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2-10 番狂わせ

今回難しめです。

「ほうほう、俺はその「でばいす」っつーわけのわからん道具(アイテム)に見事翻弄されたと」

空が白い曇り空に赤色が混ざり込む夕暮れ時、粉々の建物と荒れ果てた石造りの道で甚大な被害となったギルドから少し離れた裏路地。

人目のつかないそこで鬼サムライは蟹騎士に取り調べを受けていた。壁を殴りつけて悪態をつく。

「人様の記憶弄くり回しやがってあの野郎!」

「あまり大きな声を出さないで下さい。ギルドの人達が聞きつけたら大変ですよ」

「すんません!」

ポキポキと腕を鳴らしながら注意と言う名の脅迫をされたので酷い目に遭う前に謝罪する。これだけ見るとどちらが犯罪者か一考の余地がある。


話を聞いたところこの男はギルドで相当暴れたそうで中にいる職員と冒険者を鎧袖一触で叩きのめした。当時のギルドもまさか魔王城ではなくこちらが襲われると思っておらず警備もゆるゆるで冒険者も『例の依頼(甘い蜜)』に誘われて大体が出払っていた。いたのは完全に仕事オフで茶々を入れに来た銅級(役立たず)の冒険者だけだったという。

その為ギルドの関係者に見つかれば恨み晴らしの餌食にされかねない。今それに付き合うほどレヴィも暇ではないのでこうして誰にも見つからないように路地裏で取り調べをしているのだ。

タイナは今『例の依頼』の出所についてギルド職員達に取り調べをしている。


「デバイスの持ち主の話を聞かせてください。思い出せないなら思い出すまでショック療法で思い出させます」

「待て待て待て!覚えてる!覚えてるから暴力で解決しようとすんな!本当に騎士かよ!?」

「不意打ちしてきておいて暴力反対とか言いやがりますかコイツッ!!」

レヴィは未だに腕を切られた事を根に持っているのかやたらと強く当たる。

だが忘れないで欲しい、相手の片腕どころか両腕潰したのはこの蟹女である事に。ぶっちゃけ物理的な被害だけだったらお互い様だ。

「覚えてると言っても期待に添えるようなものではないぞ」

「フードを被ってて顔を見ていないとかですか?なんだっていいので小さい事でも言ってください」

そう言われた鬼サムライは思い出すために考え込む、というより言っていいものかどうか悩んでる様子を見せる。

「…信じてくれるか?」


うーわ絶対めんどくさいやつだ。


レヴィは心から口にそのまま出そうになるがなんとか堪え、上っ面の笑みを浮かべ罪を告白される聖騎士のように振る舞う。

「はい、信じますよ。私は騎士ですから万人の声を聞き、それに答える使命があります。それがどんなに醜く醜悪で悪辣で心底捻じ曲がった陰口が止まない鬼犯罪者だろうと答えてみせます」

「泣くぞ!!俺そんなに酷かったか!?」

「いきなり右腕切断した挙句、できれば穏便に済ませようとした相手の首に刀刺したよねぇ!!!今この場で全力出して肉塊に変えてもいいんですよォ」

「すんません!!」

両手を合わせ拝むように再度謝罪する。本当は呪印契約のせいで全力が出せずにいるのは棚に上げておくようだ。

鬼はツノの生えた頭を恐る恐るあげ伺うように口を切る。

「実はな…誰がリーダーかわからねぇんだ」

「はい?」

「なんというか、老人の時もあれば青年だったり少女だったり、俺に指示をとばしてくる奴が毎回毎回別人なんだ。そいつらの名前も知らん。俺に最初に接触しにきたのだって10歳ほどの白髪少女だ。まさかそいつがリーダーなわけないし」

レヴィは完全に困惑した顔になる。前提そのものがあやふやになった。

(魔王の話だと相手は多くても5人ほどのグループだとか言ってましたが?!うん?うーん??)

「えっと、大体どのくらいのメンバー数かわかりますか?」

「さぁな?少なくとも連絡係は10人いたんじゃねぇか?特定の拠点は無かったみたいだが」

情報が出ればでるほど思考の出口が塞がっていく。いや足場が消えていくような前提の消失。

(魔王のバーーカ!!全然予想と違うじゃねぇですか!!)

「ま、連絡つっても待機の一点張りだったが今日になって昼前ぐらいの時間でギルドで暴れろと言われたんだ」


(おかしい!いくらなんでもおかし過ぎます!!魔王からは少人数だと聞いていたのに)


♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♦︎♢♦︎♢♦︎♢


時間は巻き戻り

デバイスの話をした後レヴィは集めた状況と情報を魔王に報告した。

『今回の事件はデバイスの事もあるが色々とイレギュラー過ぎる』

「イレギュラーですか?」

『まず目的が不明瞭過ぎる。魔王の座を狙いたいにしても回りくどいし時間をかけ過ぎてる。そして相手が組織と呼べるかどうかも怪しくなってきた』

「今回の役者は…

・魔石を各所においた『配達員』という『首謀者』

・魔石を支給品として冒険者に渡した『依頼者』

・レヴィが倒した『用心棒』

・『配達員』、『依頼者』に魔石を流した『供給源』

・デバイスの『保持者』

…ですか。規模としては組織というかグループですね」

『そのうちの用心棒はレヴィが捕縛した。供給源はこっちで処理した』

「…いつのまに、誰ですか供給源は?」

呪印契約から重いため息が聞こえてくる。

『すまん、俺の管轄内の魔法研究所のバカが魔石研究の失敗作を売り渡したんだ』

「はぁ!?」

『しかもそいつが超お喋りで毎日毎日ペラペラと魔王城の内情を吐きやがった』

レヴィは頭が痛くなり眉間に手を当ててしまう。よく耳をすますと契約印からは誰かの謝罪の声が聞こえてくる。

「なんにせよこれで供給源と用心棒はとりましたね」

『そして配達員、首謀者の詳細がわかった』

事件解決の重要な情報に顔を上げる。

『相手の名前は


♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♦︎♢♦︎♢♦︎♢


レヴィにまさかという思考がよぎる。もしこれが当たっていたら手遅れ、既に逃げられてる可能性が濃い。レヴィは『依頼者』『配達員』が同一人物で『首謀者』と思っていた。

「鷹の魔族と会いましたか?」

「鷹…?いや知らねぇな」

「本当に、知らないですか?」

改まって語気を強くして聞いてきたレヴィに戸惑いながらも頭を唸らせるが

「いや知らないな。さっぱりだ」

息を飲む。そうだ、ただ会ってないだけで姿形は知らないが名前ぐらい知ってるだろうと名前を上げる。

「リチャード・オルステッドという名前に聞き覚えは」

リチャード・オルステッド

今回の事件の黒幕の名前…のはずだった。


「誰だそれ?有名人なのか?」


『配達員』は今回の事件を起こす上での重要な鍵だ。この『用心棒』は『首謀者』からその存在を知らされていない。

なぜ?知らせないメリットなんてどこにもない。

『首謀者』と『配達員』が別人だったら?確かにそれなら『配達員』が黙って行動していれば『首謀者』は知る由もない。だがそれはグループに対する反逆行為だ。それを『首謀者』が見逃すはずがない。この『用心棒』を使い抹殺するのが道理だ。

『首謀者』は『配達員』の動きを知らなかった?…むしろ知っていて放置した?

それに同じグループならメンバーの顔合わせぐらいしないと連携の取りようがない。それをしなければ誰が味方かもわからない状態だ。


味方がわからない?


いや、そもそも味方として見る必要がない?


「『配達員』は最初からグループのメンバーじゃなかったから……!!」


『首謀者』は『配達員』が動くのを今か今かと待っていた!『配達員』と『首謀者』の目的は違う!


じゃあいったい全体どういう事だと知恵熱を出すレヴィ。前提崩しの番狂わせに目をグルグル回す。

「あと言っておくと『例の依頼』を貼って冒険者に魔石をばら撒いたのはこっちらしいぞ。連絡員がそれを辿りにくるから迎撃しろっつー事で俺はギルドで暴れたんだ」

そこに更に重要情報をねじ込む鬼サムライ、既にパンパンに膨らんだ風船は更に空気を送り込まれ破裂した。

「だあーーーもおぉーーー少し黙れってんですよ!!」

「話せと言ったの貴方様でございますよね!?」

いつものとってつけたようなですます口調はもうなかった。

頭を抱えて考え込み数秒後ぶしゅー!と音を立て煙ではなくぷくぷくとシャボン玉が噴き出す。異常事態にサムライも数歩後ずさりして距離を置く。

「おーい!?大丈夫かそれ!」

「ぶくぶくぶくぶくぶくぶくぶく………ぷはぁ!」

頭から泡を噴き出し切ると呼吸を止めていたのか水から飛び出すように息継ぎする。

「よし!」

頭の整理がついたのかと安心して近づくと呪印契約が刻まれた右腕を突きつけられる。

「な、なに?」

「ランコーレ!」

術式起動のキーワードを唱えると五芒星の契約印が幾何学的に回りだし紫色の光を放つ。そしてそこからうざったそうな声が響く。

『なんだよ今忙しいから後にしてくれ』

「超重要情報ゲットです。ですが私はもう理解し切るのが無理なのでお願いしますです」

『いきなり過ぎる!?というかそれ面倒ごとを俺に押し付けてねぇか』

「ワタシ、リカイ、ムリ、バトンタッチ」

『カタコト!?』

「テ、テキザイテキショ」

『うるせぇよ』

つまりどういうことだってばよ…?

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