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【2‐3】お兄様と食堂にてあんなことやこんなこと……

部屋の確認を終え、魔物の血で汚れた服を脱ぎました。

 この世界でもインナーは上下ともに普及しているようで、勿論しっかり購入しましたのでそちらも替えてしまいます。


 そして上からはアイボリーのドレス。

 ドレスと言ってもお城の舞踏会に行くような大袈裟なものではなく、部屋着として使えそうなラフなものです。


 そして部屋を出るとお兄様も着替えを済ましてリックエル親子と一緒に待っていてくれました。


 私が出るとほぼ同時にピクスィーも出てきましたね。

 彼女も上は着替えたようです。

 ただ選んだのが今まで着ていたのと殆ど変わらないのであまり変化は感じません。

 

 お兄様は裾が肩口より少し長いぐらいの白シャツ。

 そして麻のパンツです。

 シンプルですがだからこそお兄様という一流の素材の持ち味が生きてきます。

 あまりに素敵で発情してしまいそうでしたがそこはグッと抑えます。


 ちなみに汚れた服は、部屋の洗濯をお願いするようの籠にいれておくと有料では有りますがやっておいていただけるそうです。

 チェックアウトした後でも出来上がりから三日以内は預かっていてくれるとか。

 こういったサービスは気が効いてますね。


 そしてお互いが確認しあった後、私達はぞろぞろと一階の食堂に向かいました。


 踊り場を経て下に降り、受付のカウンターを素通りして反対側の食堂に向かいます。

 特に壁で仕切られてもいないので、カウンターを通りすぎて数歩進めば食堂のテーブルが並んでいます。


 テーブルは全て円卓で、木製のチェアが四脚並んでますが、向かって両側の壁には予備の椅子が置かれているので、必要ならそれを持ってきて補う形なのでしょう。


 私達はリックエル親子、お兄様、ピクスィー、そして私の五人ですので、お兄様が気を利かして椅子を一脚持ってきました。


 流石お兄様! どんな時でも率先して自らが動く! その行動力は一度に大量のラインを把握し行動する工場長も仰天するほどです!


「お兄ちゃんありがと~」

 

 お兄様が椅子を用意し、更に、はいっ、と椅子を引いてあげたのでラリアが笑顔でお礼をいいました。


 うぅ、私も引いてもらいたいです――ですがピクスィーもジョンも座ってしまっているのに私だけ待ってるのは明らかに不自然……はぅ諦めます。


「席はいっぱいだね~」

 

 お兄様が食堂を一度見回すようにしてからいいました。

 確かに私もそれに倣いますが席は埋まってます。


「でも部屋の数にしては食堂の席数は少ないかもしれませんね」


 ジョンから聞いた話ですが、この宿は二階と三階にそれぞれ六室ずつ、一階には四室で合計一六の部屋があるそうなのですが、食堂には丸テーブルが六卓しかありません。


 つまり私達を除けば、埋まってると言っても五卓だけです。


「スペースの問題もありますからね。それにここの食事は部屋に持っていて食べるのも可能なので、それを考慮すれば足りなくなることはそうはないみたいです」


 なるほど……そういうことですか。

 どうりてテーブルに座っている人たちはみんな私達のような団体のわけです。


 ひとりで食べるというお客さんは部屋に持って行って食べるという事なのですね。

 

「まっ、商人系の客なんかは夕食を抜きにして料金を少しでも安くさせたりとか考えてたりもするからね」


 ピクスィーが補足するようにいいましたが、ちょっと商人という仕事の人を蔑んでるような雰囲気も感じられますね。


「あ、勿論あんたの事を悪く言ってるわけじゃないからね! あんたは商人といっても少し系統が違うしな。僕が言ってるのは金儲けの事しか考えてないような強欲な商人連中のことだよ!」


 ……弁解するのはいいのですがちょっと声が大きいですね。


「ピクスィーさん、私は気にしてませんから――」


 そういって微苦笑を浮かべるジョン。その後ちらりと他の席を伺いました。

 私もみましたが……他の客の顔が怖かったですね。

 どうやらしっかり聞こえてしまっていたようです。

 

 因みに席の中には、護衛の冒険者らしき人たちが一緒に食事を取っているところもあります。

 鎧を着て武器を腰で吊るしたり背中にしょったりしてる連中ですしほぼ間違いないでしょう。


 そしてなんとなくの沈黙です――ピクスィーもしまったって顔してますねぇ全く。


「みんな急に真面目な顔して黙っちゃってどうかしたの~?」


 沈黙を破ったのはお兄様です。あえて惚けた感じで場を和まそうというそのお気持ち素敵です! 素敵すぎます!


「あ、そういえばお水まだだったねぇ~僕持ってくるよ」


 はっ!? そういえば確かに、ここはお水はセルフサービスです。

 ですがこれ以上、そんな細かな事でお兄様のお手を煩わせるわけにはいきません!


「お兄様はどうぞお座りになっていてください。私がとってまいりますので」


 私はすっと立ち上がり、水差しのある場所まで歩いていきます。

 お兄様がありがとうといってくれました――それだけでこのままスキップしてしまいそうです。


 けれど――妙に視線が痛いですね……まぁ何でなのかは判りますが。


 まぁいいです。私は水差しの置いてある台に近づき人数分のコップとトレイを取り出します。


 水差しはキッチンの近くの一番端の台においてあります。お兄様達が座っているのは食堂の一番手前の席なのでわりと手間ですね。

 途中に他の卓を挟んでいるので最短でいくにはその間をすり抜ける必要があります。


 ですがピクスィーのおかげで視線が痛かったですしね、やはり私が来ていて良かったです。


 それにしても――遠巻きからみるお兄様の背中も素敵です。

 まるで父親のように頼りがいがあって、何でしたら背中を見ているだけで数時間持ちそうです。


 とはいえ流石にそうもいかないですしね。あらためてトレイの上にコップを置いていきます。

 両方共木製ですね。やはりガラスは高価なのでしょうか? ただ部屋の窓などはガラスのようでしたが。

 

 ……考えてても仕方ないですね、私はとりあえず水差しから水をコップに注いで――うん、これでよしっと。


「おい姉ちゃん」


 と、何か影が私と台の上を覆いましたね。

 何かが近づいて来てる気配は感じてましたが……


 とりあえず私は先ず顔だけ振り返り、その厳つい顔を目にした後で、首から下を追わせました。


 私のすぐ後に立っていたのはガタイのいい、この世界でいうなら戦士風の男です。

 まぁ風というより戦士でしょうけどね。


 身体には鋼鉄で出来た鎧、関節部は鎖で動きやすくしてるタイプなのでプレートメイルといったところでしょうか。

 糸を出してみますが、まぁほぼ正解で正確にはプロテクトプレートメイル。

 

 魔金の力でより防御能力を高めた鎧みたいですね。

 こういったのは魔法装具というそうですね。

 魔力をフルに蓄積してる状態であれば一週間効果が続くそうです。燃費がいいですね。

 

 そして脚には同じように鋼鉄製のグリーヴ(具足)を付けております。

 これは普通の装備品のようですね。


 そして背中からちらちら見えるのはバトルバトルアックス――


 ……確かにバトルバトルアックスですね。

 これは別にステータスの武器名が間違ってるというわけでもなさそうです。

 説明によると彼の特注品らしく、銘は、このいかにも頭が悪そうな脳筋がつけたようですがなんでしょうかね?

 

 バトルに更にバトルを付けたら強そうとでも思ったのでしょうか? 頭痛が痛いみたいなすごく間抜けな雰囲気を感じます。


 まぁそんな私を見下ろすぐらいにはデカイ筋肉バカが、何か睨みつけるようにしてきてますけどね。


「おい姉ちゃん」


 いや、二回いわなくても聞こえてますが? 振り向いたのはそれに気づいたからですよ。

 それともバトルバトルアックスみたいに同じことを二回いわないと気がすまない質なのでしょうか?


「てめぇはあの連中の仲間か?」


 いきなりてめぇ呼ばわりですか……失礼にも程がありますね。誰も見てない状況ならその時点でその頭の悪そうな名称の斧ごと滅するところです。


「てめぇはあの連中の仲間か?」


 ……何でしょう、凄くイラッとくるのですが。

 というかそんな事いちいち訊くことですかね? 貴方が目で示してる席から私は来てるのですよ?


「……今は一緒に旅をしてますわね」


 とりあえず面倒なのでそうとだけ言っておきました。お兄様のことを口にするだけでも汚らわしいですし。


「そうか、だったらよく言っておけ。あまりなめた口聞いてんじゃねぇぞ、とな」


「……まぁ言うだけ言っておきます」


 正直失礼極まりない男ですが、ここでことを荒立てても仕方ないでしょう。 

 まぁ普通に只の馬鹿ですし、伝えてすむならそれに越したことはありませんね。


「そうか、だったらよく言っておけ。あまりなめた口聞いてんじゃねぇぞ、とな」


 ……やばいですね、今多分私そうとうイラッとした表情を見せてます。


 まぁとにかくこんな馬鹿な顔はさっさと忘れて席に戻り、お兄様の素敵なお顔を拝見しお口直し致しましょう。

 

 そう思ってすぐ私はトレイを持ったまま男に背を向けます。


「待て」


 ……なんなんでしょう一体。


「待て」


「何ですか」


 ちょっとだけ語気を強めに私は振り返りました。このまま無視してもいいのですが、そうすると席までやって来てしまう可能性があります。


「……お前中々いい女だな。依頼主も喜びそうだ、ちょっと付き合え」


「嫌です」

 

 私はきっぱりと断りました。それこそ嫌悪感を明らかにした瞳で、蔑むようにみやり、心の底から嫌だと目で訴えました。


「……お前中々いい女だな。依頼主も喜びそうだ、ちょっと付き合え」


「嫌だといいましたよね?」

 

 てかなんなのですかこいつは? 何か特定のキーワードを言わないと同じことしか言わないとかですか? ロープレのモブキャラですか?


「いいからちょっと来い」

「きゃっ!」

「いいからちょっと来い」


 ……この男、お兄様以外の男に触れられるだけでも嫌だというのに、更にこんな頭の悪そうな脳筋ゴリラが私の腕を――


 思わず小さくですが声を上げてしまいました。全く高々レベル10の分際で……いい度胸――


「いい加減にしておくんだな」


 て、え? 何か金髪のこの脳筋に比べたら細身の男性が隣に来ましたね。


「誰だよてめーは。いきなり現れて好き勝手言ってんじゃねーぞ!」


「誰だって? みてわかんないか? あんたと同じ同業者だよ」


「誰だよてめーは。いきなり現れて好き勝手言ってんじゃねーぞ!」


 ……いや、彼今応えましたよね?


「ガーグィンだいいからその手を放せ」


 ……どうやらこのガーグィンという方は私を助けようとしてくれてるみたいですね。

 私としてはどうせ助けられるならお兄様のほうがいいのですが……ただこんな脳筋馬鹿相手にお兄様が手を汚すのも耐えられませんしね。

 

 勿論私がもっと大きな声で悲鳴を上げていれば駆けつけてくると思いますが、やはりそれは正直どうかと思いますしね。


「なんでてめぇにそんな命令されなきゃいけねぇんだ?」


「いいから放せといっている」


「なんでてめぇに、いて! いてててててぇええぇえ!」


 私を助けにきたつもりらしい男は、また二回言おうとした脳筋の腕を捻り上げて、私から手を放させましたね。

 

 汚らしいモブ脳筋の腕が私から放れたのは素直に喜ぶべきことかもしれません。


「判った! 判った! ちょっと生意気だったから懲らしめようと思っただけだ! だから放してくれ!」


 ギリギリとガーグィンに腕を締めあげられて悲鳴を上げる脳筋――こういっちゃなんですが情けないですね。

 筋肉だけで強そうに見せていても所詮レベル10ですか。


「ふん。私は女に失礼な態度を取る男が許せないたちでな」


 言って彼がその捻り上げていた腕を放します。

 パッと脳筋が距離を置き、痛そうに腕を擦りながらガーグィンに目を向けます。


 随分とキツイ目つきですね。まだ何かするつもりなのでしょうか?


「判った! 判った! ちょっと生意気だったから懲らしめようと思っただけだ! だから放してくれ!」


 と、思ったら両手を翳すようにしながら左右に振り謝罪の言葉を述べ、そして面目なさ気に去って行きました。


 ……謝罪の言葉が全く同じでしたけどね。正直既に放してましたし。


 まぁとはいえ助けられたのは確かです。

 この方に御礼ぐらいはいっておくべき――


「ふっ、いやぁ災難だったね君、大丈夫かい?」


 ……なんでしょうか、この方お兄様に比べれば遥か彼方ほど落ちますが、まぁ平均モブ系男子に比べればそこそこ良い方の顔立ちをしています。


 ですが――わざわざ自分の髪を大げさに掻き揚げ、片足を引いて半身の体勢を取り、顔も斜め45度から一番決まってるポーズだと思ってるらしい佇まいを装っての発言。


 正直気持ち悪いですね……自分に酔ってる感じがそこはかとなく感じられます。


「はい大丈夫です。ありがとうございます。助かりました」


 とはいえ助けて頂きましたから、お礼はいって置く必要がありますね。

 でもこれ以上こんなところでのんびりもしていられません。


「いやいやお礼なんて当然の事をしたまでさ! ところで君はここで泊まってるのかい? よかったら――」


「もうしわけありません。席で人を待たせてますので、助けて頂いたのは感謝しております。それではさようなら」


 なので私はとにかく最後にひとつ述べ、改めて頭を下げ、そして直ぐ様踵を返し立ち去ります。


「え!? ちょ! それだけ!」


 何か聞こえますが無視です。何かいおうとしてましたが、正直これ以上話しても厄介な事になるだけの気がしてなりません。

 ですからそれだけで、さよならなのです――

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