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【1‐8】お兄様の護衛は心強いに決まっております

 お兄様が護衛の依頼を承諾すると、ジョンは顔を綻ばせて、お兄様の手を取り上下に振りました。


「いや、助かります。あ、勿論この分の御礼はしっかりさせて頂きますので」


 そこまでいって、

「では彼らの装備を集めてしまいましょうか」

とジョンも一緒になって盗賊たちから身に付けているものを剥ぐのを手伝ってくれました。


 流石にその間は娘のラリアには馬車の中で待っているよういっておりましたが、それでもやはり異世界、娘も死体を見ることにさほど抵抗はなかったようです。


「これで全部ですね」


 ジョンがかなり手慣れた手付きで装備品を剥がし集めてくれたので、それほど時間は掛かりませんでした。


 集まったのは剣や斧、鎧や懐に隠し持たれていたナイフといったところですね。

 

 ただ鎧に関しては胴体を離れ離れにした影響で多くは使い物にならなくなっております。


 腰から上で装備するタイプの物はまだ無事なようですが、元の質がそれほど良くないうえ手入れもされてなくてボロボロだったりするのが多いので、持っていけそうなのはあまりなさそうにも思えます。


「後は盗賊の部位回収とオークからも魔金が手に入るはずですね。あまり純度が高くないのが多いですが、お金にはなりますし冒険者ギルドであれば盗賊には掛かった賞金がオークの分としては討伐報酬が貰えるはずです」


 お兄様が魔金? と小首を傾げました。私は事前に糸の力で知っておりましたが、それはいえない話なので、一緒になって疑問の態をとります。


「あぁ魔金の事は初めてでしたか――」


 ジョンはそういうと、親切丁寧に魔金の事を教えてくれました。

 内容としては私が知ってたものとほぼ同じですが、オークの魔金が生まれる場所も一緒に説明してくれたのです。


 それによるとオークの場合は人間の心臓に当たる位置に、魔金が生成されるみたいですね。


オークは身体が両断されたのと首が飛んだのがありますが、死体に糸で触れてみると確かに魔金ができてるという情報とともに心臓の部分が淡く光りました。


 どうやらこの思念の糸で魔物の死体に触れれば、魔金の位置もわかるみたいですね。


 オークの身体から取るのは、ジョンがやろうとしましたが、今後の事もあるからと、お兄様が教えてもらいながら解体作業を行いました。

 

 そしてついでに盗賊の部位も回収です。場所としては指や眼、耳などを切り取ることが多いそうですね。

 髪などではギルドで判定ができないそうなのです。


 ただオークの解体でお兄様も慣れたようですね。躊躇うことなく盗賊の指を切り取っていきました。


 私もサポートは致しましたが、そのどんなことにでもチャレンジされるお気持ち! 素晴らしいです!






「これが魔金かぁ~」


 オークから取り出した魔金を眺めながら不思議そうにお兄様が呟きます。

 大きさはお兄様の手にすっぽり収まるほど。色は濃い藍色って感じですね。

 

 見た目にはかなりゴツゴツした岩という様相です。


「う~ん、この大きさと純度だとひとつ二〇〇〇ジルといったところでしょうかね」


 ジョンの言葉に、お兄様が瞳をまん丸くさせ疑問の表情を浮かべました。


「え? もしかして貨幣の事もご存じないのですか?」


「いえいえ。お兄様は価値にちょっと驚いてしまったようですわ」


 私は咄嗟にフォロー致します。一応高いのか安いのかというのもあるので、どちらともとれる言い回しにしておきました。


 そしてお兄様の耳元で、きっとジルは貨幣の単位ですわ、と囁きます。


 するとお兄様は納得したように顎を引きました。


「あぁ確かにそうですね。この程度だとふたつで街に宿一泊分ってところですし、オークの能力を考えればあまり旨味がないというのは良くききます。普通はオーク一体にEランクの冒険者ふたりは必要と聞きますしね。一応討伐金も貰えますがそれも魔金と同じぐらいらしいですから」


 ふたつでというと、街の宿は一泊四〇〇〇ジル程度ということですね。

 日本のビジネスホテルと同程度ですし、一円一ジル程度と考えても問題無さそうです。


でもお兄様からしたら雑魚なオークですが、実際並の冒険者とやらが相手して一体二〇〇〇ジル……討伐金含め四〇〇〇ジル程度なら確かにやってられないかもしれませんね。


 お兄様だからこそ楽に倒してしまいましたが、普通の冒険者がふたりでとなるとちょっと微妙です。


 そしてその後はジョンが集めた物を価値のあるのとないのに仕分けしてくれましたね。


「凄いな~よく判りますね~」


 テキパキと仕分けするジョンに、お兄様が感嘆の声を漏らしました。

 確かに中々の早さではあります。


「あぁ、私は仕事柄か、鑑定のスキルを持ってますからね。熟練レベル3程度ではありますが、これぐらいの装備なら価値が判ります」


 ジョンの回答に、

「へ~鑑定って便利だね」

とお兄様のテンションがあがりました。分けられた品を見ながら感心したように頷いております。


 それにしても鑑定のスキルですか……いいことを聞いたかもしれませんね。


 とはいえ、一応念の為、私も糸で仕分けされたものを確認します。

 疑いたくはないですが、ここは異世界。油断するわけにはいきません。


 お兄様の無垢なお気持ちを利用して騙すというつもりがあったなら、許すわけにはいきません。


 ですが、確かに鑑定された物は不要と分けられたものはただのガラクタでしたね。

 というか殆どガラクタのようです。

 持っていけるのも全部合わせて一〇〇〇〇ジル程度と何とも微妙ですね。


 ついでにジョンにも糸を絡ませ、能力などを確認してみましたが、レベルもステータス値も高くはないですが、確かに鑑定レベル3を持っていました。


 ちなみにそこから鑑定のスキルについて知ることも出来ました。

 熟練レベルが上がれば魔物のステータスも鑑定できるようです。


「あとこれは皆様でお持ちください」


 そういってジョンは私達に紙の束を渡してきました。盗賊達の身に付けていた腰巾着の中から出して来たものですね。


 それにしてもこれって――


「お金ですか――」


「はい。一ジル紙幣と一〇ジル紙幣、一〇〇ジル紙幣、一〇〇〇紙幣がこれと一〇〇〇〇はっとうん――全部で五万六二五〇ジルですね」


 手渡された紙幣はお兄様が受け取りましたが、不思議そうな顔をしてます。


「金貨とかではないんだね」


 確かにこういったファンタジーの定番は金貨や銀貨ですが。


「いやいや、盗賊が価値のある金貨や銀貨をわざわざ持ち歩いて襲撃はしないですよ。アジトにはそういったものもあるかもしれないですけどね」


 なるほど。この話しぶりだと金や銀は高価な物として取り扱われているのですね。

 

 逆に紙幣が流通しているということは、製紙技術はかなり高いという事でしょうか?

 みたところ魔法具などは普通に存在しているようなのでその影響なのかもしれません。


 ちなみに紙幣には恐らくはこの国の建国王か何かでしょうか? 厳格な雰囲気の感じられる人物がデザインされています。


 勿論これは紙幣によってちがいますけどね。王のようなデザインは一〇〇〇〇ジル紙幣ですが、他は城であったり湖であったりといった風景のような物も多いです。


「でも、これ全部なんていいのかな?」


 お兄様は相手に対して遠慮しているようですね。ご自分のことより相手の事を考えられるその御心! お兄様の徳の高さ故に成し得る事です。


 妹としてこれほど誇らしいことはありません。


「勿論です! 護衛の依頼などで特別な条件がない限り、盗賊などは倒した者が所有権を得るのが普通ですからね。私達は荷と命が無事だっただけで十分すぎますので」


 どうやらこの御方はなかなか人の良い方のようですね。あまり裏表もなさそうですが、商売人としてはどうなのだろうか? とちょっと不安に思ったりもします。

 余計なお世話かとは思いますが。


「それじゃあありがたく受け取らせて貰うね。本当にありがとうございます」


「いえいえ。あ、そういえばそのままだと不便ですよね」


 ジョンはそう口にした後、何かを思いついたように馬車の幌を捲り、中にいるラリアに何かを取ってくれとお願いしました。


「はい。良かったらこれをお使いください。うちで作ってるものですが頑丈さには自信があります」


 ラリアから手渡されたバッグを差し出しながら、ジョンがお兄様に告げます。 

 それはベルト付きのウェストバックで、それほど大きなものではないですが、小物を入れるにはちょうど良さそうなサイズです。

 紙幣を入れるには十分すぎるほどの大きさですね。


「何か色々申し訳ないような……」


「気にしなくても宜しいのですよ。実質私の出費などはこのバッグと皆様への依頼料ぐらいですし」


「いやいや! この上依頼料なんて受け取れないよ~」


「ですが護衛をして頂けるのに何もしないというのは――」


 お兄様のお気持ちは素晴らしいですが、ジョンも依頼は依頼としっかりとした考えをお持ちのようですね。それでしたら――


「お兄様、私にひとつご提案が――」


 





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