【2‐2】お兄様と一緒のベッドに――はぅん!
このエクシスの街は噴水の街というだけあって、この街全体で六ケ所噴水が設置されています。
そしてその数が示す通り噴水は各地区に一箇所、大体其々の区画の中心部に存在します。
外側の噴水に関しては線で繋ぐと五芒星のような形になりますね。
そんな中、今私達が話をしているのはこの街の中心地にあたる中央広場です。
ここにやはり噴水があり、定期的に上空に向けて水柱が上がっております。
それは中々見事なものです。噴水は中心のメインの噴出口とは別にアクアブルーの水晶像が敷設されています。
この石像は尾の部分が魚のようで一見人魚のようですが、ジョンの説明によると水の精霊ウンディーネを模したものだそうです。
メインの噴水の傍に美しい容姿のウンディーネが寄り添い尾を噴水の外側に投げ出してる形ですね。
そのウンディーネの水晶像は数カ所設置されておりますが、どうやら像の中は水が中を流れる仕組みらしく、尾の部分から水路に流れ、それが各地区の住居や店舗の水道として利用されてるそうです。
それにしても本当に見事で、かなりの水量が高く高く吹き上がってますね。
ジョンの話でいくと像の部分で水は分岐されてる筈なのですが、それでも十分すぎるほどの勢いがあります。
これがこの街が噴水の街と言われる所以でしょうね。
ちなみに動力に関しては勾配を利用したものでも魔法によるものでもなく、どうやらこの街の地下深くには古代から存在する地底湖があり、更にここにはこの像の元となったウンディーネが多く存在し地底湖の水を間欠泉のように吹き上がらせてるそうなのです。
そしてその地底湖が存在するのが合計六ケ所、つまりこの噴水の設置された位置の真下に存在するということみたいです。
ウンディーネはこの六ヶ所を順番に回って水を吹き上がらせてるそうですね。
本当なんとも幻想的なお話です。流石魔物がいて魔法が存在する異世界ですね。
それにしても……流石噴水の街というだけあって拘りがあるのか、魔法具の光で噴水が綺羅びやかにライトアップされております。
そしてその噴水の様子を感慨深そうに見上げるお兄様。
はぁお兄様と噴水の華麗なる調和――いえ、寧ろお兄様のほうが素敵すぎて噴水のほうが霞むほどですね。
この世の全ての景観は所詮お兄様の引き立て役にしか過ぎません。
寧ろお兄様には少々物足りないぐらいです。
「おいおい、噴水が珍しくて見惚れるのは判るけど、早く宿に向かおうぜ」
ピクスイーがせっつくように言ってきましたね。まったくせっかちな娘です。
情緒というものに欠けていますね。
そして勘違いしないで欲しいですが、確かに噴水も綺麗ですが私はお兄様に見惚れていたのです!
「うん、そうだね~いこうかミサキ~」
「はいお兄様♪」
お兄様がピクスィーに返事を返しつつ、私にも笑顔で声を掛けてくださいました。
勿論私はお兄様と一緒ならどこまでも付いていきますわ。
「それでは皆さん馬車にどうぞ商業地区まで向かいますので」
私達はジョンに促されて再度馬車に乗り込みました。
ここエクセスの通りは、馬車道と人の歩く歩道とにしっかり分かれております。
何分広い街ですからね。
私達のいた世界のバスに値する馬車も存在しているようです。
街専用の乗合馬車といったところですね。
お金は取られるので冒険者なら基本は歩くけどな、とピクスィーはいっておりますが、お兄様がお疲れの時には利用するのもいいでしょう。
まぁ今はジョンの馬車があるので、その必要はないですけどね。
◇◆◇
「よかったです丁度ここの部屋が空いていて」
宿が管理している厩に馬車を預け終え、戻ってきたジョンが笑みを浮かべながらいってきました。
ジョンが選んだ宿は【水場の商い亭】という名称の宿場で、南西街区の西門から中央広場に伸びているメイン通り沿いに位置しております。
建物自体は木造三階建ての、立派でもなくだからといって質素でもない普通の宿といった感じなのですが、名称にあるとおり商人御用達の宿でも有り、馬車も預けておける広い厩を抱えているのが特徴だとか。
安い宿などでは各部屋の鍵の作りすらいい加減ということも多いようですが、この宿は厩の管理もしっかりしていて、鍵は勿論の事、使用人が定期的に見回りもしてるそうでジョンみたいな方には評判がいいそうなのです。
そういった理由があって、この宿をいつも利用していたらしいですね。
それにジョンが今回私達にお願いしたように商人の方の場合は護衛の冒険者も一緒に泊まるという場合も多いので、冒険者お断りということもありません。
ちなみに馬車を預ける前にお兄様と私で新しい服の方を何着か購入させて頂きました。
宿代は一泊ひとり四〇〇〇ジルで、とりあえず二泊でお願いしたのでお兄様と私で一六〇〇〇ジル使用しましたが、それでもこれから素材を売却したり、報奨金や討伐金の事も考慮すればまだまだ全然余裕があります。
おまけにジョンがかなり値引いてくれたので、お兄様と私で其々上下四セット程を購入出来ました。
そしてピクスィーもどうやら着替えが心許なかったようで内服を何着か購入してましたね。
彼女の場合上背がないので子供用のを選んだようです。
後の羽はどうするのか気になりましたが、ピクスィー曰く自分で加工するそうです。
何せミニメイトというのは割りと珍しい種族らしく、専用の服などは置いてる街は殆どないんだとか。
しかも特注でお願いすると、やたら高値を付けられるので自分で加工するようになったそうです。
特殊な作りのものが割高になるというのはどこの世界も似たようなものなのですね。
そして、とりあえず馬車の件も片付きジョンがチェックインを済ましてくれた後は、部屋の鍵を受け取り揃って二階に移動します。
其々の部屋の前では部屋割りを決めましたが、正直いうと……リックエル親子以外それぞれ個室というのが残念でなりません。
私はお兄様と一緒でも良かったのですが……お兄様が別々でと言ってしまったので、私としては従うより他ないのです。
はぅ、一緒の部屋で過ごしたかったのに――
「まっ、部屋はみんな同じみたいだね」
部屋も決まり、ピクスィーがまず私の部屋を覗きに来てその後ふたりでお兄様の部屋も拝見しに向かいました。
「でも十分だよ~普通にホテルみたいだし~」
お兄様が、貴族も思わず平伏してしまいそうな高貴な笑顔を湛えいいました。
その言葉にピクスィーが、ホテル? と不思議そうな顔してますが、誤魔化す程でもないですし放っておきます。
それにしても確かに見た目には普通のホテルですね。
魔道具のおかげで明かりもとれてますし、ベッドもマットにシーツの掛けられた私から見てもごくごく一般的なものです。
しかも部屋にはトイレとお風呂もしっかり用意されてます。
噴水の水を利用し水道を引いているのは聞いておりましたが、ここまでとは思いませんでした。
何せ蛇口の上に触れると水やお湯が出ます。
しかも浴槽もありシャワー付きです。異世界を少々舐めていましたね。
これでテレビとネット環境があればもう私達のいた世界と何も変わりませんけどね。
でも流石にそれはありませんでした。
ただ、部屋としてはお兄様が宿泊するには少々手狭でしょうか? でもお兄様はその寛大な心でしっかり受け入れているようです。
流石お兄様ですね。流石がシャワーから溢れお兄様の身体を洗い讃えてくれております。
……それにしても――私はそっとお兄様が眠るのであろうベッドに近づき、その感触を手で確認いたします。
少し、固めでしょうか……腰を傷めないか心配ですね――
サイズは、当然ですがシングルサイズです。
でも――私は例えシングルサイズでもお兄様と一緒であれば平気です。
それに狭小なベッドであればそれだけ密着度も増します。
当然お兄様が私の上に……いえ勿論お兄様がお望みであれば私が上でも――いや、そんな――駄目ですお兄様! まだ、まだそんな、それにこのベッドではギシアンと隣に、あ、そこは、だ――め……
「何が駄目なんだい?」
はっ! し、しまいましたのです――私とした事がつい夢想の彼方へ……というか声に、出て?
……横を見るといつの間にか隣に立っていたピクスィーが、目を細め意地の悪そうな笑みを浮かべながらこちらをみています――
あ、あぅ、マズイです、顔中から炎が吹き荒れそうなほど恥ずかしいです! こ、こうなったら滅して証拠いんめ……
「ミサキ~大丈夫~?」
はぅ! お、お兄様が怪訝な顔で私を! あ、あぅ、あぅあぅあぅうぅう!
「お兄様の大事な妹さんは、どうやら腹が減ってぼ~っとしちゃってたみたいだぜ」
「え? そっか~確かにそうだよね~じゃあ準備したら食堂に行こうよ~ジョンさんも夕食がつくっていってたしね」
「え? あ、はい! そうですわねお兄様!」
私はそう回答しつつほっと胸をなでおろしましたが……ピクスィーが感謝しろよって目でこっちをみていますね……
うぅ、何か弱みを握られてしまったかのような気分なのです――




