さらばナンシー
御意見感想などありましたらよろしくお願いいたします
チュンチュン チュンチュン
小鳥のさえずりを目覚ましがわりに俺は朝霧に包まれながら目を覚ます
(ナンシーおはよう)
隣に植わっているトウモロコシに声をかけるのが日課だ。
金髪の彼女は俺の初めての相手である(受粉)
人生イコール彼女いない歴の俺にとって受粉は生命の神秘であった。
まあ花粉は風に飛んでいくし、あちこちに受粉してるとは思うのだが、隣のナンシーは間違いなく俺の子供を宿している
理由は距離が近く、俺が風上だからだ。
もちろん彼女と言葉を交わすことはできない。
というか、名前も俺が勝手につけた。
しかしトウモロコシ人生も悪くない。
身動きはとれないが、周りのトウモロコシの成長を見ているだけで、育てているわけではないが愛着が湧いてくる。
オークがトウモロコシを栽培していたのは意外だったのだが、想像以上に手をかける姿には感謝の念すら覚えた。
肥料撒きはもちろん真夏の草むしり。
そして台風の日、心配そうに俺たちを見回るオークの顔は忘れない。
顔は見分けつかないんだけど。
摘果(間引き)で俺を採ろうとしたオークの顔も忘れないがな!!
今日は収穫の日らしい。
村の若者たち総出でトウモロコシを狩るようだ。
まあ顔の見分けはつかないんだけどさ
畑の端に一列に並ぶオーク達
その誰が俺の獲物…いや。体になってくれるやら。
そんな恐ろしいトウモロコシが一本隠れている事も知らずにオーク達は働く
そして隣のナンシーも収穫されていった
(…さようならナンシー)
俺は篭に入れられ村へ運ばれていく。
さて。オークはトウモロコシをどうやって食べるんだ?
魔獣だしやっぱ生か?
いやいや。村まで運んできたんだ。
茹でるのか?
俺としては焼きがオススメなんだが。
自分が料理されるのだが、これから起きる事を思うとワクワクが止まらない。
(…あれ?トウモロコシ…干してる?)
おいおい
もしや干して粉に挽いてからナンみたいにする気じゃないだろうな?
まさか、粉チョイス一択って事は…
マジか。ミイラにされるのか…
ナンシーは既に軒下で干されていた。
しかし、オークは思っていたよりも知識高いな
保存食として加工するとは。
関心関心などと思っていると大鍋が運ばれてくる
茹でキター!!
もはや焼きが良いとかワガママは言っていられない。
1日でも早く人類に近づいて異世界を探検せねばならないのだ。
せっかく覚えた分身も使ってみたいし。
結果、俺は茹でられた
今日は収穫祭のようで、中央に祭壇
そして円を描くようにオークが座っている
神に収穫を感謝しているようだが、何を言っているのかはトウモロコシの俺にはわからない。
(しかしオークは言語もあるのか…)
ゲームでオークが出てきてもゴブリンと双璧を為す雑魚キャラだったが、こうやって見ていると、文明もあるし会話も存在する。
魔獣というより亜人間という表現の方が合うかもしれない。
そして俺を食べる不幸なオークが決まった。
ウィンドウを確認するといつものようにHPが0になり職業欄が変化を続ける。
食物繊維に変わりデンプンになり
きた。
職業 ハイオーク
HP 8708
MP 6707
特技 自己再生 鞭 分身
(…よし)
「−い!!おい!!大丈夫か!!?」
周りを見回すと数人のオークが心配そうな顔で俺を見ていた。
どうやら、トウモロコシを食べたあと急に苦しみだしたらしい。
苦しみだしただけでなく、いきなり筋肉が隆起し、筋肉質なオークになっていったとの事。
「ああ。大丈夫…」
「おいおい。あんまり心配させるなよ」
そう言うと散っていったが、筋肉質になった事はスルーなのだろうか?
今まで着ていた服がはち切れそうになっている。
たぶん俺のレベルが、オークに影響を与えたんだろうけど
いや!!スルーされてない!!
メスオーク…いや…
オークギャル達がメッチャ見てる!!
まさか異世界に来てモテ期到来してしまうとは!!
オークに…
人生でモテ期は三回来ると聞いた事があるが、
人間時代一回も訪れなかった。
そのモテ期が今…
全部同じ顔に見えていたオークの顔が見分けつくようになっているし
オークギャルが可愛く見えている。
いやいやいやいや いやいやいやいや。
まずは落ち着こう。
俺は人間よ?草や牛になったけどベースは人間よ?
オークギャルにムラムラ来てるけど人間よ?
頭で因数分解をしながら、とりあえず煩悩を押さえ付けた。
煩悩を退けたのだが、一人のオークギャルが近付いてくる
挨拶を交わす俺は政治について考えている
というか、露出高いよ!!
トウモロコシ時代はなんとも思ってなかったが、オークになるとヤバイ。
「ジェード…急に逞しくなってどうしたの?」
「ジェード?あ…ああ。トウモロコシが喉に詰まったんだ」
どうやら、俺が奪った体はジェードと言うらしい
「もー…心配したんだゾ」
俺の胸筋をつつくオークギャル。
ヤバイ!!何かが壊れそうだ!!
そんな折りに俺は気づいてしまった。
(…あれ?オークに名前あるの?)
ふと罪悪感に襲われる
乗っ取って上位種に捕食させるだなんて。
それでいいのか…。
「ねー。聞いてるの?」
「あ。ああ…君の名前は…?」
「ひどーい!!幼馴染みの名前忘れるとかありえなーい!!」
「え…えっと…(ミネヴァ)…ミネヴァだろ」
「わかってるならいじめないでよ」
(…?)名前が頭に浮かんできた
完全に乗っとるのではなく主従ならば俺の意識が主になるって事か?
確かに細胞すべてが俺になるわけじゃないのはわかっていたけど、他者と関わりを持つ事がなかったから気づかなかった。
という事は、俺であってジェードであるって事なんだな。
しかし気付かない方が良かった。
これじゃ簡単に(オークの体を上位種に食べさせて)なんて言えない。
この体、ジェードには幼馴染みがいる。
きっと家族もいるだろう。
困った事になった。
罪悪感でいっぱいになる。
ひとつの命を左右するのだ。
頭を抱えているとミネヴァは心配そうに覗き込む
「あー!!勇者の事ね!!あいつ、最近、村の近くまで来るから心配してるんでしょ?」
ミネヴァは勘違いしたようだ。
まぁオークになってしまったものは仕方ない
情報を集めよう。
「勇者ってあれか?あの金髪の」
「うん。まいっちゃうわよね。村の近くまで来て魔獣だってだけで攻撃してくるんだから」
確かに。
ここにいるとオークはそんなに悪い存在には感じない
「人間が領土を広げてくから私たちとぶつかるのよ」
「なるほどな…。ちなみに勇者がいるって事は魔王もいるのか?」
ミネヴァは不思議そうな顔をして「いるわよ」と答えた。
そうだ。
ジェードはここに住んでるのだから知らない方がおかしい内容だってあるのだ。
だが、もうひとつ聞かねばならない内容がある。
これは俺にとって人生を左右する
やはり聞かないわけにはいくまい
「俺らを食べる魔獣はいるのか?」
ミネヴァは怪訝な顔をする
それはそうだろう。
人間だって人食い○○と聞けば気分の良いものではない。
しかしミネヴァは教えてくれた
「ドラゴンやコカトリス…人間ってとこかしら。熊や狼族とか他にもいるけど」
そうか。
ともかくオークで詰みではなく、まだ上の種族があるのだな。
ともかく焦らなくてもよい。
捕食以外にも、なにか上位種になる方法もあるかもしれないし、今は自由に動ける体を手に入れた事を喜ぼう。
草はやっと身動きできる体を手に入れました