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プロローグ

第一章の最後にプロローグからニ章に入るまでの纏めを載せてあります。

【妹の妄想】お兄様との事を綴ります!

という話です。

あまり読む時間が取れない場合そちらを代わりに読んでいただいても二章から楽しめるようになっております。

宜しければご活用下さいm(__)m


「ごめんなさい」


校舎裏の桜の樹の下で、私は彼に思いっきり頭を下げて謝りました。

 正直言うと私が謝るようなことでもないのですが、けれどこれも礼儀というものだとおもいます。


「そんな――なんで、かな? 理由を聞かせてもらってもいい?」


 少しだけ面倒かもと、そう思いました。この先輩、生徒会長を努め更に成績は同学年で常にトップ。

 テニス部の主将も兼任し、容姿もどこかの有名プロダクションに所属していても可笑しくないぐらいの文句なしのイケメンです。


 でも、そんな彼であっても正直私からいわせれば――そう、だからここは率直にいっておいたほうがいいのでしょう。


「理由ですか? そうですねはっきりいえば全然タイプじゃないので」


「た、タイプじゃない?」


「はい」


 先輩は軽く後ずさり、慄くような感じに背中を反らしました。

 どうやらよっぽど自信があったのか――額に縦線が入ったようにかなり愕然としています。


「え、と、それじゃあ美咲ちゃんのタイプって……一体どういう人なの? あ、あれだったら俺そのタイプに近づけるよう!」


「無理ですよ」


 少ししつこいですね。正直私の理想は一人しかいませんし、他の誰とも付き合う気なんてないのです。


「そ、そんなどうして!」


「それは――既に愛している方がおりますので」


 そう私がこの世で一番愛しているのは――





「で、ミサは見事に大小路先輩を振ってみせたってわけか」


 帰りのホームルームが終わると、友達の咲が私の席にまでやってきてそんな事を言い出しました。

 本当に女子というのは人の恋話がすきなものですね。


「だって私のタイプではありませんから」


 天井を見上げるようにしながらヤレヤレと口にします。あの後あの先輩はまるで何年も受験に失敗した浪人生の如くどんよりした空気を辺りにまき散らしながら去っていきました。


 別にそこまでしょげることもないかとは思うのですが。


「え~~! 勿体無い! 大小路先輩って学年トップの成績でスポーツ万能、更に家は医者で超金持ちのハイスペック男子じゃん!」


 中学から付き合いのある愛が、腕を祈るように組んで悲鳴のような声を上げています。

 彼女の甲高い声はちょっと耳に残りますね。


「う~んそういうの私興味ありませんし」


 瞼をつむりしれっと口にしました。本当に心からどうでもいいことですので。


「まぁミサなら男なんて選り取りみどりだろうけどねぇ」


 咲が苦みばしった顔で肩をすくめてます。私からみれば咲も平均よりは可愛いと思うのですが。


「芸能プロダクションからもスカウト受けてるんでしょ? 頭も良くて運動神経もよくてスタイルも顔もってなんか私自身なくしてきちゃったわ」


「そんなことありませんよ。それに芸能界とか興味ありませんし」


 確かに私は愛しのあの人の為に自分磨きには余念がありません。

 でもだからこそ他の事に時間を割いてる暇などないのです。


 そう、だって――

 

「なんで!? 超勿体無いじゃん! 読モとかやってたんだしやってみればいいじゃん!」


「いやです。そんな芸能界なんて入って売れて忙しくなったら……お兄さまと会えなくなるもの」


 そう、愛しの愛しのお兄様――私がこの世でただ一人永遠の愛を誓った殿方。私にはお兄様が全てです。


「……売れるって前提なのが凄いわね――」


 それはそうですね。お兄様と愛を深める為のデート(買い物)中に声をかけられたのですが、お兄様がすてきな笑顔で、やってみたら? と言ってくれたので、思わず受けてしまった読者モデルですが、それはモデルになりたかったわけではなしにお兄さまがそういってくれたからに過ぎません。


 ですがそれでさえ、掲載後ひっきりなしにスカウトの連絡が来るようになったぐらいなのですから。


「そして――また出たわねミサの愛しのお兄様病が」


 ムッ、その言い方は友達とはいえ腹が立ちます。


「病って何でしょうか? 私は本気で――」

 

 そう――私は本気でお兄様が好き。お慕いしております。なんでしたら卒業後すぐにでも市役所に行って婚姻届を提出したいぐらいに――


「キャ~~~~!」


「嫌だ~~! 本当いつみても可愛い!」


「本当ペットみた~~い」


 ふとそこへ、教室の出入口からクラスにまだ残っていた女子達の黄色い悲鳴。何かしらとそちらを覗き見ると――


「あ、あの! あの! 僕、僕、美咲に――」


「お兄様!」


 私は思わず叫びあげてしまっておりました。

 それにしても何故お兄様がここに? 

 私からしてみればこんな嬉しい事はありませんが。


 それにしても――やはりお兄様は格好良いです。朝見ても素敵でしたけど、お昼にこの目に焼き付けても虹彩が弾けて飛んでいってしまうのでは? と思えるほど美しく、そして三度とみるその顔も思わず卒倒して、そのまま意識がシャンパラに飛んでいってしまうぐらい神々しい。


 この世の中で、見れば見るほど輝いていく殿方などいるかといえば勿論お兄様以外にありえません。


「ありゃ噂をすれば」

「なんとやらってね」


 私の友達ふたりも尊敬と敬意と崇拝の色をその表情に滲ませて、どこかうっとりとした表情で見入っております。


 確かにふたりとも私の友達ですがこういうところは油断ができません。

 お兄様にいつ色目を使われるかわからないもの。

 

 私はいざという時の為に、弓術、剣術、古武術、絞殺術、暗殺術、毒殺術、完全犯罪術、黒魔術、白魔術、等々――


 お兄さまを拐かす相手にいつでも制裁を加えられるよう、それら一〇八を超える術をマスターしております。


 ただ出来ればこのふたりは滅したくはありません。私とはそれなりに長い付き合いですから。


 お兄様の事は素直に諦めて平和に暮らし続けて欲しいものです――


 ただ今はそれどころじゃありませんね。

 とにかく、愛しのお兄様に群がるお腹をすかした野獣共をなんとかしなければ――


「ちょっと――そのへんでやめて頂けませんか? お兄様が嫌がっております」


 私の眼前でははしたない女子の群れに抱きかかえられ、心の底から迷惑がってるお兄様の姿。

 怒りの炎が私の胸を焦がします。悪を撃てと深層から叫びあげてきます。


「え~いいじゃんちょっとぐらい」


 クラスメイトとはいえ随分と馴れ馴れしい。

 

 あまり汚い手でお兄様に触れてほしくありませんのに。もしも学校だから安心だなどと思っていたら大間違いです。


 なんでしたら今すぐにでも華麗に宙を舞い、このメス豚の頭を両手で掴んで、捻首竜巻旋で首ごと引き千切ってしまってもいいのです。


 神様だってお兄様の為とあれば、それぐらい許して下さいますわ。


 と、そこへまたひとり、お兄様の短く纏め上げられた極上の絹のような柔らかくしっとりとした髪の毛をなでまわし、声を発する不届き者。


「そうだよ翔太くん可愛いし触りたくなっちゃうよねぇ」


 可愛い――ですか。


「何を言っているのでしょう? お兄様は可愛いではなく格好いいのです」


「かっこ……いいねぇ」


 私はお兄さまの事を守らないといけません。ですがそれ以上に、お兄様がどれほど素晴らしいかも知らしめる必要がありますね。


「お兄様って風じゃないんだけどねいつみても」


 この人はなにを言っているのか。

 どこからどうみてもお兄様はお兄様中のお兄様です。見る目がないですね。


「寧ろマスコットって感じ?」


 マスコット? 失礼です。敢えて控えめな小柄な身長。誰にでも別け隔てない愛情を感じさせるクリクリの瞳。いつまでも幼いころの純粋さを残したままの丸みのある顔立ち。

 そして赤ちゃんのようにプニプニとしたこのお肌――このような崇高かつ玲瓏なお兄様をよりにもよってマスコット等とは。


「失礼です。眉目秀麗という言葉が世界で一番、いえそのような言葉ですら言い表せないほどの聡明なお兄様にむかってそのような」


「なんか美咲ってこういうとこだけ」

「すこし残念なのよね」


 咲と愛も私とお兄様の事を応援してくれてるみたいです。ごめんなさい先程はは心のなかとはいえ三千回ぐらい滅してしまいました。


「そもそも年上ってのが信じられないわね」


 あまりお兄様を馬鹿にされると――滅しますよ?


 私が殺意を込めた視線を、あまり良くも知らない女子に向けると、ビクリと肩を震わせましたね。


「やばい。美咲ちょっとマジモードだからもう離してあげた方がいいよ」


 咲がクラスメートに近づいて忠告してくれる。きっとお兄様と私との仲を考慮して言ってくれてるのですね。やはり持つべきものは友達です。


 さて、蜘蛛の子を散らしたように女子たちがお兄様から離れましたし、私はそっとお兄様を抱きかかえ満面の笑みで訪ねます。

 

「ところでお兄様どうしてこちらに?」


「美咲と今日一緒に帰るって約束してたし」


 確かにその通りですが、それで私のために教室まで? 涙が出そうです。


「まぁそれでしたら私の方からお迎えに上がりましたのに、わざわざ脚を運んでいただけるなんて――私のためにこのような苦労を――」

「いや、階段下りるだけだし大した距離じゃないし」


 咲もお兄様の仏様のような身心に感動してるようですね。


「僕も早く終わったしね。それに今日は前から楽しみにしてたゲームの発売日でもあるから急ぎたいし!」


 いくつになっても童心を忘れないお兄様も一段と素敵です。


「確かにそうでしたわね。それでは参りましょうかお兄さま」


「うん!」


 お兄様の嬉しそうな顔を見ると私も胸が熱くなります。


「あ~ん! なんか本当超可愛い!」


 何か愛が私の肩越しにお兄様を覗きこんで叫んでますが。


「可愛いじゃなくて格好いいです」


 彼女はもう少し正しい日本語を覚えた方がいいですね。


「はいはいそれじゃあまたねミサ」


 こうして私は皆と辞去して、お兄様を抱きしめながら教室を後にしました――

 





◇◆◇


「楽しみだなぁ。美咲もやるよね? 新しいゲーム」


「はいお兄様」


 お兄様はとても無邪気な笑顔を私だけの為に振りまきながら、横を歩いております。

 お兄様は学校出てすぐに自分で歩くといわれてしまいました。


 それがとても寂しかったのですが、お兄様は恥ずかしいなどいわれてましたが、それが私の事を気遣った優しさなのは十分承知しております。


「あれはね美咲にも前にかしたラノベの世界観を具現化したゲームなんだ~」


「確か元はWEB小説だった作品が人気に火が点いて出版化。そして今回待望のゲーム化でしたわよねお兄様」

 

 私はお兄様が好きなものは全て承知しております。そしてお兄様の好きなものも常に共有したい。

 本当は……私自ら購入すべきであり、素敵なお兄様から借りるなど、恐れ多いにも程があるのですが――


 でもお兄様の持っているもの――お兄様の香り、お兄様の残した温もり、お兄様の肌の味、それらが染み付いたものを手にした時の幸せは言葉ではとても表しきれません。 


 そしてそれを目で鼻で口で指で五感すべてをフルに使って楽しみ、お兄様との価値観を共有する。

 こんな素敵な事はありません。


「そうなんだよね~う~ん早くプレイした~~い!」

 

 お兄様が拳を胸の前に持って行き叫び上げます。

 ひとつの事に没頭できるこの集中力もお兄様ゆえ。しかもその状態でも車道側はご自分が歩かれるという心の優しさ――素敵すぎます。


 私は横を歩くお兄様に尊敬の念を込めた瞳を向け続けます。

 はぁお兄様と結婚できたらどれだけ幸せか。


 勿論私はそれを諦めておりませんが、数多くの書物を調べあげ、インターネットもフル活用致しましたが――結局わかったのは、この日本では血の繋がった実の兄妹では結婚が出来ないという愚かな真実。


 勿論私とお兄様はれっきとした血縁関係。友達の中では全く似ていないので実は義理では? みたいな事もいわれましたが、しっかりと記録として残っていたのでそれはありません。


 それ故に兄妹で結婚できないことを本気で悩み、父母にも相談したぐらいですが――


「美咲の年齢にはよくあることだよ」

「麻疹みたいなものね」


 と、笑っていうだけで本気で取り合っては貰えませんでした。両親はちょっと呑気すぎて頼りになりません。


 ですが私は本気なのです。そう今でもはっきり覚えています。

 私が五歳の時にお兄様と交わした約束。絶対に私の事をお嫁さんに貰ってくれると。


 だから私も約束しました。お兄様の理想の女性になると。その為の努力なら惜しまずにやってきたつもりです。


 ですがこの日本では法律という壁が私達の邪魔をします。こうなっては私に残された手は全てを変えるためにテロを起こすか、お兄様といっそ遠くに逃げるか――て、え? 何か突然地面が揺れだしました――お兄様!


「え? て、何地震?」


「キャッ! お兄様怖い!」


 私はついお兄様に飛びついてその身体に身を寄せました。本当はそこまで怖くはありませんでしたが、ついついお兄様の愛を感じてしまいたくなったのです。


「だ、大丈夫だよ美咲! 僕が付いてるから!」


 お兄様が私の肩をギュッ! と握りしめてくれる。幸せすぎてこのまま天国に旅立ちそうです。


「……うん収まったみたいだね。もう大丈夫だよ美咲」


――もう収まってしまいました。もっとお兄様の温もりを感じていたいのに……でも仕方がありません。

 

 私は立ち上がり、お兄様に頭を下げて。


「はい。とても頼もしいですわお兄様――て、え?」


 ふと突然訪れた浮遊感。何かと思って足元をみたらマンホールより一回りほど大きな穴。

 私はその中に吸い込まれ――


「み、美咲ぃ!」

 

 そんな私の腕をお兄様が掴みました! いけませんわ! お兄様も巻き込まれてしまいます!


「お兄様!」


 私は思わず叫びます。ですがこの穴は腕を掴んだお兄様も巻き込んで、私達兄妹を吸い込んでしまいました――そんな私を助けようとして……私は思わず落下しながらお兄様を掻き抱きます。


 何があっても――お兄様だけは私が守らねば! そう思っていると浮遊感に包まれながら、段々と意識が途切れ――








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