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178 ゾンビを蹴散らす

 先頭に亀の飼い主。

 そして亀。

 その後をNPCの列。


 街道を進む一団を上から眺め、警戒する。

 時折近づいてくるゾンビはアンドレイが迅速に退治する。

 一度フレアグレイが派手な火柱を上げて大変な事になった。

 一気に集まるゾンビ。

 パニクるNPC。

 まさに地獄絵図。

 なんとか事態を収拾した後、取り敢えず全員で一発ずつぶん殴っておいた。

 それでも反省の様子が無い。

 あいつ、やらかし要員か?


 そんな事件を挟みつつ進む一行の足は明らかに遅い。


 出発して一時間は超えた。

 懸案であった集落より僅かに手前。

 道半ばに至らず、といった所。


「休憩を挟もう」


 ロックにそう提案する。


「ああ、そうだな」


 振り返りNPC達の様子を観察しながらロックが同意する。


「先に、この先の障害を取り除いてくる」

「無理するなよ」

「無理だと思ったら最初から口にしないんだよ」

「そうか。十分休んだら進む」

「了解」


 軽く手を上げ、空へ。


 さ、ゾンビの群れを蹴散らしに行こう。


 ◆


 中心を街道が貫く宿場町。

 しかし、その街道は今はゾンビが蠢いている。

 目測で……五百……千は居ないだろう。

 何処かに生き残りは居るのだろうか。


 ……それは後で考えよう。


全弾・乱射・光グレア・シュート・フルバースト


 右手に構えた銃で眼下のゾンビどもを蜂の巣に。

 神聖魔法を組み合わせた魔法弾。

 当たりどころが良ければ一撃。

 全部消え去るまで打ってやる。


 直ぐに魔王様特性薬でMPを回復。


全弾・乱射・光グレア・シュート・フルバースト


 マジックポーションの在庫は問題ない。

 撃つ度に、MPを補給しつつ弾の雨を連続で浴びせる。


 ◆


全弾・乱射・光グレア・シュート・フルバースト


 休むことのない連発に銃身が微かに熱を帯びてきた。

 しかし、止めるわけには行かない。

 ゾンビは半数ほどになったか?


「頼むぜ? お嬢様」


 じゃじゃ馬の魔導銃にそう声を掛ける。


全弾・乱射・光グレア・シュート・フルバースト


 幾度となく繰り返したその武技を放った直後、右手の魔導銃のその銃身が弾け飛んだ。

 ……ツンデレここに極まれり。


「そりゃ無いぜ……」


 とは言え、無茶をさせた自覚はある。


「必ず修理する。それで機嫌直してよ?」


 戦友にそう声を掛け、そして、それを仕舞い槍を手にする。


「感染りませんように」


 スマヤンタカにそう願いながら、一気に高度を下げ地に降りる。


「らぁ!」


 横一文字に振るった槍がまとめて四体のゾンビの胴を薙いだ。


 ◆


 恐怖に怯まない奴ってのは厄介だな。

 消し飛ぶ仲間を意に介さず飛び込んでくるゾンビ共を薙ぎ払いながらそんな事を思う。

 狂気。

 死を厭わない馬鹿共を思い出すが、目の前の連中にはそれすら無い。

 ただ、生者に群がるだけだ。


 目の前のゾンビを槍で薙ぎ払う。

 生きてりゃ美人だったんだろうな……。

 そこに隙があったとは思わないが、次の瞬間、背後からゾンビの群れが飛びかかってくる。

 上に逃げる間もなく頭を押さえつけられ、そして、肩口を噛みつかれる。

 目の端に【Resist Zombie】と言う表示が一瞬浮かぶ。


 まとわりつくゾンビ共を振り払いながら空へ。


重力崩壊(ステラ・コラプス)


 一団になったそいつらをまとめて圧し潰す。


「噛むのを許したのは……一人だけなんだよ!」


 再び槍を手に地へ。

 まだ、獲物は残っている。


 ◆


氷噴火クライオ・ヴォルケーノ


 地に突き立てた槍から冷気が広がり、一面を白く染める。


 周囲に無数の白い彫刻を作りながら。


 槍を持つ右手が、二の腕まで完全に凍結し、術を止める。


 一陣の風が亡者の呻きではない喧騒を遠くから運ぶ。


 もう十分はとうに過ぎた。

 ロック達が向かって居るのだろう。


 障害はほぼ取り除いた。


 凍った腕を折り剥がし、そして、地に足を付ける。


 左手で槍を抜き一度空へ。


重力崩壊(ステラ・コラプス)


 その衝撃で、白い彫像を全て粉々に。


 そして、煌めく粒子が舞い消える中へ……落ちる。


 地に叩きつけられる寸前で姿勢を整え、全身が叩きつけられるのを防ぐ。

 しかし、しゃがみこんだ俺の周囲から敵意とも呼べないような気配。


 まだ、終わってなかったか……。

 顔を上げた俺の視界へ、建物の隙間から這い出してくるゾンビ共が飛び込んでくる。


再生リカバー


 右手を治し、槍を手に。


 ……体が、頭が重い。


「アリアシア」


 放心仕掛けた頭で彼女を呼ぶ。


『はい』

「……可愛く頑張ってって言え」

『……はい。がんばってください。好きなだけ暴れてらして』


 全てを承知したかの様な彼女の声。

 好きなだけ、か。


「ありがとう」

『ご武運を』


 まだ、行ける。

 バフももらった。

 俺は再びゾンビに向け地を蹴る。

 多分、笑みを浮かべながら。


 ◆


 勢いに任せ、ひたすらに槍を振るう。

 結果、見える範囲で敵は居なくなった。


 地を蹴る無数の足音が近づいてくる。


 通りの真ん中でそれを待ち構える。


 目的地方向より迫る騎馬隊。

 皆、甲冑をまとっている。

 その先頭の一騎が進み出て俺の前で停まる。


「鬼神の如く、とは貴殿の様な事を言うのだろうな」


 甲冑を身にまとい、フルフェイスの兜、その面包を上げた中から覗く顔はアダーラの領主、エポナ。


「助かった。向こうに町の連中が居る」

「わかった」


 エポナは後続の騎馬達にそこへ向かうよう手振りで指示をする。


「借りが出来た……」

「構わん。王子がしつこく言ったからだ」


 数騎がここに残り、周囲を調べるようだ。

 敵の残り、生き残りその両方を調べるのだろう。


「戻ったらあの王子をシリウスまで運んでくれ」

「いいけど? 何で?」

「どうせ滅ぶのならば、愛する者の側が良いだろう。

 王子の婚約者、イアンテは知らぬ間柄でもないのでな」

「滅ぶつもりか? こうして救いに出てきたのに?」

「滅びの流れは変わらん。この島にも落ちるべく時が来た、それだけの事」

「島が落ちる?」

「滅びは、即ち救いであり解放」


 遠くから近づいてくる大亀の一団を見ながらそんな事を言う。

 理解できない思想だこと。


「シリウスに行くのは構わない。

 ただ、その前に少し休ませて貰いたいもんだ」


 取り敢えず俺はその場に腰を下ろした。


 ◆


 エポナの後ろに乗せてもらいアダーラを目指す。

 集落にはわずかばかりの生き残りが居た。

 親が隠したのだろう。

 その多くは子供だった。

 その子等は或いは亀の上に、或いはアダーラから出てきた騎馬で運ばれている。


 エポナの冷たい甲冑にもたれ掛かり、居心地の悪い馬に上下されながら思い返す。

 なぜ、不意にアリアシアを呼んだのか、を。

 通信越しにバフは掛かるわけでは無いし、それを知らなかった訳でもない。

 多分、疲れていたのだろう。

 只の、オブジェクト。

 そう割り切っても、敵意もなく向かってくる醜悪な物体の中に時折小さな存在が混じる。

 それは、やはり不快感を伴った。

 憎しみの感情すら出さずに消えていったのはせめてもの救いかもしれない。

 そんなこちらの事情を全く気にしない穏やかな彼女の声。

 それに呼応して動く気力が蘇った気が……やっぱり強化バフが掛かったのかな。バグかもしれない。


 取り敢えず、風呂に入って全てを洗い流したい。

 ただ、この状況での入浴は避けねばならない。

 その時間こそ、高確率でゾンビの襲来を受けるのだから。


 ◆


 アダーラにアバターを置いてログアウトすることには多少抵抗があった。

 かと言って、今から余所に飛んでいって安全を確保するだけの気力は無かったし、そんな事をしてロック達に見下されるのも癪だった。特にフレアグレイと言うネジの吹き飛んだ魔法使いには。


 ログインしたら、ゾンビに囲まれている。

 そんな風になりません様に。

 そう祈りながら、俺に充てがわれたエポナの屋敷の一室でログアウトした。

 ロック達から隔離され俺だけ個室。

 奴らは雑魚寝。

 ま、美少女だから当然の扱いよね。


 ◆


 ログインすると同時に魔導短銃を手にする。

 そして、窓の外を観察。

 異常……無し。

 念のため、警戒しながら部屋の扉を開け廊下へ。

 ……大丈夫そうだ。


 窓から見えた中庭に向かう。


 ◆


「起きたか」


 眼下に広がる町の様子を眺めていたであろうエポナが振り返り、そして俺の顔を一度見て、再びその視線を町に戻す。


 陽が暮れかけた世界には、他の町と変わらない家路へ急ぐ人々とかすかに漂う夕食の匂い。

 そんなものが有り、壁一枚隔て恐ろしい怪物共が蠢いていることを一瞬忘れそうになる。


 しかし、よく見れば人は疎らであるし、何より隣に立つ領主の表情の険しさは、平和な町を見下ろすには程遠い。


「不思議なものだ」

「……何が?」

「明日死ぬとも知れないのに、今日の飯を求める。そうやって変わらずに日常を送ろうとする」

「死なない。そう思えば不思議でも何でもない」


 俺の、何の根拠もない言葉はしかしエポナには響かない。


「見えぬかもしれないが死は近付いている。

 こうして何の心配もなく食事を出来るのは後何日か。

 この屋敷の備蓄が全て尽きれば次は中から崩壊が始まる」


 首を横に振りながら、この町の未来を断ずる。


「亡者は全て葬れば良い。

 その為に食料が必要ならば空から届ければいい。

 最後まで知恵を振り絞ってあがくことが、上に立つ者の役目だろ?」

「簡単に言う……」

「言うのはタダだからな」


 町の片隅に作られた避難民のためのキャンプ。

 そこを走り回る子供たちが目に入った。


 そして、エポナの言葉通りなるのならばまず始めに迫害されるのは彼らだろう、そう思った。

 実際の所、それ程猶予は無いのかもしれない。


「それでは少しでも生き延びる算段をしよう。

 その為に無駄な食い扶持を減らしてくれ」


 エポナは、微かに笑みを浮かべながら言った。

 その、諦めを含んだ影を背負う姿は、昔の恋人を彷彿とさせた。

 絶望である事の方が幸せだと言った彼女を。

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