2-11 魔法研究所
時間軸は前話のレヴィが魔王と呪印契約での会話終了後です
魔族街デアントの北東
そこに魔王城とまではいかないが横に長い形をした大きな建物がある。
屋根は雨に濡れ太陽で乾きを繰り返し続けた為か色がバラバラにくすんでおり、あちこちに自力で補修でもしたのか雑に木の板が打ち付けてある。一流大工が見たら押しかけてきそうなほど酷い出来だ。
だがそれとは裏腹に赤いレンガで組まれた壁は新品の如く傷もシミもない。だがそれも一部だけで他は日焼けし汚れ、赤いレンガが欠けて土がむき出しの部分がチラホラと見受けられる。
この日頃利用している敬意や感謝を微塵も感じず、ただケチ臭く補修されている建物に『魔法研究所』と書かれた看板が置かれていた。
「ごめんなさーい…ごめんなさーい…ごめんなさーい」
「ポピーくーん、それ以上うるさくするとこの縄切っちゃうぞー」
その中でのとある一室、『魔石研究科』と書かれた板がドアノブにぶら下げられた部屋で一人の青年が縄で巻かれぶら下げられていた。
魔王が呪印契約の会話をした後直ぐに立ち去り、『供給源』である青年をお仕置きで縄に吊るし上げたのだ。
青年の真下は黒い釜が鎮座されており下から熱を加えられブクブクと謎の緑色の液体を沸騰している。落とされたら火傷もそうだが、それ以外のナニカでドンナコトになるかもわからない。
部屋は乱雑に本が積み上げられているスペースと色とりどりの魔石が積まれた箱で占領されたスペース、そしてその間に机、一人で使うには少々大きめの机がある。
机の上には研究器具と紫色の魔石に二冊の本が置かれ、肌色の組まれた色っぽい裸足が乗っけられている。
「チーフぅ、机の上に足をのっけないでくださいよぅ」
チーフと呼ばれた白衣を身に付けた女性は隣にナニカに繋がれた縄にナイフを当て左右に揺らし始める。プチプチと音を立てて縄が切れていくと吊るされたポピーと呼ばれる青年が悲鳴をあげる。
「切っちゃうぞ★」
「わおおーーん!!?至極真っ当な事言ったのに危険でピンチー!!」
明るい茶髪の青年は縁のない眼鏡をかけており白衣の下から青色を基調とした服の裾と尻尾を伸びている。尻尾は少し丸みを帯び髪の毛と同様の明るい茶色の毛を生やしている。身長は魔族としては低い150ほどだ。魔王と同サイズである。
チーフと名前ではない呼ばれ方をされた桃色の髪の女性は左手に持ったナイフを投げて机に突き刺した後、右手で摘むように持つ一枚の紙をぼんやり眺めている。
女性は白衣を身に付けているがボタンを止めずに前面解放した姿である。それだけならまだしもその下に服を着ていない。
だが裸白衣ではなく青色の水着を着てくれているので色々危ない時もあるが以前と違って大切な部位が見えずにすんでいる。
「ダメだこれ、全然ダメだ」
そう言って持っていた紙を空中で展開した赤い術式に通す。術式を通過すると紙は燃え上がることもなく黒く焦げそのままチリになって霧散した。
「どうしたんですかそれ?」
チーフは研究所に置くには場違いな高級フカフカソファに思いっきり背を預け豊満な双丘を天井に向ける。
「騎士団長様に頼んだレポート、アレがまったく役立たずなのよ。レポートというか感想文というべきかしらね…ステラが起動した白い術式がどうも気になってね、デュラン君なら何か知ってると思ったんだけど」
「うへぇ、それ魔王様からもう関わるなと釘刺されたやつじゃないですか。また怒られるの嫌ですよ僕」
吊るされたままげんなりした顔で自分の上司をみる犬研究員、
「さっきのは君が悪い、処分するはずの魔石を勝手にどこの誰ともわからない奴に売るなんて」
「チーフ…魔法研究所が非常に財政難なの知ってますよね!!お金が必要だったんですよ!!壁とか屋根とか修理しきれてないんですよ!!!それなのに」
「いやー、なんでだろうね?」
青年は吊るされたまま高級ソファでダラける自分の上司を睨みつける。
「その座ってるソファいくらしたんですか!?てかいつ買ったんですか!?ああもう研究費に材料費に修理費に…無駄遣い出来る余裕なんてないですよ!!」
「ポピーくん」
「なんです!!!」
「うるさい」
無情にも紙を消した時の高温の術式を縄に当てる。。火は灯り、油でもかけているかのように縄を伝いそのままポピーの方へと勢いよく駆け上がる!
「わおおおおおーーーーーーんん!!!!?」
犬の吊るし焼きという新しい料理ができそうな最中、チーフは顎に手を当ててポツリと呟いた。
「そういえばあの時魔王君は赤髪の女性を連れてたけど…誰?やたら暗い顔してたし、あの時から魔王君は元気になったしね…」
燃やされまいと吊るされたまま暴れた犬だが刃を当てた部分の縄が先に燃え尽きそのまま落下する。しかし左右前後に動きまくった為沸騰した緑液の入った釜から外れ、硬い床に顔から激突する。
「い、生きてる、僕生きてる!?」
痛そうに鼻を押さえながら立ち上がる。
「いったいあの赤髪は何者?」
「そういえばその日に魔王様から何か頼まれてないでしたっけ?」
鼻声になりながら話された言葉に思い出したように手をポンと当てる。
机の引き出しを開け何枚かの重要な紙をその辺に投げると一枚の封筒を取り出した。
「これ!期日はないって言っていたから後に回してたんだ!」
「確か…契約印の解析とか言ってましたよね」
だんだん熱が入ってきたのか封筒を持つ手に力を入れながら瞬きの頻度が下がっていく。そしてのりの貼られた封筒を開け一枚の紙に目を通した。
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魔王からの『呪印契約』の解析依頼
今回は急を要するものではないため時間制限はないものとする。
この件に関しては他言禁止とする。
魔法研究所の中でも最も優秀な君たち、魔石研究班には『呪印契約』について調べてもらいたい。『魔石研究』を目的にした君たちに指名したのは他でもない、『ステラの白い術式』が関わってる可能性があるからだ。
あの術式は君達が調査した内容から抜粋すれば、魔石とは別の術式媒体を介した可能性が非常に高いと推測されている。
呪印契約は私がある存在(詮索したら命の保証はしない)と交わした特殊な契約だ。
契約内容は不明な為、それを君達に解析してもらいたい。
その、だな、うん、重々承知してるが今回の依頼が色々メチャクチャなのは理解してる。
その為本当に先に進めなくなったら私に聞きにきてくれ。
尚、赤い髪の魔族には絶対、絶対の絶対この件について話さないように。
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「「……………」」
いやなんだこれ、そんな顔を揃ってしていた。
「ポピー君どう思うこれ」
「いや、どうも思えませんよ」
明らかに情報も前提も肯定も過程もない理解不能な依頼内容、どこをどうしてどうしろというのだ。
「まず?えっと?呪印契約の内容がわからない?なんで!?てか呪印契約って何!?」
「魔王様って悪魔ですよね、じゃあ本来なら交わした契約内容がわかるのでは?というか呪印?悪魔契約じゃなくて?」
悪魔契約はその名のとおり悪魔族がする契約である。悪魔族が誰かを主人としその者の願いを叶え、叶えられた主人は約束された対価を払う。大雑把に言えばこんなものだ。
だが呪印契約?聞いたことも見たこともない二人は困惑するしかなかった。
「それにある存在?誰だよ!?言えよボヤかすなよ唯一のてがかりだろ!?」
「しかも詮索したら命の保証をしないとかどうしろと!?」
頭をガシガシとかくと本棚に置いてある一つの資料集に目をつける。『人魔大戦』と書かれた物だ。
「それに何で私達の調査した『ステラの白い術式』が何故関係するのか説明して!?うわーこれはもう嫌な予感しかしないぞポピー君!?」
「あれですよチーフ、逃げましょう!これ絶対関わるだけで命がヤバいやつですよ!!」
「いやーここで逃げたら絶対魔王君口封じにくるよー、酷い目には合わないだろうが解決するしかないね。時間制限なしとか永遠にコレに向き合うかもだ」
一旦紙を封筒にしまい別の所に置き、一息をつく。封筒はごくごく普通の物で、王が出す黒い超重要と書かれた物でも特殊の判子を押したものではない。
「とりあえず魔王君も相当焦ってコレを出したんだろう。時間制限がない…つまり早く動いて解決出来るものじゃないのは魔王君も思ってる所だろうしね」
「そ、そうなのですか?じゃあ時間に余裕できたら魔王様にもっと情報を貰わないといけませんね」
「それと武器も必要だね」
目を鋭くして机の下の床を見る。いろんな物が転がっているせいで見づらいがそこには大きい、畳6枚ほどの大きさの色あせた術式が書かれていた。
「へ?武器?何でです?僕たち研究員ですよ」
「詮索したら命の保証をしない、だけど魔王君が私達を殺すと思うかい?アレは相当のお人好しだよ」
「じゃあ…魔王様から何かされるわけじゃなく、もっと別の何かで命がヤバいと?」
「そういうこと、魔石を使って大量に防衛用ゴーレムを作らないといけないか。ポピー君は此処を一先ず片付けてくれ」
「はーい。後コレを口実に魔王様に資金援助の申請しときますね」
「抜け目ないね、流石は私の助手だ」
「ゴーレム用の大規模ガレージが入りますからね。金は幾らあっても足りませんよ」
ゴーレム談義がヒートアップしていく二人。魔法における秀才が集まる魔法研究所のトップである天才二人は『呪印契約』の謎を追う前に自身の安全性を確保する為知恵を巡らせるのであった。




