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【1‐21】お兄様と旅の再開なのです

 お兄様とピクスィーが戻られた時は、ジョンもかなり驚いておりました。

 何せ時間にして一五分とかかってなかったみたいですからね。


 お兄様からしてみれば大したことのない魔物でも、ジョンからしたらレベル18の魔物をこんな短時間で倒して、素材まで回収して持ってくるなんて考えられない事だったのでしょう。

 

 実際最初は狩りに失敗してたのではないか? と思ってたぐらいのようですからね。


 戦いの詳細はその後お兄様とピクスィーから聞きました。

 と、いっても大体の事は糸の情報で判ってましたけどね。


 それにしても一緒に同行したピクスィーもかなり興奮してましたね。

 真空斬の事は話には聞いていたみたいですが、あんな威力のものだとは思っていなかったと。


 尤もそれもお兄様の力あってこそのものですけどね。


「流石ですお兄様! 流石が咲き乱れて辺りに流石の香りを充満させてますわ!」


 私は当然話を聞いた後、胸に溢れた気持ちを賞美の言葉に変えてお兄様の凱旋を祝しました。


 ピクスィーが変な顔をしてましたが、彼女には私達兄妹の深い愛情などわからないのでしょうね。


 そしてお兄様とピクスィーが持ってきた蜜袋には、流石のジョンも興奮した様子で、拝むようにして眺めながら、袋の中から発せられる匂いを堪能してました。

 

 私も嗅いでみましたが、確かに匂いだけでも甘みが伝わってくるほどの芳しさでしたね。


 採れたてのはちみつよりも更に凝縮されたような深みを感じさせてくれます。


 この蜜袋はビグルネベンスィーツの壺形の胴体の底面近くにあったようで、死んだ後に生まれる魔金と接する場所にあったようですね。


 その為、蜜袋を取るにはまず魔金を切り取らなければいけないのですが、それが中々繊細な作業を要するようで、失敗して蜜袋の主脈を傷つけると全てが台無しなんだそうです。


 その為、その切り取り作業はピクスィーが行ったそうですね。どうりでお兄様に動きがないと思いました。


 さて、これで無事蜜も手に入ったわけですが、ピクスィーによると取り分にはまだまって欲しいとの事ですね。


 何せ元々が依頼有りきの話なので、この蜜袋はこのままの状態で先に依頼主に届けないと話にならないんだとか。


 まぁ今ここで蜜を出しても入れるものが無いですしね。

 なのでピクスィーは持参の折りたたんであった袋を懐から取り出して、それに蜜袋を入れて馬車の中に運んでいきまいた。


 その後のお兄様の話では魔金は私達にくれたそうです。協力したお礼のつもりのようですね。

 いいところもあるかと思えば、ジョンの話だとビグルネベンスィーツの魔金の価値は五〇〇〇ジル程度なんだそうです。


 本来なら命がけの仕事で五〇〇〇ジルというのも微妙ですね。

 まぁ今回はそれとは別に蜜も頂けるとのことですし、いいのですが――






◇◆◇


 馬車での移動を再開してから、ピクスィーは随分とホクホクした顔で妙に饒舌にもなりました。

 

 まぁ元々お喋り好きな感じではありましたが、それに輪をかけてうるさくなったって感じですね。


 それは別に構いませんが、ただ私としてはお兄様に後はのんびりお休みいただきたかったのですが、そう上手くはいきませんでした。


 やはりここは魔物の多い森なのですね。

 頻繁に馬車がとまり魔物との戦いを余儀なくされてしまいました。


 相手はマッドドッグの場合も多かったですが、他にもガバリン等もまた出てきたりもしました。


 本当は私がちょっと殺気でもばら撒けばそれでせめて来ないのかもしれないのですが、実はこれをちょっと試してみたところ、馬も怯えることが判ってしまいました。


 それにピクスィーも反応を見せてる辺り、動物やある程度の実力をもった冒険者の前ではあまり使えないですね。


 しかたがないのでここはもう虱潰しって感じです。


 それにしても……特に尤も襲ってくるのが多かったのは――


「お願いします!」


 ジョンの緊迫した声に反応し一斉に私達は馬車から飛び出しました。

 馬車は既に動きを止めております。

 

 そしてピクスィーは馬車の左側面に私は右側面にお兄様は急いで前方に回りこみました。


 正直私は、また……、という気持ちでいっぱいですが、ジョンが慌てた様子で声を掛けてきた時にはあらわれる魔物は決まっております。


 そしてこの時ばかりはジョンも御者台に座ってじっと耐え忍んでる形です。

 へたに動いて襲われても厄介ですからね。


 そして段々とその耳障りな羽音が近づいてきました。

 右も左も正面側も頭蓋に響くような高音域のこれにはやはりなれません。


 そして音が最大にまでなって届くと同時に藪の中から羽音を響かせた群れが飛び出してきました。

 私の方は一〇匹ぐらいですか。

 ピクスィー側も同じぐらいと思いますが、お兄様の方が少し多いようです。


 こうして私達の目の前に姿を現したのは――キラーワスプ、魔虫系に属する蜂型の魔物です。


 この魔物は大人の掌ぐらいのサイズがあり、二本の鋸状の顎を備え獲物を見つけると容赦なく襲いかかってくるぐらい獰猛です。


 そしてキラーワスプは実は先程から一〇匹程度の群れで何度もやってきてまして、これが本当に厄介というか面倒なのです。


 何せ蜂としてみれば明らかに大きいといえるサイズですが敵として相手をするならば矮小で戦いにくいサイズです。


 おまけに結構すばしっこいというのもあり、レベルは6と決して高くはないですが、普通に剣を振っても攻撃をあてずらいのです。


 とは言えこれも私がレベルを抑えてる状態の話です。

 ある程度上げた状態なら剣を振った衝撃だけでも簡単に倒せてしまいます。


 もっといえば拳を繰り出すだけでオッケーなのです。


 そして実際私はこの蜂に関しては糸だけでなくその衝撃波も活用いたしました。

 勿論お兄様との位置関係も重要で、場合によっては糸も巻きつけます。

 

 この辺は私も結構たいへんではありました。

 何せレベルを上げた状態だと皆の知ってる私のレベルだとあり得ない倒し方になってしまいます。


 下手したら一撃でこのキラーワスプを殲滅してしまいますし。


 なので適度に苦戦する振りをしながら、お兄様の方をまずサポートし、殲滅させます。


 素早い魔物に直接お兄様の刃が触れることはありませんでしたが、それはそれで本来であればたとえ当たらなくてもその衝撃だけで滅せられるはずなので、そのように私が拳による衝撃波や糸で粉々に砕いてしまいます。


 それをお兄様の動きに連動させるようにして終わらせた後、私はレベルを落として一匹ずつ相手にしていくのですが――


 私が五匹ほど滅したところで、投げナイフが到来し残りのキラーワスプを串刺しにしてしまいました。


 それをやったのは……ピクスィーです。

 どうやら向こうは既に片付いて手伝いに来てくれたようですね。


「まぁミサキにはまだまだこの魔物は手強いみたいだね」


 むぅ……ドヤ顔で言われてしまいました。

 確かに今回は数も多かったですがレベルを一気にあげておけばこんなの……いえ止めておきましょう言い訳がましいですね。


 それにしてもそもそも何故これほど頻繁に襲われるようになったかといえば、このキラーワスプが甘いものに寄ってくる性質があるからなんですけどね。


 本来夜は活動しないそうなのですが、あの蜜袋のおかげで滅しても滅してもやってくるという始末なのです。


 つまり原因を作った張本人はこのピクスィーでもあるんですけどね。


 それにしても――おかげでお兄様も眠い眼を擦りながら戦い続けなければいけなくなりました。

 あぁお労しい……本当に許せません。

 

 あまりに腹ただしく、思わずこの森ごと滅してしまおうかしら? と思ってしまったほどです。


 尤もそんな事をしてしまえば、逆にお兄様に迷惑がかかる事は目に見えてますのでしませんでしたが――とにかく蜜袋を手に入れてからのほうが大変だったのは確かです――


 まぁとりあえずは魔物が片付いた後は素材集めに勤しみます。

 このキラーワスプは魔金も小さく純度も高くないので、一匹から取れるのは五〇〇ジル程度でしかないらしいですが、数はありますからね。


 それにこの尾に付いてる針は素材として取り引きされてるそうです。

 加工して裁縫に使える針とするそうです。


 まぁそれにしたって、一本二〇〇ジルとかそれぐらいですが、場所を取らないのでこれはそのまま持って行くことが可能です。


 ちなみに何本かはジョンにもお譲り致しました。何せ大量に襲ってきましたからもう素材の本数は一〇〇近くになります。


 魔金と合わせれば七〇〇〇〇ジルぐらいですか。塵も積もればといいますが、中々馬鹿にできない金額になってきましたね。


 そして私達は再び馬車にのって移動を開始しました。


 その後も何度か魔物に襲われ、その度に退治してました。


 そして森の三分のニあたりまですすんだところで、川の流れる音が耳に届きます。

 どうやら馬車の進行方向を横切るように川が存在するようです。


 そこには一応橋も掛かってるのですが魔物が多い森でまともな物は掛けられないようで、随分と簡素な橋なようです。


 その橋を慎重に渡り、そして再び馬を駆り、馬車を走らせると、そこからの魔物の襲撃は随分と落ち着きました。


 これで一安心ってところですね。あとは馬車で駆け抜ければ長かったこの森からもようやく抜けることが出来ます――

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