プロローグ-3 炙り出し作戦
未だにプロローグでございます。遅めの投稿で申し訳ございません。
「で、なんでこうなっておるんじゃ」
魔王城の1階にある清潔を思わせる真っ白な部屋。
そこは医務室と呼ばれる医療品や薬が棚に並ぶ部屋で、魔王と元聖騎士の二人は羊のような見た目の魔族の前で正座していた。
魔王の方はツノをもがれ脇腹に穴が空いているし、聖騎士の方は両腕がない、というかマグマに突っ込んだように溶けてる。
それでもこの問題児達は元気いっぱいにお互いに指差し、言い訳まがいに叫ぶ。
「魔王がおかしいんですよ! いきなり青色の爆炎出すとか頭狂ってるんですか! 両腕溶けたじゃないですか!!」
「お前こそ、そのトンデモ腕力どうにかしろ脳筋女!部屋が溶けかけた腕でワンパン粉々とかなんなんだよ!?おかげで脇腹に穴空いたじゃねーか!」
「黙りなさいツノなし低脳ショタ枠悪魔!!」
「やかましいわ脳筋蟹ゴリラ系ナンチャッテ騎士!!」
互いに地雷を踏み合い、というかタップダンスの勢いだ。
殺意による冷た過ぎる少しの間が空く。まるで氷河期のような冷凍空気の中、二人の怒りはピークに達した。
「「ぶっ殺す!!」」
がるるるー!! とキャットファイトのような喧嘩を始める2人。ゴングがあればかんぺきだっただろう。
羊は片眼鏡を上げながら、諦め気味なため息を吐いた。
「お主らこれ以上暴れたら絶対治療せぬからな。それと後でキチンとデュランに謝っておくのじゃぞ。それはもうカンカンじゃったからのう」
その言葉を聞いてピクリと反応する二人。
魔王が恐る恐るといった感じで尋ねる。
「カンカンだったのか?」
「うむ、そりゃあもう鬼の形相じゃったぞ」
魔王と入れ替わるようにレヴィは不思議そうな顔をしながら羊魔族に聞いてくる。
「他の騎士達はどうしてますか?」
「何時もどうりの動きをしてるぞー。変化はあまりないのう。で__」
羊が射抜くような鋭い目で二人を睨む。まるで暗闇に潜む物をみつけるような。
「いつまで茶番をしとるつもりなんじゃ?」
羊の言葉に思わず反応してしまいレヴィはそっぽ向き、魔王は口元をひくつかせている。
「「な、なんのことだかさっぱり」」
「とぼけるでないわい。お主らが本気で喧嘩したら部屋一つ崩壊で済むものか。この街が廃墟になっとるわい」
そのまま羊が二人を見つめ続けると、魔王と騎士は目を合わせた後、諦めたように観念した。
「むぅ、バレてしまいましたか」
「流石にドクの目はごまかせないか」
ドクが机にあるカップを掴み中身を一口含むと、再び聞いてくる。
「でじゃ、どこまで演技でどこから素じゃ?」
「演技というか、喧嘩を周りに気づかれるように派手にしただけだ」
「その為に自室一つ崩壊とは確かに派手じゃのう、騎士もざわつくわい」
魔王にジト目で、疑う視線を突き刺すと、逃れるように顔をそらした。
「出来るだけ騎士の目を引くように、出勤時と食事時に狙ってやってます。ただそれだけです」
自分の顎に手を当て、指で数回軽く叩きながら昨日の記憶をひねりだす。
「……昨日何回喧嘩したんじゃ?」
「5回です」
「多くないかのう、出勤、昼食、夕食、三回ではないのか?」
レヴィが魔王を見て、魔王がレヴィを見る。
互いに見つめ合う2人、再び相手に指を突きつけ醜い言い訳を始める。
「だって魔王が風呂覗いてきますから」
「レヴィが俺を指差してチビチビいってくるし」
「事実でしょう?」
「覗きってお前、自分が覗かれるほどいいプロポーションしてると思ってんのかぺったんこ?」
((もう一回ボコボコにしてやろうかコイツ))
同時にどうやって殺すか思案していると、そこでドクは諦めたような、はたまた納得がいったかのようなため息を吐くと、椅子から立ち上がる。
歳なのだろうか妙に哀愁を漂わせながらドッコイショと言う。
「今のままでは話にならぬ……そろそろわしは退室するわい。二人で話したい事もあるじゃろうし、これからどうするか相談せい。これを傷口に塗れば治るはずじゃぞ」
そういって茶色の瓶を置いてドクがそのまま退室する。
ドアが音を立てながら閉じると二人の間に気まずい雰囲気がただよう。
レヴィは頰を指で掻こうとしたが両手がない事を思い出し、変に目を動かしてしまう。
「怪我は大丈夫ですか?大丈夫ですね」
ツノの欠けた悪魔は脇腹の穴を手で隠しながら何でもない顔で答える。
「質問しといて自己完結してんじゃねぇよ。そっちは平気か?」
だがレヴィの方は大分顔色が悪い。傷口を焼いて血の流れを閉ざしたのだ、激しい痛みが走っているだろう。
「慣れてるから平気ですよ」
本当にそうなのかわからないが、強がるレヴィに薬を持った手を近づける。
「慣れてるとかの問題じゃねぇ馬鹿蟹、ほらこっち向け塗ってやるから」
魔王は瓶から白い塗り薬を指で掬って、上半身を必死に振り抵抗するレヴィの傷口に塗っていく。
「んぎゃ!?」
指が触れる度に染みるのか痛そうな反応をしている。もう少し女性らしい反応をしてほしい。
「…ところで、どう思うあのドクの言葉」
「どうって、嘘は言ってない気がしますが、胡散臭いですよね。何者ですかあの羊」
魔王はその疑問に答えず、曖昧に笑いながら話しを本筋に切り替える。
「そうか、嘘は言ってない気がするか…つまり俺が怪我を負っても騎士団内で動きが変わらない、俺を狙う奴がいないと言うことは」
「ええ、多分大丈夫ですよ」
「騎士団内に"反魔王派"はいませんよ」
溜まっていた不安を吐き出すような一息をつける。
「仲間だと思ってた奴を殺す羽目にならなくて本当に良かった…お前とんでも無いこと言うなよ!! 王族の中にはスパイ位いるのが普通とか、マジでビビったからなぁ! 夜眠れなかったんだからなぁ!」
「だからこっそり忍び混んで、添い寝してあげたじゃないですか」
「それが一番怖い! 殺しあった相手と一晩一緒とか生きた心地がしねぇよもおーー!!」
目を開けたらそこには殺した相手がいたとかホラーすぎる。
しかも腕枕という自分の頭が相手の腕の中にある状況だ。
命を諦めるレベルでピンチと判断しても不思議じゃない。
「腕枕……嫌でしたか?」
残念そうな顔でこちらをチラ見してくる姿に思わず何か言いたくなってしまうが飲み込む。
この女騎士たまに可愛くなるが、本性は拳一発で命を抉ぐる暴力主義者である。
「ひ、人をそのまま抱きしめさえしなければ幸せだった、お前の抱きしめは加減が出来てない!」
毎晩毎晩人のベットに潜り込み添い寝してくるのは男としてとても最高の気分になれる、が! 相手が殺し殺された関係なので、心臓が別の意味でバックンバックンなのである。
生命の危機的にドキドキして眠れない。
一応"契約"してるので殺されはしないだろうが、生死ギリギリのラインをシャトルランしかねない。
「では膝枕?」
「何故!? そのまま飛び膝蹴りとんでこねぇだろうな」
「大丈夫ですよ。変なところ触らなければ」
レヴィが疑いの眼差しで睨んでくる。
男が異性からこの視線を照射され続けると心が枯れてしまう。
なので魔王はクールに弁解しようと余裕ある態度をとる。
「サワルワケナイジャナイカー、マッタクモーウタガイスギダヨー」
「ふーん、人のシャワーは覗きに来るくせにヘタレなんですね〜」
「だ、誰もヘタレじゃねぇし!」
「どうだか、だいたいあなたは__
レヴィは何か言おうとしたが最後まで言えなかった。
勢いよく医務室のドアが開き、そこから二足歩行したライオン、騎士団長デュランが出てきたからだ。
「魔王様大丈夫ですか!?レヴィが手を挙げたと聞いて駆けつけましたが!?」
目の前に広がるのは脇腹に穴を開け、ツノが折れた主人に、両腕溶けた自分の部下がいるという光景だった。
「喧嘩にしてはやり過ぎじゃないですか!? レヴィ、お前いい加減にしろ!!何度も何度も魔王様に手を挙げて、それでも騎士か貴様!」
「だから言っただろ。デュランが反魔王派な訳がないって」
「一番怪しいと思ってたんですけどね」
え?という顔をしたデュランを無視をして、二人は会話を続ける。
「でも誰も何もしないという事は、反魔王派は魔王に注目してないって事ですよね。影が薄いのでしょうか」
「は?いやいや、反魔王を掲げてる奴らが俺を注目してないとかどういう事だよ。そんなの騎士が治安維持しないのと同じだぞ、根本的に話が合わない」
「……あれ? 確かにおかしいですね、でも誰も怪しい騎士がいませんでしたよね? スパイ疑惑がある騎士が誰一人も」
魔王はこのレヴィの言葉を聞き、思案を始める。そして一つの結論を導いた。
「まさか、反魔王派には俺を襲うより確実に仕留める方法がある?」
魔族最強の魔王を倒す方法が、大した組織でもない反魔王派にあるとは思えない。
もし魔王が万全ならこのデーア大陸が消えても生き残れる程強いのだ。
寧ろ今こそ、負傷している今こそが魔王の座を狙う千載一遇のチャンスだ。
「気のせいだと思うけどなー」
「ですねーそんなのあったら、とうの昔に殺られてますからね貴方」
一気に息を抜いてヘラヘラする魔王。
レヴィも気を抜き、医務室のベッドに足を組み座る。置いてけぼりの騎士団長だけが手を空中で右往左往させている。
「あ、あの、どういう状況なんですか魔王様。私が反魔王派とか…わけがわからないのですが」
「あ、デュランもう帰っていいぞ」
「お疲れ様ですデュラン団長」
魔王は手を使いシッシッと返そうとし、レヴィは手を左右に振って返そうとする。
「イヤイヤイヤイヤ!?めんどくさがらずに説明してくださいよ!!なに帰そうとしてるんですか!?」
「ちっ、めんどくさいなぁ、かくかくしかじかじゃあ帰れ」
「かくかくしかじかじゃわかりませんよぉぉーー!!!」