魔王が世界を支配するまで
魔王が世界をどのように支配したのか。
なぜ人々は魔王が支配する世界で日々を平和に暮らせているのか。
その歴史について紐解いていこう。
遠い過去。勇者により魔王が討伐されたおかげで世界は再び秩序を取り戻しつつあった。人々は復興に勤しみ、互いに助け合い、支え合い生きていた。
しかし平和な日々は突然崩れ去った。魔王の手による平和の崩壊ではない。では誰が秩序を乱すものとなったのか。それは、同じ「人間」であった。
前国王が亡くなり、その子息であった王子が新たに国王となった。その国は、世界の復興を行う上で資源、人材、交流の面で中心となっている国であった。新たに国王となったその者は、国王の名を振りかざし、独裁政治に乗り出したのである。
私利私欲のためだけに復興の要となっていた資源、人材を我が物として扱う。今まで復興に使われた資源さえ、国王の肥やしとして扱われた。当然、復興は進まなくなった。それによって経済が破綻し、一部の国王直通の職人以外はその日の食事さえ満足に取れないほどに生活が困窮し露頭に迷う人が増えることとなった。
そんな状況になっては当然国民の不満は増すばかりだ。不満が募った国民は一致団結しクーデターを起こすも、国王直属の兵により弾圧されてしまう。その結果法規制が厳しくなり、国民の立場は徐々においやられていくこととなる。国王の私利私欲のためだけに与えられた資源、人材が使われていることを知った他国からは信頼を失い、国際的にもこの国は孤立してしまう。
もはや国として破綻してしまっていた国に革命をもたらしたのが、何を隠そう新たに生まれた魔王なのであった。
新たに誕生した魔王は、前魔王とは異なり人間に強い興味を持っており、人間の文化にとても関心を持っていた。世界各地を、魔物と悟られないように旅していた魔王は偶然この国にたどり着く。そこで、この国の惨状を目にした魔王はひどく憤慨した。そして、魔王は国王に勘付かれないように人手を集め、クーデターを決意する。
本来は魔界に住んでいる魔王は、人間にはない知識を持っていた。魔法の知識や、技術の知識。また、人々が生きていけるように、食べられる木々についてなどの知識を与えいていく。他人のことを思いやり、毎日を生き抜くための知識をくれた魔王に人々はいつしかついていくようになった。
そしてついに再びクーデターは起きた。国王側に悟られないように行動をしていた彼らは、国王に対抗できるだけの武器を手にし、国王軍と衝突した。
激しい攻防の末、勝利を手にしたのは魔王軍であった。国王はその場で処刑され、革命は成功で終わる。
しかし、次に問題となったのは、国王亡き今、誰が国王のかわりに国を導くのか?ということであった。国民の意見は当然というべきか、魔王がこの国を導くべきではないか、という意見が飛び交う。その時にはいまだ魔王は素性を露わにしていなかったため、ついに魔王は自身が新たな魔界の王であることを白状する。
魔王の突然のカミングアウトに国民は当初困惑した。国民はかつて世界を混沌に陥れた魔王の跡継ぎを次期国王に勧めてよいのだろうか、ということと、魔王が国民に与えた知識の数々、クーデターを成功に導く人望を天秤に掛けた。
国民の葛藤の天秤はいともたやすく信頼の方向へと傾いた。彼らは魔王が国を導くべきリーダーに相応しいと考えたのである。
魔王もまた、人間の文化に興味を持つ身として、人々に信頼されることに誇りを感じていた。
その結果、国際貿易の中心の国の国王として異例中で最高に異例ではあるものの、魔王が就任するに至ったのである。魔王は信頼を裏切ることなく、他国に知恵を提供したり、国民との交流を欠かすこともなく国王としての任務を全うしている。
これが、魔王が世界を「支配」することとなった経緯である。
魔王は、自身のレッテルを覆すほどの信頼を得ることができた。
本来であれば魔王と人間は敵対する存在であり、分かり合えることなどなかったはずである。
では、魔王が人々の信頼を得ることによって、世界にどのような影響を及ぼすのか?
次話ではその影響について書くことが出来ればよいと思う。