2 スカートの中を見る
その人物は、グラマーなモデル体型、金色の長髪をハーフアップにした美人であり、そしてゲーム開始とは思えないほど派手な鎧を身にまとっていた。
青を基調に銀で縁取りされた鎧。
白い肩は丸出し。
前だけ短い腰布は大胆に白い太ももを覗かせている。
初期装備の俺が地味なアースカラーの鎧姿なのと対極である。
向こうがこちらの視線に気付き、軽くウインク。
俺も軽く手を上げそれに答える。
「はじめまして。何でそんな派手な格好してるの?」
彼女に向き直り、そう質問する。
「装備品は、スキルである程度見た目のカスタマイズが出来るの! どう?」
そう言ってその場で一回転。
「ねえ、その布の下、どうなってるの?」
「じゃん!」
彼女が、両手で腰布を捲り上げる。
その先にあったのはホットパンツ。
「だと思ったよ。君は今、世の中の全ての男を敵に回してるからな」
「バカじゃないのー」
いや、断じて許されない行為だ!!
◆
「私はウミ。ヨロシク!」
「ハルシュ。よろしく」
改めて、自己紹介。
その後、握手を交わす。
「よし、ここで声を掛けられたのも何かの縁だ。一緒に御飯食べない?」
「いきなり?」
「そう。私、ゲームはご飯の良し悪しで続けるかどうか決めるんだ!」
そう提案した彼女は、仮想ウインドウを展開し、町の地図を確認し始める。
「なるほど。重要な要素、かな?」
「じゃ行こう!」
そう言って、彼女はウインドウを消して駆け出した。
◆
ウミが、選んだ食事処。
そこで、個室に通された。
「リクエスト、ある?」
料理のメニューに目を落としながら、ウミが尋ねて来る。
「任せる」
「了ー解! じゃ適当に頼んでおくね」
注文を任せ、その間にヘルプを開く。
色々と調べておきたい。
ウィンドウに目を落としている間に、ウミが、次々と料理名を読み上げ、オーダーして行く……。
「あ! 常識の範囲内で!」
「時、既に遅し! 良いよ。割り勘で!」
おう。当然だ。
あっという間に、テーブルの上に大量の皿が並ぶ。
それを、丁寧にウミが取り分けていく。
「「いただきます」」
ウミが取り分けた料理を口に運ぶ。
ん、美味いな。
「今の、ロールキャベツ? まだある?」
「時、既に遅し!」
無くなるのが早い!
「……何? それ?」
「え? 美味しい物は早い者勝ち!」
「いや、そうじゃ無くて、『時、既に遅し!』ってやつ」
「マイブーム!」
あっそ。
◆
食事をしながら、互いに探り探りの会話。
そして、食後のコーヒー。
「装備品一式貸してくれる?」
「ん? 何で」
「カスタマイズしてあげるよ! 私みたいに」
「ほうほう。じゃ……あまり悪目立ちしない感じで」
そう言って、俺は初期装備の 【アイアンスピア】と 【革鎧】 をウミに渡す。
ウミは仮想ウインドウを展開し、何やら操作を始める。
「フレンドでもない他人に簡単にアイテム渡すとか、警戒が足りないよー」
ウインドウを弄りながらウミが俺にそう忠告する。
言われてみれば確かに。
でも、この状況で何か出来るとも思えないんだよな。
そして、ウミは気付いていないだろうが、俺の手には料理の時に使ったナイフが握られている。
言うほど警戒が無いわけではない。
「ハイ! 着てみて!」
ウミから渡した装備品が返される。
アースカラーだった鎧は黒地に赤の縁取り。
槍は血のような赤。
そして、長いロングスカートの様な腰巻。
なんか、こう、高揚感と言うか開放感みたいなのがある。
「ついでにフレンド申請ー!」
渡された装備品を再び身にまとった俺の前に仮想ウインドウ。
<ウミからフレンド申請があります。受理しますか>
<YES / NO>
YESを選択。
「あざーす!」
「こっちこそ。いきなり中堅プレイヤーみたいな格好だ。ありがとう」
しかし、これは目立つな。
PKの的にされないだろうか。
いや、逆にハッタリになるかな。
ペナルティも有るし、サービス初日からPKが氾濫するほど世紀末な雰囲気じゃないと思おう。
「それにしても、何てスキル?」
「【装飾】! ちなみに性能は全く変わらないから!」
「へー。さて、じゃ試し切りに行こうかな。どうする?」
「行く!」
「よし。じゃ、見た目に負けない程度に頑張ろう!」
因みに、初期所持金の3,000Gがこの食事で半壊した……。
ウミの胃袋恐るべし。
まぁ、実際に満腹になるわけでは無いのだけれど。
割り勘で良かったよ。本当。
◆
ウミと二人、若干周りから奇異の視線に晒されながらフィールドに出る。
うーん、やっぱり目立ってるなー。
念の為、フィールドに出る前に道具屋に立ち寄り【転移石】と言うアイテムを二つ購入。
チュートリアルで教えてもらった逃げるアイテムだ。
計1,400G。
これで、所持金はほぼゼロ。
一応、ウミにも購入を勧める。
これで、万が一にも大丈夫だろう。
フィールドは既に其処彼処にプレイヤーの姿があった。
多くは、四人から六人で組んでいる。
ただ、連携がぎこちなく見えるのは急造で組んだからだろう。
中には、ソロで戦っているであろう姿もちらほら。
ちなみに、システムとしてのパーティ機能は無い。
なので共に戦う人数に上限は無い。
まぁ、意志の疎通などを考えると一般的な五、六人に落ち着くのだろうが。
そんなプレイヤー達に混じって俺とウミの初戦闘が始まる。
いつの間にか、五体のウサギ型モンスターに周りを囲まれていた。
「行っくよー!」
ウミが細剣を片手に、元気よく魔物に突っ込んで行った。
ウミに遅れを取らないよう、オレも一番近くにいた魔物と正対。
が、違和感。
魔物から俺に対して赤く光る線が伸びる。
その直後、魔物が飛びかかって来る。
槍を振り下ろして、迎え討つ。
直撃。
魔物が一度距離を取る。
別角度から赤い光線。その先から別の魔物が襲い来る。
槍の柄で殴りつける。
懐かしいこの感覚。
そして、緊張感。
俺は今、確かに高揚感を感じている!
◆
「なかなかやるじゃない!」
五体の魔物全てを撃退し、ウミが俺の戦い振りをそう評価する。
「いや、動きが全然遅い。
それに、非力過ぎる……」
自分とウミに回復魔法を掛けながら、感じたままを答えた。
「レベル1だからね。別ゲーと比べて感覚が違うってことでしょ? ま、そのうち慣れるでしょ。回復ありがと!」
ま、そうなんだけど。
「それと、なんか視界の中に赤い線がちらついてやりづらい」
「何それ?」
「え? 俺だけ?」
「俺?」
「ん?」
「ううん。……私そんなのないけど。どうする? 気になるなら一回町に戻る?」
「いや、まだMPに余裕はある。レベルを一つくらい上げるかな」
「了解。じゃそこで一区切りね」
その後も、数戦雑魚刈りを続ける。
<ポーン>
システム音。
<レベルアップしました。メニューよりステータス操作を行って下さい>
む。
ステータス操作?
自分でステータス値を割り振るタイプか。
「ウミ、レベルが上った。一回町に戻らないか?」
ここはじっくり考えたい。
「私も。ステータス操作終わらせるから待って」
何?
「と、これで良し」
え?
「もう終わったの?」
「終わったよ?」
ノータイム! そう言う奴か!
「そっちは?」
「まだ。じっくり考えるタイプなんだ」
「そ。じゃ一回町に戻ろうか。ついでに冒険者ギルドに素材を売り払って金策ー!」
「了解!」
◆
街に戻り、冒険者ギルドへ。
壁には依頼が書かれた紙が貼られていて、カウンターには受付らしきNPCの姿がある。
そして、数名のプレイヤー。
ウミが依頼を冷やかしている間に、ギルドの中に備え付けられた椅子に腰掛けステータス操作を完了させる。
ステータスの項目は、筋力値、魔力値、敏捷値の三つ。
筋力値は、物理攻撃及び物理防御。
魔力値は、魔法効果及び魔法防御。
敏捷は、アバター体の反応速度にそれぞれ影響する。
これはヘルプに書いてあったこと。
HPとMPも存在するが、ステータス上は数値としては表示されず、どれだけ減ってるかの割合がわかるのみ。
ちなみにウミのHPの減り具合もなんとなくわかるのは俺の【観察眼】の影響っぽい。
熟考の末、三ポイントのステータスを、筋力値、魔力値、敏捷値すべてに均等に割り振った。
もう少し、感覚が掴めるまでバランス重視にしておこう。
ハルシュ Lv.2
筋力値:4
魔力値:4
敏捷値:4
装備:
【アイアンスピア】
【革鎧】
セットスキル:
├[1]【飛行】Lv.1
├[2]【槍】Lv.1
├[3]【回復】Lv.1
├[4]【観察眼】Lv.1
└[5]