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1-1 兎と裏メニュー

魔族街デアントで一二を争う有名甘味所『甘々庵』。

自慢の餡子が売りで毎週に一つ新作料理が作られ、それがヒットすればレギュラー化するシステムを採用している店だ。

そこへチャリンチャリンとベルの音を鳴らしながら入店してくる二人の女性魔族がいた。

店内は侘び寂びというのだろうか、落ち着いた色合いで統一され、心が落ち着くよう工夫がこされていた。

今の時間がお昼前だからだろうか、まだ客も少なく男性の四人一グループが見受けられる程度だ。

「さぁーレヴィちゃん。ここがかの有名な魔王様の付き人が経営している『甘々庵』だよ!餡子がとりあえず美味いから頼むといいのだよー」

「貴方の店じゃないのになんで胸張ってるのですか」

レヴィの奢りでタダ飯を食える、という事でテンションMAXの蜘蛛が早足で近場の席を確保する。

席へと案内しようとした茶色の髪をした犬耳店員があたふたして厨房へ行き、今度は紙とペンを持って出てくる姿を見ながらレヴィもタイナと同じ席へと向かう。

「えっと…魔王の付き人ですか?そんな人がなんでこんなところで働いているのですか」

赤色の椅子の具合を確かめながら背もたれをつき、気になった事を質問する。

タイナはメニューを開きながらスラスラと説明した。

「うーん、噂でしか知らないけど元々はその付き人さんは何処かの町娘みたいでね、魔王様と冒険したのも金を稼いで自分のお店を持ちたかったとかなんだとか」

「へぇ。そうですか…町娘ですかぁ…女ですかぁぁ…!」

「レヴィちゃんその人もう既婚済みだから安心していいよ。ていうかソレ拗らせないでお願いだから」

レヴィが嫉妬質ブラックオーラを放っていると先ほどの店員がこちらに注文を取りに来た。

「ご、ご注文はお決まりでしょうか!?」

先程と同じウェイトレスが、少したどたどしく注文を取りに来た。

この店の新入り店員のようで、かなりガチガチに緊張してしまっている。

そこで何を思ったのかタイナが意地の悪い笑みを浮かべる。

「じゃあここの裏メニューの『和物スペシャル』を一つ」

「え、え?えええええぇぇぇぇーーー!!?」

思わぬ裏メニューという存在で尻尾を逆立ててしまい、スカートを尻尾でめくり上げてしまった。

向かい側の席に座った男性魔族グループがガッツポーズして「ナイス縞パン!」と叫ぶが犬耳店員は気づいていない。

「あっれれ〜、知らないかな裏メニュー?おっかしぃーなぁー」

「えっとあの、その、あぅぅぅ………」

もう泣き出しそうになったので、流石にやる過ぎだとレヴィは判断。

タイナを止めようとしたその時、テーブルにドンと丼が置かれる。

「はいお客様、こちら『和物スペシャル』にございます」

凛とした声が店内に響く。丼の中身は白飯に緑色の液体がぶっかけられている物、レヴィは知るよしもないがお茶漬けと呼ばれる料理だった。

確かに和といえば和なのだが意味合いが大きく変わる。

料理から目を離し、置いた張本人へと目を向ける。一番目につくのは首までスラッと伸びた黒髪から白い兎耳(ウサミミ)を生やしていた。

人間の体に緑色の花柄和服を纏い、尻の少し上の所から可愛らしくポンとした兎の尻尾を生やしていた。

目つきは鋭く見えるがどこか幼げだ。年はレヴィより下だろう。

「ねぇ、コレは何かな☆」

タイナはそう言ってお茶漬けに指を指す。顔に血管が浮き出ており、一目で不機嫌な事が把握できる。

それに対し兎耳店員は表情を一つも変えず淡々と答える。

「はい、こちらの丼に入っている物が『和物スペシャル』にございます。お早くお食べになってさっさと帰ってください」

どう考えても棘しかない言葉に更に顳顬に力が加わる。

だがそれでも兎のクールビューティな顔は崩れず余裕がある。

蜘蛛は立ち上がり兎を睨みつける。

「私はお客様だよ、神様だよ。それをこんな蔑ろにしていいのかな〜もっと接するべき態度とかあるんじゃないかなー」

「え?神様?どう考えても新入り店員に絡みつくうざったい蜘蛛にしか見えませんでした。ああ成る程、疫病神でしたか。じゃあさっさと帰ってください」

「おい兎あんまり調子のんじゃねぇぞ……!レヴィちゃんもなんか言って……」

タイナが振り返ると、そこには大量の調味料の入っていた筈の空瓶と、本来なら緑色の筈のお茶漬けが赤黒く変色したもう『お茶漬けだった物』が鎮座していた。

お茶漬けをこんな悲しい姿に変えた赤髪女は既に箸を持ち、手を合わせていた。

「いただきます」

「「「ちょ……!?」」」

兎、犬、蜘蛛は慌てて止めようとするが時すでに遅く『お茶漬けだった何か』は美人赤髪の体の中に入れられていく。

「ずぞぞぞぞ〜………」

赤髪美人が窓際の席で太陽に照らされながら食事をする光景、それは一枚の絵にできそうだが食べてるものが暗黒物質O☆TYA☆DU☆KEである。

そのミスマッチすぎる光景を目撃した三人は口元を手で押さえ吐き気と格闘してる。

今までクールビューティ面の兎も顔色を悪くして視線を横にずらす。

やがて食い終わったのか空になった丼を机の上に置き息をついた。

そして兎を上目遣いで見だす。

兎がいやまさかと思ったがその予感は的中する。

「おかわり…いいですか?」

犬はそのセリフで完全にノックアウト。

メニュー取るメモとペンをその場に捨て、口を押さえながら厨房へと逃げ込んでしまった。

タイナはレヴィの襟首を掴み前後に揺さぶりながら怒り声を上げる。

「レヴィちゃんんーー女の子がそんなの食べちゃダメでしょー!!ていうか何入れたの!?」

「た、タイナさん物食った直後にそんな揺さぶらないでくださいで、出ちゃいますから、リバースしちゃいますから!」

「すいませんお客様、余りお騒ぎにならないでください。他のお客様のご迷惑になりますので」

兎店員が二人の間に割って入る。二人は見渡すと既に最初にいた向かい側の男性グループだけでなく他の魔族も入店しており注目の的になっている。

「「す、すみません……」」

二人は素直に謝り着席する。兎店員は犬店員が置いていったメモとペンを手に取り訪ねる。

「ゴホン、それではお客様、メニューはお決まりでしょうか?」

「あ、私はこの餡子セットで」

「じゃあ私は___

「「和物スペシャルはダメ」」

二人は先ほど少し喧嘩していた筈なのに息ぴったりだった。

「なんでですか……」

こうして『甘々庵』の裏メニュー、和物スペシャルが爆誕したのであった。

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