2-1 暴れん坊蟹将軍
話の途中で甘々庵の休憩室を出て行ったレヴィとゲルドは外に出ていた。他の店から出て来た客達が街中でこれからどうするか話し合ってる最中ゲルドは渋々背中に挿してある斧を手に取る。試合するようにお互いにそれなりの距離を取る。
「なぁレヴィさん、本当にやるんですか?怪我しても恨みっこなしですよ」
「構いませんよ全力で来てください。万が一にでも怪我するなんて有りえませんけど」
レヴィは特に身構えず片手を前に出し「かかってこい」とジェスチャーする。
流石にカチンときたのか眉間に皺を寄せて武器を掴む手に力が入る。だが目つきは鋭さを保っており、先ほどのむやみやたらに暴れまわる気配はしない。
「言っときますけど、あんたが模擬戦してみようと言い出したんだ。怪我させても俺に積み着せないでくださいよ!」
「ええ、では仮に貴方が一撃でも当てたら…そうですね、完全に無罪放免にしてあげます。魔王へは私が言っておきます」
これ以上関わり合いになりたくないゲルドにとって最高の賭けだ。思わずニヤついてしまう。
「言ったな……んじゃあ、遠慮なく行くぜ!!」
ゲルドが小さく呟くと足に力を込めて駆け出し、片手で両手斧を引きずりながら頭のツノを前面に押し出してくる。
「早速突撃とは技が少ないですね〜………」
突撃の途中で斧に力を加えて無理矢理地面から浮かせる。威力最大ではないが突撃と見せかけた鋭いフェイント攻撃がレヴィへと向かう。一撃当てればいいのだから威力は関係ないのだ。
「ほいっと」
だが斧は腹の方をブーツで踏みつけられ地面に縫い付けられる。決して振りは遅くはなかった。常軌を逸した光景に動揺しつつも思考を素早く切り替えそのまま頭を振り上げツノを振り下ろす。
が、顎の部分に肩を置かれツノを掴まれてしまう。そして振り下ろしの勢いを利用されそのまま背負い投げされてしまう。
「うがっ……!!」
背中から勢いよく地面に直撃する。息が全て吐き出されてちょっとした呼吸困難になりつつ明滅する視界の中でレヴィがゲルドに手をさしのばす。
「大丈夫ですか?」
「いっつ…こ、腰が…ゴホゴホ!」
レヴィの手を掴みなんとか立ち上がると自慢の武器を渡される。
「はい、どうぞ」
「……情けないな」
自分よりも小さい相手、しかも女性になすすべなくやられた。その上情けをかけられた自分自身に歯噛みしてしまう。
(………くそ、どうやったんだ今の?なんでフェイントがバレた?)
そんな難しい顔を見たレヴィはフフンと鼻を鳴らしドヤ顔で解説する。正直ムカつく。
「まず最初に、突進のスピードがさっき見た時より遅かったからですね。あの時は魔力暴走してたので手加減がなかったのでしょう」
「……」
「そして大問題、貴方…顔がニヤついていましたよ」
「ブッ!?」
ため息をついた後呆れたように会話を再開する。顔を真っ赤にしながら何か言いたそうに口を動かすゲルド。
「あんな顔してたら何か企んでるのがバレバレですよ。しかも斧の方をチラ見してましたし」
「ま、まて、ニヤついてたか俺!?こうみえても結構戦闘の場数も積んでるゴールドクラスの冒険者だぞ!?」
「駆け引きができない人なんですね……正直言うとキモかったです」
「ゴッフゥ!!」
中二病残念美人騎士からのキモい宣言に心に傷どころか傷口にダイナマイトの如く粉々になる。心にトンネルが開通したゲルドは涙目だ。
「とにかくこれでハッキリしましたね」
「……なにが?」
「貴方が魔力暴走で完全に理性が失っていたことが、ですよ。あの時の貴方は完全にど直球の突撃で手加減もしていませんでしたし、今の戦い方とまるで違います」
「だからなんだよ……うぅ…キモいかぁ…」
「要するに貴方の起こした事柄は事故で処理しようと思います。狙って魔力暴走したわけでもなさそうですし」
「あっそ………………え!」
目を見開いてレヴィへと向きなおるゲルドは恐る恐る口を開く。
「つ、つまりそれって……?」
「まぁ、厳重注意と言うことで処理しますよ。これからは魔力管理に気をつけてくださいね」
「いやっほぉぉぉぉぉぉぉーー!!無罪だあーーー!!」
その場から立ち上がり両腕を上げてジャンプしてしまう。喜ぶのも無理はない、少なくとも牢屋送りは無くなったのだ。
そのはずだった
「貴様、見つけたぞ!!」
「あ」
「へ?」
後ろを振り向くとそこには鋼の鎧を身につけた騎士が五人ほどいた。そして先頭にはレヴィに見覚えのある騎士がいた。
「さっきはよくも殴ってくれたな!!冒険者ゲルド・サハリン、騎士に暴行を上げた罪で連行する!!」
そこにいたのはゲルドが魔力暴走中にぶん殴った見回り騎士だった。二人だった筈だが五人に増えてやってきた。
「………あの、レヴィ、さん、俺、無罪、じゃ?」
ゲルドが助けを求めるようにレヴィの方を向くが顔を罰が悪そうにそらされてしまう
「あー、まぁ『私に暴行を上げ、周りに迷惑をかけた』のは、はい、ええ、厳重注意でしたよ」
どうやらレヴィも忘れていたそうだ。裏切ったことにすまなそうな顔をして汗を一粒垂らしている。
「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………ふざけんなよ」
天国から地獄。上げて落とすをやられたゲルドは涙目で眉間から血管を浮き上がらせて口元をヒクつかせる。
「確保ー!!」
先頭の騎士が剣を取り出しゲルドに向けて叫ぶと他4名の騎士がゲルドを包囲する。
「ふざけてんじゃねぇぞ中二病蟹!!!おい!!俺は厳重注意で済むとか言ってたじゃねぇか、おい!!!た、たす、助けてくれよおおおおおおおおおおおおおおおおおおーーーー!!!!!」
「ごめんなさい、きっと牢ではシグルドさんが待ってますよ」
「しかもあの猿野郎かよーー!!せめて美人でボンキュッボンでおっぱいバインバインなねぇちゃんじゃないのかよーーー!!!」
そしてとうとう四人がかりで取り押さえられてしまう。
「確保しました!」
「よし!連れてけ!!」
「「「「はっ!」」」」
敬礼した後、縄で簀巻きにされたサイが連行されるその時、指揮をとっていた騎士が空中に投げ出された。
「うわああああああああ!!」
「隊長!!?」
「なんだ!?」
そのまま隊長と呼ばれた騎士は背中から地面に直撃する。唐突な出来事に騎士達が慌てふためきそのままゲルドを投げ出してしまう。
「いで!?っー!な、なんなんだよ」
騎士隊長がいたところには皮鎧を身につけた茶色の狼魔族がフラフラと立っていた。いや、それだけじゃない。他にも見える範囲あちらこちらに同じような魔族が見える。そのどれもが目を赤く充血させ、中には口から涎をたらしている者もいる。
「き、貴様何のつもりだ!?騎士に手を出してタダで済むと思っているのか!!」
「グルルル………アァ……ナンダッテェ……」
「な、なん……!?」
「アバレテェ……チガタギルゥ……」
狼は両手から爪を伸ばしフラフラしながら騎士隊長に近寄ってくる。いや、周りの魔族も徐々に近寄ってきている。状況を納得出来てないが騎士隊長は立ち上がり周りに命令を飛ばす。
「ええい!各員抜剣、円を組み迎撃しろ!!ただし殺すなよ!!ゲルドサハリン、これも貴様の企みか!!」
「誤解だ!つーかなんなんだこりゃあ!?オベディエンスか!?」
ジリジリと包囲を狭めてくる武装した魔族達。数は圧倒的に不利だ。
「誰か本部と連絡が取れれば…そうだ。おい赤髪騎士、お前今から本部に行って状況を伝えに…いない!?くそ逃げたか!!これだから女は…」
「「「「ウオォォォォォ!!!!」」」」
そしてついに数人の魔族が武器を持って突撃してきた。それに続き多くの魔族がなだれ込んでくる。
「来るぞ、増援は来るはずだ。ふんばれよ!!」
「「「「了解!」」」」
「おい!?せめてこの縄外してくれよ!!ってあれ?倒れてる?」
ゲルドすでに何人かの魔族が倒れている事に気づいた。そして目の前にいた狼魔族も停止ボタンを押されたように唐突にピタリと動きを止めた。
「な、何が?」
騎士達が混乱している間に赤い影が通り過ぎる。
鈍い音がしたと思ったら魔族が倒れていく。そして倒れた魔族の鉄鎧に拳の跡が残っていた。
「これはいったい…」
だがその間に呆然としている若い騎士に武装魔族が飛びかかった。
「ウガアアアアアアアアア!!!」
「しまっ」
ドカ!
「ギャウ!!?」
飛びかかった魔族が急に地面にめり込み動かなくなってしまう。ゲルドが恐る恐る答えを口にする。
「まさか……レヴィさん?」
「はいなんでしょう?」
「うっひゃあ!!」
いつの間にか土煙を舞わせながら隣にきたレヴィに素っ頓狂な声を上げてしまう。倒れた魔族達に指をさして問う。
「これ全部、レヴィさんが?」
「はい、そうですよ」
ケロッと答えられた。余りにもあっさり言うものだから冗談にしか聞こえないがこんな芸当ができる心当たりが目の前の赤髪騎士しかいない。
「どれ、このあたりはあと三分の一ですか。行ってきます」
目の前から消えたと思ったらまた別の魔族が地面に沈んだ。残ったのは呆然とした騎士達とゲルドだけだ。
「なぁ隊長騎士さん」
「…なんだ犯罪者」
「騎士団って皆あれぐらい強いの?」
「んなわけないだろ…」
「…だよなぁ」
そんな会話している間に最後の一人が倒れた。首があらぬ方向を向いていたが気にしない。
「ま、こんなものですか。どうしましたみなさん?」
道端に倒れるゲンコツ跡がついた魔族の群れに唯一立つ赤い髪の騎士。その姿に色々ツッコミたかったが頭が追いつかない。なので全員、同じことしか言えなかった。
「「「「「「…………いや、なんでも」」」」」」
今回はヤムチャ視点でした。




