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【1‐15】お兄様に色仕掛けなんて許しません!

「一体これは――何があったのですか!?」


 助けを求めてきたピクスィーに協力し、追いかけてきた魔物たちを殲滅した後、異変に気づいたのかジョンが慌てた様子で馬車から飛び降りてきました。


 ラリアの姿はないので、彼女はまだ車内で眠っているのでしょう。


 焚き火の炎に照らされ、驚きの表情を見せるジョンの姿はオレンジ色に染まっております。


 ゆらゆらと揺れる影が、彼の狼狽をそのまま体現してるようにも感じられますね。


 とはいえジョンが驚くのも無理はないかもしれません。何せ彼からはまだ少し離れているとはいえ、私達の周りには魔物の死体が転がり何かが起きたということは誰の目にも明らかでしょうからね。


「そ、それにその子は、え~とミニマイト?」


 ひょいと視線を動かし、珍しいものを見るような顔でジョンが疑問の声を発します。


「よっ、僕はピクスィーっていうんだ宜しくな」


 彼女はまるでちょっとした知り合いにでもあったかのように砕けた口調で接しますが、自分の名前を伝えてる事から、初見の相手である事は間違いないでしょう。


 そもそも彼女は戦いが終わってからもお兄様と私に一揖して、助かったよ、等と軽くお礼をいって終わらせるような人です。


 その時ばかりは私も文句の一つも言おうとしましたが、お兄様が笑って接していたので私からも特には何もいいませんでしたが、それはお兄様が出来た方だったからこそです。


なのにこの女は――挨拶もそこそこに倒れた魔物の素材回収に営みだしました。

 目ざとく使えそうなものを全て確認し、あろうことか私に鑑定を頼むよ、なんて気軽に言ってくる始末。


 色々と腹の立つことが多かったですが、お兄様が何も文句をいおうとしないので鑑定もやってあげました。


 そして鑑定が終わった頃に丁度ジョンが馬車から降りてきたのです。結構ガチャガチャやってしまいましたからね。


「は、はぁ、どうも初めまして、ジョンと申します」


 ジョンは人差し指で頬を掻き、やはり戸惑った感じで彼女に返礼しました。

 あまりに軽い口調だったので拍子抜けしている雰囲気もありますね。


 その後も僅かに首を巡らし戦いの跡に目を瞬かせます。

 そしてお兄様と私に顔を戻し、何があったのか? と目で訴えてきました。


 護衛を引き受けてる身としては当然説明の必要がありますね。


 お兄様と私はジョンの近くまで進み、そして事の顛末を話して聞かせました。





「なるほど、そんな事が――」


 ジョンが髭を揺らしながら納得したように顎を数回引きました。

 するとお兄様が申し訳なさそうに頭を擦り。


「ごめんなさい、勝手な判断で行動してしまって。あまり心配は掛けないほうがいいかなって思ったんですが」


 相手の立場を考え、律儀に接するお兄様は社交性にも富んでおります。

 ですがお兄様ばかりに謝罪させるわけにはいきませんね。


「今回お兄様は何も悪くありませんわ。馬車の近くまで彼女を誘導したのも私です。ジョン様もしお気を悪くされたなら全て私の責任であ――」

「いやいや! ふたりとも頭を上げてください! 気を悪くなんてとんでもない! 護衛はこちらからお願いしてるんですし、その仕事を全うして貰って文句なんてあるはずがありませんよ!」


 ジョンが慌てて両手を振り、寧ろ感謝してますのでと言葉を閉めました。


 顔を見てもお兄様と私が頭を下げたことで、戸惑いの皺を頬に刻んでいますね。

 でも直ぐに元の朗らかな笑顔に戻りましたが。


「なんかお話のところ悪いんだけど、この素材と魔金は半分は私が貰うってことでもいいかな?」


「はぁ!?」


 私は思わずぐいっ! と身体を回し、当然のように言い出すピクスィーに不満の声を上げました。


 全く何をいっているのか理解が出来ません。そっちから助けてくれというから手を差し伸べてあげたというのに――薄笑いを浮かべながらいっているのが更に腹ただしいぐらいです。


「なんだよそんな怖い顔をするなって。当然シャダクの素材はそっちに優先して上げるよ。助けてもらったわけだしね」

「そういう問題じゃありませんわ!」


 私は思わず語気を荒らげてしまいました。本当にふてぶてしい、過去に戻る力があったならいますぐ戻って、間違いなく私は彼女を無視することを提案いたします。


「それは駄目だよ~」


 お、お兄様! 流石はお兄様です。いくら心優しいお兄様でもこればっかりは納得がいくわけがありません。

 そうです! ここはお兄様と私のふたりでこの不届き者を――


「僕達の倒した分は、護衛の依頼をしてくれたジョン様にも確認しないといけないしね~」


 うん?


「いえいえそれでしたらお気になさらず。最初に話したとおり特別な契約がない限り、倒した魔物の素材などは倒した方のものですので」


「ほら、依頼者がこういってるんだから問題ないでしょ?」


 だからなんで貴方がそれを言うのですか!


「う~ん、そうだね~だったら問題ないよ~」


 ……お兄様はあっさり彼女の話を受け入れました。

 いえ、その竹を割ったような性格はお兄様として素晴らしく流石お兄様と賞賛せし部分ではございますが――こればかりは人が良すぎという気もしないでもありません。


 でも、そんなお兄様も私は大好きです!





「いやそれにしてもシャダクを打ち倒してしまうとは、凄いお方とは思っておりましたがここまでとは正直驚きですね。いやこんなところにシャダクが現れるのもびっくりなのですが」


「お兄様にかかれば、この程度の魔物を倒すことなど造作も無いことでございます」


 私はしれっとそう応えた後、ピクスィーにじっとりと半目を向け。


「まぁこんなところまで魔物がやってきた事に関しては、森から彼女が引き連れてきたせいでありますけどね」


 私は瞑目し、はっきりと言い捨てました。これぐらいはやり返してやらないと気が収まりません。


「まぁいいじゃん倒せたんだし」


 くっ! いけしゃあしゃあと!


「でも折角譲ってもらった服が汚れちゃったね……」


 お兄様が凛々しい眉を八の字にさせてしゅんと肩を落とし口にします。

 お兄様のジャケットは赤なのでまだ目立ちませんが、それでもパンツや内服の袖はべっとりと魔物の血がこびり付いてしまっております。


「確かに魔物の返り血が結構付着してしまいましたね」


 私もお兄様のように悲しげに目を伏せました。折角頂いたのに申し訳ないのは確かです。


「な~いいってんだい。こういう仕事してりゃ服の汚れぐらい当然だろ? 気にしてたら何も出来ないぜ?」


 カラカラと笑いながらピクスィーがいってきました。この汚れも貴方のせいなんですがね。


「でも確かに大分汚れてしまってますね。よければお着替えを用意しましょうか?」


 ジョンが気を利かせて申し上げてくれましたが、流石にこれ以上頂くのは申し訳ありません。

 それに彼女のいうことも一応一理あります。護衛をやってる以上これからも魔物を倒す必要があるかもしれませんし、その度にお着替えを用意してもらうわけにもいきません。


 ただ今後この異世界で暮らしていくのに服や肌着はそれなりに必要です。ですのでお兄様に相談し街についた後は何着か買わせてもらうとお兄様が伝えました。


「あまり沢山というわけにもいきませんが、日常生活に必要程度の量であればお譲りいたしますのに」


「いや、そこまで甘えていられないし、ミサキの鑑定によると、魔物を倒したりで結構お金になりそうなものは手に入ってるしね~」


「はいお兄様。街についても暫く持つぐらいは手に入っております。ですからジョン様もお気になさらず」


 首を斜頸させ、微笑みながら私もお兄様に続いて言葉を添えます。


「貰えるもんはもらっておけばいいのに。物好きな連中だな~」


 うるさいですわね。お兄様は貴方とは違うのです。


「わかりました。そういう事であれば、ただお代の方は精一杯頑張らせて頂きますよ」


「ありがとうございます」

「宜しくお願いいたします」


 胸を叩きそう宣言してくれたジョンに、お兄様と私は同時に頭を下げました。


「話はついたみたいだね~」


 ピクスィーが妙にわざとらしい笑みを見せながら、私達に近づいてきました。


 というかこの娘、一体これからどうするつもりなのか? 助けこそしましたが、よく考えたらこんな夜中になぜあんな目にあっていたのか――別に私が気にすることではないんですけどね。


「いや~それにしてもジョンさんだっけ? 随分と頼りになる護衛を雇ってるんだね~さっきのふたりの戦いぶりも中々のものだったよ」


 私はともかくお兄様に向かって中々で済ますとは本当に無礼な方ですね。

 妙に大げさな身振り手振りといい、あまり気を許してはいけない雰囲気です。


 糸の力である程度の事はわかりますが、それでも今何を考えてるかまではわかりませんしね。


「いやいや私も偶然みたいなもので、おふたりには盗賊に襲われていたところを助けて貰ったんですよ。その腕を見込んで護衛をお願いした形です」


「盗賊? この辺で盗賊であんたが狙われたって事は――相手は馬車狩人かい?」


 ピクスィーはジョンを見上げるようにしながら訊きました。彼女は人間と比べると上背は低めで、ジョンと比べても彼のお腹辺りに顔が来るほどです。


「そうです。良くしってますね」


「そりゃ一応僕も冒険者の端くれだからね」


 彼女は得意がるように無い胸を張りました。背中に生えた羽が僅かに揺れ動きます。


「冒険者――ですか? そうなるともしかしてこんな時間に森から魔物に追われてたのは、何かの依頼を請けていたなどでしょうか?」


「ご名答~♪ いや~おじさん頭回るねぇ」


 妙に馴れ馴れしい態度で接してくるピクスィーに、ジョンもタジタジって感じですね。

 それにしても三日月を倒したような目つきは、何か企んでそうな嫌な予感がしますね。


「だけどね実は~その依頼が一人だと結構厳しくてね~、それで一旦引き上げようとしたところにあの魔物たちにばったり遭遇して追いかけられたんだけどね~」


 予感的中ですね。はぁ、思わず溜め息が出てしまいます。


「依頼ってそんなに大変なの?」


 あぁお兄様、首を傾げて、流石は好奇心旺盛なお兄様ですが、それを訊いてしまうと――


「そう! そうなんだよ! だからさ~腕の立つお兄様のお力を借りられたらなと思ったんだよね」


 あぁ! 馴れ馴れしくお兄様に近寄って両手を取って、ウィンクまでして!

 

 むぐぐぐぐぐぅ! 

何かこの作品についてご意見ご感想などがありましたらどんどん頂けると嬉しく思いますm(__)m

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