60 第二回闘技大会に出る
明日の闘技大会に向け、アルデバランまで来た。
そう言えば、前回大会は、少女を拾ったばかりで大変だったな。
あれから一ヶ月。
すっかり肉の付いた少女が、屋台の立ち並ぶ街中を見回しながら楽しそうに歩く。
その横に、メガネを掛けたジルヴァラ。
足元には犬。
ジルヴァラのメガネは白日のサークレットをウミが見た目をカスタマイズしたものらしい。
どう見ても原型が無いのだが、今に始まったことでは無いか。
なお、特別機能として、透明化と言うオプションもついているらしい。
つまり、普段はバレバレではあるものの変装用のメガネとして、いざという時は透明にして素顔を晒してなおかつ、その効果を享受できる優れもの、らしい。
◆
決勝の様子を控え室で眺める。
クロム対ロック。
両者共に前回黒魔道士に苦杯を喫した間柄。
その黒魔道士は、観客席で犬を抱きながらお姉さん方と観戦中。今回は不参加。
ちなみに黒騎士さんも不参加。
まあ、今回、特に目玉賞品も無いしな。
心無しか、観客席にも空席が見える。
さて、勝ち上がり俺への挑戦権を奪い取るのはどっちだ?
大剣を振り回し、積極的に攻撃を仕掛けるロック。
それを盾で受け、剣で捌くクロム。
一見、クロムが防戦一方であるが、ロックはその攻撃をまともに当てれていない。
そんなやり取りが続き、先に焦れたのはロックの方だった。
恐らくは賭け。
大剣を大振りに振り回す連撃の武技を放つ。
しかし、その攻撃を凌ぎ切ったクロムは、隙だらけのロックの胴を一薙ぎし、そして勝利の雄叫びを上げた。
◆
「特別試合。ハルシュ対クロム」
闘技場の上で、挑戦者と相対。
さて、どうやって勝とうか。
「始め!」
掛け声と共に、全力で間合い詰めに来る挑戦者。
ならば。
槍を構え、それを待ち受ける。
横手から槍を払う。
槍で受け、そのまま足も止まる、そう目論んだ一撃。
しかし、挑戦者は盾を巧みに使い、槍を受け流しす。突進の勢いをそのままに。
「チッ」
目論見は外され、間合いまで詰められる訳に行かない。
バックステップで後ろに下がり間合いを。
「隆起する大地」
突如、挑戦者が魔法を放つ。
今までの戦いでは使っていなかった筈。
隠していたか。
既に後ろに跳躍していた俺の踵を刈り上げられる格好になる。
結果、勢い良く後退した俺の体から足だけ前に取り残され、背中から倒れこむ。
そこに、挑戦者が剣を構え飛び込んで来る。
俺は後ろに倒れ込みながら、足を跳ね上げ、そして、飛行の力も借り後方へ宙返りで逃げる。
つま先で挑戦者の顎を蹴り上げながら。
着地した俺が目にしたのは両手を力なく下げた挑戦者。
辛うじて立っているのがやっとの様子。
恐らくは状態異常、目眩。
「貫く投槍」
俺の手から放たれた槍は、避けることすら出来ない挑戦者の胸部を貫いた。
「そこまで。勝者、ハルシュ」
一拍置いて勝名乗りが告げられ、さらに、一拍置き場内から歓声と拍手がわき起こった。
◆
エキシビジョンマッチを終え、前回同様、特にその後のイベントもなく控室に戻され、そして、勝手に帰る。
一応、賞金は出た。
だがね、もっと勝者を称えるべきじゃないか?
どうも、釈然としないまま控室から出ると、ばったりロックと遭遇。
「いい戦いだったな。次は俺が挑むぞ!!」
そもそも挑戦権手に入れれてないくせに。
いい戦いに見えたのは、銃を使ってないからだから。
ま、それぐらいの配慮はね。
前回は、賞品的にも、その後のシナリオ的にも何が何でも勝ちたかったが、今回はまぁ、お遊び。
身も蓋も無いような戦いにならないよう多少は気を使ったのだ。
それに関して、何らねぎらいも無かったが。
「はい。がんばって」
適当にロックをあしらいながら、並んで闘技場を出る。
外でいつもの面々、そしてロックの仲間たちが待っていた。
ひとしきり祝いとねぎらいの言葉をいただく。
ありがたや。
◆
「黒魔道士は何で出なかったんだ?」
この後、祝勝会、もしくは残念会という二つの団体が並んで街を歩く。
その最中、ロックがジルヴァラに問う。
「利が無いからよ?」
さも当然の様にジルヴァラが答える。
「利って、なー……。お前。戦いってのは自分の力を誇示するもんだろ? それが即ち利なんじゃないか?」
割りと戦闘民族チックなロックには通じない。
「あのね、私のこの力は人に見せるために使うものじゃないの。
そうやって、力を誇示することに執着していった先は、より大きな力への執着、そして、その更に先には破壊と、破滅。終焉。
そんな物しか残ってないんじゃないかしら?
それとも、そんな世界がお望み?
私は嫌よ。現実じゃないんだから」
破壊を否定するジルヴァラ。
とても魔王とは思えない。
「見解の相違ですね」
静かにアンドレイが間に入る。
ま、こんな話してても『利』は無いしな。
黒騎士さんは何で出なかったのか聞きたくもあるが、後にしよう。
まだ正体ばらして無いはずだから。
そんな俺達とすれ違うように前から集団が来る。
先頭に全身鎧の大男。
「防衛おめでとう。チャンピオン」
その全身鎧から、声を掛けられる。
周りの取り巻き達は、なんとも意外そうな顔を向けているが。
それを、知ってか知らずか右手を差し出してくる。
あ、俺のファンか。
「ありがとう」
その手を握り返しながら返礼。
満面の笑みを返す。
「だが、その王座も次まで。次の闘技大会で頂点に立つのはこの私!」
親指で、自分を指差し、のけぞって胸を張る全身鎧。
ファンじゃ無かった……。
「はい。がんばって」
若干失意の中、適当にあしらう。
その様子を取り巻き達がニヤニヤしながら眺めている。
こういう奴って、大抵一回戦とかであっさり消えるんだよな……。
取り巻き達と笑い声を上げながら去っていく全身鎧。
ふと、その後姿をアンドレイが何時になく険しい顔で眺めているのが目に入った。
いや、睨んでいたのか。
「さ、早く行こう!」
しかし、それは直後のウミの声にかき消される程些細な事だった。
◆
「では、ハルシュの王座防衛を祝して、かんぱーい」
「「「「かんぱーい」」」」
前回同様の面子での祝勝会。
「あ、ここの支払いは任せてもらっていいから!!」
と、乾杯の音頭に続き胸を張るウミ。
「またか!」
「まあ、今回は大して儲かってないけど」
まあ、王座防衛だしな。
「で、何であんな地味な戦い方なのよ?」
いきなり上司からダメ出し。
「地味って……。真っ向勝負って言えよ」
「アンタ、前回私を蜂の巣にしたわよね? 今回甘くない?」
「いやいやいや、あれは何が何でも勝ちたかったからで、今回は勝ちより内容を重視したんだよ」
「手を抜かないで派手に圧勝しなさいよ」
「……さっき、力は誇示するもんじゃないとか言って無かったっけ?」
「アンタが弱かったらその上に立つ私の沽券に関わるじゃない!」
無茶苦茶だ。
「待て。お前、偉そうにしてるけど前回負けてるんだからな? 俺に」
「だから大人しく観客席で観戦してたんじゃない!
同じ相手に何度も負けるなんて、そんな無様な姿を晒せっていうの!?」
なるほど、そうだったのか。
「オーケー。わかりました。上司殿。
では、次回から露払いとしてそれらしい戦いを心掛けます」
はあ。
面倒なお嬢さんだ。
まだ納得はしていないのであろう事がその表情から見て取れる。
更に絡まれては面倒なので矛先を変える。
「黒騎士さんは何で出なかったの?」
「え? 私ですか?
気付いたら申し込み締め切り過ぎてました。
残念です。折角のチャンスが」
ん?
「あれ? 勝つ気だったの?」
「はい!」
やたらと自信満々のリーザ。
「よし、その自信、次回へし折ってやる」
「望むところです!」
「ふむ。オッズ的にはリーザの方が……。
ハルシュ、君さ、私の為に負ける気無い?」
突如、ウミが提案。
「アホか! それバレたらペナルティじゃないのか?」
「バレない。バレない」
「ヤメろ。巻き込むな!」
そんな事で、ペナルティなんぞ、ごめんである。
そんな様子を、楽しそうに眺めている少女。
割と食が控え目なのは、この後もう一軒回るつもりだからだろう。
三人でケーキバイキングに行くらしい。
◆
「じゃ、暫しの別れじゃ!」
「おー」
「アリア、ハルシュが変な事したらすぐ呼ぶんだよ!」
「えっと、はい」
苦笑しながら答える少女。
「しないからな?」
二人に言い聞かせる。
「あんまり食べ過ぎるなよ?」
「はい。ほどほどにしておきます」
「ジルヴァラ、宿決まったら送っておいてくれ」
「わかったわ」
「リーザ、ウミをよろしく」
「はい」
「いや、君によろしくと念押しされる様な間柄じゃ無いから」
ウミが不満げに抗議。
そう言えばそうか。
「じゃそろそろ間に合わなくなるから」
「うん。じゃ。色々ありがとね」
三人と別れ、俺は空へ。
行き先は、イベントフィールド。
最終日、本当に最後のチャンス。
スキルが、欲しい!
全然出ないけど。
ウミは明日からリーザと行動を共にするらしく、ここで別れる事になった。
そして、俺とジルヴァラと少女は、エリアスまで戻り、改めて各地を回る事にした。
犬と少女。一匹と一人を少しずつ戦いを教えながら。
正直、少女にはあまり戦いに出て欲しく無いのだが、ジルヴァラが一緒に連れて行くべきだ、とどうしても譲らなかった。
ま、極力気を配ろう。危険に晒さない様に。




