3-5 笑顔の世界
今回、長いです。
すごく、シリアスに書いてみました。
シリアスに、なってると、いいなぁ!!
「お兄ちゃん、いつまで寝てるの!」
快活的な声で俺が目を覚ますと、そこには茶髪の少女がいた。俺の妹のフィオナだ。
明るく、人懐っこい性格で疑うことを知らない、魔族らしからぬ性格の持ち主。
「ああ、今…起きる…」
「お兄ちゃん、そう言いながら枕に顔を埋めるのはなんでかな」
「後…五分…」
「今起きるんじゃなかったかな!?」
だらしない俺とは違い、常に生活リズムを心がけ生きている真面目なやつだ。
「ほーら、今日も他の村の様子を見回るんでしょ! そんなだらしないと恥ずかしいよ!」
「わーったよ、るせえなったく。 アイツらが攻めてくるとかありえるかっつーの。数も技もこっちが上だぞ」
フィオナは、悪態をつく俺を見ながら手早く家事の準備をしていく。
薪を炉に入れ火を起こす様はさぞや良い女になる姿で、男に困ることはないだろう。
当時の魔族は第2代目の魔王が統治を捨てた所為で荒れ狂っていた。
村と村が争い、負けた村は全てを奪われた。仮に生き残ったとしても、山賊や盗賊になるのが大半で力をつけてから報復に来た、なんて話も聞くことがある。
俺たちの村は、ほとんどの魔族が戦闘ができるほどの技量と力を持っていた。
他の村の奴らが攻めて来て、それを返り打ちにしてやったが、それでも全てを略奪をすることはなかった。
村長は略奪しても報復されると考えつき、僅かな食料や種を交渉という形で収め、共存という生き方を選んだ。
それ故、村同士の戦争が起きても誰も殺さなかったわけじゃないが、見逃すことがほとんどだった。
それどころか、身寄りのない連中を受け入れ続けた。それもこれも全て村長の意向だ。
そのためかこの村のみんな、全員ではなく殆どだが、助け合いの精神が出来上がっていた。
みんながこの村を誇りに感じていた。
どの村よりも生活環境が整った村だと言える自信がある。
ただ、唯一の懸念は人間領に近いと言うことだ。だからこそ、みんな強くあろうとしていたのだろう。
「この村で一番強いのはお兄ちゃんだもん、それだけみんな頼りにしてるの」
「戦うことしか出来ないだけなのにな。それ以外はからっきしなんだが」
「だから私がいるでしょ。だらしないお兄ちゃんには良くできた妹が必要なの、 えへん!」
フィオナは胸を張りながら言い切った。
ここまで言われても俺は反論もできないし、実際に良くできた妹なのは確かだからだ。
「自分で言うことかそれ? それに頼りにされてもな、正直言うと気が重い」
俺が情けなく本音を漏らすと、フィオナが背中に抱きついて来た。
優しさや配慮がない、ホントに遠慮なく全体重を任せて来た。
重い、などと言おうものなら首に手を回されかねない。
「私は戦う力がないからお兄ちゃんが羨ましいよ。お兄ちゃんはいつも村の為に、誰かの為に戦ってる」
妹は魔力の制御が不得手で、戦闘はお世辞にもできるとは言いづらかった。
普通の人間にすら力ずくで負けてしまうほどだろう。
だから、俺がフィオナを守っていこうと誓っていた。
「私ね、そんなお兄ちゃんがまるで『 』みたいだなって、そう思えて嬉しいよ」
あいつはいつでも、そういった言葉で俺の背中を支えてくれた。
命の危機に瀕した時は誰よりも怒り、泣いてくれた。
俺がバカやらかした時、一緒にどうするか考え、そして勝手に一人で突っ走る事もあった。あの時は本当にヒヤヒヤした。
それでも、こんな不器用で無愛想な俺に、ここまでしてくれることが、どうしようもなく嬉しかった。
だからますます力をつけようと時々、村から離れモンスターと戦ったりもした。
俺が怪我して帰ると、傷口に叩きつけるように薬を塗るのは勘弁して欲しかった、割とマジで。
フィオナは苦楽を共にした掛け替えのない家族だ。
絶対に守るべき存在。
俺たちの居場所は、俺とフィオナの居場所は絶対に無くしたりはしないと。
俺は腰に巻いたポーチの重みを確認して玄関へと向かう。後ろからパタパタと小走りで駆け寄ってくる足音が聞こえてきた。
「いってらっしゃい、お兄ちゃん!」
「おう、お土産採ってくるからな」
「なんだよ…これ…」
狩猟兼見回り役メンバー、俺達がきたのは少し離れた所にある集落のはずだった。
記憶が正しければそこは木材でできた家がポツポツと立つ小さな村だったが…
「何もない、な。来るとこ間違えちまったか?俺たち」
隣に立つ旧友のレインがそう呟いたが間違えてない筈だ。
数日前にこの村は視察したばかりだ。
「本当に何もない?」
崩れた建物や血の染み、へし折れた柵や砕けた剣などといった、争いの跡があれば納得がいった。
だがそれがない。
それどころか確かにここにあったはずの、文明のある営みは完全に消えていた。
まるで消しゴムで建物や生き物を消したかのような、そんな光景が目の前に広がっている。
あるのは明るい地面。
木の一本もなければ草もない。
だが少し離れたところから、なんの脈絡を感じさせずに草は生えていた。いきなりそこから生え始めたような違和感があった。
「何があったんだろうな」
俺はすぐに次の行動を決定した。
もしかしたらだが、事は一刻を争う事態の可能性があるからだ。
「村長に知らせるべきだな。俺がここで調査をする、レインは他の奴らと合流して先に村に戻れ」
「今いる連中じゃ戦闘しかできないしな、調べ物ができる魔族を連れて来る」
レインは親指を立てると心地がいいほどニカッと笑い、俺に背を向けた。
「目は俺がいるから臭いを辿れる奴を選んでくれ」
「合点、気をつけろよ」
「お前もな」
手をヒラヒラと振るレインの後ろ姿を見送ると、俺は村のあったところの中心へと向かった。
「ホークアイ」
俺は自分の体内を巡る魔力に意識を向け、魔力回転数を早める。
そして口で唱えると目に熱が帯、世界が事細かに見えた。
意識を向けたところは鷹魔族の能力によりズームされ、事細かに鮮明に見える。
右目でズーム状態にし、左で全体を見ながら歩を進め調査を進める。
(本当に何もない。この辺は人間領に近いが、俺たちより力の劣る人間がこんな事ができるとは思えない。できたとしてもそれ相応の手がかりがある筈だ)
だが数時間歩き、考察し、どれだけ観察しても考えが出なかった。
「だー! わからん、何が起きたんだよほんとに」
一息吐き、少し休もうと木に背を預けたその時、違和感を覚えた。
(木が、少し傾いてる?)
木は本来まっすぐ上に伸びその過程で傾くことはあるが、これは根の方から傾いていた。
「何か強い力で押された?」
俺は木の裏に周り、ホークアイで詳しく見るが…
「押したような、強い力を加えた後はない。じゃあ、引っ張られた?」
木を見上げると何本か折れた枝が視界に入った。
「でも地面には枝どころか葉も落ちていない」
周りを見た後、ホークアイを解除して背中に魔力を集中すると茶色と黒の羽が生えた。
羽は続々と生え、最終的に力強さを感じさせる大きな翼となった。
少し走り、助走をつけてから両足で地面を蹴る、同時に翼を羽ばたかせ空へと飛翔する。
ある程度の高度を取ると停空する為、羽ばたきを抑える。
(空中移動中にホークアイを起動すると酔うのが難点だ。コレ、どうにかならねぇかな)
頭の中で自分自身の不自由さを罵りながら、再びホークアイを起動して現場を見渡す。
「やっぱりだ、どの木も村のあった方向に傾いている。でもなんで?」
村の跡地を中心に周りの木々は引っ張られ傾いていた。魔法という摩訶不思議が蔓延る世界でもあまりにも不思議な光景だ。
「まるで何かに吸い込まれたような…俺たちが来るのがもっと早ければ痕跡もあったか?」
そこで気づいた、遅いと。
(遅い、結構な時間調査したが…レインがここに来ててもおかしくないよな?)
嫌な予感がする。
(何かあったのか、道中でならありえるが)
モンスターや野党に襲われたにしても余りにも異変がない。
何かあったとしてもSOS替わりに、空に打ち上げる魔法も見えるはずなのだが、確認できず。
そして背中にゾッとした冷たいものが走る。否定したいが仕切れない。
目の前の消えた村という光景がその思考を支配した。
とうとう、辿り着きたくない可能性に行き着く。
(もし村に、俺たちの村に、コレが来たら…?)
フィオナが、自分の妹が、一番大切なものが、唯一の家族が、何も残さず消えていく。
「フィオナ」
小さく呟くと発射したかの如く、翼を大きく羽ばたかせ、空を駆け抜けた。
心臓の鼓動が早くなる
頭が妹の事だけ考えてしまうのに急激に冷えていく。
一瞬一秒でも速く飛びたい、だが翼がぎこちない羽ばたきになってしまう。
自分の体が自分の物ではない気さえした。
それがとても、現実味を帯びさせないでいた。
空を飛びながらも、どこかに落ちてしまいそうだった。
そして見えてきた、到着した。目に映ったのは
地獄だった。
赤く染まる自分達の居場所が視界に広がった。
炎がキャンプファイアのように家屋達を燃やし、暗い夜空を照らしていた。
しかし夜空だけではなく地面に転がるナニカも照らしていた。
それは今日、隣を歩いていたレインと呼んでいた親友だった。
「あ、ああああああ」
他にも転がっていた。
いつも喧嘩していた、キザ男もネジが切れたボロ人形のようで
ちょっとしたことでいつも怒鳴り散らす、向かいのジジイは二度と口を開かず
あれだけ尊敬していた村長も、無残に、首だけ残し、それ以外が辺りに散らばっていた。
視界が明滅する。
吐き気が込み上げる。
思考が意味もない考えを過ぎらせる。
魔力の流れがぐちゃぐちゃになり、足取りを重くさせる。
そしてようやく、錘のような口を開き、火と血の空気を味わう。
「ふぃ……………おな………フィオナ!!!どこだ!!!!」
自分達の居場所はどこにも、なかった。
あるのは死体、肉、血、それらを鮮明に映す炎。
走る、足の裏に、グチャりという感触を感じながら、
叫ぶ、大切な者の名前を、絶対に守ると誓った者の名前を
自分の家へと、おかえりと、言ってくれる場所に、唯一の家族の元へと、
「……………………………………………」
何もなかった
声も
姿も
面影モ
形ニなるもノも
全部
きエた
燃えツきタ
何もない
何もない
何もない
何もない
なにもない
なにもない
ナニモナイ
ナニモナイ
なにもないナニモナイ何も無い何もないなにもないナニモナイ何も無い何もナイナにも無いナニモ無イなにも無イナニもナイナニモナいなにモないナニもない何も無いナにもナい
「は、ははヒヒヒヒ」
「あーあ、なんだこれ、おかしいな、ははは、ほんと、おかしい」
「ほんとうにふざけてるみたいだよな、なんでこんなあついんだ? 」
「そうか! 燃えてるからか! そりゃ暑い!!」
「なにがもえてんだ? ナニがもえてんだ?」
「なぁ、フィオナ」
「フィオナ」
「フィオナ」
「なんでおまえ、燃えてんだ」
♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢
「憎い? 憎いか? 」
リチャードはくつくつと笑い出す。建物を燃やす炎が可燃物でも飲み込んだのか、より一層猛々しく燃え広がる。
「憎いに決まってんだろ」
レヴィは火の手を気にせず適当な木箱の上に足を組んで座る。場違いにも、どうぞ? と手をやり聞き専に入りだす。
「狂ってるな、お前」
「お互い様でしょう? “八つ当たり”でテロする奴も大概ですよ。さっさと言いたいこと言っちゃって下さい、ほら、焼き鳥になりますよ?」
八つ当たり…とボヤきながら口を開き出す。もう自分の命が終わるということでヤケなのだろう。確かに炎はレヴィとリチャードを取り囲んでいた。
レヴィはともかく、リチャードが逃げるのは不可能だ。
「俺、妹いたんだ」
言葉をなんとか繋いでいくその姿はどこか怯えているようだ。
「死んじまった。村ごとな」
喋り方はギクシャクしており、思い出したく無いように見える。
本能が思い出すなと警報を鳴らすが気にもとめず思い出を紡いでいく。
「忘れようとした、何回も、妹なんていなかったって」
だんだんと、言葉に熱が帯びていく。まるで再燃したように。凍りついたまま燃え上がり出す。
「その度に吐いた。忘れようとした自分自身が許せなかった。そして忘れ切れなかった自分に後悔した」
だが出てくるものは、感情とは裏腹にどれも冷たい記憶ばかりだ。
「そして今の、三代目の魔王になって、人間を滅ぼし、統治が始まった」
リチャードの手が強く、ギリギリと音を立て握られた。怒りと悔しさの音だ。
「今更だぞ、平和、だとよ」
声が震え出す。肩が震え出す。
嫉妬の震えだ。情けなさの震えだ。
「平和で誰もが笑える世界で、妹がいないんだ」
両目から情けなく雫が床に落ちた。
その涙は、後悔の塊だ。
「どこ見ても、誰もが、笑ってんだぞ…なのに、なんで、そこに、笑顔の世界に、妹が、フィオナが、いない」
「なにが平和だ!! 何が異世界転生者だ!! 何が魔王だ!! ふざけんな!!! なぁ、なんで…」
「なんで妹は救われなかったんだ? なんでこんなに苦しいんだ? なんでアイツは! 妹を救ってくれなかったんだ!!ふざけんな!!ふざけんな!ふざけんなァ!!!」
「いいえ違います。それだけはまったくの間違いです」
彼女はそう断じて彼の瞳を見る。彼の目は炎が映りながらも涙をこぼしていた。
「その人は、貴方の妹さんは魔王が救う存在ではありません。あの人は、誰も頼りにできない者に手を伸ばすのです。『助けて』と言ったものを絶対に救う人です」
レヴィはリチャードの心を抉る、いや、解剖するかのように鋭い言葉を選んでいく。まるで死人で遊ぶように。
「きっとフィオナさんは、魔王じゃない、貴方の助けを待っていたのではないですか?」
その言葉をトリガーにして、リチャードは完全に爆発した。溜まりに溜まったマグマが吹き出すように荒々しく、その心を破裂させた。
「知ってんだよそんなこと、フィオナが誰よりも俺の帰りを待っていたことぐらい知ってんだよ!! だったらどうすりゃいいんだよ!! もう死んじまった!! 今更守ることなんてできやしない、もうなにもかも、馬鹿馬鹿しいんだよ!! だったらもう、全部消してやりたいんだよ、悪い夢みたいにきえてほしいんだよ!!!」
息を切らせたリチャードは建物に充満する煙ごと吸い込んでしまい咳き込んでしまった。
「なるほどなるほど、そういう理屈でしたか」
レヴィは芝居を見終わったように拍手を送ると木箱から立ち上がった。
「では聞きます。もし全て消え去ったとしますそこに…妹さんの望んだものはありますか」
ピタリと、リチャードの息が止まった。
「全て消した後の世界で、貴方の妹が、貴方と、幸せそうに生きているところを想像できますか?」
「想像する、必要がない」
そしてレヴィはたどり着く、無くしてしまったモノのある場所へと。そこへメスではなく、ナイフでもない、剣のような言葉を突き刺す。
「では遠慮なく、今の貴方は妹のフィオナさんと、手を繋いで歩けますか?」
深々ともっと深くに、ただ力を込めるではなく、残酷に。
「他愛ない話を交わせますか?」
左右に揺らし心臓に空いた穴を広げるように。
「今の貴方に、救われたいと思いますか」
そしてそこからぼたぼたとドス黒い何かがこぼれ落ちていく。
「ああああああああああああああああ!!!! ちが、違う!!! 俺は 俺は、お前の為に!!? 違う!! 俺は、俺は…俺は? なに、やってんだ…?」
「思い出しましたか、誰よりも貴方を自慢にしていた者を」
「貴方が『ヒーロー』である事を、誰よりも願っていた人を」
「シリアスになってないぞ」と感じたならばご報告下さい!
たっぷり加筆修正します!




