【エピローグ】愛しのお兄様と結ばれるために――
「あれ? 僕いったい――」
「お兄様!」
私はお兄様が無事目覚めたのを見て、思わず敬愛するお兄様の胸に飛び込み抱きしめました。
回復魔法に自信はありましたが、それでもやっぱり心配でしたからね……
「うわ! ちょ、ミサキ! どうしたのさ!」
「だって、だってお兄様――」
私は一旦お兄様の胸板に埋めていた顔をはなし、そして潤んだ瞳でお兄様を見つめます。
するとお兄様が少し頬を染め、照れたように顔を逸し頬を掻きました。
て、もしかしてこれは意識してくれて?
「てか少しは僕の心配もしてほしいものだねぇ」
「あ! ごめんピクスィー。でも無事で良かったよ~」
あ! お兄様の意識がボクっ娘に! むむぅ~大事なところで邪魔を~~!
「あ、でもあの魔神は一体どこに?」
「嫌ですわお兄様、お忘れですか? お兄様が倒したのではございませんか」
「えぇええぇええ! 僕が! いつの間に!」
「驚かれるのも無理はありませんね……お兄様気を失ったかと思えば、急に覚醒したように立ち上がり、あっというまにあの魔神ロデムを骨すら残らないほどに滅してしまいましたから」
勿論これは真実ではございませんが、本来のお兄様の力であればそうなったでしょうからね。
決して間違いではありません!
「ふぇ~魔神を倒しちゃうなんて本当お兄様は何者なんだい?」
「え、いや僕も正直覚えてなくて自分でも戸惑ってるんだけど――」
お兄様が困惑した様子でそんな事を口にしておりますが大丈夫です。
何せ流石のお兄様ですから、誰も疑うものなどいるはずもないでしょう。
何はともあれお怪我もないようで何よりなのです。
「そういえばお兄様こちらを」
私は魔神の残した黒真珠のような魔金を手渡します。そしてその事も一緒に説明いたします。
「こんな魔金僕も初めてみたな~でもなんてったって魔神から生まれた魔金だからね、きっと高価だと思うよお兄様!」
「うん、そうかもね~」
私達が黒水晶を眺めながらそんな事を話していると――
「待たせたね! 女の子たち! さぁこのガーグィンが来たからにはもう大丈夫だ!」
……入り口を塞いでいた岩が破壊され、中からあの馬鹿が現れましたね。
全く今更何をしにきたのやら……
「て、あれ? なんかゴブリンが全員死んでね?」
「……そうですわね感知魔法でも生きている魔物はいないと出ております――」
「て、おいおいマジかよ! あのゴブリンの大群をあいつらが?」
どうやら冒険者がギルドに助けを呼びに行って、この男が来たという形でしょうか?
ガーグィンの後ろに控えている冒険者達もざわめき始めましたね。
「う~んこれどうしよう?」
「そうですわね。放っておいて出てしまうのが一番かと思います」
「そうだね。こんな奴らと話す必要もないだろうし」
私達はそういって頷き合うと、今度はお兄様の身体に抱きつきました。
あのガーグィンという男に女ふたりが寄り添ってるように。
「な、なんか少し照れくさいけど」
「ピクスィー貴方がくっつきすぎですからお兄様が困っておりますよ。少し控えて下さい」
「はぁ? 別にいいだろ? ミサキこそ背が高いのにその体勢は無理がありすぎだろ?」
「あら、お兄様ならこれぐらいきっと平気です」
「だったら僕も平気だよね?」
「わ、判ったよ~じゃあしっかり掴まっててね」
「て! おい君たち! これはどういうことだ! この私ガーグィンを差し置いて――」
「ばいば~~~~い♪」
あの男が全てを口にする前に、お兄様は私とピクスィーを抱きかかえたまま一気に加速しガーグィンや取り巻きの女、そして冒険者の間を駆け抜け、一気に鉱山の入り口まで抜け――そしてあっというまにエクセスにまで到着したのです。
流石お兄様! 流石の勢いは留まることを知りませんね!
◇◆◇
ギルドに戻り、報告を終えた後は随分な騒ぎになってしまいました。
何せ魔神が現れそれをお兄様が倒したという事で、会議から戻ってきたという支部長にも呼ばれ色々質問されましたからね。
魔神が出た事自体が本当かどうか? という話でもあったようですが、あの変わった形状の魔金が証明になりました。
また戻ってからのピクスィーと私達の説明で、今回の依頼に関しての報酬は全て私達のものになることも決まりましたね。
ピクスィーをわざと閉じ込めた冒険者達に関しては、危機的状況だったとはいえ問題があるということで、何かしらの処分が下されるそうです。
結局浅知恵で身を滅ぼしたといったところですね。
愚かしいことこの上ないです。
でも私達の訴えが通じたことで、あの洞窟で倒した魔物の報奨金や魔金、そして素材なども全て私達で山分けという形になりました。
正直魔神の分も含めると相当な金額になってしまい使い道にこまるぐらいでしたけどね。
いや、でもこれだけあればお兄様と二人で暮らせる部屋を借りて暮らすというのも、うふふ――
そんな事も夢見つつ、一旦宿屋に戻ると噂を聞いたらしいリックエル親子も笑顔で出迎えてくれましたね。
とにかく凄いと驚いておりましたね。
ちなみに納品の件はなんとかめどがたったそうです良かったですね。
その後は――実は困ったことがありまして、私達の冒険者ランクが上がるという話があり、その審査が行われているとのことだったのですが、何せ魔神を倒してしまったお兄様です。
ギルドにいっても特にこれといって請けれる依頼もありません。
お金も相当たまってましたしね。
なので折角なので村に戻るというリックエル親子の護衛をしました。
ジョンはかなり恐縮してましたが、下手な依頼をこなすより顔見知りの方を無事村まで送り届けるほうがいいですしね。
勿論報酬も格安でうけました。タダでも良かったのですがどうしても払うとジョンはいってきましたからね。
ちなみに何故かピクスィーも一緒についてきました。
どうやらこれからも私達に付いてくるつもりのようです。
お兄様が何もいいませんし仕方ありませんが……でもお兄様に手を出すのは許しませんよ!
村までの護衛も特に問題なく終わり、折角なのでと色々持て成してもらいました。
街で約束していた奥様のケーキもご馳走になりました。お兄様も美味しそうに頬張ってましたね。
確かにほっぺたが落ちそうなほど甘くて極上のスイーツでした。
村では結局二日ほど厄介になってしまい、三日目に帰路につきました。
そしてエクセスの街に戻りギルドに顔を出した私達でしたが――
◇◆◇
「僕はあまり女性とは戦いたくないんだけどね……」
「なに、これはそんな大層なものじゃない。ちょっとした余興さ」
今私の目の前で銀色の随分と手の込んだ装飾の成された鎧に身を包まれた女騎士が愛しのお兄様と対峙しております。
なんでこんな事になったか……実はギルドに戻ってすぐにこの女騎士に声を掛けられ、ちょっと付き合え、等とかなり偉そうな態度で誘われたのです。
文句の一つでも言おうと思いましたが、隣にいた支部長にも大人しく従って欲しいと頼み込まれ、渋々この地下にある試練場まで下りてきた形です。
ちなみにここは、本来なら冒険者の登録に来た者の資質を試すためにあるんだとか。
そしてピクスィーは、なにか彼女の顔を見て固まってしまい、ここで待ってるよとだけいいついてはこなかったですね。
「さて、それじゃあ――いくぞ!」
声を上げ、女騎士が手持ちの細身の剣をお兄様へと突き出します。
かなりの速さですね。これで余興ですか?
まぁでもお兄様がそれを喰らうわけもありません。
軽々と避けると大きく踏み込み剣戟を浴びせます。
ですが女騎士はそれを剣のガードの部分で受け止めました。
むぅ! 生意気ですね!
それから暫くお兄様と女騎士の攻防は続きました。
どちらの攻撃も身体にあたることはなく、避けたり刃と刃が重なりあったりしながら、戦いを演じ続けます。
ですがそれから一旦お互いが間合いを取ると、急に女騎士の方が剣を下げて見せました。
「ふむ。いや判った十分だありがとう。なるほどね――」
顎を押さえ一人で勝手に納得したように頷きます。どういうつもりでしょうかね全く。
「あのこれって一体?」
お兄様も目を丸くさせて不可解といった感じに訪ねます。当然ですね。
「な~に余興だといったろ? まぁとりあえずこれで上に戻ってくれて構わない。あぁだがギルドからは出ないでくれ、あとで少し話がある」
女騎士の言葉にお兄様も、はぁ、とだけ返しそして踵を返します。
私もその後に付いてこの場を去ろうと思ったのですが――
「あっと、ちょっとまってくれ。確かミサキといったかな? 君だけはちょっとここに残って欲しい」
「え?」
「ミサキに何かあるの?」
思わず私が声を返し、お兄様も怪訝そうに問い返します。
「何、女同士ちょっとね。駄目かな?」
「……判ったよ。じゃあミサキ僕は先に上がってるね」
「え? あ、はい。私もすぐにもどりますので――」
なんでしょうかね。本当はお兄様のお傍を片時に離れたくはありませんが、相手が相手だけに無視というわけにもいかなそうです。
それに――何か妙な感じがしましたしね。
「それで、私にようというのは?」
彼女と対峙し、私がそう問いかけると、サラサラの金髪を撫で上げ、ふむ、と漏らし――かと思えばいきなり私の首を目掛けて本気の突きを放ってきました。
「……一体どういうつもりですか?」
「ほう、私のこれを片手でうけとめるとはな」
「……ギルドマスターともあろう方がちょっと洒落にならないのでは?」
私は瞳を尖らせ目の前のギルドマスターを睨めつけます。
糸で調べていたから判ってましたけどね。彼女はこの王国の存在する冒険者ギルドを統括するギルドマスター――だからこそ支部長も妙に畏まっていたわけです。
「怖い顔だな。ほんの冗談さ。それにしても私の正体にも気づいていたとはね。支部長にも言わないようにいっておいたし、あのピクスィーも私の願力で気づいてくれてたようだが」
「逆にそれで判りましたので」
「そうなのか? てっきり迷い人の能力の一つかと思ったんだがね――」
「……一体どこまで知っておられるのですか?」
「ふむ、別に特別に何かを知っているわけではない。ただ迷い人というのは大体なにか特殊な力を持っているらしいしな」
……中々食えない方ですね。
「私の能力についてはどうやって知ったのですか?」
「うん? それも勘だ」
「はぁ!?」
私は思わず素っ頓狂な声を上げてしまいました。
勘って……いや確かに糸で調べてもこれといったスキルは見当たりませんでしたが。
「まぁでも私の勘はよくあたるからな。心配はしていなかったぞ」
そういってけらけらと笑い出します。
なんでしょうかねこの人……
「まぁいい。これでふたりとも合格だ。お前たちは晴れて冒険者としてSランクに昇格されることになる。良かったな」
……Sランク? そういえばランクが上がるための審査をしているとは聞いてましたが、これがそれだったというわけですね。
「それを見るために、わざわざマスターが自らやってきたのですか?」
「あぁ勿論それもあるがもうひとつ。お前たちにはこれから王都に来てもらう」
「……随分と唐突ですね」
「冒険者なんてものはそんなものだ。それにどうせここではもう請けれる仕事はないだろう? それとも嫌か?」
何か意外そうな顔で訪ねてきてますけどね。
「私の決めることではありません。お兄様のご判断に私は従うだけですので」
「ふむ、なるほど、随分と変わった兄妹だな。まぁよい、それなら一緒に上に戻るとしよう。何君のお兄様とやらはこの話を必ずのむ筈だ」
……何か自分の思い通りに必ず事が進むと思ってそうな方ですね。
ですがお兄様がそんな簡単にいくとおもったら大間違いなのです!
「うんわかった! 王都にいくよ!」
……承諾されてしまいましたね。
「よろしいのですかお兄様?」
「うん。だって元の世界に戻る方法は王都の方が見つかる可能性高いんでしょう?」
「その通りだ。王都にはここよりも巨大な王国図書館があり文献もかなりの量を誇る。それに私にあつまる情報には本来表に出ないようなものも多い。王都にくるならその情報を優先的に提供してやろう」
「だって! よかったねミサキ!」
「え、えぇ、そうですわね……」
ふぅ、どうやらこのマスターが随分と自信をもっていたのもこのことがあったからのようですね。
それにしてもお兄様はまだ元の世界に戻ることを諦めてはいないご様子――
とはいえ、お兄様が王都にいくというなら私もそれに従うまでですわ!
それに――王都というからにはきっと私とお兄様が暮らすにふさわしい住居があるはずです! 元の世界に戻るための情報というのが気になるところではありますが――
ですが仕方ありませんね! こうなったら今後もお兄様の事を必死にサポートしつつ……元の世界に戻ることだけは全力で阻止してみせます!
愛しのお兄様とこの世界で結ばれるために――
おわり
この物語はこれで完結となります。
一応は切りの良い所で終了させたつもりではありますが、不満に思われる読者様がいらしたなら、すみません私の力不足です。
申し訳ありません……




