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3-8 夜空で煌めく星々

魔族街北門


北方から流れてくる火山から採掘される鉱物資源、氷雪大地から取れる超高密度の氷塊が馬車と共に流れてくる魔族街の玄関口。


そこは今、武装した冒険者達によって、物々しい雰囲気に包まれていた。


ギルドマスターを中心とした冒険者達が集い、即席にも関わらず見事なバリケードが出来上がっていた。


バリケードの裏には爆弾や医療品、剣や槍などが入った木箱が配置されていた。

無論、城壁の上にも同じものが配置されており、そこに魔法の得意な魔族が支援攻撃部隊として待機していた。


武装十分、配置万全、兵士はモンスター相手に何年も戦ってきたベテラン冒険者達、指揮官はその冒険者ギルドのギルドマスター。


対モンスターという場において不足なんてものは無かった。指揮は他の門の連中に比べても最高で、冒険者達はくだらない会話に花を咲かせる者もいるほどだ。


そして配置終了から武装の再度点検をしてる最中、城門の上に配置されていた一人の猫魔族の冒険者が森の夜空を指差した。


「フォレストビー視認! 数は10、後続に30! 偵察隊です!」


報告を受けギルドマスターが立派な戦斧を掲げて謳いだす。


「よーしお主らわかっとるな、虫一匹街に入れさせんぞ! 無法者の冒険者の維持、踏ん反り返っとる騎士どもの目に入れてやるゾォ!」


掲げた戦斧を回転させたあと、地面に叩きつけた衝撃が北門に響き渡り、冒険者達を鼓舞させた。


皮鎧を付けた者は剣を構え、ローブを着た者は術式を立ち上げ、戦闘経験が少ないものはバリケードの裏で爆弾を手に抱える。


そして戦端が開かれた。


蜂の集団がこちらに、針を突き出して本能のまま無作為に攻撃を仕掛けてきた。


「魔法攻撃、放て!」


城壁から多くの魔法による火の玉が飛び、向かってくる蜂を撃ち落としていく。落ちた蜂達を下にいた冒険者達が剣と槍でトドメを刺す。


蜂達も風魔法で攻撃するが、冒険者達はバリケードの裏に隠れてそれをやり過ごす。


隠れている間に、立てかけたランプで紫色の爆弾に火をつけ、導火線の頃合いを見て投げる。


爆発と同時に冒険者達が飛び出し、爆風によってうまく風を掴めなくなった蜂達に魔法を放つ。


「よーし、まずまずだ。皆その調子でローテーションを崩すなよ。メルデス! 被害確認!」


「はい! 全部隊損傷、損耗なし! バリケードもほぼ無傷! イレギュラーなし!」


城門の上で戦場を観測している猫魔族、メルデスがそう言うと、土竜(モグラ)魔族のギルドマスターは髭を弄る。


「そろそろ蜂どもの攻撃部隊が飛んでくる! 本格的な攻撃が来るゾォ! 気ィ引きしめろてめェらァ! バリケードのサポーターは回復薬の在庫に気ィ回せよォ」


ギルドマスターの言葉に被せるように、城門上から報告が届く。


「来ました攻撃部隊で……訂正! マンティス出現! 蜂と戦闘してます!」


マンティス、その名の通りカマキリのモンスター。群れることはないが、戦闘能力は魔族街を覆う森の中では十分脅威になる存在。


木の上に張り付き、木の葉で身を隠しながらの不意打ちで一気に命を刈り取るステルス攻撃。薄羽を羽ばたかせ起こす超音波は聴力の高い魔族の集中力を削いでくる。


強敵の乱入に戦場が混乱されてしまう前に状況の確認を急かせる。


「チィ! 出てくると思っとったが……マンティス優勢か!?」


「優勢ではないですが、進化を狙ってます。次々と雑魚蜂を殺して魔石を取り込んでます!」


よりによって一番焦る行動をしだしている。


目に見える範囲で進化しだしたら、それを止めようと突出する部隊が出てしまう。

しかもそれで死者が出れば、パニックによる指揮系統崩壊の恐れもある。


「最悪!! 今すぐ解毒薬を用意せい! 蜂の毒を取り込んだ鎌がくるゾォ、皆焦るなァ!」


この戦場は『戦争の戦場』ではない、『生存競争の戦場』だ。

第三者の介入が完全フリーで、いつでもイレギュラーが起こる。いや、誰でもいつでも気軽にイレギュラーを起こせると言った方が正しい。


「西側から蜘蛛が数匹! 西門からの討ち漏らしです!」


「ええい、西めェ、面倒ごとを……ゲルドは何やっておる!」


西から蜘蛛、前面から蜂、更に奥では進化しようとするカマキリ、そして蜂の嬢王が未だ姿を見せず。


「2グループを西に回す! それ以外は蜂を駆除、マンティスが進化しようとしても絶対突出するなよォ!」


周りから了解の返事が返ってくる。

指揮が下がってないのはモンスター相手に日銭を稼ぐ冒険者故だろう。


「じゃがマンティスの進化はマズイ、魔法支援隊、マンティスに攻撃出来るか?」


「この距離では魔法の攻撃は届きません! 火で邪魔する程度なら可能です! 」


「構わん! やれ! 前面隊、マンティス来る前に蜂を仕留めろ!」


迷うことなく指示すると、街壁の上からいくつもの赤い、様々な形の火が、遠くのマンティスへと殺到する。

だがほとんどは外したり、途中で消滅したり、マンティスに当たるも怯みもしない結果に終わる。


「効かんか、森と街門とのちょうど間くらいの位置じゃが、届かんか!」


そして再び街壁の上で、多くの赤色の術式が立ち上がる。


(まずいのう。進化はどうにかせんと不味い! 他の種族ならまだしも、マンティスは元から殺傷能力が非常に高いモンスター、進化されたら一気に押し切られてしまうかもしれん!)


前面隊も奮闘しているが、フォレストビー達は空から強襲をかけて離脱する、ヒットアンドアウェイに苦戦し処理が遅い。


「ワシが出るしかないか」


ギルドマスターが自分が戦線に加わるべきかを思案し始めた時、人型の何かが街門をとび超えてきた。

それは地面に激突し何回か転がった後、痛そうにしながら立ち上がった。


「うぐぉ……奇異荒唐(きいこうとう)、一体何を考えている。あの蟹女……」


「お主は…っ! ワシのギルドを荒らした鬼!!」


とんできたのは鬼、今回の事件の『用心棒』のアカツキだった。


ギルドマスターは彼に戦斧を向け戦闘態勢になる。

彼からしてみれば、アカツキは自分のテリトリーを荒らした張本人だ。

怒りの形相は顔全体を包み、衣服の上からでも分かるほど筋肉が盛り上がっていく。


会稽之恥(かいけいのはじ)、と言った顔をするな。『今回の詫びに来た』という訳で俺はここにいる。なんでも命じろ」


「何が命じろだ!! ここで挽肉(ひきにく)にしてくれる! どりゃああああ!!」


丸腰のアカツキに戦斧を振り下ろす。が、それは新たに出てきた者に阻まれる。


「はいはい、どうどうですよー」


レヴィだった。 ギルドマスターの振り下ろす戦斧を指二本で挟んで止めた蟹騎士がそこにいた。


「んな!!? きさ、貴様は何者だ!? そこの鬼の仲間だな! まとめて……」


「元、魔族騎士のレヴィです。アカツキさん、あの蜂を狩ってるカマキリ処理してください、そのあと状況を見て、大丈夫そうでしたら西門に向かってください。先にリチャードさんが向かってます」


「承知! だが、俺を投げる意味あったか?」


レヴィが戦斧を抑えたまま、鬼にチョップを当て地面にめり込ませる。


「『あったか?』ではなく『ありましたか?』ですよ。上司にタメ口しないでください」


「ぼ、暴力反対(ぼうりょくはんたい)、投げる必要はありましたか? あと武器がないのでください」


「うーん、この斧じゃダメですか?」


指の力だけで斧を引っ張り、ギルドマスターから奪い取るとアカツキに差し出した。


「それはワシの斧だあああああ!!」


抗拒不承(こうきょふしょう)、断固断る。その汗臭い斧は嫌だ」


「誰が汗臭いじゃあああ!! 鬼ィ貴様覚えておれよォ、貴様は絶対許さんからなァ!」


「あーもう、モグラさんは黙ってください殴りますよ?」


あまりにも理不尽過ぎるセリフに言葉を失うギルドマスター。

ワシが何したの? 寧ろ被害者だけど? と半ば涙目だ。


「じゃあ()()あげます。 お腹出してください」


「? こうか?」


頭に疑問符を浮かべながら体を無防備に晒すと、レヴィがアカツキの腹に手をぶち込んだ。


「がっ!? っああああああ!!!? な、にお……!?」


手はグチャグチャとアカツキの体の中を(まさぐ)り、引き抜かれた。


「はい、完了です。先ずはお試しに0.5%です」


引き抜かれた部分は血がマーライオンのように吹き出るが、直ぐに血が止まった。


いや、それどころか更に変化は続いた。


「オグ!? オ、オオオオ!? ウォオオオオ!!?」


変な叫びをしながら、アカツキは変化していく。

体がバキリと木が折れるような音を出し、体格が徐々に大きくなる。


吃驚仰天(びっくりぎょうてん)! この、力はいったい? 無限に湧いてくるような力!!」


「ふふん、どうですか? 私の力をちょびっとだけ貴方に譲渡しました」


変化を終え、一回り大きくなったアカツキがそこにいた。身長はレヴィを完全に超えた。


目は爛々と紅く輝き、黒い皮膚は厚みが増し硬質化を果たしている。


目の形は菱形で、その中を紅い目の中に二つ目の黒い目が慟哭している状態。『二重眼』になっていた。


二本角はより鋭利に尖り、魔力の制御機能が向上していた。角の先端が赤く、熱されたように光ると、鬼の手の上で炎が踊り出す。


「おお、魔族の角ってそういう役割でしたか。でしたらいきなり魔力を使っても平気ですね」


「どういうことだ? この力はいったい?」


レヴィは神妙な趣き顔になり、空を見上げながら、夜空に移る水色の術式の更に向こう側輝く星々を見上げながら、感情の起伏をゼロに語る。


「コレは、『星力(アル・ラグバ)』、聖騎士ステラの根源であり、人間達の希望、絶望、願い、祈り、悪感情、欲望を押し込んだ力」




「『(ほし)(うつわ)』に人類のありとあらゆる願望を収束させたものです」


「私は、この世に生まれた直後にその力を埋め込まれました」

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