4 ヘソが冷える
ログアウトするというウミと別れ再び冒険者ギルドへ。
まずは、金策。
壁に貼られた依頼は仮想ウインドウでも確認出来る。実はソートや絞り込みも出来るからそっちの方が便利。
で、依頼をざっと眺める。
依頼は『~~を採って来て欲しい』と言った採掘系。『~~を倒して欲しい』と言う討伐系。『~~を届けて欲しい』と言う配達系に分かれる。
報酬が高いのは討伐系だが、その分危険度も高いのだろう。
では採掘系はどうか?
ざっと見る限り、スキルを持って居れば有利にこなせる様に思える。
となると、現時点で無難なのは配達系となる。
「この、シェラタンってどこにあるの?」
依頼の多くがそこへの配達になって居る。
ギルドの受付嬢に尋ねる。
「ハマルの南にあります。
冒険者さんだと、一時間かからないくらいの道のりですね。
街道も通って居るのでそれ程危険はありません」
なるほど。
その分報酬も安い訳だ。
「依頼って、幾つも同時に受けて良いの?」
「駆け出しは、一つまでです。依頼をこなして信頼を築いて、ランクを上げてれば幾つも同時に請けれる様になります」
そう言って、営業スマイルを浮かべる受付嬢。
「じゃ、これを」
クエスト【香辛料を届けて】
隣町の定食屋へ香辛料を配達してやって欲しい
目的地:シェラタン
期限:三日間
報酬:5,000G
「はい。こちらが依頼の品になります。これをシェラタンの冒険者ギルドまで持って行って下さい」
「あ、ギルドで良いんだ」
カウンターの上に置かれた小袋を受け取りながら聞き返す。
「はい。そうしませんとギルドを通さないで仕事をしてしまう人が増えてしまいますので」
「ほー。因みにギルド通さないとどうなるの?」
「個人の責任で請け負って頂く分には多少は目を瞑ります。ただし、こちらも営利を目的としていますので、余りに度が過ぎる様な方には相応の手段を用意しております」
再びの営業スマイル。
「相応の手段って?」
「それは、企業秘密です」
今までで一番の笑顔。
うん。怖い。
無闇に敵に回さない方が良さそうだ。
「じゃ大人しくしていよう。因みに依頼品を奪われたとか、期限をオーバーした場合は?」
「その場合の賠償等はギルドが行います。冒険者様はランクダウンのみとなります」
ん?
軽くないか?
「ただ、虚偽の報告や依頼品の横領等を行った場合は」
「相応の手段に出る、と?」
「はい。その通りです」
なるほど。
相応の手段って、何だろうね。
……あ、もしかして、ギルドに所属してる『傭兵』って、そう言った方々なのか?
もし雇う機会があれば聞いてみよう。
「大体わかった。では、行っています」
「はい。ハルシュ様に星々の導きのあらん事を」
◆
ハマルの町を出て、シェラタンへ。
ギルドの言葉を信じるならば、街道を一時間ほど。
ま、疑う理由など一切ないのだが。
しかし。
「腹が、冷える……」
なんとは無しに、腹に手が行く。
そして、そのまま上に滑らせる。
鎧が、固い。
なんてやりながら歩いて居ると、視線の端から、赤い気配。
敵意、か。
周囲を見渡す。
一、二……三。
ウサギが三匹。
「まとめて串刺しだ!」
右手の槍を振り回し、ウサギを仕留めに行く。
◆
~【シェラタン】 エリア:アリエス~
かつて春を告げる妖精達の楽園があったとされる小さな町。
「何が一時間だ!」
結局、シェラタンに着くにはそれより三十分ほど多くの時間を要した。
まぁ、ウサギと戯れ、その結果レベルアップして、ステータス操作に時間を取られた、と言うこともあるのだけれど。
ステータスは、結局また全てに満遍なく、バランスに振った。
何処かで方針を定めないとな。
町の地図を見ながら、冒険者ギルドへ。
「こんにちは」
ハマルより、少し狭いが似た様な作りのシェラタンの冒険者ギルド。
しかし受付にいたのは、髭の親父だった。
「おう。新顔だな。納品か?」
「はい」
ハマルで預かった小袋を、カウンターの上に置く。
親父はそれを、凝視した後、一言。
「よし。中身も問題ないな。依頼完了だ」
<ポーン>
システム音。
<クエスト【香辛料を届けて】を達成しました>
「これが報酬」
<クエスト報酬 5,000Gを入手しました>
よし。記念すべき一回目のクエストは無事完了。て言うか多分一番簡単なクエストなので失敗する方がまずいだろう。
「あの、今のは」
親父は、小袋を睨みつけ検品の様な事をしていた。
何のスキルだろう。
「ん? 依頼品の無事を確認してたんだ」
「へー。どうやって?」
「そりゃ、お前、企業秘密だよ」
「えー」
「ばれたら、偽装出来ちまうだろうが」
「あーなるほど」
「開けて中身を確認したらすぐわかる様になってるからな」
「へー。依頼時に教えてくれれば良いのに」
「ルーキーには教えないでその資質を試してんだよ」
「あ、そう言う事か」
簡単な試験でもある訳だ。
「ま、滅多に開けるやつなんか居ないけどな」
「まあ、常識あればね。
さて、ハマルに戻るんで、ついでに依頼あると嬉しいんだけど」
「同じ様なので良ければあるぞ」
俺の前に既に絞り込まれた依頼リストが、仮想ウインドウで展開する。
その中から一つ。
クエスト【球根を届けて】
チューリップの球根を配達して欲しい
目的地:ハマル
期限:三日間
報酬:5,000G
「じゃ、これを」
また同じ様な配達の依頼。
往復で一万Gになる。
三往復すれば次の島に行ける訳だ。
行かないけど。
「ほいよ。こいつをハマルのギルドに持って行ってくれ」
そう言って小さな麻袋をカウンターの上に置く。
「了解」
「頼んだぞ。星々の導きのあらん事を」
◆
街道をウサギと戯れつつ、来た道を戻る。
行きは、何人ものプレイヤーとすれ違ったのだが、帰りは一組も居ない。
既に他の稼ぎ場所が見つかったのかな?
素肌を晒した太腿と腹が冷える。
つーか、全体的に凹凸が無いな。このアバター。
何でこんなアバターに設定したんだっけな?
などと考えていると、視界の端々から赤い線。
敵意。しかし、数が多い……。
すかさず、用心の為『転移石』を手に取る。
「待てー!」
街道の前、俺の行く手を遮るように一人の男が現れる。
茶髪を六四に分けた、爽やかな雰囲気イケメン。
そして、手に長剣。
その距離、およそ三十メートル。
「何か?」
右手に槍を構え、周囲に目をやりながら答える。
俺を取り囲む様に、前に十人程。全員、プレイヤー。
おそらく、後ろにも同じ程度の数。
「随分と派手な格好してるなー!」
強奪、か?
「あ、これ、見た目だけで中身は初期装備だから。似合う?」
敵意丸出しなのは分かっているが、一応茶化してみた。
流石にこれだけの数が相手だと、勝てる見込みはない。
なんとか見逃してくれないだろうか。
「似合う似合う。でも、命と一緒にここに置いていってもらうからな!」
ま、そういう事ですよね。
言うなり手にした剣を頭上に掲げる。
プレイヤーの表示に【反撃可】と言う文字が浮かぶ。
「掛かれ! 野郎共!!」
「「「「「オオ!!」」」」」
剣をこちらに向け、振り下ろすと共に号令。
そして、それに応答する野太い声。
「ゲスいなぁ」
そう、つぶやきを残し、俺は転移石を使用した。
一瞬、視界がぶれ、次に目に飛び込んできたのは先程、後にしたシェラタンの町並みだった。
「暫く通れそうにないなぁ……」
ひとまず俺は、冒険者ギルドに向かい街道にアホどもが居て困っている旨、伝えることにする。
NPCがなんとかしてくれると良いなーなどと、淡い期待を込めつつ一度ログアウト。
現実に戻った俺が、真っ先にしたことは、股間に手をやりその存在を確認する事だった。
ハルシュ Lv.3
筋力値:5
魔力値:5
敏捷値:5
装備:
【アイアンスピア】
【革鎧】
セットスキル:
├[1]【飛行】Lv.1
├[2]【槍】Lv.1
├[3]【回復】Lv.1
├[4]【観察眼】Lv.1
└[5]