47 谷間に手を入れる
「私より軽いんじゃないの? ムカツくー!」
動かない俺の体をおんぶしながら町への街道を歩くウミが文句を言う。
オイ、もっとそっと運べ。
揺らすな!
その抗議は、しかし、言葉にならない。
その横を赤い目をして、怒った顔の少女が並んで歩く。
てかさ、他人に状態異常を使うんなら回復方法も用意しておけよ。
ヒーラーが状態異常に陥ったら終わりじゃないか。
今みたいに。
一方的だと取引にも使えないぞ。
うーん、しかし俺もなんか対策考えないとな。
でもスキルスロットに余裕無し!
ん、手が動くようになってきたか……?
確かめよう。
ぎこちなさが残る右腕を動かし、ここから見下ろせる、ウミの胸。
その鎧の隙間へ手を伸ばす。
指先が、微かに柔らかい肌に触れた瞬間、頭に衝撃が走る。
首だけを動かして器用にウミが頭突きを食らわして来たようだ。
「大人しく、しろ!」
「へい、へい」
おお。喋れるようになった。
「動けるなら下ろすよ」
「まだ、歩けな、そう」
「あっそ。変なことすんな」
へいへい。
「想定より回復が早いな。配合違うのかな……」
そんな事を呟きつつ、街道を歩く。
ほら、早くしないとモンスター出るぞ。急げ。馬。
◆
宿屋に着き、回復魔法をかけ完全復活。
そして、食堂で反省会。
「少しは信用してほしいもんだ」
「いやー、それ、無理」
反省しろ。
「いや、お前が勘違いしたのも、理解できなくは無い。それに関しては、まぁ、文句を言うつもりはあまり無い」
「有るんじゃん!」
「あまり無い」
「はいはい。スイマセン」
いや、少女の危機を救おうとしたのは、まぁ、責める必要は無いんだ。
偶然、その相手が俺だっただけで。
俺だっただけで!
「アリアも機嫌直してよー」
少女はずっとふくれっ面だ。
そして、やけ食い中だ。
「食い過ぎだぞ」
「そんな事無いです!」
「いやいや、お前がちょっと重くてびっくりしたからバランス崩したんだからな?」
「……え?」
「そんなこと無いよ! ハルシュが貧弱なだけだよ!!」
目を見開く少女に、すかさずウミのフォローが入る。
……失言だったか。
「これから空飛ぶようになるならガンガン食べて体力付けないとね!」
「そうだ! 飛べるようになったお祝いで明日何処かに何か食べに行こうか? 何か食べたいものはあるか?」
「え、アリア飛べたの? 凄い! お祝いしなきゃ!!」
白々しい俺とウミのごまかしが続く。
「いえ、結構です……」
少女は、そっとスプーンを置く。
ミスったなー。
「アリアシア。空を飛んでる時に、体力が無くなったらどうなる?」
「……わかりません」
「そのまま下まで落ちて行ってしまうだろ? 食べて、歩いて、飛んで、食べる! これからはこうしよう」
「でも」
「それでも、アリアシアが落ちそうになった時は、ちゃんと抱き止められるように俺も鍛えないとな」
そう言って、俺は小指の指を立てて、少女の前に出す。
意味がわからないのであろう、少女は首を傾げる。
「約束の印。俺とウミの生まれたところだとこうするんだ」
そう言って、その手をウミの前に移動させる。
「えーっと、明日皆でご飯食べに行く」
「約束ー!!」
そういってウミは俺の小指に彼女の小指を絡める。
「わかった?」
「……はい」
「じゃ改めて。食べて、その分、動く。約束」
「はい。約束……」
少女が俺の小指に自分の小指を絡める。
指を離したあと、少女は笑顔になり、そして、再びスプーンを手に取った。
◆
『今何してる?』
ウミから通信。
「バスターイム」
『またぁ?』
「まただけど?」
『何で私が話したい時に何時も風呂なのよ?』
「一緒に入りたいからじゃね?」
『バカじゃないのー』
バカではない。
「何の用?」
『いや、今日はごめんなさい』
「おう。以後気を付けろ」
『あれ?』
「ん?」
『やけに軽く無い?』
「ま、貸しにしとくよ」
『えー! 何それ!』
いきなり刺されたのは、確かに許しがたい。
だが。
「うーん、まあ、一息に殺されなくてよかった、とか、お前の存在に全く気付かなかった、とか、お前があの少女を可愛がってるのが分かった、とか、色々と考えさせられた訳だよ」
『ほうほう』
「それに、ほら、良い男は過ぎた事をウダウダ言わないもんだろ」
『ネカマだよね?』
「それと、さっきはフォローしてくれて助かった」
『いえいえ』
思わぬ失言で少女を困らせた。
ウミのフォローが無ければ、まだ、解決していなかったかもしれない。
ウミが少女を大切にしているのならば、それに越したことは無い。
何せ、俺の命は少女が握って居るのだから。
「それにしても、何だったんだ? アレ。魔法じゃないよな?」
状態異常攻撃。
地味だが、効果は大きい。
それは、俺が被害者として証明して見せた。
『ヘヘーン。脳筋の横で活躍する為に必死で考えた私の新しいスタイルだ!』
「なるほど。そう言えば調毒とか言ってたな。他にも色々出来る訳か」
『そう! そのうちお披露目するよ!』
「楽しみにしとくよ」
『何か、意外』
「何が?」
『地味な事してんなーとか、馬鹿にされるかと思ってた』
「いやいや。力押しだけが戦いじゃ無いからな」
金の力ごり押しで闘技大会優勝した身として偉そうな事は言えないが。
『そうか。そう言ってもらえてちょっと安心した』
「敵には回したく無いな。うん」
面倒だから。
『あれ?』
「どうした?」
『お風呂に誰も居ない?』
「ん?」
『何処に居るの?』
「カラ」
この島のもう一つの町。
『はああぁ? 何で!?』
「露天風呂に入りたかったから」
月を見上げながら答える。
『あーそう。折角背中流してあげようかと思ったのに』
「いや、いいよ。着ぐるみも水着も嬉しくないし」
『今日は! 違うぞ!』
「何ぃ!?」
ていっても何か着てんだろう。
『何だと思う?』
「さあ?」
『じゃそういう事で』
「待て! 答えは!?」
『ふふふ。ひーみーつ!』
そこで、通信が切れる。
……何だったんだろう。
まあ、いいや。そのうちわかるだろう。
空に浮かぶ月が明るく輝く。
果たして英雄はあそこへたどり着けたのだろうか。
……いや、無理だよな。




