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【1‐13】流石のお兄様は誰であろうとお助けになります

「大丈夫? でも逃げ切れてよかったよ!」


「はぁはぁ、いや逃げ切れてって……てかよく見たらまだ子供じゃん! え、何この絶望を感じる状況?」


 顔を上げ羽を生やしたその子が目を白黒させて叫びました。

 どうやらそうとう慌てていたのか、お兄様と私の顔までは気をつけてみていなかったようですね。


 それにしても子供? 私の事でしょうか? この方も十分子供っぽい顔をしているのに、失礼な方ですね。


「てかこっちから助けを求めておいてなんだけど、あんたら戦えるの?」


 ムッ、折角こうやってお兄様が手を差し伸べてくれたというのに失礼な方ですね。


「大丈夫だよ。後は僕が何とかするから、ふたりは離れてみていてよ」

 

 相手がどんなに無礼な者でも、気にもせず、頼りがいのある台詞を告げてくるお兄様素敵です。


「はぁ? いやあんたマジでいってんの? おいおいあいつらがどんな奴らかわかっていってるのかよ?」


「あの狼がマッドウルフだというのは判ってますわ」


「そんなもん大した問題じゃねぇよ。あのコボルトだって単体じゃね。でも問題は――」


「や~っと追いついたぜ!」


 どうやら妖精のような羽を持つその子が喋り終える前に、魔物たちが追いついてきてしまったようですね。


 丘を上り、一番偉そうな魔物が唸り声混じりに私達に向かって吠え上げます。

 周囲のマッドウルフやコボルトとやらも散開し、私達を取り囲むように広がりました。


 それぞれコボルトが三体にマッドウルフが二匹で一組、それが左右に分かれた形です。


 あの偉そうな方にはコボルトが二体ついてますね。


「あぁ! しまったもう追いつかれちゃったよ!」


 追われていた子が頭を抱えて叫びあげました。正直ちょっとうるさいですね。


「グルゥ、全く手間取らせてくれる……だがラッキーだぜ。おかげで餌が増えた! 餓鬼は肉が柔けぇし、女は他にも色々使い道があるしなぁ」


 狼に近い顔を歪めて随分と下衆な事をいってきますね。

 見た感じ妖精の羽のこの子が恐れていたのはほぼ間違いなくこの魔物でしょう。


 周りでボロボロの剣を構えるコボルトは、一応は人間ぽく服みたいなのも来ておりますが、原始人のような簡単なもので、またこの偉そうな魔物のように喋ったりは出来ないようです。


 仲間同士種族特有の言語では会話が出来るようですけどね。

 今も何やらこそこそと話し合っています。

 

 それにしてもコボルトはそれほど強そうには見えませんね。身長も私より低いですし、糸でステータスをみてみましたが、レベルも5でこれといった能力ももっておりません。


 中には木を適当に切り取って作ったような盾を持ってるものもいますが、全体的にはオークよりも断然下です。


 ただ、目の前のガニ股で立つ魔物は確かに他とは違う風格を感じさせます。

 顔に関してはそのまま狼といった容貌ですが、人のような四肢を誇っていて、体格はコボルトの倍は余裕でありそうです。


 上背でいったら二メートル弱といったところでしょうか。身長の高さもそうですが何より首と胴体が長いです。

 そのため見た目のインパクトは中々のものですね。首が胴体とほぼ変わらないぐらい太いのも驚きです。

 

 この魔物はコボルトと違って何も着衣はしてませんが、全身は蒼々とした毛で覆われております。


 かなり刺々しい毛並みですね。チクチクして痛そうです。可愛げがありませんね。


 四肢は軒並み太く、まぁ逞しいと言っていい部類でしょうが、更にいえばこちらも全体的に長尺です。腕に関しては余裕で地面に届くほどですね。

 

 私はその魔物を視界に収めながら、糸を伸ばしてステータスを確認いたします。


ステータス

名前 シャダク

種族 魔妖系

性別 ♂ 

称号 コボルトを纏めるもの

レベル 15


物攻 85

魔攻 50  

体力 72  

魔力 45  

敏捷 95  

精神 58  


装備品 強靭な爪


アビリティ

士気高揚

仲間の士気を上げてステータスを30%上昇させる。


固有スキル

マジッククロー(魔装の爪)

爪に魔力を込めることで威力が増す。


コボルトを纏める力を持った強力な魔物。狼のような顔をし、四肢や胴体、それに首が長い。

背が高く、手から伸びた長い爪で襲いかかる。

配下の魔物のステータスを上昇させる力を持つ。

倒した後手に入る魔金の純度はそれなりに高い。

また、毛皮や爪は素材として取引されている。

肉は硬くて不味いため利用されない。





 なるほど――確かにコボルトやマッドウルフに比べたら、レベルも高めで強敵と言えるのかもしれないですね。


 ついでに助けを求めてきた子のステータスもみてみますが。




ステータス

名前 ピクスィー

種族 ミニマイト

年齢 18歳

性別 ♀

称号 魔法殺しの半妖精

レベル 14


物攻 38

魔攻 42  

体力 22  

魔力 46 

敏捷 65  

精神 48  


装備品

マンゴーシュ、スローイングダガー×20、革の胸当て、ロングレザーブーツ


アビリティ

魔力切断、限定飛行


固有スキル

レベル2妖精魔法、乱れナイフ投げ、レベル3罠感知、レベル3罠解除





 これは色々気になるのが出てきましたね。そして説明をみる分にはこの魔物からは本当に追われていたようです。


 レベルだけ見るには魔物より少し低いぐらいで、負けてるとは思えませんが、一対一ではなく仲間を引き連れてますからね。


 多勢に無勢といったところなのでしょう。それにしても……女の子でしたか。どっちともとれる容姿でしたが、年齢は一八……私より年上ですか。


 本当背の低さもあって小学生ぐらいにしかみえませんけどね。


 そして気になるのはやはりミニマイトという部分がまず目につきます。


 これは個別の説明によると、どうやら人と妖精のハーフのような存在みたいですね。

 だから妖精魔法というのも使えるようです。


 ただレベルは2なのであまり強力ではないのかもしれませんね。

 どうやら植物を操ったり脳に直接幻覚を見せたり出来るみたいですが。


 飛行に関しては限定飛行の名の示す通り、あまり高くは飛べないし長時間の飛行も無理らしいです。


 本来の妖精は自由に飛び回るみたいですけどね。

 そして何より一番気になったのは魔力切断というものでしょうか。


 なんでも本来ミニマイトという種族はこの力を自由に行使できるそうですが、彼女の場合は未熟なのか勝手に発動してしまっているようで、彼女の半径五メートル以内では一切魔法を発動できないみたいです。


 役にも立ちそうですが敵味方関係なくのようなのでちょっと厄介にも感じます。

 ただスキルに関しては影響を受けないのが、自由に糸を伸ばせることから判ります。


「てめぇらの後ろに見える馬車。アレにもふたりほどいるなぁ~俺は鼻が効くからよくわかるぞぉ。全くこんなに獲物にありつけるとは運がいいぜぇ」


 私がひと通りステータスを確認し終えると、鼻をひく付かせながらシャダクという魔物が馬車の方に目を向けいってきました。

 一応馬車から二十メートルほど離れた距離に私達はいるかたちですが、まぁ焚き火もしてますし気づきますよね。


 でもそれは想定内です。お兄様を私がサポートする限り、こんな魔物に遅れを取ることはありませんからね。


「……とにかくあんた一人ってのは流石に無茶だよ。いいかあの魔物は――」


「お兄様。あのやたら偉そうにしてるブサイクな狼男はレベル15のシャダク。その仲間のコボルトはレベル5、マッドウルフはレベルが3ですわ」


 私がそう口にすると、お兄様の眼が驚きの色を滲ませます。

 そしてピクスィーも、え!? と目を丸くさせました。


「あんた随分と詳しいね」


「詳しいというか鑑定のスキルを手に入れましたので。だから貴方の名前も判りますよピクスィー」


 にこりと微笑みながら彼女へそう説明します。お兄様も、いつの間にそんなの覚えたの~! なんて驚いてくれてますが、勿論これは誤魔化すための嘘で、実際に鑑定スキルを持ったわけではありません。


 ただ鑑定があることにしておけば、今後堂々とお兄様の為に情報を役立てることが出来ますのでいいかなと思ったのです。


「鑑定のスキルでステータスって……それスキルレベルが4位上ないと無理だろ? もしかしてふたりとも結構レベルが高かったりするのか?」


 もしかしたらって失礼ですね。私はともかくお兄様はみれば判りそうなものですが。

 

 というかこの方、一応は女の子なのに随分と粗暴な喋り方ですね。


 まぁ私が気にすることでもないですが、この見た目でそれだと男の子に間違われることの方が多いのでは? と思えてしまいます。


 お洒落でもすれば普通に可愛らしい少女って感じもするのですけどね。


 それはそうと、お兄様が答えに困ったような顔を見せてますね。

 これは愛すべしお兄様の為にも、妹として何とかしなければいけません。


「私のレベルは7ですが、お兄様は少なくともあのシャダクという魔物よりは遥かにレベルが上ですわ」


 私はしれっと彼女に伝えます。お兄様は窺うような目で私を見上げてきましたが、微笑みで返すとひとつ頷いてくれました。

 

 私の気持ちが通じたのですね、こんな嬉しい事はありません。

 やはりお兄様と私は兄妹という言葉だけでは言い表せない深い心と心で結び合ってるのですね!


 それはそうと彼女にお兄様のレベルを正確に伝えなかったのは、彼女やこれまでの魔物のレベルを考慮してのことです。


 正直私としては、レベル7000という数値がお兄様の能力を証明するに十分だとは到底思えないのですが、それでもこの世界でみれば相当に高いといえる数字である可能性は大きいです。


 その数値を無闇に話すのは得策ではないでしょう。お兄様もそれを感じていたから、彼女の質問に答え倦ねていた形です。


 ですから私がフォローの為、曖昧な感じに説明しておきました。

 とりあえずこの眼の前の魔物より強いことが判れば十分でしょうしね。


「てめぇらさっきから何こそこそ話してやがる。言っておくがいくら逃げの算段をしようが、もう絶対に逃さねぇからな」


「逃げるつもりはないよ」


 そういってお兄様が更に一歩前に踏み出しました。率先してあの魔物のリーダーを相手する気なのでしょう。

 はぁ勇猛果敢なお兄様は本当に素敵です! 畏敬の念が絶えません。


「おい! そんな前に出てまさかひとりでやる気かい?」


「うん。女の子を危険に晒すわけにいかないからね」


「あん? この餓鬼がひとりでだと? クカッ! 舐められたもんだなぁおい!」


 額に手を添え天を仰ぐようにしてシャダムという畜生が笑い出しましたね。それにしても異世界の魔物というのは本当にレベルが低いです。

 それはステータス的な意味ではなく精神的な意味でもですね。

 相手のことを最初から舐めてかかって、物事の本質をみようとしないなんて愚かなことこの上ないです。


「おい、あんたの兄……なんだよな?」

「当然ですわ。どこからどうみてもお兄様はお兄様以外の何物でもありませんけど?」


 何をいってるのか理解が出来ないので、思わずピクスィーをみやり眉を顰めてしまいます。


「あ、あぁまぁ気に触ったなら謝るよ。でもな、あんたのお兄様というのがいくら強くても相手の数が多い、ここは全員で協力したほうがいいんじゃないのか?」


 むぅ、正直その必要はないのですが、でもお兄様だけに雑魚の掃除を任せるのは気が引けますね。


「お兄様。この子の言うことにも一応爪の垢程度は納得できる部分もありますわ」

「随分な言い草だなおい!」


「ですので、左右のコボルトとマッドウルフは私達で対応いたします。お兄様はその醜い狼顔にどうぞ集中なさってくださいませ」


 ピクスィーがなにか言ってますが、気にせずお兄様にご提案いたします。


「え? でも――」

 

 お兄様が心配そうに一瞥してきましたが、そのお気持ちだけで十分でございます。


「大丈夫です、私もレベルは7ありますので、コボルトやマッドウルフとは戦えますし、こっちの子はこうみえてもレベル14ですからね」

「こうみえては余計だよ!」

 

 貴方もさっきから見た目で人を判断してるじゃないですか。


「おいてめぇら! いい加減にしろよ! さっきから舐めたことばかりいいやがって! 第一俺のどこが醜いってんだ!」


「顔ですわ」

「性格かなぁ」

「もう全部」


「よし! てめぇらもう容赦すんじゃねぇぞ! こいつらこの俺を馬鹿にしたことを一生後悔させてやる!」


 どうやら怒らせてしまったようですね。

 まぁだから何? て感じですが――




 


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