プロローグ-7 ランコーレ
数分後、ようやく関節技から解放されたタイナは両手両足をガクガク震わせながら息を落ち着かせていた。
「ぜぇ…ぜぇ…せ、背骨が痛い」
「変に動くから余計痛くなるのですよ」
「やったのレヴィちゃんだよね!?」
一連の騒ぎで目立ってしまったようで多くの魔族がこちらを見て、というか目をキラキラ輝かせて円形に囲んでいる。
「「「アンコール!アンコール!」」」
「何アンコールしてくれちゃってんの!?」
「もう一回やりますかタイナさん?」
「絶対やらないからね…だからレヴィちゃん手をわきわきしないでよぉ!」
「……フリ?」
レヴィのキョトンとした顏をする。トボけてるのか天然なのかが判断しづらい。
「ちょ…このパターンはアレなの、否定してもフリだと思われてやられるヤツだよね!?」
「まぁどの道この人混みに囲まれて抜け出せそうありませんし、やりましょう!」
「絶対違うよね!?普段やられることのないアンコールに調子のってるだけでしょ。だってすごい目が輝いてるもん、すっごい椎茸みたいな目だもぉーーん!!」
そんな事言う蜘蛛の両脇に手を差し込み持ち上げる。ヤダヤダ言いだすが御構い無しにスピンをかけていく。すると悟ったようなはたまた諦めた顏をして祈るように手を組む蜘蛛魔族、もう藁にも神にもすがる思いなのだろう。周りの観客達が口笛やら歓声を上げ、更に回転スピードが上昇する。
「大丈夫です、タイナさん。私に秘策があります。だから安心していいですよ」
「レヴィちゃん…それホントなの?嫌な予感しかしないよ私!?」
「本当に大丈夫ですよ。怪我はしませんから。そう!あの時は壁に投げたのがいけなかったのです」
「ねぇ、今投げたって言った?」
「今度は壁のない方に投げればいいのですよ」
「先ず投げないで!!蜘蛛はデリケートなのぉ!!」
「じゃ、逝きますよー」
回転が最高速度になり、完全に周りの熱気も歓声もテンションもピークに達している。
「聞いて!お願いだから私のおおおおぉぉぉぉぉ………」
蜘蛛は最後まで言えなかった。ぶん投げたからだ。まるで彗星のように飛んで逝った。
上空に
残ったレヴィはしゃがんでいた。足はシッカリ大地を踏み、両腕は体の後ろに持ってきていた。そして全身に力を込め、その力を全部脚部に集中させ大地を蹴る。
ドン!!という音と同時にもう姿がそこにはなかった。
観客達が騒ぐ遥か上空で蜘蛛とかには合流していた。空は快晴で青々とした綺麗な景色が広がっていた。
「バーカバーカ!!!レヴィちゃんのバーカ!!!え、何これ夢なの?夢って大体めちゃくちゃだけどそれよりも現実味がないよおおぉ!!!?」
「現実ですよタイナさん。ほら捕まって下さい。地面に激突すれば肉片になっちゃいますよ」
「嘘つき、レヴィちゃんの嘘つき!!全然大丈夫じゃないよぉ!!?」
タイナがヤケクソ気味にレヴィの体に掴む。複眼も含めた目玉がもうグルングルン回っている。
レヴィは左手を見つめながら"もしもーし"とずっと何かに話しかけている。だが何も起こらず変化もない。
「ね、ねぇレヴィちゃん。これからどうするの?何かあるんだよね。秘策があるんでしょ?ね?」
「……どうしましょう?」
「ぎゃああああああーーー!!!?最悪だぁーー!!!」
うーんうーん唸るレヴィと体を揺さぶりながら全眼涙目のタイナが大地に迫っていく。風を切る音が非常にやかましく邪魔くさい。そこでレヴィが思い出したようにポンと手を叩く。
「我が名はレヴィ__契りの主は現世にて悪を示し王となり魔を正すもの__今こそ約束の真名を此処に記す__呪印契約!!」
レヴィが叫ぶと左手に円形の枠が浮かび上がり紫色の怪しい輝きを放つ。更に円のなかに五芒星が描かれ、重ねるようにもう一つ、違う角度の五芒星が現れる。輝きは更に増し真ん中の部分から黒色の目のような物が浮かび上がる。そこからレヴィからは聞き馴染む声が、タイナからしたら恐れ多い声が聞こえてくる。
『………なにやらかした?』
「見れば分かります。今すぐ助けなさい魔王」
『わかんねぇよ!!今すぐ事情を説明しなさい!!なんで上空にいるの、隣にいるその子だれ、この原因はだれ、なんでそうなったのーー!!?』
「え、へ、え?こ、この声ってまさか……」
「今すぐ助けなさい魔王。ほらさっさと早く」
『なんでお前が偉そうなんだよー!!俺が助ける側じゃん、もっと感謝!!感謝してくれ!!!それでも人間の聖騎士かテメェ』
「はいはいありがとうございます」
『ハイは一回!くそぅ俺は魔王だぞちくしょう…』
「え、いや、え?聖騎士?人間?魔王様?」
「まったく鈍間ですね」
『レヴィだけ地面に叩きつけんぞ』
「やってみろよ、やったら魔王城全壊してやりますよ」
『「がるるるるるるる………」』
「ぎゃーー!!喧嘩しないで助けてくださいよーーー!!!というか地面!!地面近い、超近い!!!」
タイナが慌てながら騒ぐと下の方から風が舞い上がり始める。ばっとスカートを抑えるがどうやら遅かったようだ。
『ふむ、白か。眼福眼福』
「ま・お・う……!」
『いいだろ別に、減るもんじゃないし。対価としたら安いもんだろ』
この発言に流石にタイナでもこれには引いた。ドン引きだ。
「うわー…サイテー」
『助けてるはずなのに好感度が減少してる!?』
「こんなのが私たちの王様なの?やだなー、チェンジで」
『ばっかおま、しないからな!!断じてしないからな!!!そんな事したらそこの赤髪に冗談抜きで殺されるんだからなぁ!!?』
風が体を持ち上げるように強く吹き、やがてパラシュートしてるように地面に着地できた。どうやら此処は魔族街の時計塔のようだ。人目はなく目立つ事はなかった。
「ふむ、ご苦労様です魔王。それでは」
『ちょま__ブツン!
レヴィは左手の紋様に右手を重ね、一方的に消してしまう。もう魔王の声は聞こえない。
「さて、では行きましょうか!!」
ガシッと肩を掴まれるレヴィ。ギギギと油の刺してない機械のように首を回すとそこには暗い笑顔をしたタイナがいた。
「レ・ヴ・ィ・ちゃ・ん」
「……ごめんなさい」
「全部話して貰うからね、あと奢りでね」
「…はい」
その後しのごの言わずに甘味処に連行された。
プロローグようやく終了。