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6 風呂で考える

 その後、何度か戦闘を重ね、なんとかハマルに到着。

 張り切って空回りする剣士(男)が、邪魔な事この上無かった。


 ハマルの街の入り口で、身を挺して犠牲になったという彼女たちの仲間が出迎えてくれた。


 感動の再開に水を差すのも野暮なので、そそくさとその場を立ち去る。


「待ってくれ! どこに行ったんだ! マイハニー!!」


 不穏な叫び声が聞こえたので、そっとログアウト。


 ◆


 ちょっと間を置いてから、再度ログインする。


 しかし、予想以上の破壊力だったな。

 もう、男性プレイヤーをからかうのは止めておこう。

 身の危険だ。


 再会しないように警戒しながら、冒険者ギルドに依頼品を納品し報酬を受け取る。

 これで、所持金がおよそ13,000G。

 これを持って次に行く所。

 それは、宿屋。

 そう! 風呂!

 自分の裸体を堪能するのだ! ……ではなく、宿屋の部屋で飛行訓練。


 ついに、その力を試す時!

 流石にフィールドや町の中だと誰の目があるかわからないしな。


 ◆


 宿屋一回、5,500G。

 一泊ではない。

 チェックアウトしなければ何日いても料金変わらず。まぁ、ログアウトとかの都合もあるし。

 でも、チェックインから6時間以降の外出はチェックアウトとみなされるらしい。

 料金は先払い。

 部屋は、シングルベッドに机と椅子の質素な作り。

 そして!

 大浴場がある!

 大浴場は、いつ入っても他の客と会うことはないらしい。実質貸し切り。贅沢。


 ただ、そんな事よりも飛行訓練が優先だ。


 ◆


 いや、まずは風呂だよな!


 改めて大浴場で自分のアバターを観察し、満喫し、そして、嫌悪感に近い違和感を抱く。何だろう……。


 まぁいいや。

 それより、飛行訓練だ。

 これが使えないことには、スキルを取った意味が全く無いのだ!


 とは言ったものの、どうすれば良いんだ?


 メニューに『飛行』なるコマンドがあるわけではない。


 ジャンプしたり、ベッドで座禅を組んだり、両腕をバタつかせてみたり、飛べーと叫んでみたり……。


 無理だ!


 もう一回風呂行こう。


 ◆


 貸し切りの広い大浴場で考える。


 飛ぶって何だ?


 湯船に浸かり、全身を伸ばす。

 タオルを枕にして、そのまま脱力。


 あーいい湯だ。


 目を閉じて、広い風呂を満喫する。

 両手を広げる。

 体に微かに浮遊感。

 そうそう、飛ぶってこんな感じかな。

 まぁ、これはお湯に浮いてるんだけど。


 頭を浴室の縁から離し、全身を湯の中に浮かべる。


 ゆらり。ゆらり。


 ふわり。ふわり。


 チュートリアルの星の海の中で感じた浮遊感に通じるものがある。


 あの空間で見た、星々の煌めきを思い出す。


『星々の導きのあらん事を』


 ナビゲータの声が蘇る。


 あの煌めく星々。

 その近くへ行きたい。


 輝く、星の元へ。


 右手を伸ばす。


 届かない。


 もっと近くへ……。


 右手が、何かに触れる。


 ん?


 思わず目を開ける。


 目の前にあったのは、壁だった。

 なんだ、これ。


 目だけを動かし左右を見渡す。


 そして、再び、正面を見る。


 これは……俺が今、右手で触れているのは、浴場の天井だ。


「うえぇぇぇ!?」


 その瞬間、全身に重力を感じ、一瞬ののち、大の字のまま、浴槽に落下。

 盛大な水音と共に、水しぶきが上がる。

 水面に思いっきり背中を打ち付け、ほんの少し、鈍い痛みを感じる。

 そして、お湯の中に沈み込み、風呂の湯をしこたま飲んだ。


「ハァ、ハァ、ハ、ハ……ハハッ、ハハハハハハ」


 湯船から這い出て、息を整え、そして、俺は盛大に笑い声を上げた。


 飛んだ!


 ◆


 再び部屋に戻り、ベッドに横になる

 さっきの感覚を思い出すように目を閉じる。


 ……浮いた。


 そっと目を開ける。

 そのままの体勢を維持する。

 ゆっくり、ゆっくりと体を起こして行く。


 水平から、垂直へ。


 宙に立つ。

 少し前傾姿勢になり、意識を前へ。体が前へ進む。

 今度は後ろへ。

 そういう感じで、宿屋の狭い部屋の中をふわふわ。


 部屋をぐるぐると飛び回る。

 まるで、霊!

 いやいや。


 そうやって飛ぶことを続けて、わかったことが幾つか。

 飛行中も重力の影響を受けている、らしい。

 らしいというのは、実感は無いのだが、空中で逆さになると髪の毛が下に垂れ下がるから、そうなのであろうと言うことな訳である。

 そして、どうも、スタミナもしくは体力に近いものが設定されている、らしい。

 調子に乗って狭い部屋の中を飛び回っていたのだが、段々と全身を疲労感が蝕み体が重くなっていくのを感じる。

 とは言え、普通に走るよりは楽なぐらいである。これでスピードを上げたらまた変わるのであろうが。


 こうして俺は、飛ぶことの第一段階を登り、そのまま宿屋でログアウトした。


 ◆


 時間を置いて再度ログイン。

 日付が変わり、午前二時少し前。


 この世界は24時間毎に、昼と夜が入れ替わるらしい。

 その境目が、日付の変わる時間、つまり午前0時前後。

 ログインした俺の目の前には、夜の闇に包まれた世界が広がっていた。


 夜の闇の中なら、空を飛んでも目立たないだろう。

 そして、この時間はログインしている人数も少なくなる筈。


 宿屋をチェックアウトし、スキル屋へ。

 ランク1のスキル、【夜目】のチケットを購入。

 早速、取得。

 闇の中でどこを飛んでるかわかりません!

 ではお話にならないしな。

 これで残金2,500G。


 そうやって、準備を整え、そして、ハマルの港へやって来た。

 大きな飛行艇が停泊している。


 そこから少し離れ、人の居ない一角へ。

 港の岸壁に立ち、下を覗き込む。

 暗い、ただ、ひたすらに暗い空間が広がっていた。

 【夜目】の効果でも、何も見つけることが出来ない。あるいは何も無いのかもしれない。


「ふー」


 気持ちを整える。

 大丈夫、そう思っていても、流石に勇気が居る。


 ……。


 よし! 行こう!

 覚悟を決め、両足を揃え、岸壁から何もない空へ向かい小さくジャンプ。

 地面と言う支えを失った俺の体は、重力に引かれるままに落下を始めた。


 全身で感じる風が、恐怖心を掻き立てる。

 落ち着け……。

 目を閉じ、ゆっくりと、五つ数える。

 心を落ち着け、そして、先程の感覚を思い出す。

 重力の支配から解き放たれた感覚。

 やがて、下から吹き上げるていた風が徐々に穏やかになる。


 完全に、停止した。


 そう、確信した後、目を開ける。


 広がっていたのは相変わらずの闇の世界。

 しかし、足下に地面が存在していない事は確認出来た。


 落ち着け……。

 心を静める。


 ……。


 無理だ!


「ハハハハハ! やった! やったー!! 俺スゲー!!!」


 全身から溢れ出る喜び! 興奮!


 体を前傾にして、前へ滑空して行く。

 丁度、闇の世界に僅かに明かりが入る。

 見上げると、雲の隙間から月が顔を出していた。

 満月まであと少し。


 あそこまで!

 行ける訳は無い。

 わかっている。

 でも!


「行ける!!」


 叫び声を上げながら上昇を開始する。

 意思に反応して、どんどんスピードが上がる!

 高度が上がるにつれ、徐々に肌寒さが襲って来る。

 辺りから雲が無くなり、眼前に一面の星空が現れる頃には、寒さで奥歯がガタガタ震えて止まらなくなっていた。


 たが、それを上回る高揚感。


 そこからまた、下界へ引き返しながら宙返り(ループ)横転ロール縦回転スピンと思い付くままにアクロバット飛行を繰り返す。


 この世界に俺を縛る物は存在しない!


 ◆


 雲の上をゆっくりとホバリングしながら思う。


 ここの運営は、ゲームの方向性を間違えている、と。

 この体験は、全員で共有すべきだ。

 ライフの削り合いなんかよりよっぽど人が集まりそうだ。

 いずれはそうなるかもしれない。


 でも、今は。

 今は、俺だけの力!


「イェエェェーーーーーイッ!!」


 再び叫び声を上げながら、全速で滑空。

 全身で風を受け止める。


 ◆


 結局、ナチュラルハイのまま叫び声を上げ続け二時間も空を飛び回っていた。

 自分が何処に居るかもわからなくなった頃、全身を倦怠感に襲われ転移石でハマルに戻りそのままログアウトした。

ハルシュ Lv.3

筋力値:5

魔力値:5

敏捷値:5


装備:

【アイアンスピア】

【革鎧】


セットスキル:

├[1]【飛行】Lv.1

├[2]【槍】Lv.1

├[3]【回復】Lv.1

├[4]【観察眼】Lv.1

└[5]【夜目】Lv.1


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サモナーJK 黄金を目指し飛ぶ!
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