【1‐1】お兄様と異世界へ来たのです
本日二度目の更新です
ここは一体――?
瞼を開けると澄み渡る蒼空。頭が少しぼ~っとする。
記憶が覚束なくて若干の微睡みもまだ残っていますが、とにかく何が起きたかを思い出そうと頭の中を整理する。
そうだ! と私はその場で上半身を跳ね起こしました。確か突然の地震、そして足元に現れた穴に吸い込まれ――お兄様!
私は思わず顔を巡らせ、お兄様の存在を確認致します。
「いた――良かった――」
お兄様は私のすぐ隣で仰向けになり、穢れを知らない幼子のような寝息を立てていました。
素敵――思わず頬に右手を添えうっとりとその姿を眺めてしまいます。
このままいつまででも見ていられそうですが、とりあえず状況を把握しなければいけません。
お兄様を起こすのはもう少し待ちましょう。
折角の睡眠を邪魔してはいけません。なぜここで私が倒れ、お兄様が寝ているのかは判別付きませんが、それをハッキリさせるのもお兄様を愛す私の努めでございます。
私はやおら立ち上がると、周囲を観察するように眺め回しました。
今私とお兄様がいる場所は一面が草や花で覆われた草原。
基本的には平坦な地形ですが、左を見るとそれなりに緩急のある翠の丘と目端には森、右をみると緑の絨毯の向こう側に微かに見える山脈、そして山脈側の方から続く道のようなものも視認できます。
その道は途中で私から見て左右に別れ更に続いていました。分かれ道までは目算で大体一〇〇メートル程だと思います。
私からみて左に続いている道は草原の中を緩やかに蛇行するように続いていますね。
右手に続く方は途中なだらかな傾斜を下っていく形です。
そこまで確認して私は顎に指を添え思考を巡らします。
今の私の格好は、あの地震の時と同じ学校帰りの制服です。襟が白黒のストライプで生地色は白の半袖セーラー服に首元から赤いネクタイ。
スカートは太もも半ばぐらいまでの長さのもので色は紺。
頭に触れてみましたが、お兄様の為にと伸ばした黒髪をチェックのリボンのシュシュで末端をまとめた状態を保っていました。
良かったです――このシュシュは私と買い物にいった時にお兄様が似合いそうとプレゼントしてくれたものです。
私にとっては生命より大切な物なのです。それが紛失していなくて本当に良かった――
私は一頻りシュシュの感触を確認した後、お兄様に顔を戻します。
そしてお兄様もやはり制服姿で、黒のスラックスに白の半袖開襟シャツ、ネクタイの色は一学年私より上のため青となります。
カバンはあの穴が開いた時に手を離してしまったようで、私もお兄様も持っておりませんね。
おかげで携帯電話も財布もない状況です。
確かお兄様も普段は鞄の中に入れてあるはずなので同じかもしれません。
ただあったとしても役に立つかは判りませんが――そうぼんやりとですが、今の状況が理解出来始めているのです。
でもそんな事が本当に? という思いも強いのです。
お兄様が好きで私も読むようになった漫画や小説、そして時には一緒にもプレイしたゲーム――
こうしたサブカルチャー作品群の中で使われる設定における、異世界転生や異世界転移など――今の私の状況はまさにこの物語の内容に酷似するでしょう。
可能性としてはこれが夢であるという事も考えられますが、試しに腰を落として草花に触れてみると感覚ははっきりしています。
ありきたりですが頬を抓っても痛いですし、鼻孔をつく青臭さも夢のソレとは違いますね。
正直これが夢である可能性は低いでしょう。
ここまでで私も、なんとなくここが予想通り異世界ではないかという考えに行き着いてきました。
でもそうなるとここはひとつどうしても試しておかないといけないことがあります。
……正直少しだけ恥ずかしい――お兄様が寝ていて良かったです。
それでも私がしっかり検証しないと。
「す、ステータス!」
恥ずかしさを押し殺して叫んでみます。これで何もなかったら正直ショックが大きいのですが――
結論でいうとステータスは現れました。ただ思っていたのとは違って、画面が空間に出てくるのではなく、私の脳内にイメージとして浮かんでくる感じです。
さて、私はその頭に浮かんだステータスに集中してみます。
ステータス
名前 ミサキ タカギ
種族 人間?
年齢 16歳
性別 ♀
称号 全てを滅せし全能の戦乙女
レベル 72(1E68)
物攻 185(1E68)
魔攻 172(1E68)
体力 178(1E68)
魔力 168(1E68)
敏捷 205(1E68)
精神 250(1E68)
永続スキル
・言語理解
・賢女の心得
アビリティ
・パーフェクトライヤー
・マインドスレッド
・スペックチート
・ステータスコントロール
・オールウェポンマスター
・トラップマスター
・パーフェクションキリング
――え~と、とりあえずどこから考えていいか迷いますね……
とりあえずはレベルが72……私の知る限りこれはかなり高い気がしますが、その横の1E68とは一体――いえ普通に考えれば、いや、でもいくらなんでも――
※()の中はステータスで収まりきらない為の単位表示。
て! え? 急に頭に補足見たいのが浮かんで来てまいりました。
それによると、まさかと思ったことが正解だったようですが――1E68ってそれ無量大数なのですが――
つまり私のレベルは72無量大数って事ですか? 意味がわかりません。
更に物攻は128無量大数とか……正直信じがたいのですが――というか種族が人間? て何で疑問符が、失礼にも程が有ります。
うん、とりあえずわからないことは後回しにしてスキルとアビリティというのから検証していきましょうか。
そう思って其々の名前に注目して詳しく知りたいと思うとまた補足のようなものが現れてきます。
永続スキル
言語理解
・言語を理解できる。
※基本的には人型限定。
賢女の心得
・文字を解読し本や書物を読むことで知識として蓄え即座に実行できるようになる。
・触れたものについての情報が瞬時にあたまにはいるようになる。
アビリティ
パーフェクトライヤー
・生物やアイテムの名前や数値などを別の物に偽装可能になる
※偽装対象が使用者本人であれば好きに数値や称号、スキル、アビリティなどをいじれる。
※偽装対象が自分以外の生物、アイテムなどの場合用いれる数値は自然数のみ。
※偽装対象が自分以外の生物、アイテムなどの場合付け加えられる称号・スキル・アビリティは最大で総合十個まで。
※偽装対象が自分以外の生物、アイテムなどの場合数値は最低は〇最大は元の数値の千倍まで。
マインドスレッド
念じることで自分以外には不可視の糸を作り出す事ができる。
※この糸で触れたものに中身がある場合開かなくてもその内容を知ることができる。
※賢女の心得との組み合わせが可能。
※糸を生命体に絡ませることで自由に操作できる。
※伸ばせる長さは最大四百メートル、一本の指に付き一本出せる。
スペックチート
使用者の魔法やスキルなどの効果を自由に改変できる。
※永続スキルとアビリティは改変できない。
※スキルや魔法によって変更限界値が存在するので注意が必要。
ステータスコントロール
使用者本人のステータスを自由に制御できる。
オールウェポンマスター
この世界の全ての武器を完璧に使いこなす。
トラップマスター
あらゆる罠に精通し、設置から解除まで全てを完璧にこなす。
パーフェクションキリング
狙われたら最後、絶対に逃げることは出来ない。
……なんかとんでもないですね。他にも固有スキルという名称で、剣術・弓術・暗殺術等々前から私が嗜んでいた術も入っていますね。
そしてそのどれもがマスターとなってます。もうなんていってよいか判りません。
とはいえ自分の力は知っておく必要がありますね。
それにしても無量大数とは一体どの程度なのでしょう? さっぱり検討もつきません。
とりあえず私は体の向きを変えて、あの丘陵を視界におさめます。
お兄様の好きな漫画(勿論私も好きです)を思い浮かべて、私は目に映る丘に向けて、軽~く拳を突き出してみました。
とはいえこんな漫画やアニメみたいな事ありえるわけがありま――ドゴオオオオォオオオオン!
…………丘が――吹き飛びましたね。
私が拳を軽くつきだした方向に向けて地面も抉れてますね。水さえ流れれば、ちょっと大きめの川になってしまうぐらいに抉れてます。
そして丘が消えて、もうもうと土煙が上がってます。上りの丘だった筈が、谷みたいになってます。地面にぽっかりと巨大な穴が出来てしまってます。
――相当軽くやっただけなのですが……漫画流にいうと、1%の力も出していないのですが……丘が吹き飛んでしまいました――
……考え方を変えましょう。地形を変えてしまいましたが、きっと異世界ではこれぐらいの天変地異はごくごく当たり前でしょうし、それに先に調べておいて良かったです。
自分の力に気づかずにお兄様に触れていたら大変な事になってしまいました。
うん、とりあえずステータスコントロールで力を押さえましょう。
でもスキルはどうつかえばいいのでしょう? あ、説明が出ました。どうやらステータスを出して数字をいじれば良いだけみたいですね。
他のスキルも数字を変えるのは全て共通してそうです。とりあえず単位を取っ払う事にしました。レベルも72あればとりあえず十分でしょう。
さて、後は気になるのはこのマインドスレッドですね。確認できる形で発動できるのはこれぐらいですし、ちょっと試してみましょうか。
私は両手を広げて、糸を伸ばす姿をイメージします。感覚的には前に映画でみたヒーローのイメージです。
すると其々の指から一本ずつ、赫灼と輝く細い糸が飛び出しました。
正直かなり目立つ糸ですが――でも不可視ですから、他の方にはきっとみえないのですね。
私はその糸で軽く地面をなでます。糸を通して土と草の感触が伝わってきました。
糸で巻きつけた草を抜くこともできました。
どうやら自分の意思で絡めたりは出来るみたいです。これで相手を縛ったりも出来そうです。
さて、重要なのはもうひとつ賢女の心得との組み合わせですね。確か触れた物の情報を知ることが出来るとありましたし。
あたしは改めてお兄様の方へ身体を向けます。
はぁ、ウットリするほどこの景色にマッチしております。
お兄様がその場にいるだけで、今眼前に広がる景色はまるでモネの絵画を彷彿とさせます。
いえお兄様の前ではそれすら霞みますわね。
この平凡で何の特徴もない異世界の風景に、お兄様という存在がそこに鎮座するだけで、ここまで映えるとは、やはりお兄様は偉大です。
そんなお兄様に、スヤスヤと眠ってらっしゃるお兄様。あれだけの轟音と振動にもかからわず全く動じない豪胆さも流石です。
そうそんなお兄様に本当に申し訳なくもありますが、私はこの思念の糸で触れてみることにします。
ステータスでの説明を見るに恐らくは糸に触れたものの能力も見れるはずなのです。
お兄様のステータス……やっぱり気になります! 私でさえこれだけのステータスなのです。きっとお兄様は天文学的数字を更に凌駕する素晴らしいステータスであるに違いありません。
私の糸がお兄様の身を優しく包み込みます。すると頭の中に愛しのお兄様のステータスが流れ込んできました。
ステータス
名前 ショウタ タカギ
種族 人間
年齢 17歳
性別 ♂
称号 童顔の少年
レベル 7
物攻 25
魔攻 32
体力 18
魔力 28
敏捷 22
精神 40
永続能力
言語理解
――はい?




