2-5 ポンコツ系蟹
「よし、では我々は他の見回り騎士と合流しながら冒険者達の鎮圧を行う」
「私たちは甘々庵で気絶した方々や逃げてる人たちを保護すればいい、そうすれば騎士団から恩賞、お金をもらえる、ふふふこれでノルマ達成」
「へいバニー、それはちゃんと守れたらの話だからね〜小型草食にそんな事できるの?」
「黙れ害虫、糸はって薄暗い巣穴で引きこもってろ」
「引きこもるついでに備蓄の一つでも積んでおこうかな、貧乏兎とか簡単に始末できるし」
「あ゛?やれるもんならやってみろダニ」
「お、怒ってるシェリルさんは怖い…ですけどこれもなかなか…」
「あのーお二方?こんな非常時に喧嘩しないでくれません?あとウェイトレスも涎拭け見っともねぇ」
「まぁ俺たちも甘々庵の手伝いするし問題ないだろ。気絶した冒険者達への説明もしておけるしな」
………
全員チラリと心配するように血のような真紅の髪をした騎士の様子をうかがう。騎士はゴロゴロと地面を腹を抱えながら転がっている。
「あっはっはっはっはははははは!何アイツ恥ずかしい事言ってるんでしょうね。あー、お腹痛い…ぷ、くくくく、あ、やっぱり我慢できない」
サラッとこの国の王様をアイツ呼ばわりするレヴィは再びバンバンと地面を叩きながら笑いを堪えようとする、だが我慢できずに盛大に大爆笑を始めてしまう。
「な、なぁアレ大丈夫なのか?あれからずっとあの調子だが本当に笑い死ぬんじゃねぇか?」
ゲルドが心配そうに彼女の友人に尋ねると首を横に振って「放っておけ」というジェスチャーをする。
「あまり関わらない方がいいよ、最悪の場合には魔王様とレヴィちゃんの喧嘩に巻き込まれると思うし」
「それ生きてるどころか生物としての形を留めてんですかねぇ⁉︎」
嫌な光景でも思い浮かべたのか黒い毛を逆立てて首を横に振りながらナルアと呼ばれる黒豹魔族はツッコミを入れている。
そこに咳払いをしてデマニスが会話に割り込んでくる。
「ゴホン!では私たちは避難誘導と暴徒鎮圧に行くとする。君たちの幸運を祈る」
そう言ってこの場から見回り騎士たちが立ち去る際に振り返ってきた。
「いいかゲルド・サハリン!今回は見逃してやるが次はないぞ‼︎」
名指しで警告されたゲルドはウゲェという声をあげてげんなりした顔で見送ると盛大な溜息を吐く。
「けっ!もうこの辺りうろつけねぇな…」
「騎士に喧嘩売った時点で自業自得なんだよなぁ」
「うるせぇ!それにどっちかと言うと俺は被害者だ‼︎」
「ねぇ、貴方達もいい加減働いてくれない?倒れた冒険者を運んで欲しい」
シェリルがそういうと適当な返事を返しダラダラと作業を開始するゲルドとナイア。完全にボランティアとして働かせられてる為非常にやる気が無い。
「じゃあ私達も行くよレヴィちゃん………い・く・よ‼︎だー!もう、いつまで笑ってんのさ」
「ごめ、ごめんなさ、くくく…はい、今行くので置いてかないでください」
どこに行くのかさっぱり聞いていなかった為すぐさま立ち上がり小走りでタイナに追いつく。
「で、皆さんはいったいどうしたのですか?いひゃいいひゃい⁉︎頬を引っ張らないで下さい!」
タイナはレヴィの両頬に手を伸ばし引っ張る。だいぶお怒りだ。
「ほ・ん・と・う・に!何も聞いてなかったんだね‼︎まさかレヴィちゃん難しいことは全部他人に任せるタイプ?」
「それは違いますよ。今回がたまたまです!」
タイナが頬から手を離すとレヴィは心外そうに言うが完全に疑いの眼で全八つの複眼主眼を向けるタイナ。
「本当かな……?」
「ええもちろん他人に押し付けません。全部魔王に任せてます!いだだだだだだだだ⁉︎」
再び頬を掴むと全力で引っ張るタイナ。レヴィは涙目でギブアップのようにタイナの手をパンパンと叩く。
「そおおおおれええええええがあああああああ‼︎他人任せだっていってんのよおおおおおおおおおおおーー‼︎」
「ごめんなしゃいごめんなさいごめんなさーーーい‼︎」
レヴィが必死に謝ると「まったく」と言い手を離してくれた。
全力で引っ張られた為か多少赤くなった両頬を摩りながら再び尋ねる。先ほどのやり取りの間に周りにいたゲルドやシェリルはもういない。それどころか殆ど誰もいない。慌てて戸締りしたり店を畳む者がほとんどだ。
「うぅ、それで皆さんどうしたんですか?」
タイナは重たい溜息を吐くと歩きながら説明してくれた。
「いい?見回り騎士、スタインさんたちはこの街にいる魔力暴走を起こした冒険者達の鎮圧、それと他の騎士達のこの事態の伝達と連携を取りに行ったの。私達だけじゃこの異変の解決は無理だからね」
「ふむふむ」
「それで気絶させた冒険者達をその場に放置も出来ないから甘々庵を一時的に安置所の役割を担って貰ったの。同じ冒険者仲間としてゲルドとナルアにもその場に残ってもらったよ。事件の被害者が状況説明した方が手っ取り早いからね」
「へー」
「………ちゃんと聞いてる?」
「当然ですよ!」
「ではリピートアフターミー」
「……………」
「おい、こっち向けよ」
「あははははー、さっきの魔王おかしかったですねー」
ゴチン‼︎
「つ〜〜‼︎」
タイナの怒りの鉄拳がレヴィに脳天に命中する。しかも中指と人差し指の第二関節を尖らせた超痛いやつだ。これには歴戦の元聖騎士も涙目で頭を抑えた。
これまでのやり取りの所為もあるのか完全にタイナの中のレヴィへの評価が大暴落中だ。オイルショックもいいとこだろう。
「な、何も打たなくてもいいじゃないですか…暴力主義はいけませんよ」
「どの口が言うのさ。もしかしてレヴィちゃんさぁ……」
「な、なんですかその冷たい目は、友達に向けていいものじゃないですよ⁉︎」
「結構ポンコツなの?アレなの?戦闘以外完全にからっきしなの?」
「うぐぅ⁉︎い、痛いところ付いてきますね……」
実際のところポンコツと言うほど酷くはない。戦闘においては並ぶ者なしだが、掃除などの家庭的スキルや社交スキルはやや低めだが…全般的に見れば一般的な魔族並み程度だ。
ただこの女、今の今まで誰かの言いなりでしか行動がしたことがない反動なのか、いざ自由になると結構なフリーダムになってしまったのだ。その事を気づいた魔王もちょくちょく様子を見ている。扱いがどう見ても危ないペットである。
まぁいわゆる…
「あまり言いたくないけどさぁ…本当に残念美人だよね」
「タイナさんまでとうとう言いやがりましたね‼︎」
と騒ぎながら歩いていると目を赤くした猫の魔族が異質な雰囲気を纏わせながらこちらに歩いてきた。胸元にはギルドのマークが入れられた銅のプレートが縫い付けられている。
「ウゥ……ガァァ……」
「ありゃ、冒険者だ。レヴィちゃんよろしく」
「なんでしょうタイナさんからの扱いが酷い気がします。これは抗議です。講義沙汰です」
「だったら真面目にやってよもう…」
と言っている間にレヴィの姿がブレたと思ったら冒険者が既に頭から地面に沈んでいた。相変わらず戦闘においてはオーバースペックだ。
「では、少し真面目にしましょうか」
「?」
レヴィの手に紫色の魔石が握られておりそれを空中に投げて遊んでいる。殴るついでにくすねて来たようだ。
「手グセ悪いアピール?」
「まあ見て貰えば分かると思いますが、これはこの事態を引き起こした魔石です」
タイナは胡散臭そうな目で注目する。少なくとも何かを期待してる目ではない。
「これって肌身離さず持っていると魔力暴走を起こしますよね。じゃあ何故“配達”という形でシェリルさんの所や騎士団に送ったのでしょうか?」
「は?そんなの被害拡大のために決まってるでしょ」
「いいですかタイナさん、配達という事は箱に詰められて送られてくるのですよ」
「それがどうしたの?肌身離さずと言っても多少なりとも魔力の漏れがあるから箱に入れてても魔力暴走は起こしちゃうよ」
「そうじゃないです。問題は普通『箱で配達された物なんて肌身離さず持つわけ』がないのです」
「……あ、それじゃあ魔力暴走を起こさない」
そうだ。普通配達物は受け取ったら持ち続ける必要はなく何処かに置くはずだ。これでは魔力暴走を起こすために『魔石を持ち続ける』という行程が取り除かれるのだ。
「……主犯のミスということは」
「ないです。ここまで念入りな計画でそんな凡ミスするとは思えません」
「じゃあ、なんで『配達』なんて形でばら撒いてるんだろう?」
「いえ、タイナさん。きっと根底が間違えてます。『ばら撒いてる』ではないですね。それだったら民家にも何かしらのサービスやフェアとして配ってるはずです」
「……あ……れ……?」
頭がこんがらがってきたのか結論が出せずに沈黙してしまう。そしてとうとう思考放棄し答えを聞いてしまう。
「えっと…つまり?」
「相手は混乱を招くつもりで魔石の配達をした可能性が低く、別の思惑があるかもしれないということです。ふふん、どうですかタイナさん」
ここまで言い切りドヤ顔でタイナの方を向くレヴィ。勝ち誇った顔が地味に怒りを誘う。
「ぽ、ポンコツ呼ばわりしてすみません」
「まったくですよ」
「で、その思惑って何?」
「それは流石にわかりませんよ、考えつきはしますが憶測の域をでないものですし、それを基準にして行動しては仕損じかねません」
「はぁ、結局突き詰めたら向かわざるおえないのか」
「ええ、では向かいましょう」
二人はそのまま気絶させた冒険者を放置して南東部に所在してある冒険者ギルドへ足を向ける。
(さて、『配達された魔石』は魔王も感づいてる。だったら魔石の解析や出所を調査するはずなので私達は関係者の取り押さえですかね…あわよくば“計画”の1パーツにでもなってくれたらいいのですが)




