水虫治療と勇者と女神
ハイオークになった彼。今日もお出掛けです
ヤバイ…っすわ
俺は今日もあの大地に来ている
咽ぶような緑の香り
そして噎せかえるようなオッサンの香り
水虫を治す神としてロンベールが友人を集めたのだ
毎日のように水虫や痔を治す日々。
俺の蘇生呪文はかなりの効果を持つが死んだ毛根は蘇らないと気づいた時に、だいたいの治療は終わった。
そしてお礼…。お供えは牛○なのだ。
いや。お金でもいいし、食材でもいいよと言っているのだが、
どうやら牛○収集家と位置付けられたらしい
いや。
牛○は主食じゃないよ
俺も最初そう思ったけど違うんだってば!!
毎日凄い量の牛○が集まるようになりジェード母も喜ぶようになった
あまりの大量具合に今日はミネヴァも手伝いに来てもらっている。
「鼻になんかついてるぞ」
ゴシゴシ
テヘヘみたいな掛け合いをするが、それは泥ではなく牛○である
しかしミネヴァはかなりの美オークに感じる。
仕草など計算され尽くしたような可愛らしさだ
イチャイチャする水虫治療神と牛○を鼻につけた堆肥女神を眺めながらロンベールは言う
「オラ達は誤解してただ。魔獣という姿で恐れてしまっていた。スマネぇ」
「いや。いいさ。でも一歩踏み込むと違う景色も見えるだろう」
「はい」と頷くロンベール。
なんだ。俺が草だった時は脂ぎったオッサンかと思ったが、気の良いオッサンじゃないか。
そんな事が頭に浮かぶ
俺もロンベールに一歩踏み込んだって事か。
俺たちは固く握手を交わす。
「私、水汲んでくるね」
「ああ。気を付けて」
牛○の女神。いやミネヴァがバケツを持って歩いていく
(気が利くいいコだな…)
ミネヴァの後ろ姿を見送ると視界にノイズが走った
《焼き尽くせ!!ファイヤーバースト!!》
「ミネヴァ危ないっ!!!!」
ミネヴァは炎に包まれて転げ回っている
俺は走った!!
とにかく火を消さねば!!
俺はミネヴァに覆い被さり火を消そうとするが魔力の火はなかなか消えない
どうすれば…
「旦那!!どいて!!」
ロンベールが水をかける
皆で水を汲んできてくれたのであろうか。
蒸気が立ち上ぼり炎が消えていく。
「ミネヴァ!!大丈夫か!!」
ミネヴァは顔を隠している
「大丈夫…だけど、顔火傷しちゃった…ジェードには見られたくない…」
その一言に胸が詰まる
「大丈夫だよ。」
俺はミネヴァの手をそっと外し蘇生呪文をかける。
総量MPを半分消費する程の強烈な蘇生呪文だ。
(火傷の跡も残らないように)
願いをこめて呪文をかける
「ふはははは!!オーク討ち取ったり!!」
声のした方を見ると金髪のヤツがいた。
勇者だ。
血が登り全身が震える
赦せない!!
俺は勇者の前に立ちはだかった
「お!!ハイオークなんて珍しいな!!」
ニヤリと笑う勇者。余程余裕があるのだろうか?
勇者の背丈は俺の腰ぐらいしかない。
剣を持ってはいるがリーチでは間違いなく俺が有利だ。
俺をただのハイオークだと思うなよ
自己再生を発動させてから勇者めがけ拳を降り下ろす
「甘い」
という言葉を放ち、勇者はひらりとかわした
その刹那 爆発音が起こる!!
地面が割れたのだ
勇者は驚きとまどっている!!
そして俺も驚きとまどっている!!
なんだこりゃ!!破壊力がパネェ!!?
チート能力というが、拳ひとつで地面を割るとか
(…てか、草の仲間達ごめん!!テヘペロ)
ビックリして怒り狂った思考が戻る
「お…お前!!ただのハイオークじゃないな!!」
勇者は剣を正眼に構えているが…震えている
剣がカチャカチャ鳴っているのだ。
(…あれ?これ楽勝モード?)
油断した瞬間、炎の塊が飛んできた
「あっぶねぇ!!」
横っ飛びで慌てて躱す
そうだ。 コイツには魔法があった。
楽勝モードが膠着モードにかわる
(…やってみるか)
いきなり実践投入するのもなんだが、嚇しくらいにはなるだろう
俺はウィンドウを開き分身を使う
ぐにゃりとした感覚が全身を包む
俺の体からハイオークが3体現れた
(…今の感覚は?)
すぐにでも確認したい事があるのだが、まずは勇者を退けなくては
前後左右から勇者に近付く
「ひ…卑怯だぞ!!」
なんか言っているが聞こえない。
全部が俺なのだから卑怯もクソもないのだ。
どんな達人でも一度に攻撃されたら躱す事は不可能だって聞いた事がある
壬生の狼と恐れられた新撰組だって任務遂行の為に多対一で挑んだそうだし。
むしろ全部が俺なので感謝してもらいたいくらいだ
しかしこのまま力任せに前後左右から殴ってしまうとマズイのではないか。
勇者ミンチになっちゃう
仕方ない
俺は前後左右から同時に飛び掛かり勇者を生け捕りにする作戦に出た
「とあっ」
勇者からしたら自分の倍くらいあるマッチョが四方向から飛び掛かってくるのだからたまったものではないだろう。
それでも一人の俺を斬った気迫は称賛に値する
(まぁ自己再生発動してるから関係ないけど)
斬った矢先から再生が始まる
それを見た勇者は諦めた様子で素直に捕まった
(さてと)
報復も考えたが、説教タイムである。
なかなかに強そうな勇者だし、チャンスがあれば体を手に入れたいとも思ったのだ。
勇者は殺されると思ってるらしくカタカタと震えている
(…意外と気の弱い勇者だな)
正座させて兜を外させた
兜を外させたのだ。
そこにはブロンドの美しい少女が…
(え?マジ?勇者って子供?しかも女の子)
勇者を目撃したのは過去2回
どちらも目元まで隠れる兜を被っていたから気づかなかった
「ええい!!殺るなら殺れ」
なにか言っているが却下
「おい。お前。俺たちが何かしたか?」
「お前らは魔獣じゃないか」
そんなのは理由にならない
「じゃあお前は魔獣に何かされたのか?」
「…民衆が魔獣は敵だって…」
それも理由にならない。
「お前が魔獣と戦う時はお前が家で寝ている時か?」
「そんなわけないだろう」
「じゃあもし、お前の家に土足で魔獣が現れたら戦うか?」
「当たり前だ」
「お前(勇者)がしている事はそういう事だ」
ハッとした顔をしている
俺の言葉、全部理解できてないかもしれないが今はこれでいい。
勇者は押し黙っている
もう俺から言うことはない「去れ」というと勇者は口を開いた。
「僕の名前はミントと言う。さっき攻撃してしまったオークに謝らせてくれ」
(…僕っ娘?)
一瞬雑念が浮かんだが、俺は勇者の希望を受け入れてやった
「ミネヴァ…ミネヴァ大丈夫か?」
「うん…」
(あれ?なんか様子が?)
「蘇生呪文を目一杯協力にかけたから、火傷の跡は残ってないハズだよ。手をどけてごらん」
「…でも」
俺はそっとミネヴァの手をとる
(!!!!)
「やっぱり火傷の跡あるんだ!!」
再び顔を隠してしまうのだが、そこには火傷の跡どころか、耳がツンッと立ったエルフの美女がいたのだ。
勇者登場しました
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