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180 希望が転がり始める

「お前か」

「ご無沙汰。覚えててくれたとは光栄だ」

「また壊したのか?」

「話が早くて助かる」


 射手座、カウス・アウストラリスの武器屋。

 以前、魔導銃を買った店。


 カウンターの上にボロボロになった相棒を置く。


「こりゃまた……治すのか?」

「出来れば。急ぎで」


 置かれた銃の残骸を手に取り、まじまじと観察する親父。


「無茶な使い方したんだろうな」

「まあ、それなりに」

「二、三日預かって良いか? 素材を変えてもう少し頑丈にしてやる」

「へー、そりゃ助かる」

「ま、それなりに手間賃は貰うがな」


 まあ、それは良い。

 牡牛座からせしめた金が潤沢にある。


「じゃまかせる。あー、あんまり重くしないでくれ。えっと終わったらここに連絡くれ」

「あいよ」


 そう言って通信機のIDを親父に預ける。

 さ、次は盾座だ。


 ◆


 盾座に飛び、工房で何やらニヤニヤしているボストークを捕まえる。


「よう」

「おう」

「また、アホな武器でも考えてたんだろ」

「興味あるか?」

「無いね」

「そう言うなよ。雷の魔法が有るだろ? てことはそう言った類の発電アイテムがありゃ、夢のレールガン……」

「悪いが今日は別件だ。ゾンビの件、話通ってるんだろ?」

「ああ、聞いてるよ。早速ユニコーンの角は大口の提供者が現れた」

「そうか……ん?」


 大口?

 そういや、俺以上にユニコーン退治に通ってた奴がいるんだよな?


「……どんな奴?」


 俺の問いにボストークは何故かニヤリと笑うのみ。

 これは、言う気は無さそうだな。


「まあいい。ガイは?」

「もう来るだろ。それより、レールガンの話だよ。俺の想定だと10キロ超の射撃が可能になるぞ!」

「それ、どうやって目標を捉えるんだ?」


 何の役にも立たなそうな超兵器。


「…………GPS」

「ねーよ」

「……それも作れば良い」

「サービス終わるのとどっちが早い?」

「何か有るだろ! そんなスキルが! 探せよ!」

「何で俺に言うんだよ」


 俺にだって武器を選ぶ権利はあるわ。


「狙撃はお前の専売特許だろ?」

「ここでは空飛ぶ美少女、華麗なる槍使いで売ってんだ」

「お前、そりゃ……」


 そこで口を噤むボストーク。

 まあ、性別バレてる相手に美少女を売りにしても痛いだけか……。


「そう言えば……」


 俺はアイテムボックスから鵺討伐のドロップアイテムを取り出す。


【鵺の光丸こうがん】。


 鑑定スキルなんぞ持ってないので効果の程はわからない。

 そして、直接手を触れることも憚られる様なネーミング。運営の良識を疑う。と言うか、無いのだろうな。

 風呂敷包みの中の二つの金に輝くそれをボストークに渡す。


「こんなの手に入った。預けて良いか?」

「何だ? これ」

「雷獣の類のドロップ品。レールガンの動力にどうだ?」


 俺が使うとは言ってない。


「ふーん」


 一つつまみ上げ、まじまじと観察するボストーク。


「面白そうだな! これ」

「好きに使って良いよ」

「良し! 任せとけ! とんでもない物作ってやるよ」


 俺が使うとは言ってない。


「別に、急がなくて良いから」


 俺が使うとは言ってない。

 そんな、どうでも良い話で時間を潰している間に鎧が工房に現れる。


「スマン、遅くなった。取り敢えず可能性だけ検討してきた」


 そう言いながら。


「結論から言うと、まあ可能だ」


 工房のテーブルの上に図面を広げる鎧。

 そこには描かれているのはガスマスク。

 ヒドラの皮に毒の中和効果がある、以前彼はそう言っていた。

 ならばそれを利用して作れないか?

 そんな咄嗟の思いつきを彼に投げておいた。


「ただ、いくつか懸念がある」

「ふむ」

「一つ、連続利用に制限がありそうだ」


 そう言って鎧は図面に描かれたマスクの口の下、フィルター部分を指差す。


「ここにな、提供してもらった素材他を詰め込んで、それで浄化するんだが、使い続けると触媒の周りを毒素が完全に覆ってしまう懸念が有る」


 次いで鎧はその上、目を覆う二つの穴を指す。


「もらった情報だと、目の粘膜も覆ったほうが良いだろうということでこういう形にした。

 想像は付くと思うが視界が遮られる。

 これを装着したまま戦うのはかなり慣れが必要だろう」


 顔を上げ、鎧は続ける。


「そして、当然のことながら、顔以外は保護していない。貰った情報からの判断でしか無いが、皮膚に関しては保護の必要は無さそうだ。しかし、当然傷口はそれに含まない」


 そこで鎧は一拍置く。


「つまり、こいつを装備した所であの中に踏み込むのは自殺行為って事だ」


 鎧の情報を整理する。


 一つ、制限時間有り。

 これは、まあログイン自体にも制限があるので気を付けるしか無い。

 一つ、視界が制限される。

 気配察知を最大限、で乗り切ろう。苦しいことには変わらないが。

 一つ、顔以外は毒に晒される。

 スマヤンタカと魔法でなんとかするしか無い。


 付け加えるならば……美少女の顔が全て隠されてしまうという欠点も有るな。


 しかし、まあ、踏み込む事すら出来ない状況に比べれば遥かにマシなわけで。


「オッケ。それで良い。作成よろしく」

「わかった。数は?」

「いくつ作れる?」

「三つだな。ヒドラの皮は余るが他の素材はこっちの持ち出し。それが限度だ」

「充分」


 俺と道案内のアンドレイあたりが使えば良いのだから。


「急いでるんだろ。最優先で対応する。その代わり多少重くても文句言うなよ」

「それは、どうかな?」


 俺の冗談に心底嫌そうな顔をする鎧。

 心にゆとりが無い証拠だぞ。


 さ、適当に土産を買ってシリウスに戻ろう。

 謎の蒲焼きが良いか、それとも甘いものが良いか。


 ◆


 城塞の上からゾンビを潰す。

 しかし、一向に減る気配の無いそれらに、昨日と比べプレイヤーの士気も低い。

 あるいは、天使が不在だからだろうか。


 後少しすれば日付が変わり日が昇る。

 東の空からは僅かにその気配が漂い出した。


「出来ました!」


 騒がしい足音が響き、それ以上によく響く声。

 その直後、城塞を揺るがさんばかりの嬌声。


 希望の足音がまた一段と大きくなった。


 ◆


 スズメ、と言う名のその女の子が白い液体の入った試験管を高々と掲げ現れる。


「これが命薬アリコーンです!」


 彼女を取り囲んだプレイヤーから再びの歓声。


「そして、その効果を今から実証してきます!」


 そう彼女ははっきりと断言した。

 その宣言に、歓声の声がピタリと止まる。


「ちょっと待って。実証ってどうするつもり?」


 一拍置いてオミが尋ねる。


「どうって、あの中に飛び込んで噛まれてきます」


 そう言いながら、城壁の下、ゾンビの群れを指差すスズメ。


 作った薬が有用であることを証明するためには確かに誰かが実験台になるしか無い。

 効果の定かでない物に命を預けるのは、なかなか難しいのだから。

 例えそれが信頼する仲間の作ったものだとしても。

 付け加えるなら、彼女自身、その効能に自信が持てていないのだろう。

 だから、自ら被験者となるつもりなのだろう。


「駄目! あの中に飛び込むなんて、薬以前の問題よ」


 この場合、オミの言うことが正しい。

 数十体のゾンビに囲まれては、満足な実験など無理だろう。

 その前に、命を落とす。


「城塞の方に引きつけておいてくれ。飛び越えて向こう側に下ろそう」


 俺がそう提案する。

 ゾンビの少ない所に彼女を下ろせば良いのだ。

 俺の提案に頷くスズメ。


「……分かった」


 オミも腹を括る。

 そう、今は進むしか無いのだ。

 例え屍を乗り越える事になろうとも。


「よし、行こう」

「はい」


 決意が揺るがないうちに、気持ちが冷めないうちに。


 スズメの手を引寄せ、彼女を抱き抱える。

 そして、一気に空へ。

 それに呼応するように、プレイヤー達が城塞の上から派手な魔法でソンビの目を引きつける。


 その様子を尻目に、俺は実験に適した所を探す。

 やや離れた所にいる木に寄りかかったゾンビを見つけ、それを指差しスズメに確認。


「あれで良い?」


 緊張した面持ちで頷くスズメ。


「大丈夫。薬が効かなかったらすぐ楽にしてあげるから」

「は、はあ」


 俺の気休めになんとも微妙な顔をする彼女。

 それにとびっきりの笑顔を返す。


 そして、やや動きの鈍そうな気に寄りかかったままのゾンビの側へ。

 小柄な……老人か?


 静かにスズメを下ろし少し離れる。

 そして、槍を手にする。

 言った通り、万が一の場合は直ぐに……。


 覚悟を決めるのに、少しの時間が必要だったのだろう。

 木に頭を叩きつけるという奇行を繰り返すゾンビを立ったまま見つめるスズメ。

 周囲を警戒しながら俺はその背を見守る。


 そして、スズメが地に落ちた石をゾンビに投げつける。

 それに反応し、ゆっくりとスズメを見て、奇声を上げ、火が着いたようにスズメに飛びかかる老婆のゾンビ。

 微動だにせずそれを迎え入れるスズメ。

 ゾンビがスズメに抱きつき、細い首筋にその歯を突き立てる。


 感染した。

 俺の観察眼がスズメに起きた変化を読み取る。


 一足で彼女の背後まで間合いを詰め、槍を伸ばす。

 そして、彼女の肩の上スレスレを穂先を通し、ゾンビを引き剥がす。

 頭部が半壊し、地に転がっても動きを止めないそれの首を一閃。

 頭部と胴が切り離され、そして、一拍置いて粒子に変わる。


 スズメは?


 地にへたりこんでいた。

 そして、青い顔で俺を見上げる。

 ゆっくりと頷いて、様子を見守る。

 槍は、向けない。

 頷きを一つ返し、スズメは右手に持った試験管のコルク栓を取って一気に口に流し込む。

 ……別にアイテム使うのに経口摂取する必要ないんだよな。

 そんなどうでも良い疑問を抱きながら、スズメの様子を見守る。

 自然、槍を持つ手に力が入る。


 スズメが顔を上げる。

 そして最上級の笑顔と共にサムズアップ。

 よし!

 恐怖から開放された安堵の涙であろう、それを目の端に貯める彼女を抱きかかえ直ぐにその場を離れる。


「世界を照らす大いなる一歩だ」


 彼女の偉業と勇気に最大限の敬意。

 はにかんだ笑みをした後、城壁の見せつけるように大きく拳を突き上げるスズメ。

 一拍置いて歓声が上がる。


「でも、私の野望はこれじゃないんですよ」

「……聞かせてもらっても?」

「いつか、天使の翼が生える薬を作って、空を飛ぶんです!」

「……は?」

「そう、ピエラと約束したんです!」


 ……この娘、今殺した方が良いのではないだろうか。何よりも俺のために。


 ◆


 衆人環視の中、ゾンビの群れに救世主を放り投げる訳にも行かず城塞へ戻る。

 ……いや、待て。

 俺は男に戻るのだ。

 そうすると、まあ、誰とは言わないがその薬を飲んだ誰かと夜空にデートと、こうなるわけだ。

 ……有り、だな。

 その時まで生かしておこうか。


 そんな邪な考えを抱きながら、朝日が照らし始めた城塞の上の歓喜の輪に主役を下ろす。


 そして、好転した状況を伝えるべくアンドレイへ通信を繋ぐ。


『ハイ。すいませんが簡潔に』


 通信機の先のアンドレイの声に余裕がない。

 そして、少し騒がしい……か?


「薬の目処がたった。何かあったか?」

『領主と共に、外へ救出に出ています』

「は?」


 外へ?


『すいません。慣れない馬上なのでこれ以上は。ギムレットが町に残ってますので詳細はそちらに』

「あ、ああ」


 そこで通信が切られる。

 言われたままにギムレットと言う、ロック達の仲間に連絡。

 ちなみにコイツ、闘技大会の一回戦で俺に負けた魔法剣士。


『ハイ、ギムレットです』

「アンドレイ達は何してんだ!?」

『ひっ』


 ……つい、怒鳴ってしまった。


「すまない。救出に出たと聞いた。詳しく教えてほしい」


 自分と、ギムレットを落ち着かせるように声を押さえて言う。

 周囲の人間もこちらを見ている。


『えっと……狼煙が上がったとかで領主が助けに行くと、陽が登るか登らないかのうちに出ていきました』


 狼煙?

 生き残りの救助?

 は?


「場所は? 方角は?」

『フルドというここから東の村だろうって』

「そうか。そこの守りは大丈夫か?」

『はい。寡兵で飛び出したので』

「わかった。それと、薬が出来た」

『本当ですか!?』

「ああ、直ぐに量産される。ここが踏ん張りどころだ。何があっても持ちこたえろ」

『ハイ!』


 通信を切る。


「スズメぇ!」


 周囲のプレイヤーの中から、彼女を探す。


「はーい!」

「さっきの薬、余分に有るだろ?」

「有ります。五つ」

「全部くれ!」


 言いながら仮想ウインドウを操作。

 手持ちのユニコーンの角を全てその場に。


「え、あ、はい」

「オミ、アダーラの連中が命を捨てに行った。悪いが薬はもらってく」

「ええ、後は任せて」


 オミの返答と同時に、思いっきり背中を叩かれる。

 不意打ちにイラッとして振り返るとピエラの笑顔。


「頑張るでぇす!」

「てめ……」


 調子に乗りやがって。

 今度なんかで仕返しする事を心に誓う。


 それより今はエポナだ。

 俺に貸しを作ったまま消えようなんて、絶対に許さん。


 スズメから薬を受け取り一気に空へ。


「待ってろ! ボケェ!」


 一度転がり始めた希望を勝手な行動で止めんなぁ!

 背中の痛みも相まって怒りが俺を加速させる!

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新作もよろしくお願いします。
サモナーJK 黄金を目指し飛ぶ!
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