋暮らしが妥当になってしまうからな。

 いや、いっそスライムブルマとかでもいいかもしれないが。



 ともあれ、これ以上の細かい事は少々後回しでも良いだろう。

 さあ、冒険の始まりだ!




主人公の終了時ステータス


名前:未決定  種族:スライム  レベル:3


スキル:【打撃耐性】1、【吸収】2、【光魔法】1、【体当たり】1

    【回避】1、【テイム】2、【魔力強化】1、【巨大化】1

    【分身】1、【調薬】1、【装甲化】1、【乗騎】1

    【疾駆】1、【偽装】1、【小型化】1


スキルポイント:3

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