彼女の主張・みんなの反論
夏に書いたお話なので、投稿した時期とは完全にズレた話になっています。それはそれとしまして、ジャンル的にはコメディなお話になっています
彼女の主張・みんなの反論
「みんなに、言いたい事があるんだ、私」
真剣な声で、彼女は言った。
「私はね、盗撮が大好きなんだっ!」
この上も無くアホなことを。
「何度でも、何度でも言うよ。盗撮が大好きなんだっ!」
どうでもいい事を、彼女は尚も胸を張って断言する。
「部活に集中するみんなの勇姿を隠し撮る事も、ユニフォームという聖衣から見える眩い素肌を激写する事も、大好き。
それだけじゃないよ、激写されている事を知らず見せる自然で無防備なみんなの笑顔なんて堪らないよ。
みんなの美しい瞬間を映像という永遠へと昇華する事は天命だってさえ思ってる。
分かるよね、みんなっ!」
「分かるかバカ」
「盗撮って犯罪だよ」
「あらまぁ、不様な御託でしたわね」
放課後の水泳部の部室にて、盗撮された三人の少女達はご立腹であった。
一人はクール、もう一人は家庭的、そして最後の一人はおっとりとした雰囲気を漂わせる少女達である。
名前を順に、京子・詩音・雪江と言った。
三人とも部活終わりの為、体のラインがぴったりと出る競泳用の水着を着用していた。
「で、釈明はそれだけなのか、お前」
腰に手を当て、正座をさせた犯人を見下ろしながら京子は訊いた。そんな彼女に犯人は、
「勿論だよ。私のあふれんばかりの情熱が伝わって――」
ドゴッ!
返事を最後まで聞き終わる事なく、京子の拳が勢い良く部室に備え付けのロッカーに突き刺さった。盛大な音に相応しく、突き刺さる拳の形にロッカーは変形した。
「反省が、無い。……殺っとくか」
「ひぃぃっ、すいませんごめんなさい調子ぶっこいてましたぁっ!」
「あらまぁ、謝らなくても好いのに。ひさびさに京子の殺戮ショーが見れましたのに」
「黙れサド」
「もー、そんなことより、ロッカー壊しちゃだめだよ」
「……すまない、詩音」
「次からは、しちゃだめだよ。それと、ミエちゃんも、悪いことしたんだからちゃんと謝らないとダメだよ」
なごみ感あふれる穏やかな声で注意され、盗撮犯である小柄な少女、三恵はいきなり涙目になると、
「ごめんなさい――」
憐みを誘う声で謝る。そして、続けた。
「悪いことだって、分かってたんだよ……でも、でもね、私、ちっちゃくて運動神経なくてスポーツとかできないから、せめてみんなが頑張ってる所を形に残しておきたかったんだよ……やり過ぎだって、分かってたけど……ごめんね」
「三恵――」
京子は正座させられている三恵の頭に手をそっと載せると、
「『男子生徒に生写真を売って部費激増計画』とかいうのを画策していたらしいな」
ぎぅっ、という音が聞こえてきそうな勢いで思いっきり握った。
「あいだだだだっ、ごめんなさいごめんなさいっ、何でバレてるのーっ」
「写真部の新入生が教えてくれた。凶行を止めてくれと」
「裏切り者ーっ。実の姉を裏切るなーっ」
「やかましい。それよりもこれでハッキリした。お前は――」
京子は親指を自分の首に当てると、
「ギルティ、だ」
掻っ切る真似をした。
「ひぃぃっ、死刑宣告ーっ」
「あらまぁ、萌えますわね」
「ふざけすぎだよ、ユキちゃん」
「同感だ、さすがに殺さん。が、それなりの罰は受けて貰うぞ。雪江、用意をしろ」
「は~い、ちょっと待ってくださいね」
京子に呼ばれた雪江は、自分のロッカーから小さなデジカメを取り出す。それに気付いた三恵は表情を強張らせると、
「……えっと、あの、それで一体何を……」
そんな三恵を微笑ましそうに見詰めながら、雪江は応えを返す。
「あらまぁ、そんなに怯えちゃって、かわいい♪ 大丈夫よ、貴女がしたことを貴女にするだけだから。
『ドキっ、制服女子のいけない激写、ポロリもあるよ祭り』
を実行するだけだから」
「なにっその古いネーミングっ。というかポロリってなにっ」
「あら、ツルリもチラリもあるわよ」
「さらに増えたっ。助けて、助けて詩音っ」
「だめ。少しぐらい痛い目を見た方が好いよ、ミエちゃんは」
「そんなーっ」
「さて、悪を滅ぼすとしよう。雪江、撮影は任せた」
「いやーっ、や~め~てーっ。ちょ、ほんとにめくらないで、やぁ、汚されるぅーっ」
「あぁ、萌えますわね。京子、ついでにもっとエロいポーズをとらせて。こぅ、男子生徒がその浅ましい劣情をもよおすような」
「うむ」
「いやーっ、かんにんしてーっ」
こうして、悪はその行いに相応しい罰を受けたのだった。
ちなみに、その時に使ったデジカメにはメモリーが入っていなかったという事を三恵が知るのは、彼女達が卒業する時である。
教訓 盗撮は犯罪です。ダメ、絶対しちゃダメ。妄想だけで楽しみましょう。