2-9 デバイス
遅くなりました!!お待たせしました!!
タイナは立ち上がったレヴィを見て呆けている鬼サムライを全力で突き飛ばす。
捕まえようと手を伸ばすがタイナは糸を建物の屋根に伸ばしそのままワイヤーアクションの要領で逃げていった。
「じゃーねー」
「クソ!」
捕まえるのを諦めて苛立ちながらレヴィを睨みつける。
「タイナさん、後は大丈夫なのでギルドの中に囚われている人たちを助けに行ってください」
オッケー、と手を上げると器用に糸を使い窓を開けて二階から侵入していった。鬼サムライは苦々しく舌打ちする。
「いいさ、お前を早々に片付けてから中をまた掃除すればいいだけだしな」
刀を肩より高く上げ刃を上向きにし、両手で引き突くように構え肌に突き刺さる殺気を向ける。
「そのままくたばっていれば楽になれたものを!」
鬼サムライは刀に再び炎を纏わせて瓦礫や焼け跡で荒れた凄惨な道を駆ける。
だがレヴィは何かするでもなく、構えすらとらずにただ平然と立っている。まるで目の前のことを認識できてないように
(やっぱりまだ魔力酔いから立ち直れてねぇな!立ち上がった時は驚いたがハッタリもここまでだ!)
炎を纏い、高熱で空気揺らめかせながら鉄すら容易く溶断する。武器というカテゴリーの中でも更に熱による切断に重きを置いたその刀が鬼魔族の剛腕で空気が揺れる程の力で振るわれた。
それはただ立つだけのレヴィの首を貫き、熱により焼かれる音をたてながら切り捨てる_
_はずだった。
当たった、当たっているのだ。
首に確かに当てた。
間違いなく溶断する筈。
なのに、なのになぜ
「こんなものですか」
刀はレヴィの首にあたり、そのまま触れているだけだ。肉を断つ感覚がない、何か硬いものにぶつかった手応えが帰ってくる。首には小さく刀が当たってる狭い箇所に真っ赤なキチン質の甲殻が覆われていた。
数多く存在する魔族の中でも力だけなら最強を謳われる鬼魔族を持ってしても傷一つつかない甲殻。それほど強固な外殻をもつ者などこの世界、デーア大陸で確認はされていなかった…この時までは
「ありえない」
超高温の刀が触れても音をたてることもなく首は今も体にくっついており支障などどこにもきたしていない。
直ぐに刀を引き今度は上段に振り上げ頭へと叩きつけるが微動だにしない。全力で放った一撃がまるで効いていない。
「そ、そんな事が…こんなことが…」
鬼の目が見開かれ嫌な汗が噴き出してくる。ありえない現象が今目の前で起きている。その事実と魔族最強の種族としてのプライドが更にまともな思考を奪っていった。
「あ、ああ、ありえてたまるかあああああああああああああああああ!!!!!」
何度も、何度も刀を振るう。右から左から上から下から、不意を打つように叩きつけるように無限に続く連撃のように大地を割るかの勢いで、力も出せるだけ出す、魔力も回せる限り身体中を最高速度で巡らせ炎刀もボルテージを上げていく。
それでも握っている刀から肉を断つ感覚が一向に返ってこない。
ガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガン!!!!!!!
「お、俺は、俺は強くなる為に全てを捧げたんだぞ!!!それがこんな、こんなわけのわからん魔族如きに」
「何故そこまで強くなりたいのですか?十分生きていくには申し分ないほどの力を保持してるじゃないですか」
攻撃を受け続けていたレヴィが唐突に訪ねるが答えずに刀を振るい続ける。
「わたしを超えてどうしたいのですか?その次は?もし何者も到達しえない無類の強さを得たら何がしたいのですか?」
「………うるせぇ」
「いいですか、今のままでは強くなれても何者にもなれません。ただ『力が持ってる何処ぞの誰か』ですよ」
感情に振り回されるような大ぶりの攻撃を繰り出す。それを体を逸らして避けると、鬼サムライはそのまま刀と共に地面に情けなく転んだ
レヴィはため息を吐くと足に紅の艶がかった甲殻をブーツのように纏わせ具足を作りだす。
「ただ貴方は強くなることに拘り過ぎてる。その先が見えてません」
「ちくしょう…なんだよ…なんなんだよ!!ただ単純に力を求めて何が悪いんだよ!!それが魔族としての本能だろ、俺はまだ強く…強く……」
「そうです。悪くないですよ、けど良くもないです。だからそこで終わりなんです。何も選ばない者は何者にもなれません」
鬼サムライは刀を杖代わりにし、足を震わせながら立ち上がる。刀を握る手は既に痙攣しており、纏う蒼炎も灯火ほど弱々しくなっている。
「何も選んでないのになにが『全てを捧げた』ですか。それに本当に全て捧げたら貴方になにも残りませんよ」
「うるせええええええええええええええ!!!あのクソジジィと同じ事言ってんじゃねええええええええええええええええええ!!!!」
それでも鬼は向かってくる。何かから追い立てられるように、何かから逃げるように、その何かもわからないままに。剣術をかなぐり捨てた一撃を放つ。
「随分と雑念に侵された一撃です…ね!!」
踵を上げ、迫ってくる刀に振り下ろす。
硬く軽い物が潰れる、聞いたら思わず肌が強張ってしまう音が響く。鬼魔族の手首から先が陥没し、腕のあちこちに穴の空いたホースのように血が噴き出る。折れた刀は宙を舞っていた。
俺はこんなに弱かったのか
何故強くなろうとしたのだろう
今思いかえそうとしても目の前に広がるのは甲殻の紅、赤い髪、ドス黒い血
もはや掲げる刀も折れ、誇りも失せ、名誉もない
誇り?名誉?そのために俺は戦ったのか?
そもそもこの計画に乗ったのだってわからない、ただなんとなく、金が稼げるから…?
『たわけが、それではいつまでもワシを超えれんぞクソ餓鬼』
ああ、そうだ。この背中だ。
誇りもなく、名誉もなく、報酬もない。見返りなんてものではなく、ただ己の故郷を守る為だけに刀を振るい続けたクソジジイがいつまで経っても死なねぇから
俺が鬼ヶ島の守護鬼になる。
あのジジイに引導を渡す。アイツはもう死んでもおかしくない体だ。それでも刀を持ち続け今も立ち続けている。
もう休ませる為に、俺は強くなる。安心して死なせる為に、悔いなく満足できる死闘の中で
だから
「終わってたまるかああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
腕が潰れても止まらない。刀が砕けても戦い続ける。どんな強敵でも噛み付いて。
口を大きく開け中に舞う刀を八重歯で固定して咥える。
痛みを己の掲げる唯一の背中の面影で、欲望で押し殺し、前進する。
そして意識が消えかかる中、首を振りかぶりレヴィの首へと飛びかかり折れた刀を突き刺した。
「が……っ!!?」
刀が突き刺されたレヴィの首からポタポタと血が流れる。余りにも常軌を逸した事に甲殻を展開が出来なかった。
(ざまぁ…みろ…)
ずるりと、崩れ落ちる体。だがそれを支える真っ赤な腕があった。
「最後、の一、撃、とても、真っ直ぐでし、たよ。気に、入、りました」
首に刀が刺さっている為かチグハグな言葉だが確かに賞賛の色が含まれている。
(致命傷ですか…魔族だから生きてるのでしょうが、前までだったら死んでましたね)
ゆっくりと鬼サムライをギルドの看板を背にして下ろすと刺さっている刀を掴む。
息を整えると覚悟を決め一気に引き抜く。
「い゛っ!!!」
即座に胸元から白い粘液状の液体が入った瓶を取り出し蓋を乱暴に開け傷口にぶっかけた。
「うぅ、魔王と喧嘩した時ほどじゃないですけど…」
瓶にはラベルが貼られており、『新発売!!超即効性塗り薬ボンド!!!』と白い羊マークと共に書かれている。
「タイナさんがどさくさ紛れで渡してくれて本当に助かりましたよ。お陰で右手もくっつきましたし」
そして鬼サムライの両手にも瓶を逆さにしてドバドバと雑にかけると一息をつく。
「あー疲れた。全力で戦うなと言われてなければ余裕なのですが」
『お前が全力だしたら死傷者がでるから絶対ダメ』
ウゲェ
露骨に嫌な顔をして左手を見ると呪印契約が反応している。そこから飯時以外会いたくない声が聞こえてくる。今すぐ左手を断ち切って逃げようという考えが脳裏を過るがここでの事の報告もしないといけないので我慢する。その代わり駄々をこねてみる。
「ぜーんりょーくーで、たーたーかーいーたーいー」
『今朝もやりあったじゃねぇか、それで我慢しろ。それよりも』
魔王が言い切る前に被せて報告する。
「今、メンバーの一人を叩きました。起きるまで待機中です」
『そうか、そこにいたのは首謀者じゃないんだな』
「この様子だとただの用心棒ですね。それもかなり悪質な洗脳、いや、扇動をされて」
『扇動?』
訝しむ声を聞き一番重要な事を聞く。
「魔王、相手に一時的に記憶を忘れさせる魔法とかありますか。それも目標とか生きる理由とか大切なものを曖昧にできる程の」
『……ないな、そこまではいくらなんでも俺でも無理だ。少し曖昧にしても直ぐに思い出される』
「答えが出かかってきましたね。魔法でも不可能な事を可能にするものと言えば」
『発動すれば世界が悲鳴をあげ、法則を無視するほどの強制力を発揮する。神様さえも危険視するアイテム』
「人間が作ってしまった幸せのためだけの道具」
『禁忌』




