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新作『人違いで竜に呪いを掛けられた俺は死に場所を求め旅立つ事にした』の連載をはじめました。
宜しければそちらもよろしくお願いします。
『ようこそ。コンステレーション クエスト オンラインの世界へ』
遠くに星が瞬く、宇宙空間。
ぼんやりと光りを放つ、緑色の髪をした少女姿のアバターが話しかけてくる。
体に、少しの浮遊感を感じる。
いや、目の前の少女が浮遊しているから、そう錯覚するのだろうか。
久しぶりの、フルダイブ。
全てを忘れるために、また架空の世界に来た。
『では初期設定を開始します、まずお名前をお教え下さい』
「ハルシュ」
『ハルシュ。
登録完了しました。
続いて、この世界であなたの分身となるアバターを設定をさせていただきます。端末内のデータを利用いたしますか?』
「うん。それで。あ、髪の色だけ変えたいな」
いっそ、派手にやろう。
そう決めて、髪は赤にした。俺は俺の分身になるその姿を後ろから眺めながら髪の色を変える。昔、他のゲームで使用していた設定を少し変える。
懐かしい。でも、こんなに長髪にしてたっけな?
『続いてゲームの簡単な説明をします。
コンステレーション クエスト オンラインの世界は、空に無数の島々が浮かぶ世界が舞台となっております。
そこで、武器を手に戦うもよし、様々な物を作り上げるもよし。
その世界を、ハルシュ様の思う通りに楽しんで下さい』
言った後、少し口角を上げるナビゲーター。
『続きまして、スキルの説明に移ります。
ゲーム内のショップでスキルチケットを購入することで新たなスキルを覚えることが可能です。
スキルの装備数、当ゲームではスキルスロットと呼んでおりますが、こちらは、初期で五つとなっております。
なお、ゲーム開始にあたり、4つまでお好きなスキルをお選びいただけます』
俺の目の前に仮想ウインドウが開き、スキルの一覧が表示される。
「スキルの利点って?」
『ゲームを効率的に進めることが可能になります。例えば剣を使って戦いたいのであれば、剣のスキルを取得頂くと攻撃力が上がります』
「なるほど」
相槌を返したが、具体的な答えになっていない。
「例えばさ、現実の剣の達人、宮本武蔵と剣のスキルを持ったプレイヤーが戦ったらどっちが強いの?
もちろん宮本武蔵はスキルを持たないものとする」
『私にはその宮本武蔵様の強さがわかりませんので不確かな事はお答えできません』
ほう。
今のは十分な答えじゃないですかね?
リアルな強さがスキルを上回る可能性が有る、と。
フルダイブ系のゲームにまれに見られる現象だな。
とは言え、別に俺は何かの達人ではないのだけれど。
さて、では初期スキルは、と……。
一覧を眺める。
と、一番下に小さく目立たないが『ランクアップ』、と言う文字。
なんとは無しに押して見る。
<ランクアップにはLPを1消費します。よろしいですか?>
<YES / NO>
「このLPって何?」
『このゲームはLPと言うパラメータが存在します。これは皆様全て初期値で10に設定されています』
「うん」
『このLPがゼロになってしまいますと、ゲーム世界から退場となってしまいますのでご注意下さい』
「退場?」
『はい。同じプレイヤーデータでの再プレイが不可能となります。
そして、ゲーム開始チュートリアルに限定して、LPを消費して初期スキルをランクアップさせることが出来ます』
「なるほど。ゲーム開始時だけの特典か」
暫し考える。
スキルは後回し。
まずはLPの方が優先だな。
「ゲーム内でLPの減る条件は?」
『通常のプレイ中ですと、HPがゼロ、つまり死亡状態となった時、戦闘フィールドでのログアウトなどになります』
「ログアウトも?」
『はい。そうしませんと戦闘中にログアウトすることで死亡が回避できてしまいます。
しかし、戦闘中でもログアウト可能なセーフティーエリアへ移動出来るアイテムがございます。
こちらを常に所持していただければ安全なプレイが出来ると思います』
「なるほど」
「LPの回復手段は?」
『そちらはお答えできません』
再び考える。
ありません、では無く、お答えできません。
これを、有りと取るか無しと取るか。
開いたままのランクアップ確認ウインドウのYESをタッチする。
<ポン>
システム音。
各種武技と各種魔法、それと生産スキルが並んでいるリストに新たに、ステータスアップ系のスキルが並ぶ。
もう一回。
<ポン>
システム音と同時にスキルリストに【召喚】などが追加になる。
<ポン>
<ポン>
<ポン>
<ポン>
<ポン>
<ポン>
<ポン>
リストが豪華になった。
強力そうなスキルが並ぶ。【勇者】はランク9か。その上に【魔王】がある。【英雄】なるスキルも。
中に一つ、とても気になるスキルが。
スキル【飛行】
世界で唯一人の空の神の寵愛。
空を自由に飛行することが可能になる。
これが、【魔王】と並んでいるのだ。
空を飛ぶ。
それは、人類の憧れ。
とは言え、最上位ランクなのか。
何か秘密があるのか?
『ちなみにランク10はユニークスキルとなりまして世界で一人しか所持できません。
取得していることが公になりますと、PKなどの対象となるリスクが高まりますのでご注意下さい』
「なんと!」
いやいや。
もう開いちゃったし。既にLPは1。
そうか。世界で俺だけ空が飛べるのか。
……取得!
『そちらは、ゲーム最初期にLPを大量につぎ込む勇敢な、もしくは、向こう見ずなプレイヤーへの優遇措置です。くれぐれもお気をつけ下さい。
あっさりと殺されて、またお会いすることの無いようお祈りいたします』
「ははは。バレないように気をつけるよ」
『そうですね。それと出来ましたら、公序良俗を守るお振る舞いを期待いたします』
「期待って、反しても良いの?」
『はい。所謂プレイヤーキラーや、強奪といった行為も禁止はしておりません。
但し、ほかのプレイヤー様から迷惑行為での通報があった場合は、運営またはNPCによる取り締まりが行われる場合がございます』
「取り締まり。捕まるとペナルティ?」
『そうです。最悪LPを減らされる可能性がございます』
「うわ」
そしたら、魔王取る人は清廉潔癖魔王様になるわけか?
是非お会いしたいが。
それまで生き残っているようで有れば。
『他のスキルもお選び下さい。尚、お分かりかと思いますが残りはランク1からとなります。
そして、説明が前後してしまい、大変恐縮ではありますが、スキルスロットに装備したスキルには、補助スキルをセットする事も可能となっております』
「補助スキル?」
「はい。例えば、剣のスキルに火魔法を補助スキルとしてセットしますと、炎を纏う剣の技が使えるようになります」
「なるほど」
プレイスタイルに合わせ組み合わせる事で個性が出る訳か。
寂しくなったスキルリストの中から俺は【槍】【回復】【観察眼】を選択した。
スキル【槍】
槍の扱いを理解する。
槍タイプ武器装備時攻撃力向上。
スキル【回復】
癒しの力。
回復魔法使用可能。
スキル【観察眼】
フィールド、キャラクターの状況を見抜く目。
かつて、別のゲームで暴れ回っていた時期がある。
その時、俺は槍を持っていた。
ま、昔の話。
その時の経験がそのまま通用するとは思って無いが、それでも幾分マシだろう。
何より槍は、間合いと言うアドバンテージが存在する。
そして、回復手段は確保しておきたい。
観察眼は、用心の為。
これでどこまで通用するかは未知数だが、まあ、現実の鬱憤を晴らすぐらいには暴れて来よう。
『最後に、初期装備をお選びいただけます』
再び、仮想ウインドウが展開する。
こちらにはランクアップは無いようだ。
迷わず、スキルを取得した【アイアンスピア】と【革鎧】を選択。
『それでは、空を駆ける冒険の世界。コンステレーション クエスト オンラインをごゆっくりお楽しみ下さい。
どうか、星々の導きのあらん事を』
ナビゲータの声と共に視界が切り替わった。
◆
~【ハマル】 エリア:アリエス~
多くの旅人が訪れる街。
全ての航路はここから始まると言われている。
次に飛び込んできたのは、白と青の世界。
少し小高く広場の様になっているその場所からは、白い家々が立ち並ぶ町並みが見下ろせ、更にその先には真っ青の空が広がっている。それは、そう、まるでギリシャのミコノス島の様に。
遥か彼方には、雲の海の広がりが見える。
地平線、もしくは水平線。
そういったものが見えない、奇妙な光景であった。
広場からは、四方に階段が伸びていて、そして、俺と同じようにチュートリアルを終えたであろうプレイヤー達の姿がちらほら。
仮想ウインドウを展開し、町の地図を確認。
町の中を大通りが貫き、その北端に港、南端にフィールドへのつながるゲートが有るようだ。
まずはお約束の冒険者ギルドかな。
地図を眺め、そちらに移動を開始しようかと思った瞬間だった。
チュートリアルを終え、転送されてきたばかりのプレイヤーと目が合った。
ハルシュ Lv.1
筋力値:3
魔力値:3
敏捷値:3
装備:
【アイアンスピア】
【革鎧】
セットスキル:
├[1]【飛行】Lv.1
├[2]【槍】Lv.1
├[3]【回復】Lv.1
├[4]【観察眼】Lv.1
└[5]