【2‐9】お兄様と緊急依頼に出向きます!
朝起きてみるとピクスィーがいませんでした。
宿屋の宿主の方に聞くとなんでも他の冒険者が話をしているのを聞いて直ぐに出て行ってしまったとか。
そして言伝てで、ちょっと緊急で僕は朝から出るから伝えておいて、と頼まれたという話でしたね。
よくわかりませんがリックエル親子と朝食を取った後、学園に向かうふたりを見送り、お兄様と私はギルドに向かいました。
「あぁ! ショウタさんミサキさん! 丁度良かったです!」
ギルドに入るなり昨日の巨乳受付に声を掛けられました。
一体何でしょうか?
「実は緊急クエストが発動してまして。ここから南のポパイ鉱山に大量のゴブリンが発生したんです! ピクスィーさんも朝から向かってますが、あんまり様子が芳しくないようで――」
緊急ですか? そういえば依頼には時折そういうのがあるとも聞きましたね。
成る程それでピクスィーが朝からいなかったのですね。
「本当はおふたりにも真っ先にお知らせすべき案件だったのですが、建前上ショウタさんとミサキさんの冒険者ランクはEになってまして、他の職員が気づかなかったようなのです。支部長も今日は会議で留守でしたし私もいまさっき来たばかりだったので――」
なるほど逆に言えばそれぐらい厄介なトラブルってことですね。
「すみません来てもらってそうそう申し訳ないのですが向かって貰ってもいいですか?」
「勿論だよ! ピクスィーもいってるなら急がないと!」
流石お兄様の豪胆さは弁慶すら凌駕いたします!
◇◆◇
「ここが鉱山の入り口だね~」
街をでて二時間ほど進んだ先の山の中に鉱山の入り口がありました。
いかにも洞窟! て感じの入り口ですね。
そこをお兄様が先頭を切って歩き出します。
隧道の壁には魔法灯が設置されているのでそれなりに明るいですね。
そして直進して数百メートルほど進んでいくと――
「あれれ~どうしたの~?」
お兄様が不思議そうに声を上げました。
私達が抜けたのは学校の教室ぐらいありそうな空洞で、壁際には椅子や机がおいてあります。
どうも元々は鉱夫の休憩所みたいな雰囲気もある場所ですが、今はそこに大勢の冒険者が固まっているのです。
鉱夫は逃げてるでしょうから判りますが、冒険者は依頼をこなさなければいけないはず……なのにこれは?
「なんだまたギルドで依頼受けた連中か」
「だからいってんだろ? さっさとギルドに戻って報告しようぜ。こんなの俺らじゃ無理だぜ」
冒険者達が口々になんか妙な事をいってますね。
それに彼らの先に見えるのは――
「ねぇ? なんでそっちに抜ける道が塞がってるの?」
そうです。確かに彼ら冒険者が固まってる正面は、もともと奥に進めそうな横穴の面影が残ってますが今は土砂で塞がっております。
「それにピクスィーの姿がないね~。ねぇみんなピクスィーのことはしってる?」
「「「「…………」」」」
これは、なんでしょう? 全員俯くようにして黙ってしまいましたが。
「皆さんこの様子だと知ってますよね? 彼女は私達にとっても知らない仲じゃないのです。教えて頂けませんか?」
冒険者達へ順番に視線を向けながら私が問いかけます。
ですが反応がありません。
「言い方を間違ったようですね。教えて、頂けますね?」
今度は語気を強めて問い詰めます。
すると一人がどこかオドオドした瞳をみせ、周囲に首を巡らせました。
そして目線を逸らせたまま固まって。
「あ、あの女が悪いんだ――」
そうぼそりと呟きましたね。
「悪い? どういうこと? ピクスィーが何かしたって事?」
「べ、別にそういうわけじゃねぇけどよ。でもあのミニマイト、力が制御できねぇじゃねぇか」
「そうだぜ。ひとりで勝手に張り切ってたのはいいけどよ、中にはゴブリンが一〇〇〇匹近くいるんだぜ」
冒険者のひとりの言葉に、え!? とお兄様が目を丸くさせます。
というか一〇〇〇匹ですか……それは確かに数だけで見れば多いですね。
「それによぉ、中にはボブゴブリンなんかもいやがるんだ。ゴブリンよりもデケェしレベルがたけぇ。あんなの大勢……相手にして勝てるわけないぜ」
「まさか、それで彼女を置き去りにしてきたとかではないですよね?」
「だから仕方ねぇだろって! とりあえずあの大群を表に出さねぇことが最優先だったんだ! その為には魔法でこの入口を崩して塞ぐ必要があった!」
「この隧道はここしか出入口がないしな」
「なので一旦引き上げて私の土魔法の力で落盤させ、入り口を塞いだのです」
杖を持った男がそんな事を得意そうにいってますけどね――
「あんたらだってそこまでいえばわかんだろ? あのピクスィーってのが魔法を打ち消しちまうのは有名な話だ。あんなのが一緒にいたら魔法で入り口をふせげねぇ……」
「……それでピクスィーを、見捨てたの? 自分たちが助かるために、彼女の命を犠牲にして逃れようとしたの?」
お兄様が顔を伏せ、肩をプルプルと震わせてます。
正直お兄様がここまで怒りを露わにしているのは、私初めて見たかもしれません。
「だから他の街の為でもあんだって。俺達だけが助かるためってわけじゃねぇよ。それにあいつだって一応は女だ」
「……女だからなんだというのですか?」
私はこの冒険者風の情けない連中を、汚物を見るような目で見ながら問いかけます。
「だ、だから奴らだって女とわかれば暫くは殺しやしねぇよ。何せ繁殖に持って来いだからな。それで相手してもらってりゃ暫く時間も稼げんだろ? あの女にゃ悪いが所詮俺達と違うミニマイトだ。魔物にヤラれたからってどうってこと――」
その瞬間――洞窟内に激しい揺れが発生しました。
ついでに土煙が上がり、お兄様の足元の地面が砕け放射状に亀裂が走っております。
「……もういいよ。それ以上は聞きたくない」
静かな、それでいて全てを滅殺してしまいそうな声音でお兄様は連中に向け忠告しました。
それでもその薄汚い口を動かしてたなら、お兄様の代わりに私が滅していたところですね。
「ミサキはここで待っていて――僕が」
「嫌ですお兄様。私もついていきます!」
「でも……」
「それにピクスィーは私にとっても大事な仲間ですから」
私を振り返ったお兄様が心配そうに眉を落としますが、ここでお兄様ひとりをいかせるわけにはいきません。
一応前の晩徹夜して初級魔法を改良し、お兄様限定という条件をつけたことで常時発動型強化魔法を付与し、能力値を四〇〇倍まで引き上げてますが、それでもやはり不安です。
「お兄様――」
私は眼で自らの決意を訴えます。
「……判ったよ。でも無理はしないでね」
「はいありがとうございますお兄様」
「て! おいおい勝手に話を進めんじゃねぇよ! ど、どういうつもりかしんねぇが、塞がった入り口はあけねぇからな!」
クズの一人がお兄様にむけてそんなくだらないことを言ってきますが。
「別にいいよ。勝手に空けるから」
「はぁ? 勝手にって何を――」
そう男が言った瞬間、ドゴォオオォオン! という轟音が鳴り響き、入り口にポッカリと穴が空きます。
お兄様の拳によってですが。
「あ、あぐぁ、あ、あ、あ――」
驚きのあまり連中が金魚のように口をパクパクさせてますね。
まぁ、なんちゃって冒険者はそこで仲良く震えていればいいでしょう。
お兄様と私は唖然とする冒険者は放っておいて鉱山の奥へと進んでいきます。
隧道は結構入り組んでる感じもしますね。
トロッコの為の線路も拝見できます。
ですが足跡からある程度足取りは掴めました。
それを追っていくと途中二〇匹ほどのゴブリンの群れが襲いかかってきましたね。
緑色の身体をして身長は私より低いです。耳がとんがっていてギョロ目。
レベルは一〇と宿屋で絡んできたバトルバトルアックスの男と同程度あります。
そう考えたらあの男本当に大した事無いですね。
なんて事を考えてるとお兄様が斬り込んでいき、あっという間に二〇匹が四〇に変わって地面に倒れ動かなくなりました。
全て一刀両断という感じです。流石お兄様! お兄様の見事な太刀筋は名だたる剣豪すら軽くあしらわれる程です!
でも私の糸なしでもここまで、いえ、これこそが本来のお兄様の力なのは紛うことなき事実ですが、少し寂しいですね――
とはいえお兄様の真剣な表情、す・て・き。
「ちょっと急がないとね。ピクスィーの事が心配だよ」
「左様ですわねお兄様」
一応そうは返事しましたが、ここまでお兄様に心配されるピクスィーが少しうらやましいのです。
とは言え、とりあえず横穴を更にふたり突き進んでいきます――
◇◆◇
「畜生! やめろ~~放せ、放せこら! あ、へ、変なところ触るな~~~~!」
「グギェ、グギェギェ!」
「グギャ~、グッギャ~」
「ひっく、い、嫌だよおぉ、こんなの。こんな奴らに汚されるなんて、僕まだしたこと――ひっく……」
……いきなりとんでもない現場に遭遇してしまいましたね。
いえ探していたピクスィーがいたのはいいのですが、両手両足を多数のゴブリン達に押さえつけられて、胸当ても無理やり剥がされ、緑色の手が身体中を触りまくってます。
中には一体、ゴブリンよりもでかいのがいますね。あれが恐らくボブゴブリンでしょうが、これまたやたら興奮した感じでなんというか変なものを剥き出しにしてそそり勃てています。
……私正直まともにみるのは初めてですが……とはいえ放っておいては彼女の操の危機ですね。
いつもは強気なボクっ娘がボロボロと涙を地面に滴らせております。
流石に同じ女として見るに耐えません。
「ピクスィーから離れろぉおおお!」
と、思っていたらお兄様が一足早く敵の集団に突っ込んでいきました。
「ひっく……て、え? お、お兄様?」
ピクスィーが目を丸くさせてその視線をお兄様に投げかけます。
その時には気勢を上げたお兄様の剣が、彼女を押さえつけていたゴブリンどもの腕を全て斬り落としていました。
「グギャァアアアアアギィイイイ!」
緑色の血を撒き散らしながら、腕を斬られたゴブリンが床を転げまわります。
そこへ私は初級魔法のフレイムショットで追い打ちをかけました。
この空洞は広いので、半径五メートルの外側からでも十分魔法による攻撃が可能です。
魔法書を読んで覚えたという体ですので、あくまで威力は初級に沿ったものですが。
とはいえゴブリン程度ならこれでも充分すぎますね。
私が放った炎の弾丸は一直線にゴブリンの頭を狙い打ちバラバラに砕きました。
炎に包まれた頭蓋の残骸がふたりの周りに広がります。
それを次々と繰り返し、残ったゴブリンの群れも炎に包まれ滅されました。
そしてゴブリンが殲滅されたところでお兄様がピクスィーを引き起こすと、ボブゴブリンが狼狽し、醜悪な鳴き声を発し後退りし始めますが――
「よ、よくもこの野郎ぉおおぉお!」
ピクスィーが地面に落ちていた自分の武器であるマンゴーシュを拾い上げ、そして声を上げながら、その……なんというか雄にとって、とても大事な箇所を切り落としました。
「グギェギャギィイイユィイイイイギイイィイイイーーーーーーーー!」
この世のものとは思えない絶叫を上げ、ボブゴブリンが絶命しました。
お兄様の顔がすっかり青ざめてしまってます。
あんな物を見せられては当然ですね! お兄様も相手が憎むべき魔物とはいえ、同じ男ですから……えぇお兄様も勿論そういった物をその、そ、備え付けてるわけですし……た、多分にあんなのよりも立派でお美しいものを――
「――はぁ、はぁ……う、うぅう、うぇええぇんお兄様~~~~!」
て、へ? ボブゴブリンを倒したかと思えば、ピクスィーがお兄様を振り返ってその胸に飛び込んで、押し倒して――えぇえぇえええぇええ!?




