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2-6 サムライ

「ざっとこんなものですか」

レヴィ達は甘々庵から南に向かい、この街の南東部に所在する、冒険者ギルドの前まで迫っていた。

もちろん、道中は多くの冒険者が行く手を阻んできた、だがレヴィの一撃鎮圧で難なく突破してこれた。

ギルド前の通りは特に、暴徒と化した冒険者の数も多く、流石のレヴィでもキツイのでは?

そう思っていたタイナだったが、ほんの数秒ロスタイムが出た程度だった。

今では冒険者向けの店が多くある大通りも静かで一般魔族達は屋内への避難を完了させたようだった。いつもはうるさいほどの街が静寂で包まれ不気味に感じてしまうほどだ。

「まるでゴーストタウンだね」

「誰も死んでないので、化けてくることはないですよ」

目の前の建物は、木造の作りで所々に武器をイメージしたような装飾が飾られていた。

建築物の知識が無い者でも、一目で立派だと理解できる。

自分たちの足音が明確に聞こえる事に、新鮮さを感じながらギルドの扉の前に立つ。

すると、二人とも違和感を感じた。

「何も聞こえませんね」

「うん、話し声どころか足音も聞こえない…何かがいる気配が全くしないね」

「本当に誰もいないと思います?」

レヴィが小声で尋ねると、タイナは首を横に振るった。

「絶対ありえない。手がかりがあるところに誰も置かないとか、金庫の扉を開けっぱなしにするようなものだし」

タイナがドアノブに右手をかけ、互いに確認し合う様に頷きあう。

レヴィはいつでもフォローに入れる距離に立つ。

「気をつけてくださいね、ギルドの職員全員が襲ってくる可能性もありますから」

「私が開けたらレヴィちゃんが殲滅、もし負傷したら私が撤退路を開くからね」

ドアノブを捻ろうと力を入れたその時


ダン!


と勢いよく踏み抜く様な足音が中からした。

いや、というより扉のすぐ向こう側からだ。

音と同時にレヴィは目を見開き、タイナの肩を掴み床へ、叩きつけるように落とす。


その直後、タイナの目の前に何か白い物が右から左へ、視認が難しい程早く、空気を裂きながら通り過ぎた。


「タイナさん下がって‼︎」


タイナが未だにどんな状況が把握出来ずに硬直していると、レヴィは彼女を後ろへと投げ飛ばした。

地面と体がぶつかる鈍い音と、カエルが潰れたような、タイナの声が重なる。

「うげぅ‼︎レヴィちゃん何すんの…さ…?」


自分の手がナニカに触れた。


それは細く長いもので緑色の布で包まれた肌色。

中から赤い液体が垂れて来ている。


「え……これ……?」


腕だ。紛れも無い誰かの腕だ。

緑色の布は服の袖の部分だ。

この緑色の布は見覚えがある。

自分のきている制服と同じ物。


なにがおこった。


タイナは頭を空白の状態で、目を前方に向ける。


そこには一週間前に出会った、唯一の仲の良い同僚、特徴的な赤いポニーテールをした女が立っていた。

だが足りない。明らかに足りていない。

本来あるべき右腕がない。


「う……ぐぅ……!よくも……やってくれやがりましたね」

レヴィの右腕は切られたが、血は垂らしていない。

赤い甲殻で傷口を覆って出血を防いでいる。

「ほう…避けたか。まぁ殺す気は無かったがここ(ギルド)までくる相当な手練れ、先手を打たせてもらった。不意打ち御免、やられる前にやれ、先手必勝、というものだな」

半分以上を斜め角度で無くなっているドアの向こう、男がいる。


手入れのされてなさそうな乱雑な黒髪、それで片目を隠したそいつは、不敵な笑みを浮かべて立っていた。紫色の袴、白く縁取った雲が描かれた黒色羽織を身につけている。

右手には130センチ程の刀を持ち、腰には青と赤の、やや装飾過多の黒い鞘を携えている。

正にサムライの様な姿だ。

「で、どうする、片腕だけで俺と戦うのか?逃げる事を勧めておくぞ、窮途末路、ではあるがな」

右手にある刀を体の周りで舞わし、動かしながらそう言うと、眼光をタイナに向ける。

「別に二人がかりでも一向に構わん、その方が追う手間も省けるしな」

レヴィは苦悶の表情を切り替え、すぐさま振り返りタイナに言葉を弾き飛ばす。

「タイナさん‼︎早く行って下さい‼︎」

「で、でも―

「いいから‼︎ここは私が時間を稼ぎます。ですから出来るだけ早くお願いします」

「!……うん、わかった…待っててね‼︎」

そう告げるとタイナは飛び出し、一目散に逃げ出していく。

それを見届けた後、再びドア向こうの相手を睨みつける。

「一人で時間稼ぎか、面倒だなあの蜘蛛女を追わなきゃならん。遺憾千万、ってほどでもないが」

首を一度回し、男はレヴィを睨み返す。

「だが、片腕が無い状態で、それすらままなると思っているのか?按図索駿、だな。言っておくが、俺は結構強いぞ」

「さあどうでしょう、少なくとも貴方ぐらい殴り飛ばせそうですけど」

サムライ男は扉を足で蹴り飛ばし、乱雑に開けて外へと出てくる。

その足並みに合わせ、レヴィも距離を取る。

男は刀を縦に構え体を横向きにしてこちらに刃が向く様に構えてくる。レヴィは呪印契約の刻まれた左腕を握り拳を前面に突き出し構える。

「ならば、延頸鶴望、だな‼︎」

男は悦に浸る笑みを浮かべながらこちらに急接近してくる。

刀を縦からそのまま横に倒し、切先から突きを繰り出してくる。

風邪を切りながら、蛇の様に迫り来るそれを、レヴィは手の甲で側面から弾く。

そのまま拳のリーチに立とうとするが、男はその弾きの勢いを借り、回転し弾いた方向と逆側へ、鋭い一撃が飛んでくる。

レヴィは姿勢を低くしてその奇手を回避し、追撃がくる前に後方に跳んで距離を離す。

「チィ!躱したか!」

サムライは再び突きの構えをとり、ジリジリと慎重に距離を詰めてくる。

(踏み込めませんね…完全に距離を取られてます)

「どうした?来ないのか、距離を詰めねぇと攻撃はとどかないぞ」

(詰めようがないじゃないですか、両腕があれば全ての攻撃を捌ききって、懐に入れますが…)

「かかってこいよ、一刀両断、してやる」

(ハッタリじゃないですね、構えと刀の一振りが素人のものじゃない。かなりの手練れ、無策に突っ込んだらやられる)

拳と刀というリーチの差によって、レヴィも相手と同じように距離を離していく。

(武器をとれる猶予を与えてくれると思えないですし…だったらカウンター狙いでいくしかないですね。相手が痺れを切らして、切り込んできた時が勝負)

「こねぇか、お喋りもしてくれないなら…先手頂戴、こっちからいく」

相手が更に腰を低く落とし、足に力が入る体勢をとる。

刀の先端、切先がこちらを向く。

(来る!あの構えは突き!)

男は足に力を込め、音と同時に凄まじい速度で駆けてきた。

それを胸を貫くまで、ギリギリに引きつける。


本当に切り裂くまであと僅か、前に出していた左足を右足の後ろに持っていき、体を斜めに逸らす。


「な⁉︎」


左腕に力を込める。この距離、この体勢、完全に回避不可能だ。相手の驚愕の顔が瞳に映る。

(チェックメイト!)


カチャリと、下を向いていた筈の刃がこちらに向いた。


ダン‼︎


サムライ男が後ろにある左足に無理やり力を込め、地面を踏む。


「!!!!?」


前方へ切先から突っ込んでいた動きから急転、横払いに刀を振ってきた‼︎

「う、おおおおおおおおおおおお!!!」

「マジですか⁉︎」

百戦錬磨のレヴィですら虚を突かれた。

その場しのぎのアドリブな行動だとしても、相当な芸達者な技だ。

カウンターを取り止め、腕に甲殻を纏わせてその一撃を防ぐ。そしてお互いに後方に跳び退き体勢を整える。

「腕さえ切られてなければ勝ってたのに」

「危機一髪!片腕切ってなかったらやばかった‼︎」

再び距離の取り合いが始まる。

レヴィは刀の間合いギリギリ入らないよう、サムライはレヴィの拳に警戒しながら刀の間合いギリギリ入るように。

「お前、何者だ?騎士団の手練れと言えば、近衛のゴズとメズ、騎士団長のデュランだけだと思ってたんだが…」

(赤い髪の騎士なんて聞いてないぞ、旦那)

「私はただの新人騎士ですよ」

「笑止千万!お前みたいな新人がいてたまるか‼︎…しょうがねぇ」

男が目を見開くと同時にそれは起こった。

「コイツはとっておきなんだが…やるしかない‼︎」

頭から二本の紅いツノが肌を突き破り、伸び出す。ツノは反りが付いており、ある存在の象徴の如く猛々しく立派だ。

そして肌が飲まれる様に黒く染まっていき、それは体全身に伸びた。

目は紫色に光り、こちらを睨んで来る。


そこにいたのは黒い体、紅いツノを二本生やした鬼だった。

鬼は刀の切先を向けると語り出す。


「俺は鬼魔族、魔族の中で最強に位置する種族だ」


「あ、終わりました?じゃあさっさとかかって来てください」

鬼が変身してる間に、レヴィの手には白い糸のついたロングソードが握られていた。

「本領は拳ですが、片腕がないと話になりませんからね、久しぶりに剣術といきますか!手加減してあげますから本気でかかってきていいですよ」

「荒唐無稽!」

本作初戦闘シーン、なんとか書きましたがわからない点とかございましたら感想や活動報告の方へご報告をお願いします。

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