お約束
何でこの話し書いたんでしょう、私。既に記憶に無いのでファイル漁って出て来たこれを読んで首を傾げてます。そんなことはさておきまして、ブラック、な感じのするお話になってます
お約束
その日俺は、魔法の鏡を買った。
自分が死ぬ一年前の姿が見える鏡だという。
さっそく俺は見た。
そこに居たのは、年老いた俺の姿だった。
皺枯れ干からび幾つものチューブで繋がった、年老いた俺の姿。けれど、それ以上に目を引いたのは部屋の様子だった。立派な家具や調度類に囲まれた豪勢な部屋だった。
ご丁寧にカレンダーが見える。
今から三十四年と三ヶ月、ちょうどぴったりの日だ。
「どうですかな? 自分の未来を見た感想は?」
古物屋の店主が、ニヤつきながら訊いてくる。年老いた男だった。
自分を悪魔だというその男は、ある日俺の部屋に訪れ、この魔法の鏡を売り込んだのだ。
最初は相手にしなかった俺も、男が見せた幾つもの不思議な品物を前にして信じざるを得なくなり、男の勧める魔法の鏡を言われるがままに買ったのだ。
俺は鏡を見詰めながら男に応える。
「あぁ、そうだな。悪くない」
応えると同時に、俺は男をポケットに隠していた拳銃で撃った。
二十二口径の小さな拳銃。治安のよろしくないこの国のこの地域では、お守り程度の代物。
けれど、身近に居る相手を殺すには十分すぎる拳銃だ。
男は小さな穴の開いた胸を押さえ、地面に崩れ落ちた。
なぜ? そんな表情を最後に見せて。
「ああなるまでは、俺は死なないんだろ?」
鏡を見詰めながら、俺は男に応える。
「なら、それまでは何をしようと俺は死なない、不死身の男って訳だ。しかも見ろよ、あの裕福な俺を。あれだけ裕福になれる何かを、俺はしでかしたって訳だ。まともな方法じゃねぇよな、絶対。
ありがとよ、踏ん切りがついた。成功するかどうか、不安だったんだ。立派な犯罪者になれるかどうかがよ」
俺は安堵する。何しろ約束されたのだから、俺の未来は。犯罪者として成功する未来を、俺は約束されたのだ。
喜びに頬が緩む。俺は男から、男の持っていた全てを奪う為に近付いた。そんな俺の耳の片隅に、声が響いた。
「お買い上げ、ありがとうございます」
……幻聴だ。男はもう死んでいる。それなのに、言葉はまだ続いていた。
「善良なる人間の魂と引き換えに、罪人としての成功をお約束致します。ではいずれ、地獄でお会いしましょう。
ちなみに、クーリングオフは、利きません。あしからず」