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【1‐17】お兄様はどんな相手でも怯みません!

2015/01/09タイトルを変えてみました。

何かご意見があれば感想などで頂けると嬉しく思います。

 ハイヨーッ! という掛け声に合わせて馬車が夜の森をひた走ります。

 あの後ジョンは手際よく準備を進め、御者台と接する幌の上部に設けられた木製のバーに魔法具のランタンを吊り下げました。


 ジョンの話では点けっぱなしだと蓄積魔力が減り続けるという話でしたが、夜の森を走るなら必須ですしね。

 ジョンとしては何かあった時のために節約を考えてたそうですが、恐らく森を抜けるぐらいまでならぎりぎり持つだろうという事でした。


 この世界も中々便利なものが多いようです。そして馬車は森の中にまで伸びている街道を走り続けます。


 ただ街道といっても森の中まではいると流石に甃ではなくってますね。

 簡単に草木を切り開いただけという感じで土の面が顕になっていて、辛うじて道ってわかるぐらいです。


 舗装もよくないので結構揺れますね。


「いやぁ、やっぱ馬車は楽でいいねぇ」


 ピクスィーが上機嫌な面持ちで口を開きました。彼女はもう依頼を手伝ってもらえると信じて疑ってないようですね。


 それにしても……ラリアは動じない娘ですね。今でもすやすやと寝息を立てています。

 ジョン曰く一度眠りにつくと地震があっても朝まで起きないとか。

 なるほど納得です。

 

 ちなみに一応話を聞く限りでは、ピクスィーはまぁ当然とは思いますが街からこの森まで徒歩でやってきていたようです。


 目的の魔物は夜以外は地面の中にその身を沈め潜んでいるので、当然この森に夜にたどり着けるよう調整しながら進んでいたそうですね。


 とはいえ彼女が依頼を請けた、私達からしてみれば目的地でもあるエクセスの街からは、五〇キロ程の距離があったようです。

 中々歩き通すには疲れる距離ですね。


 更にこの森は南北に四〇キロ程伸びてるそうで、そう考えると彼女は結構な距離を踏破してきたようです。全く休まなかったわけでもないでしょうが、一般人が一日で歩ける距離じゃないですね。


 その辺りは流石冒険者といったところでしょうか。


 そして馬車がある程度進んだところでピクスィーが幌を捲り、外の様子を確認し始めました。


 私とお兄様も一緒になって外へ目を向けます。流石に森の中に入ると視界はかなり狭まれますね。


 樹木の密度はそれなりに高いですが、灌木が目立ちます。枝に小さな卵型の葉を生やしているのが多く見受けられます。


 ただ奥の方にはそれなりの上背を誇る喬木の姿も散見できます。

 この森は丘陵地帯の中に存在している為、街道も傾斜を上ったり下りたりを繰り返す形で轢かれてるようですね。


 ただ傾斜は比較的ゆるやかそうなので、見た目には穏やかな道のりになりそうではあります。


 ただそれはあくまで地形だけを考えた場合です。何せ魔物が多く存在する森です、油断は出来ませんね。


と、そんな事を思っていたら馬車の動きが止まりました。そして小窓から緊張感のある声が届きます。


「もうしわけありません皆さん! 魔物が前に!」


「おっと出てきたかい!」


 言ってピクスィーが馬車から飛び降ります。

 お兄様と私もその後に続き、馬車からおり反転するように回って御者台の方に急ぎます。


 馬車に掛けてあるランタンの光に照らされ魔物たちの姿が見えました。先頭の馬から馬車一台分ぐらいの距離を置いた位置で、街道を塞ぐように陣取っています。


「結構出たもんだね。あれはガバリンとコブメリザーだよ!」


 ピクスィーの言葉が終わると同時に、馬の前へ私達は躍り出ました。


 お兄様が真ん中で私は向かって右、ピクスィーは左です。


「ジョンさんは後ろの方を見ていてください! 囲まれたりしたら厄介ですから」


 私がそう告げると、わ、わかりました、と御者台を降りる音。

 まぁマインドスレッドは伸ばしておきますので大丈夫だとは思いますが――


 とりあえず後方とは別に目の前の魔物達にも速攻で糸を伸ばします。


 表示されるステータスをみるにガバリンがレベル7、コブメリザーがレベル10ですね。


 ガバリンは扁平質な横長の口が特徴で顔がほぼ厚みのある唇という格好です。その唇の真ん中辺りに小さな目が二つ付いています。

 口に対して胴体が小さく、本当に殆ど口だけといった魔物です。

 体の大きさもピクスィーの半分ぐらいとかなり小さいですね。


 攻撃手段としては見た目にそぐう口を広げての攻撃のようです。鋭い牙を生え揃えているようですね。


 コブメリザーはかなり醜悪な見た目をしております。魔爬系というのは初めて出会う系統ですが、蜥蜴のように短い四肢で這うように動くタイプのようです。


 魔爬系というのは文字通りこういった爬虫類タイプが多いのかもしれません。


 体躯としては大型の蜥蜴といったところでしょうか。ただ体表は拳大ほどの瘤で埋め尽くされていて、この瘤は鉄の武器を弾き返すほど頑強なようです。


 更に不気味なのは顔中に張り付いた目、目、目、十を超える目の数々が更に醜悪さを増させています。


 しかし敏捷値が低く動きは鈍重な模様。どちらかというと自分からはあまり動かず、獲物が近づくと、その裂けるように開く口から長くて太い舌を伸ばして攻撃したり捕獲して喰らったりするようです。


 数はガバリンが五体、コブメリザーが同じく五体。

 どちらにしてもこのレベルであれば、問題とならない相手ではありそうですね。


 それにしても――馬車を下りてからちょっと匂いが気になりますね。

 まぁとりあえずは目の前の戦いに集中する必要はあるでしょうが――


 私はお兄様とピクスィーに鑑定した事にして敵の情報を伝えます。


「レベル7と10か~」


「シャダクを倒したお兄様なら苦もなくいけるかもね」


 ニヒッと笑って、ピクスィーがお兄様の肩を叩きました。

 ちょっと……馴れ馴れしすぎる気もするのですが――


「お兄様、鑑定した限りあの目玉と瘤の不気味な蜥蜴は自分から動くタイプではなさそうです。ただガバリンの方は攻撃手段から考えると、積極的に攻めてきそうですね」


「そうなんだ。でも攻撃してこようとしないね」


 お兄様が魔物たちの姿を視界に収めながらそう口にします。

 凛々しい佇まいに見惚れてしまいそうですが、今は戦いに集中しなければいけません。


 ただ、確かに動こうとはしてこないですね。


「一応考える頭ぐらいはもってるみたいだね。あの蜥蜴の舌が伸びる範囲で戦おうってんだろ。こっちが後数歩進んだらあれの舌は届くからね」


 確かにその可能性は高そうなのですが……なんでしょう? 何か妙な気配みたいのも感じるような――


「まぁそんな都合良くはさせないけどね。見てなよ」


 ピクスィーはどこか自信の感じられる笑みを見せながら、一歩前にでてそして背中を大きく反らしました。


 と、同時に手には何本ものダガーが――なるほどそういうことですね。


「いくよ! 乱れナイフ投げ!」


 ピクスィーが叫びあげると同時に、引き絞られた弦を放したが如く、反動を付けて上体を前に突き出し、勢いに任せて八本のダガーを魔物の集団目掛けて投げつけます。


 投擲された刃は風を切り裂きながら、五体のガバリンと数匹のコブメリザーを捉えました。

 ただコブメリザーはやはり瘤の堅さもあってダガーは弾かれてしまいましたね。

 

 目に命中しそうなのもありましたが、それに関してはなんと舌で打ち返してしまいました。

 動きの遅さと違って舌の攻撃速度は中々の物です。


 とはいえ、ガバリンの方に関してはしっかりその小さな胴体や唇、そしてこちらはその小さな瞳にも見事命中いたしました。


 ガバリン達がその大きな口を開き、夜空に絶叫を奏でます。

 非常に耳障りな不快な声ですね。


 そして恐らく彼女もこれを狙っていたのでしょうが、一頻り叫びあげた後、ガバリンは怒りに任せてこちらに向かってきました。


 それをみたお兄様がロングソードを鞘から抜き取ります。

 お兄様が刀身を抜く時に奏でられる音は、世界最高峰と敬られるようなバイオリニストが奏でる演奏よりも優雅で洗練されております。

 

 そしてお兄様は私の糸に一体化するように華麗な動きで、向かってきたガバリンを斬り伏せていきます。


 五体の内三体は一撃のもとに、一体はお兄様の背を超えるほどの跳躍を見せ噛み付こうとその口を開きますが、それに合わせるように薙ぎ払い、大きな唇は上下半々になって地面に落下しました。


 そして返す刃で足元にいたガバリンも両断します。


 美しい! 美しすぎますわお兄様! もう惚れぼれしてしまう所作でございます。


「やっぱあんたのお兄様は凄すぎだわ」


 ピクスィーが半眼の状態でお兄様を讃えました。当然ですね、これだけ見事な戦いぶりをみて感動を覚えない人はいないでしょう。


 若干呆れたような顔なのが少し気になりますが……どういう表情をしていいかわからないといった所でしょうか。


 さて、後残ったのはあの気持ちの悪いコブメリザーだけ――むっ! これは……殺気! 間違いありません! 何か妙な気配を感じるとは思いましたがこれのことでしたか。


 間違いなく私達に殺意を抱いているのが近くに居ますね。

 それは街道沿いではなくきっと森の中に――なるほどあの魔物たちが動かなかったのはもう一つ意味があったわけですか。


 ならばと私はその殺気を頼りに念の糸を木々の中に潜入させます。


 そして――見えました! 相手のステータス!






ステータス

名前 トレビアン

種族 魔植系

性別 ♂ 

称号 蠢く樹木

レベル 9


物攻 68

魔攻 45  

体力 40 

魔力 36 

敏捷 10  

精神 25


固有スキル

枝伸ばし

枝を伸ばして攻撃してくる


擬態

周囲の樹木に成りすます


樹木が魔力を帶び命を宿した魔物。

一つの大きな瞳をもち枝を伸ばして攻撃する。

動きは遅いが周りの樹木に擬態出来る。

相手を視認するための一つ目はトレビアンの弱点でもある。

この魔物の樹皮は乾かすことでパリパリにして食べることができ、菓子として利用されている。

また樹皮を剥いだ中には甘い果肉が詰まっており食材としての価値が高い。

倒した後に採取できる魔金に関しては純度が低くそこまで価値はない。






 ……なんというか緊張感のない名前の魔物ですが、とりあえず正体は判りましたね。


「ピクスィーどうも森の中にまだ魔物が潜んでるっぽいのですが――」

「おっと、流石だね」


「え? という事は気づいていたのですか?」


 彼女の反応に私は思わず眼を少し見広げます。


「最初からってわけじゃないけどね、なんか今いや~な感じがしたからさ。で、どうする?」


 そんなの決まってますわ。

 お兄様はいま少しずつあの蜥蜴との距離を詰めていってる形です。 

 先ほど説明した舌の攻撃を警戒してる形ですね。

 どんな時でも決して相手を見くびらないその姿勢は素晴らしいと思います。

 

 そして私はそんなお兄様が快適に戦闘が行えるようフォローする必要があります。


 ピクスィーに顔を向け顎を引き、お互いにやるべき事を確認し合いました。


 幸いこの樹木の魔物は左右に二体ずつ程度しかおりません。


 相手のレベル的に戦い方は工夫しないといけませんが、それほど手間取る相手ではないはずです。


 ピクスィーと私はまるで申し合わせたかのように同時に左右に散りました。

 彼女の得意な投げナイフの音が耳に届きます。

 

 と、そこへ気づかれたと察したのか、トレビアンが四本の枝を伸ばしてきました。

 ミサキ! ピクスィー! というお兄様の声が耳朶を打ちます。


 あぁお兄様に心配して頂けるなんて光栄の極みです。

 ですが心配はありません。確かに中々に素早い枝ですが私はそれぞれの枝を右へ左へとステップワークで一本ずつ躱し、その度にショートソードで薙ぎ切断していきます。


 この魔物そのものに痛覚がないのか、枝には神経のようなものがないのかは知り得ませんが、他の魔物のような叫び声や悲鳴はあげませんね。


 そして私に向かって攻撃を仕掛けてきたことで、二体の魔物の一つ目が見開かれましたね。

 真っ赤に燃えるような不気味な眼ですが、かなり大きな瞳は弱点としては狙いやすすぎますね。


 私はふた方向からの枝の攻撃も跳ねるような動きで避けながら、隙を見て地面を蹴り、低くそれでいて勢いのある飛び込みと同時に、弱点である真っ赤な瞳を手持ちの小剣で貫きました。


 すると枝がしおれたように垂れ下がり、そのまま活動を停止させました。

 本当に一切声を上げることなく朽ちてしまいましたね。


 そこへすかさず左側から伸びてくる枝々、仲間の死に対する動搖なんてものは感じられませんね。

 そこは流石魔物といったところでしょうか。


 ただこのトレビアンの攻撃は枝を伸ばすのが中心なようで、感覚的には槍をもった人間を相手にするような感じですね。


 私も槍術はある程度嗜んでおりますし、達人と呼ばれる先生とも相見え手合わせした事もありますが、その域に達した方に比べるとこの攻撃は単調で非常に判りやすいです。


 フェイントなども使ってこない素直な突きですので、木や草の茂る中に入ったことで多少の動きにくさもありましたが、私は余裕の表情で枝打ちしつつ、木の影から素早く飛び込み、もう一体の瞳も難なく貫きました。


 これでこちら側の二体は伐採完了ですね。

 それほどの時間もかかりませんでしたし、かといって馬鹿みたいに強いみたいな戦い方もしてないつもりです。


「ヒュ~、やるねぇ」


 私が木々の間から街道側に出ると、口笛を吹くような仕草でピクスィーが歯並びのいい健康的な白歯を覗かせます。


 どうやら賞賛してくれているようなので、一揖し、ありがとう、とあまり表情を変えず応えました。


 彼女は私より早く終わったようですね。既に目は閉じられてますが、彼女の投げたであろうダガーが刺さり、只の樹木に成り果てた魔物が二体確認できます。


 さて、後はお兄様ですね。

 お兄様は私達の仕事が終わったことを認め、

「凄いねふたりとも、僕も負けてられないよ」

というが早いかコブメリザーの領域に脚を踏み入れました。


 その瞬間に伸ばされる舌、舌、舌。

 ですがお兄様の踊るような動きと私の念の糸が重なりあい、愛のランデブーを魅せつつ迫る五本の舌を一撃の元に切り捨てました。


 コブメリザーの無数の目が、驚愕に見開かれます。悲鳴こそ上げませんが、明らかな動搖をその顔に滲ませてます。


 そしてお兄様は舌という武器をなくした魔物へ一足飛びに肉薄します。


「お兄様! そのコブメリザーは首のあたりが柔らかそうです。狙うならそちらを!」


 私が声を大にしてそう伝えます。お兄様がコクリと傾きました。


 本当は私の糸の力であれば瘤ごと両断できそうですが、お兄様は手持ちのロングソードで戦っております。


 どれほどお兄様の実力が高くても、武器の質まで変わるわけではありません。

 オークの時はジョンも気にしてる様子もみせておりませんでしたが、今回は冒険者のピクスィーが見ております。


 万が一瘤を斬りつけ、刃こぼれ一つしない得物をみたら、不振に思われてしまう可能性がないとはいいきれないのです。


 ですからお兄様には少々面倒かとも思われますが、首を狙って頂く事に致します。


 舌という武器をなくしたコブメリザーは動きも遅く為す術もない感じですね。

 お兄様の精錬なる太刀筋と私の糸が重なり次々とその首を跳ね飛ばしました。


 糸を伸ばす限りもう他に敵はいないようですし、これで無事戦闘も終了ですね――


 





 

 




 


 



 


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