【2‐4】お兄様との楽しいお食事を邪魔するなど許されません!
「遅かったね? 何かあったのかい?」
私が席に戻り水の入ったコップを其々の前に置いて行くと、ピクスィーが不思議そうに訪ねてきました。
……基本的には彼女のせいでもあるんですけどね。まぁそれを言っても仕方ありませんが。
「そういえば何か悲鳴のような声が聞こえていた気がしたよ~、男の声っぽかったからミサキではないと思ったけど」
「はい。何か席で言い争ってる方がいたのでそれかと」
お兄様ににこりと微笑みそう伝えます。
余計な心配は掛けたくありません。
「喧嘩ですか? 物騒ですね普段はあまりみないのですが……」
ジョンが不安そうに眉を顰めましたが、もう終わったみたいですから大丈夫ですよ、と伝えて安心させます。
「喧嘩は、めっ! て、いつも村の皆も言ってるよ~」
ラリアが両手をパタパタさせて教えてくれました。むぅ可愛らしいですね。
まぁでもとりあえず席に戻る前に厄介事は片付きましたしね。
後は料理を待つだ――
「ちょっとあんた!」
……何かどこからか剣呑な声が響いてきましたね。もしかして本当にどこかの席で喧嘩でも始まりましたか?
まぁすぐ後ろから聞こえてる気もしますが――
「あんただよあんた! 聞こえてんだろ! そこの黒髪の! 不細工な紐みたいなのつけてりゅ、ぐぶぇ!?」
不細工な紐? 滅しますよ? これはシュシュといって、お兄様が私のためにプレゼントしてくれたものです。
てかこの女誰? 思わず席から飛びだして床に叩きつけてしまいましたが、褐色で赤髪で鎧を着てますね。女戦士ですか? でもどうでもいいですね。決めました滅します。
「うごぉ? ふぁ! へ? ちょぎぇ!」
五月蠅いですね、ちょっと黙ってて下さい。
あぁそうだ舌を斬りましょう。武器は持ち歩けないですから置いてきてますが、やろうと思えば手刀でも斬れま――
「お! おいおいおいおい! ミサキストップ! ストップ! 何してんのちょっと!」
何ですか。ピクスィーが私の隣にきて何か喚いております。
何ってちょっとこのお……はっ! しまったつい我を忘れてしまって――
私は直ぐに彼女の上から飛び跳ね立ち上がり、お兄様を伺います。
少し呆けてしまってますね――まずいですね誤魔化さないと……
「ご、ごめんなさい何か魔物がいたような気がしてつい反射的に――」
「はぁ? いや、こんなとこに魔物がいるわけないだろ!」
確かにピクスィーのいうとおりちょっと苦しい言い訳だったかも……というかそもそもこの女誰なんでしょうか?
「いやその、だって肌が黒ずんでましたし」
「あぁ成る程確かにそう考えると魔物に見えなくもないですね」
ジョンが席に座ったまま私に少し同意してくれました。
ナイスですジョンさん!
「て! 誰が魔物だこらぁ!」
あ、起き上がりました。てか一々声がでかいですね。流石に他の席の客達も注目し始めてきました。
まぁ迷惑というよりは好奇の目で見てきてる感じではありますけどね。
「くそっ! 油断したぜこの野郎! てめぇやるってなら容赦しねぇぞ!」
……さて、困りましたね。ついお兄様から頂いたこれの事で本気で滅そうかと思ってしまいましたが、冷静に考えれば流石に見ず知らずの相手を憂いな目に合わせようとしたのはどうかしてました。
怒るのも無理はないのかもしれませんが――
にしてもこの人はそもそも誰なのかって話ですね。一方的に敵意をむき出しにされてる感じです。
そもそも見ず知らずの相手に失礼な物言いはそれはそれでどうかと思いますし。
「その娘ミサキの知り合いなの~?」
はっ! お兄様に質問されてしまいました! た、確かに流石に魔物と思ったって説明だけでお兄様ともあろうかたが納得するはずもないのですが――
「ふん、馬鹿言うなよ。俺がこんな女と知り合いな筈がないだろ!」
……てかこの女、一人称が俺ですが……口調も粗暴ですし中々残念な方ですね。
よく見ると顔はそこまで悪く無いと思いますが、その口調のせいで台無しです。
大体俺っ娘って誰得なのでしょう?
「てか知り合いじゃないなら一体何のようなんだよ」
「うっせぇ腐れミニマイトは黙っとけや!」
……ピクスィーの眉がピクリと跳ねて不機嫌を露わにしましたね。
それにしても……種族差別ですか。そういうのはこの世界にもあるのですね。
それにしても醜いですね。やっぱり先ほど滅しておくべきでしたか。
「ねぇピクスィーは僕達の仲間なんだ。そういういいかたやめてくれないかな?」
なんと! お兄様がピクスィーの肩をお持ちに……まさかお兄様ピクスィーの事が! ……落ち着きましょう。
そうではないですね。そして流石お兄様です一度旅を共にした者は決して放っては置けないその仲間思いのお気持ちは、仲間といっておきながら馬車に入れっぱなしで決して出そうとしない歴代の勇者を凌駕する素晴らしさです!
「はぁ? なんだこのチンチクリン……」
その瞬間私の人差し指が女の眼球を貫きました。
「うぎぇ! ぎょ、みぇ、みぇがぼぉ!」
そして私のすくい上げるような右掌底で顎を砕き、そのまま舌を抜き去ります。
「ひょりぇ……ひゅおれ……」
今更後悔しても遅いですね。
私は止めに首筋に手刀を叩き込み、その頭蓋を床に転がし最後に思いっきり踏みつけ粉々に砕いてやりました。
お兄様、私の大事なお兄様を侮辱したのですから、この方はこれぐらいの覚悟はしておくべきでしたね。
――本来ならですが……
「何ひとりでブツブツいってんだお前? 気持ちわりいな」
くっ! この粗暴で見難くて品性の欠片も感じさせない女にそこまでいわれる筋合いはないんですけどね――
私は思わず歯噛みしてしまいながらも、彼女に目を向けます。
「私のお兄様に向かってその言い草はないのではないのでしょうか?」
私は引きつった笑みを浮かべ、目の前の不逞な輩になんとか気持ちを押し殺して告げました。
瞬時の内に頭の中で今のような妄想を五千回ぐらいおこないましたがとても足りません。
ですが流石にここでそのような行いは無粋というもの……食事にも影響がでますしね。
「は? お兄様? こんなちんちくりんが? 嘘でしょう?」
くっ! 沈まれ私の破壊衝動!
「アンナこんなところで一体どうしたんだ?」
ふとそこであの俺っ子の背後から声が聞こえてきました。
て、うん? この声、確かさっき――
「あ!? ガーグィン様~」
ガー……そうです。確かさっき一応私を助けてくれたあの男ですね。
そしてこのアンナとか言う女。ガーグィンとか言う男に駆け寄ったかと思えばいきなり首に腕を回して抱きつきましたね――てか、その横にも神官衣というのでしょうか? 裾のやたら長いローブに身を包まれた金髪の女が彼の左腕に自分の腕を絡め寄り添っていますね。
どういう関係か知りませんが、神に仕える身の者がこんなふしだらな事でいいのでしょうか? いや実際に神官かは判りませんが……て、糸でみたらやっぱ神官でしたね。
というか称号が色呆け神官でした。いろいろ突っ込みたくなります。
「おお! 君はさっきの美少女ではないか! いやぁ奇遇だねぇ」
……はい? いやこんな狭い……といったら少々失礼でありますが、あまり広くもない食堂で奇遇も何もないと思いますが、頭は大丈夫でしょうか?
「うん? それにしてもアンナ。お前はなんでこの娘のところへ?」
「それは勿論ガーグィン様の為ですよぉ~」
なんですかね。さっきまでの荒っぽい口調と打って変わっての猫なで声。ガーグィンという男の胸元に指を擦りつけながら上目遣いで、正直気持ち悪いです。
「おいミサキ。こいつら一体なんなんだよ?」
ふと、いつの間にか私の横まで来ていたピクスィーが囁き声で訊いてきます。
でも、正直私にもよく判りません。
「そこの女がさぁ~ガーグィンに助けて貰ったのにあんな失礼な態度を取るから~あたし~一言いってやろうと思ってぇ~」
そういう事ですか――まぁ確かに少しあっさりした感じに終わらせはしましたが、一応お礼はいってますしね。
それに――この雰囲気だと厄介だと感じた予感は普通に的中って感じです。
「それにしてもガーグィン様はお戯れが過ぎますわ。こんなどこの田舎から出てきたかもわからないような芋女をお助けになるなんて、放っておけば宜しいのに」
「はは。馬鹿をいっちゃいけないよ。仮にもS級冒険者のこの私が、困ってる女の子を放っておけるわけがないじゃないか」
アンナとかいう女の肩に置いていた手を掲げるように持ち上げて、その毳々しい金髪を掻き揚げましたね。
それ一々かっこいいと思ってやってるのでしょうか?
「ねぇ。助けたって何? ミサキに何かあったの~?」
え? あ! お、お兄様まで私のすぐ横に! そ、そんな、まさか私を心配して……はぅん! 嬉しすぎて心臓がねじまがりそうです!
と、とはいえここはしっかり説明しないといけませんね。本当はあまり心配を掛けたくなかったのですが――




