日記帳
友人の物をリメイクして上げております。
もちろん許可は取ってます。
自分は随分長い間生きているのかもしれない。
幼い頃から欠かさず書き続けた大量の日記を見てそう思った。
自分はずっと日記を書き続けている。
きっかけはよく覚えていないが一日たりとも忘れたことはない。毎晩必ず書いていた。
書き始めた頃は冊数が増え、本棚を埋めていくそれらの様を見て、さすが俺様すげーなんて独り、本棚の前で頬を緩ませ(はたからみればさぞ不気味だったことだろう。だがそんな俺様もカッコいい)自慢気になったりした。
しかし、一つ目の本棚を埋めきり、二つ目、三つ目と増え、やがて自室に収まりきらない量になった頃にはもうそんな感慨もなくなったし、自分の生活スペースが減るものだからしかたなしに共に暮らす生真面目な弟に頼み、(我が家の管理はほとんど彼がしている。ホントに良くできた弟だ。それを育てた俺様すごい。)地下室に本棚ごと日記を移すことにした。それなりの広さがある地下室には、問題なく収まり、あとどれくらい生きられるかは分からないが恐らく、自分が死ぬまでの分は入りきるだろう。
この地下室に弟は入ってこない。
決して暗闇が怖いだとか、狭いのが怖いだとかそういうのではない。
別に自分としては最愛の弟に隠すことなど何もなく、というか人生の半分近く隣にいたのだから何を今更、といった感じであった。しかし、弟は自分が頼んだ時以外入ろうとはしなかったし、入ったとしても日記に触れようとはしなかった。まるで、何かを恐れているようだった。(そんな表情だっただけで実際何もない…はずだ。)
そんなわけで地下室に人が訪れるのは自分が年に一度、全ページを埋めた日記をしまうときだけで掃除なんてしていないに等しかった。
今日は休日で、珍しく何もすることがなく退屈していた。
そんな時ふと、ほとんど訪れることのない地下室はどうなっているのだろう、埃を被っているところがあるのではないか、まさか虫が涌いているなんてことは無いだろうかと不安になったので、どれくらいぶりかも覚えていないが、久々に日記をしまう以外の用で地下室を訪れることにした。
地下室は新月の夜のように真っ暗だった。
入ったらまずランプを手に取る。この部屋に電灯はない。なぜだかどうしても電灯をつける気にはならなかった。
ランプに灯をともしゆっくり部屋に視線をめぐらせる。
本棚にも日記にも埃が積もっている。それになんだかカビ臭い。ほっとかないで掃除すべきだった。
考えてみれば地下室の掃除をするのは自分ではないか。あぁ、骨が折れる。
それにしても凄い量だ。自分がこれを書いたと思うと少し誇らしい。
しかし、いくら日記が増えて生活スペースが減っても、燃やしたり捨てようとは微塵も思わなかった。
日記は自分の生きてきた道だった。証であり、人生そのものであった。
今まで様々なことがあった。弟や友人たちと過ごした楽しい日々や、死よりも苦しい地獄。
それら全てを日記は覚えているのだ。例え自分が忘れたとしても日記に記されている。
さて、今日はもう諦めようか。掃除をするような気分ではない。
ランプの灯が弱まり、そして消えた。訪れる暗黒と静寂に身震いを一つしてもと来た階段を登る。なにせ真っ暗なものだから足元がおぼつかない。
扉に手を掛けてなんとはなしに後ろを振り返って地下室を見渡した。
自分の歴史がひっそりと息をする地下室には、光なんて差し込んでこない。
唯一、少しばかり開いた扉から漏れた光が俺様を眩しく照らした。