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179 小さな希望が見える

 厄介払いされたイピス王子を抱えシリウスへ向かう。


 街道の上空を飛び、ウェズンの上から南西方向を望む。


「あれが?」

「ええ」


 彼とロック達が訪れたというアルドラの遺跡。

 俺の目的地。


 しかし、上から見てもはっきりと分かるほどに黒い霧が立ち込めている。


「あんな中を進んでいったの?」

「いえ、以前はあんな物ありませんでした」


 と言う事はこの異変と関連が有るのか?

 画像にしてアンドレイに送っておく。


「でさ、その女神に会うにはどうすればいい訳?」

「遺跡の奥、そこに祭壇が有ります。そこで祈りを捧げれば……あるいは」


 必ず現れる訳では無いって事か。


 ◆


 シリウスに着き、王子を城まで送る。

 そして、イアンテと言う婚約者と涙ながらの再会を横目に城塞へと上る。


「おかえり。戻ったんだね」


 城塞の上でオミが見張りをしていた。


「王子をここに届けに」

「一応経過はロック達にも聞いてるよ。あっち戻るの?」


 その問いに首を横に振る。


「後でこの原因らしい遺跡に行って見ようと思ってる」

「そうか」


 返事をすると、オミは手にしていた和弓を眼下のゾンビの群れに向ける。

 そして、狙いを定め矢を放つ。

 それは、ゾンビの一体に命中した様に見えた。


「何してるの?」


 焼け石に水。

 それが正直な感想だ。


「子供をね、潰してるの」


 再び矢を番えるオミ。

 そして、迷いなくそれを放つ。


「ウチらさ、女の子だけで行動してる訳。でさ、流石にああ言う敵だと戸惑いが出ちゃうからさ」


 放たれた矢は、オミの言う通り小さな影に突き刺さる。


「私は割と平気だけど、駄目な子も居るから」

「成る程ね」


 相槌を返しながら魔導短銃を出し、和弓を持つ美人の横に並ぶ。


 しばらく無言で下に向け魔導弾を放ち続ける。


「何とか、なると思う?」


 オミの問いに、答えなど返せる訳も無く。


「いざとなれば別の島まで送るよ」

「……ありがと」


 大して有難がって居ない口ぶりの返答。


「せめて、ここだけでも守りたいわ」

「……大分、劣勢だよなぁ」


 回復手段の無い状態異常。

 減らない敵。


「今、ウチの子達が頑張って色々調べてるんだけどね」


 そこへ元気な足音が階段を駆け上がって来るのが聞こえる。


「オミ、差し入れでぇす。

 あ、ハルさんも居たのか」

「よう。別に気、使わなくて良いから」


 ビエラがバスケットを持って現れる。


「そういや、お前、役に立ってるの?」

「全然でぇす!」


 元気に言い放つピエラ。


「神聖魔法使いなら何とかなると思ったんだけどね」

「多分、死霊術とかそんなのの領分でぇす」

「死霊術、か」

「知ってる?」


 問われ俺は首を横に振る。

 それを知っていたであろう者は俺が葬った。


「ま、何とかなりますよ!」


 お茶の入ったコップを差し出しながらビエラが断言した。


「何で?」


 受け取りながらその根拠を尋ねる。


「王子の話、聞きました。良いですよね。これで全滅のバッドエンドなんて許さないでぇす!」

「いや、お前が許す許さないの問題じゃ無くない?」

「その為にハルさんが居るんでぇす!」


 ……。


「意味わかんね」

「何としてもハッピーエンドを迎えるでぇす!

 愛する二人は、そののちの困難も二人で乗り越えて行くでぇす!」


 拳を握りしめながら夢いっぱいのシナリオを語るビエラ。


 でもね。


「俺、関係無いよね?」

「世界を敵に回してもジルと二人、アダムとイブの道を選んだハルさんが、あの二人を救うんですよ!」


 ニヤリとしながら忘却の彼方にあった台詞を持ち出す天使。


「アレは世界が進んで敵に回ったからだしなー」

「頑張ったらご褒美もあるでぇす!」

「ご褒美?」

「背中、流してあげますでぇす!」

「いや、水着だろ?」

「ノンノン。水着で風呂に入るなんて邪道でぇす!」


 何だ?

 この積極性は。


「ウミの入れ知恵か?」

「ばれたぁ!」

「やっぱり」

「いや、ハルさんだったら何とかしてくれると思うから発破掛けてるんでぇす!」

「わかった。それじゃご褒美目当てと言う事にしてこの島を救う方法を考えるか」

「流石!」

「因みにあいつら今何してるの?」

「孔雀座で遊んでます」

「……そうか」


 あのチャラい男達のところか……。


「楽しいのかね」

「私は、あんまり好きじゃ無いでぇす」

「あそこはね、遊び方にコツが有るんだよ」


 俺達のやり取りを笑顔で眺めていたオミが最後にそう締めくくった。


 ◆


 男になり、そして、天使と風呂に入る。

 悪く無いシナリオだ。


 ただ、その為にはこの事態をなんとかせねばならず、そして、その解決の糸口が全く見えないのだが。

 ま、取り敢えず動いて見よう。


 そう考えながらログイン。

 世界は夜明け前。


 相変わらず城塞の上に立つオミ。


「おはよ」

「状況は変わらず?」

「変わらないね」

「そっか」


 伸びを一つ。

 さて、ひとっ飛び遺跡まで行きますか。


「じゃこの元凶を見てるかな」

「気を付けてね」


 ◆


 ウェズンを越え、そして昨日見た黒い霧の元へ。


 下から近づくのは自殺行為だな。

 そう獣道の上を飛びながら思う。

 狼であろう四つ足の獣のゾンビが走り回って居る。

 これは……パンデミックも時間の問題では?

 鳥のゾンビが出ようものなら……抑えが効かなくなるぞ?


 ……え、そう言うシナリオ?

 なんか、運営がテコ入れでもし出した?


 取り敢えず狼の姿を画像に納めるべく高度を下げる。


 地上四メートル程。

 樹木の下を飛ぶ。


 と、上から気配。

 咄嗟に槍で払いながら半回転。

 樹上から飛び掛かって来る猿を辛うじて弾く。


 その猿すらゾンビと化して居る。


「クソ」


 速度を上げ、遺跡へ。

 今は相手をして居る場合じゃ無い。


 ◆


「こりゃ……無理だなぁ……」


 目の端の涙を拭いながら呟いた。


 黒い霧、それを僅かに吸い込んだ瞬間、盛大にむせた。

 それと同時にスヤマンタカが毒を解除したのが滲む視界の端に見えた。


 つまり、遺跡の一帯は毒の霧で覆われて居るらしい。


 霧ならば熱で吹き飛ばす……いや、毒がどうなるか。


 一旦戻るしか無さそうだ。


 ◆


「と言う様な有様だった」


 画像を全てアンドレイに送りつけ状況共有。


『成る程……。正直、八方塞がりですね』

「そっちの様子は?」

『今の所、変わりなく。ただ、町の外のゾンビが少しずつ増えてますね……』


 状況が好転する訳など無いか。


「なあ、他に見落としてる事とか無いか?」

『どうでしょう。少し考えて見ます』

「ああ」


 通信を切り、無駄と分かりつつゾンビを魔導弾で撃ち抜きながらシリウスを目指す。


 ◆


 毒……何かが引っかかる。何かを忘れて居る様な……。


 毒……ヒドラ……リーザ……パンツ!


 いやいやいや。


「お帰り。その様子だと収穫は無しね?」

「ああ」


 城塞の上に降り立つ俺をオミが迎える。

 そして、彼女の仲間数人も城塞の上に出て来ていた。

 更には普段はロック達と共に行動して居ると言うパーティーの面々も。


 適当に自己紹介などをしつつ、軽く状況の共有。

 その後、遠距離攻撃が可能なプレイヤー達による壁の下のゾンビ退治が始まる。

 それにピエラがバフを掛けて回る。


「元気だな」


 その様子を見ながら呟く。


「ああやって、割り切って明るく振る舞える。無理言って呼んじゃったけど、すごく助かる」


 オミが彼女の働きを讃える。

 成る程。

 天使のヒーラーは伊達じゃ無い訳か。

 精神的な癒しまで施すとは。

 じゃ、そのピエラの頑張りに報いる為にも、彼女の思い描くシナリオに向けて頑張らないとな。


「オミさん! ありました!」


 そこへ、ピエラに負けず劣らず元気な声が飛び込んで来る。

 大きなショルダーバックを持った女の子。


 その声に、城塞の上にいたプレイヤー全員が振り返る。

 彼らの顔に浮かぶのは……希望の色?


「何があった!?」


 オミが立ち上がりながら問い返す。


「薬! 薬のレシピです!!」


 片手持った本を開いてこちらに見せる彼女が持って来たのは確かに希望だった。


 ◆


 床にランプを置き、その横へ本を広げる。

 女の子が四つん這いになりその内容を、興奮を隠さぬままやや早口で説明する。


 それを十人以上のプレイヤー達が取り囲み真剣な面持ちで耳を傾ける。


「地の下より蘇った亡者を救う女神エウリュノメーの伝承が書かれています」


 彼女がページをめくりながら説明する。


「仔細は省きますが、その中で女神より伝えられた死の病より救う薬、その作り方が残されていました」


 彼女の説明に、小さな疑問が浮かぶ。

 ……事の発端はその女神では無いのか?


「ただ……」


 そこで女の子が顔を上げ、取り巻く面々を見回す。


「試作しようにも、材料が手持ちに無いんです」

「何が必要なの?」


 代表してオミが問う。


「ユニコーンの角と……聖水」

「あ、聖水なら作れるでぇす」


 ピエラが手をあげる。

 ……ピエラの聖水、か。

 親衛隊に高く売れそうだな。理由は言わん。


「ユニコーンの角なら持ってるけど」


 アムドゥスキアスを連日ボコりに行った結果、手元に1ダースほどある。


 アイテムボックスから一本取り出し彼女の前に。


「これ、頂いても?」

「いいよ」

「ありがとうございます! 試作の準備に掛かります! ピエラ、聖水お願い!」

「らじゃでぇす!」


 立ち上がって角を受け取り、軽く頭を下げた彼女はピエラと一緒に町へ戻って行った。


「ありがとう。精算は事態が収束してからで良い?」

「当然」


 自然、プレイヤーの輪も散り散りになり、そしてオミがそう話しかけて来る。

 まずは現状の打破が最優先。


「なんとか希望が見えたかな」


 俺の楽観的な言葉に、しかし、オミの表情は優れない。


「何か、まだ懸念が?」

「ユニコーンの角……どれだけあるのだろうかと思ってね。

 一応ソビエスキ連合にも声を掛けようとは思っているけれど、量産出来るかどうか」

「後十本程あるけど」


 それでも心許ないか。


「何でそんなに持ってるの?」

「降臨のレアドロップ。使い道無くて腐ってた」

「そう」


 やや呆れ顔のオミ。


「ソビエスキ連合って?」

「盾座に集まった生産職の集まり。今や一大勢力よ。物に関してはあそこに相談するのが一番早い」

「あー彼奴らそんな大層な名前つけたのか」


 ソビエスキ連合ね。

 そう言えばヒドラの皮、渡したままだな。


「ちょっと顔出して来よう。

 総力を上げてユニコーンの角を集めるようにケツ叩いて来る」

「ん?」

「ちょっと、用事が出来た。そのついでだよ」

「それなら何か美味いものをお土産にお願いしようかな」

「了解!」


 移動が自由と言う事は、パシリに持って来いなのだなと、悲しい事実に気付く。

 ま、美人のパシリなら……良いか。

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