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星海の光  作者: ZEXAS
第二章 吸収と繁栄の帝国
40/50

エイルの経緯




私の名はエイル。

奴隷になる前はミラと呼ばれていた。生前の名前は……もう忘れた。私にとって名前とはその程度の認識のものなのだ。


生前……と言うからには、私も生きていた頃があった。吸血鬼は生まれつきの者もいるが、半数は吸血鬼化した元人間と言われる程には純粋な吸血鬼は多くいない。私も例に漏れず、吸血鬼化した元人間だ。

遠く昔の事だ。人間と魔族の争いが活発だった頃。吸血鬼の一団に村もろとも蹂躙された私は、吸血鬼の気まぐれで吸血鬼にさせられた。そしてそのまま魔界へ連れさられ、そこの住民となった。


色々あった事だけ覚えている。当時の私は自己防衛の為に記憶することを極力避けていたようだ。気づけば私を連れ去った吸血鬼の屋敷を乗っ取っていたものだから、復讐心だけは存分にあった事が伺える。ここまでで吸血鬼になって100年は経過している。記憶が少ない分あっという間に思える。


余裕のある暮らしを手に入れたが同時に、私は卑屈で乏しい心の持ち主になっていた。

他人を全く信用できない私は、まず最初に屋敷にいる使用人など意思を持った者全てを追い出した。


空になった屋敷の手入れは自分でする事にした。最初はその身を使って掃除をしようと努力したが、1人で屋敷を掃除など1日2日、10日あったって足りやしない。そこで私はようやく吸血鬼であることを利用することを思いつく。

やたら多い魔力を駆使して容易に屋敷を掃除する方法を数ヶ月掛けて編みだし、それまで溜まった汚れを1日掛けず綺麗さっぱり落として新築同然の屋敷の姿を見るまでに至った。


問題にぶつかっては解消し、徐々に上達する魔法の腕。綺麗になった屋敷から得られるカタルシス。魔界に来て初めて充実した日々をその時の私は送っていた。


次に悪趣味な内装を変え、すっかり荒れた庭を整え、料理の道にも片足を突っ込んだりと、私は夢中になって屋敷弄りや家事をするようになっていった。他に楽しみを見出せなかったのが要因でもある。


そうこうしている内に数十年が経った。気付けば手入れ技術の改良も行き着くところまでいってしまい、私が屋敷に居なくても30年は全自動で状態を保てる程になっていた。

自分で自分の仕事を奪ってしまい、する事の無くなった私はようやく外に目を向ける。……が、常識力が乏しいことは自負していたので、まずは屋敷にある本を頼りに付け焼き刃の知識や立ち回りを覚えた。


結果を言うと、他人との関わりは実に退屈なものだった。気付けば私はまた1人で屋敷に籠もり、今度は本の虫となっていた。いよいよ本を読むくらいしかすることが無かったからだ。


そして更に数年が経った。それでも読んだことのない本のある事に喜びを感じつつ過ごしていた私に転機が訪れる。

人間界の本が売られていた。懐かしさもあったが、よく本を読む者として珍しさに逆らえず即購入した。そして屋敷に戻って読んでいく内に人間界への興味が高まった。

本を読むことに飽きはしないが、いい加減刺激が欲しかった私は人間界へちょっとした旅行に行く事にした。


そして魔界と人間界を繋ぐゲートを通って人間界に出てみれば、出待ちと言わんばかりの魔族捕獲用トラップに引っかかり、私は人間に捕らわれた。

容易にその場を抜け出せたし、取り付けられた拘束具を破壊する事もできたが、暇なのでせっかくのイベントを堪能することにした。私はそんなに吸血鬼らしい高貴なプライドは持ち合わせていない。


奴隷になる事は受け入れたが、奴隷商や調教師の慰み者になるつもりは微塵もなかったので、立場や拘束具にものを言わせて私に奉仕させようとした調子に乗った人間の仕方のないものを噛み千切ってやると、私の扱いは良い方向へ変わった。立場は奴隷だがもてなされるべき者でもあるという奇妙な関係の始まりだった。


私は人間に気分を害されなければ危害は加えなかった。奴隷商側もそれを察してか、自分達より明らかに力のある爆弾である私を抱え続けた。吸血鬼をも奴隷にできるという客への見栄の為なのかもしれない。

そんな奴隷商に私は変わってるなと言うと、アンタも変わってるよと返されるくらいには距離の近い間柄になっていた。


人間では抑えの効かない吸血鬼を買う物好きは一向に現れず、一年と数ヶ月の年月が経った。

頼めば本くらい寄越してくれるが、定期的に与えられる血が本当に美味しくない。魔界で売られていたハズレの血より不味いかもしれない。


生きる為に仕方ないものをちゃんと用意してくれる者に文句は言えないので、割り切って摂取している生活が続くと、目の前の人間全てが美味しそうに見えるようになった。

察しのいい奴隷商は私の異常を良くない傾向と見て、たまに他の奴隷の娘の血を私に与えるようになった。この奴隷市場の娘の質が良いのかどうかは知らないが、どの娘の血も上質なものだった。


こうして、私と奴隷商の関係は盤石なるものとなっていった。そんな矢先、遂に私は購入される事になる。


ここが吸血鬼でさえ奴隷にしてしまう凄腕の奴隷市場である印象を与える為、私は奴隷商により真っ先に客に薦められる。もちろん購入する者はいない。吸血鬼なんて危ない生き物を手元に置きたい人間などそうそういないだろう。




……と思っていたら購入された。相手は私より小さい娘だ。無知で愚かな子供だと思った。

私は見せ物としての役割が大きいが、それでも普通の奴隷より数段高く見積もられている。少なくとも見た目年齢8歳が良いところのお子様の出せる金額ではない。

大方、貴族か何かの娘なのだろう。親の金で奴隷を……しかも吸血鬼を買うなど、愚か過ぎて心配になってくる程に娘への印象は最悪だった。


私はとりあえず罵った。唖然とする娘が泣くまで罵った。すると娘は逆に怒り出し、私が罵る為に適当に選んだ言葉の穴を突ついてきた。見た目の割りに頭は回るようで、私は少々怯んだ。 お互い劣勢という訳の分からない幕開けだった。


宿屋の個室に入るまで一行に会話は無かった。一行というのは娘の仲間の男2人の事で、恐らく娘の親が雇った冒険者のボディーガードか何かだろう。

険悪というよりは気まずそうなこの空気は間違いなく私によって生み出されたものだろう。だが私は悪びれることは無かった。どうしてだか、むしろこの娘の表情から負の感情を覗き見る事に喜びを感じていた。


……私はこんな性悪だっただろうか? この娘といると不思議と変になる。それはイヤだ。

そう思った私は、さっさと奴隷を辞めて何処かへ行こうと考え、娘に奴隷の首輪を外すように要求した。この首輪は特殊な物で普通は外せないが、奴隷の主だけは外せるようになっている。別に力にものを言わせて首輪を破壊する事も出来るが、できればすっきり別れたい。


しかし娘は私を放さないと言い放った。

分からない。嫌いなものを手に持っていようとする心が分からない。


娘に興味を持った私はもう少し話を聞くことにした。すると娘は友達が欲しくて奴隷である私を買ったのだと言う。吸血鬼でもある私を選んだ理由は特に無いらしい。メチャクチャだ。

話を聞く毎に私はこの娘……ライトに興味を持っていった。行き着くところまで行けば恐らく私のようになるだろう。そう思えるくらいには他人に思えなかった。

そう、この何とも脆そうであっさり壊れそうな心の持ち主を放っておくなんて勿体ない事は私にはできなかった。


欲望にまみれた乱暴な人間も人間らしくて素敵だがいかんせん醜い。一番人間らしい人間とは怯える者だ。切羽詰まって何をし出すか分からない。刺激を求める私にとって、この脆そうな娘はちょうどいい人材だった。おまけに見た目も可愛らしく、加虐欲をそそられる所もポイントだ。


こうして私はライト様からエイルという名前を貰い、奴隷と主人……というよりは友人同士という形の間柄となった。

聞くにライト様は貴族でもなんでもなく旅人らしい。男2人も旅仲間なんだとか。早速私の想像よりも逞しいことが発覚したが、それでもさほど憶測が外れているように見えない。ついさっきまで緊張していた様子は見る影も無く、愛らしい笑みを浮かべている。それが何よりの証拠だ。


どんな相手でも割とあっさり警戒を解く。誰かと話せる事に喜びを感じているのを容易に察せる。……この主は遅かれ早かれ誰かに欺かれ絶望する。その時の彼女がどうするか、どうなるのか、早く見てみたい気もするが……今はもっと彼女を知りたい。知ってからの方がきっと感じ取れるものも多いから。


……と、理屈っぽい事を並べてみる。実を言うと、私は彼女に惹かれている。初めて会った時には気付かなかったが、この子からは妙な安心感を得られるのだ。同族でさえここまでのモノは感じさせない。

ので、吸血鬼を前に先に寝るこの無垢で無防備な少女のベッドに潜り込んで共に寝る事は不可抗力であり私の意思による行動ではない。


その日その時、私は幼い頃に村の裁縫師から人形を貰った時のような喜びを感じながら眠った。




次の日の事だった。

元々血を欲していた時に特上の生娘を腕に抱いても血の渇望を抑えたのが祟ったのか、私はかなり衰弱していた。

持てる魔力をほぼ全て飢えの誤魔化しに使用したところで時間稼ぎにかならない。とどめに今日はよく晴れていた。吸血鬼を干すにはうってつけな天気である。


私の偽りの元気も昼食を摂った後に外を歩く頃には影を潜めていた。すると、ライト様は私を気遣ってか宿屋へ連れ帰った。

だが既に私の理性の鎖は崩れる寸前だった。一室に私と少女の2人だけ。もはや後でこっそり人間を襲ってやり過ごすなどという考えも吹き飛んだ。


私は今思っている事、ライト様を襲いたい一心である事を抑えも効かず話し出した。

拒絶される……。拒絶されたところで吸い殺してしまえばいいのだが、それはあまりにも後味が悪すぎる。殺すにはあまりに惜しい、できる事なら私のモノにしたいのだから。


しかしこの少女は構わないと言った。果てには両手を差し伸べ微笑みながら「おいで」とまで言った。

一瞬呆気にとられたが、気をとりなおして一言断りを入れ、返答がくる前に首筋に牙を入れた。

その血は背筋が震え上がる程に美味しかった。まるで禁忌を破るような快感も得られる程に、私が吸って良かったのかと思える程に、次元が違った。


……我を忘れて吸い続け、気が付いた時にはライト様は痙攣を起こしていた。私はハッとして吸血を止め、ライト様の反応を待った。


彼女は聞いてきた。「足りた?」と。見返りも何もない、一方的な慈愛の念を感じた。とても子供の出来る芸当ではない。弱々しく紡がれたそのたった一言に、同姓でありながらトキメキのようなものを感じた。

この娘はこの見た目でとてつもない母性を持っていた。普段からそれらしい雰囲気はあった。ただひたすら、私に甘いのだ。それは母性とは違う気もするが、私をこうまで揺らがすには十分だった。


……いや、これは母性ではない。ライト様は天然そうに見えて、中身はとても重い人なのかもしれない。

よくよく考えればこの見た目で旅をしているというのは相当な訳ありだ。


……深読みしていて気付かなかった。主でありながら私にここまで尽くしてくれた少女は、ぐったりとしながら小さく静かに呼吸を繰り返していた。

私は少女に回復魔を掛けて、隣に寝転がり、綺麗な白髪を撫でた。


「ありがとう、おやすみなさい……」


ただの観察対象ではなく、本当に友人かそれ以上の感情を持ち合わせてしまうのではないか? そんな不安は、今は置いておこうと決めて、私はライト様を抱き枕にして食後の睡眠に入ることにした。









あらら、なんだかエイルさんの方がライトさんより中身のあるキャラっぽくなっちゃった?

いや、経緯は兎も角まだまだキャラがぶれてる感あるので……!


しかし百合っ気が増してきましたね。

読者さんの事も考えず百合っ気をぶっこんできましたね。

好きだから仕方ありません。



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