1-5 異変
遅くなって申し訳ございませんーーー!!!
土煙が晴れるとそこには目を回したサイ魔族が仰向けになって気絶していた。頭から勢いよくぶつけたせいか硬い皮膚をしているにもかかわらず大きなタンコブができてしまっている。そこに粉々になった石壁を乗り越えて騎士の制服を身につけ不穏な笑みを浮かべる蟹魔族が迫ってくる。それに続いて改造騎士制服を身につけた全体的に白い蜘蛛魔族も辺りを見渡しながら入室する。
「あが、あがが……」
「ふっふーん、さーて人を貧乳呼ばわりした罪どう晴らしてくれましょうか……その立派なツノでもへし折りますか」
「レヴィちゃんストップ!それ以上はやりすぎだよ投げたので手打ちにして上げて!」
無力化した相手を更にボコボコにしようとするレヴィを慌て止める。とりあえず起きた後も暴れられると面倒なので手早く蜘蛛糸で縛り上げてる為に指先から糸を生成する。レヴィもそれを隣で見ている。
「よっと、でもどうしてこうなったんだろうね?騎士を殴り飛ばすとか重罪になりかねないのに」
「魔族は苛立ったら後先考えず拳をだすものでは?」
「流石にそこまで阿保じゃないよ。寧ろ身の回りに一番考えるし、まぁ良くも悪くも欲望に忠実なんだよ」
「……例えば?」
「モンスターに追われてたら仲間を転ばせて囮にするとか」
「うわぁ…」
「それで囮になってる奴も助ける為にモンスター用の罠を作るとかね〜、その後囮になった人を持ち上げパーティして仲直りとかするしへーきへーき」
「安いですね随分!?それは転ばせる必要あったんですか?」
「誰だって死にものぐるいで逃げ回りたくないじゃん。そしてそれに指差して笑いたい」
「畜生しかいない…!」
「よしっと、これで大丈夫でしょ」
サイ魔族を縛り上げたところで建物の奥の扉が音を立てて開く。そこから鼻息を荒く鳴らす、ピンク色の柔らかそうな肌をした豚魔族がでてきた。おそらくここの店主だろう。
「こ、これは?私の店が……!」
緑色の皮のエプロンを身につけている店主はレヴィ達に気づくとおずおずと話しかけてきた。営業スマイルを浮かべながらごますりしているが手には力が込められており手汗が凄く更に眉間にシワがよっている。普段はきっと気の良いふくよかな男性なのだろう、今は悪漢にしか見えないが。
「あ、あのー、これはいったい何事でしょうか騎士様?」
「治安維持です」
「維持されてない。絶賛崩壊してるから、私の店がリアルで音を立てて崩壊してるから!!」
「うぅ、悲しいですね。同情するよ店主さん、ぷくく……」
「してないよね、完全に他人事で笑ってんじゃねぇぞ蜘蛛女」
「ここが新しい始まりになるのですよ…破壊なくして創生はありません」
「始めないから、なに勝手に人の店を最初からにしてんだこの赤髪!?」
「ほら、聞こえませんか鐘の音が…、貴方の始まりをきっと祝福してくれてるのですよ……」
「くくく……ぷ、くく…」
「全然聞こえないから、さっきから聞こえるの店が崩れる音と隣のウザい蜘蛛女の笑い声だけだから」
「いいえ、聞こえますよ。ほーら、ゴーンゴーンと重苦しい音が」
「それ絶対祝福の鐘じゃないな、私の店の時計の音だなふざけんなよこの騎士!!」
「あ、もうダメ我慢できないアッハハハハハハハ!ヒー!ヒー!」
「私達騎士団は貴方の始まりを応援してます。ではそういうことで…」
「あーお腹痛い、面白かったよ。じゃあねー」
「ばかばかばか、なに帰ろうとしてんだ止まれ止まれ。店弁償しろよ。おい耳塞ぐんじゃねぇ!!」
そのまま簀巻き状態のサイ魔族をズルズルと雑に引きずりながら崩壊した穴から出ていった。
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「たっだいまー!!」
「あ、お帰りなさい騎士様。どうしました?なんか向かいのお店騒がしいですけど…」
二人が甘々庵に戻るとティファと呼ばれていた犬耳店員が出迎えてくれた。どうやら先ほどの騒動の間に客の殆どが去ってしまったようで従業員の歩く音が鮮明に聞こえる。
「気にしなくて良いですよ。それより騒動を起こしたもう三人はどうですか?」
「はい、大人しくしてますよ。ですけど…その…」
ティファは言いずらそうに口をもどかせながら上目遣いでこちらを見てくる。言いたい事がなんとなく察しはつく。
「あの!シェリルさんはその、ただこの店を為に思って、過剰になっちゃっただけで、それでその…えと…」
「ええ、理解していますよ」
「じゃあ!!」
ティファの言葉に割り込むようにタイナが口を挟む。
「でもねー、ケジメはしっかりつけないといけないよねー」
「え……」
「彼女がやろうとした事は間違いなく殺人だよ。だからなにかしら罰は与えないといけないの。そうしないと殺人行為がドンドン増えていっちゃうからね」
「そ、そんな!!酷い!!」
タイナの目が冷たくなる。突き刺さる、冷たい視線は躊躇なくティファへと向かう。そして現実を突きつけていく。
「酷い?馬鹿言わないで貰えないかな、あの時レヴィちゃんが止めなかったらサイの兄さんは重症を負ってた事は確実だよ」
「ええ、いくら硬い皮膚をしていたとはいえあの一撃をまともに受けていたら致命傷でしたね」
「つまりレヴィちゃんが此処にいなかったら『殺人未遂』じゃなくて『殺人事件』になっていたんだよ。感謝されても非難される筋合いはないよ」
「で、でも、う、うぅ……そんなぁ……」
容赦ないタイナの言葉に泣きそうになる。耳と尻尾が力なく下へと向いてしまう。とそこへレヴィがタイナに会話を切り出した。
「ところでタイナさん」
「…なにかなレヴィちゃん」
「妙だと思いませんか?あの冷静そうな兎店員さんがあんなに頭に血を登らせるなんて、いくら魔族でもいきなり殺しにかかるなんておかしいですよね」
「うん…あのサイの兄さんの目が真っ赤になっていたのも気になるね、アレは普通街の中じゃありえない現象だよ」
「これは…ひょっとしたらヤバイかもしれませんよ」
「うん」
「この街で"何か"が起きてるね」




