9 経験者に学ぶ
ログインすると、既に日が昇っていた。
そう言えば昼と夜があるという事は、それを遮る大地が存在するのか?
ずーっと下に行けば良いのか。
今度試してみようか。
今日は今日でやることがあるのだ。
朝風呂を楽しんだのち、露天風呂付きの宿屋をチェックアウトして、冒険者ギルドへ。
◆
プラエキプアは小さな町だ。
民家は少なく、数件の宿屋と数件の食事屋、酒場。
しかし、武器屋、道具屋、スキルショップ、冒険者ギルド等などはしっかりと揃っている。
そして、心なしか冒険者のようなNPCの姿がちらほら。
まぁ、向こうから見れば俺もその一人な訳だが。
「こんにちは」
「あ、また来たのね」
メガネを掛けた冒険者ギルドの受付嬢。
昨日も何度か顔を合わせている。
「今日も配達?」
「いや、討伐系の依頼を受けようかな、と」
言いながら、仮想ウインドウに討伐系の依頼を表示して行く。
報酬が最低10,000からと近場の配達より高額だ。
まぁ、複数同時にこなすことを考えたら、俺には配達のほうが効率が良いのだけれど。
クエスト【ゴブリン退治】
東の荒野でゴブリンを退治してきて欲しい
討伐数:5
期限:三日間
報酬:10,000G
これで良いか。
「すいません。これを受けます」
「はーい。ゴブリン退治ね。一人で?」
「まさか。傭兵の力を借りるよ。傭兵リスト見せて」
「はい。これ。一応強さで金額が違うから」
「一番の手練は?」
リストを眺めながら問う。
「この人、コーダさん。ムッキムキよ!」
脳筋か!
「でも、その人だと報酬ほとんどなくなっちゃうな」
リストで金額を確認する。
一時間、9,000G。
うまく行って、1,000Gの儲け。
「一時間で帰ってこれるかな?」
「コーダさんとなら平気平気」
「そっか。じゃこの人と一緒に行こう」
「じゃー呼んでくるね。あ、一時間分は先払いだから」
◆
受付嬢が連れて来たのは、浅黒く日焼けしたスキンヘッドのヒゲ面だった。
簡素ではあるが金属の鎧を見にまとい、柄の長い斧を担いでいる。
首にタトゥーが入ってるのはお洒落のつもりかな。
「コーダだ」
「ハルシュ。お手伝い、よろしく」
「雇われる前に、注意がある」
両腕を組みながら俺に言い聞かせるようにコーダと名乗ったハゲ頭が話し始める。
「まず、俺達は、自分の命を守ることを優先する。
お前の盾になって戦うなんて事は無いから覚えておけ」
「はい」
「危ないと思ったら勝手に逃げろ。お前が戦線を離脱しないと俺達も戻れないからな」
「俺が逃げたらどうなるの?」
「転移石で勝手に帰る。そこで契約は終わりだ」
「そうか」
「強敵に会ったときも同じだ。勝てない相手に出会ったら俺達は勝手に逃げる」
「勝手に?」
「勝手にだ。命が優先だからな。その場合は、金は返金する。生きていれば、だが」
「なるほど」
「討伐の依頼の手伝いに関する注意はこんなもんだ」
「他の依頼の時は違うの?」
「依頼の種類で様々だ」
「ふーん。じゃそれはその時に聞こう」
俺の返事に、ハゲ頭は満足そうに頷く。
「じゃ、契約成立ということで良いかな?」
受付嬢の確認を共に、俺の前に仮想ウインドウが現れる。
<傭兵・コーダを雇用しますか>
<YES / NO>
「もちろん」
そう言いながら、YESに触れる。
「色々言ったが、依頼は全力でこなす。よろしくな」
「こちらこそ」
ハゲ頭の差し出した右手を、握り返す。
見た目通り、ゴツい手だった。
「じゃ行って来ます」
受付嬢に手を振りながらギルドを出る。
「気を付けてねー。星々の導きのあらん事を」
◆
「さて、どう言うつもりだ?」
街道と呼ぶには整備のされていない道を、クエストの目的地を目指して進む。
町を出て暫くした所で、後ろを付いてきていたハゲ頭が口を開く。
「どう、とは?」
「割に合わないだろ。こんな仕事に雇ったら」
「だから、赤字にならないようにさっさと終わらせたいな。
それとも、そちらに何か不利益が?」
「いや。そんなのは無い」
「じゃ良いでしょ? 初めての討伐だし念には念を。そういう事」
「なるほど。教師役か」
「そう! 色々教えてくれるなら何度か指名するつもりだけど」
「そうかい。ま、知ってる範囲で答えるよ」
そうしてもらわないと困る。
その為に雇ったのだから。
「じゃ、ズバリ、強くなる為にはどうすれば良いの?」
「強く、か。筋肉だな。そんな細い体じゃ駄目だ。ちゃんと食え」
あ、ダメだ。こいつ!
「あ。そう」
「てのが、まあ、俺の信念な訳だが、一般的にはスキルだな」
「具体的には?」
「スキルを手に入れたらしっかり自分の身につくまで鍛える事だ」
「スキルのランクじゃ無くて?」
「駆け出しの勇者と、歴戦の傭兵。どっちが強いと思う?」
「歴戦」
「そうだ。高ランクのスキルは使いこなせれば確かに強力だが、それだけ努力と訓練が必要だ」
「なるほど」
いわゆる熟練度的、もしくはスキルレベル的なパラメータか。
そして、高ランク程上がりにくい、と。
「あと、スキルの組み合わせも大事だ」
「組み合わせ?」
「これは見せた方が、早いだろう」
そう言って、ハゲ頭は遥か遠く、道の先を指差す。
動く人影が一つ。ただ、遠過ぎて何だかわからない。
「ターゲットだ。まあ、俺が倒すから見てな」
豆粒のようなそれは、コーダの言う通りゴブリンだった。
◆
こちらに気付いたゴブリンが、警戒しながら近づいてくる。
斧を手にしたハゲ頭が無防備に近寄っていく。
その様子を、俺はハゲ頭に言われたとおりに離れてみている。
ゴブリンが、手にした棍棒を振り上げ、奇声を発しながらハゲ頭に襲いかかる。
ハゲ頭は振り下ろされる棍棒に合わせ、斧をすくい上げる。
棍棒を弾き飛ばし、そのまま振り下ろした斧がゴブリンの脳天をかち割る。
急所を一撃で砕かれたゴブリンは、粒子と化して空に消えていった。
「どうだ、わかったか?」
振り返りハゲ頭が一言。
いや、何が言いたいのか全くわからん。
「えーっと、説明お願いします」
近づきながらそう答える。
「今のはな、斧と防御を組み合わせた技だ」
「防御?」
……とても防御を組み込んだ様には見えなかったが。
「ああやって、相手の攻撃に合わせて華麗に迎え撃つ」
華麗、ではない。
「スキルの組み合わせによってはこういう事が出来るようになる」
ふむ。
言いたいことは色々あるが、まあ良い。
「参考になります!」
今は教師を立てよう。




