なんというか……何かしなきゃ!
そう言えばライトさんはルゥさんの肉体と融合することで髪色が金髪から白髪に変わったんですよね。
………………。
も、もしかしてこれって言ってしまえばチャイ化と被ってるんじゃ……。
いやいや、チャイカを知る前からこの展開は決まってたし別にパクリじゃ…………ってなんかこれに似たようなことを響さんの日常でも言ってた気が……。
ー商業地区
視点 ライト
朝起きて、昨日寝る前に考えていたジェシネスさんへのお詫びを思い出し(何かジェシネスさんが喜びそうな物をおささげしようという案)、ダークSUN に挨拶もせずに宿を飛び出し商業地区までやってきた。
……は、良いんだけど……。
ああーオレのバカバカバカ! お詫びの品を買うったって何を買えば良いのさっ!
かれこれ一週間近くはジェシネスさんの店で働いたけど、それだけじゃジェシネスさんがどんな物で喜ぶかなんてわからないよ!
……あぁ、ここにきて人付き合いの悪さが裏目に出て解析能力が皆無なことに悩むなんて……。
「おい、そこの白い嬢ちゃん」
「……?」
心の中でもがき苦しむオレに誰かが呼びかけてきた。
誰かと思って振り向いてみると、そこには大きくて肌色が黒と灰色の中間でガタイが良くて頭から角の生えた、いかにもモンスターな人型の生き物がいた。
「…………!!?」
驚きのあまり地面に尻餅をついて絶句してしまった。
「あららぁ、脅かすつもりなんて微塵も無かったのになぁ」
怪物みたいな怪物はオレの肩を気持ち優しく掴むとオレを持ち上げ、立たせた。
……もしかして、悪いモンスターじゃない?
「……あ、あの……?」
「おおそうだった。嬢ちゃん、結構なお金を持っているだろう? おいらにゃ分かるんだ、なんとなく。それに何かを求めて買い物に来ているんだろう?」
「……え? う、うん」
ああ、そう言えばこの世界には人と同じかそれ以上に賢い魔物がいて、その魔物は人と同じようにコミュニティを築いていて更に人と商売みたいな事もしてるんだっけ。
目の前の魔物さんがもしそれなら……なかなか良いものが買えるかも。
「今日は魔物商隊が専属の店に仕入れする日だもんな。嬢ちゃんもそれを聞いてこんな朝から来たんだろう? 偉いもんだ。そして幸運な事に嬢ちゃんは(金持ちな)人を見る目のあるおいらの目に止まった」
魔物商隊か。それは知らなかったけど、なんだか今日はツイてるみたい♪
「興味があるなら付いてきてくれ。もしおいらの勘違いでなければな」
怪物な人? はそう言って歩き出した。
オレはそれに付いていった。
……これって端からみたら怪物が幼女を連れ回しているという即事案発生な構図なんじゃ……。
「しかしまぁお嬢ちゃん。あんた伝説の魔王様の想像によく似てる容姿だってのにおいらに驚いて尻餅をつくなんてなぁ。まぁ人間なら仕方ないか」
怪物な人がそんな事を言った。
「……魔王ってルゥ・エスリの事?」
「あぁ……って嬢ちゃん、魔王様の名前を知ってるって事は人間じゃないのかい? おいらを見て尻餅をつくから人間だと思ってたのに」
あれ? そもそも今のオレって人間なのか? ルゥちゃんの体と融合したから何とも言えないけど。
というかそもそも元の体ですら人間だったのか分からないぞ。
「オレは自分の事は人間だと思ってるけど……実際は分からないや」
どっかの少佐が言ってたね。
人の型を為してなくても、それでも私は人間だ。的なことを。
だからまぁ、オレがオレを人間だと言い張る限りオレもとりあえずは人間なのかもしれない。多分、一応。
「嬢ちゃん、面白いね」
「……そう?」
「ああ、よくよく考えたら普通なら嬢ちゃんくらいの子供ならおいらに声を掛けられたら尻餅をつくだけじゃなく大声で泣き出すもんだった」
「確かに最初は驚いたけど……。でも、なんだか不思議と魔物さんが人より良い生き物のように見えたから……」
今の発言に嘘偽りなんてない。
オレは人がそれなりに汚くて、自分もそれなりに汚いって事をよくではないけど一応知ってる。そりゃあオレなんかよりよっぽど他人の汚さに苦しめられている人はいるだろうけどさ?
だからオレは人を……生き物を見た目で判断しない。……とはいっても結局色眼鏡は掛けて見ちゃうかもだけど。
でも見た目が厳つかったり強そうだからって悪い生き物だなんてすぐに決めつけない…………と思う。
とにかく、少なくともこの魔物さんは悪い生き物には見えない。
「つくづく面白い子だなぁ。実際の魔王様が君みたいな子だったら勇者なんて輩に消されなかったのかもなぁ。おっといけねぇ、魔物のおいらがこんな事言うなんて嬢ちゃんよりよっぽどおかしいな。ははは」
陽気な見た目の厳つい魔物さんはそう言って笑った。
……この世界での魔物はオレがよく知るファンタジーのテンプレの魔物とはちょっと違うみたい。
「ほら、着いたぞ嬢ちゃん」
「……あ、あれ? ここって……」
魔物さんに着いていってその先にあった店を見てオレは驚いた。
「雑貨屋オリド。おいら等魔物からすると結構ありがたい所さ」
そう、そこはジォシネスさんのお店だった。
魔物さんが店に入っていきオレも後を着いていくと、やはりというか何というか、ジォシネスさんが出てきた。
「ライトちゃん!?」
「あ……えと……」
驚いた風なジォシネスさんにオレはどう対応していいか困りごにょごにょしてしまった。
「頼まれた品は今からおいらが戻り次第テレポートさせる。品を確認して不満が無ければ代金をテレポートさせてくれ。あ、確認の印付きの伝票もな。それじゃ、おいらはここで。じゃあな嬢ちゃん。良いもん見つかるといいな」
2人で唖然としている内に魔物さんは話す事を話して店から出て行ってしまった。
オレは沈黙を絶つためにとりあえず昨日の事を謝ることにした。
「え、えと……ごめんなさいジェシネスさん! 昨日はすっぽかしたりしてっ!」
「え? あ、ああ良いのよそれくらい。……(私も昨日は途中から店を閉じて闘技場に観戦に行ってたし……)」
「すみません……これからは気をつけます……」
「大丈夫よ。自分で言うのも何だけど私は比較的温厚な方だから」
そしてまた起こる沈黙。
……も、もう辛いよ。2人っきりの空間で沈黙だなんて……。
なんとか話題を出すために最近の記憶を漁っていると、ちょっと気になるワードが出てきた。
「……あ、そう言えばさっきの魔物さんがテレポートとか言ってたけど……」
オレがそう言った途端、ジォシネスさんの肩がピクリと動いた。……気がした。
まぁそれはそうと、テレポートって結構大きな魔法なんだよね。
いわゆるAB移動的なやつで、決められたA地点から決められたB地点へ、人でもなんでも瞬時に転送出来る魔法……だったと思う。
主に魔力の扱いに優れていて割と魔力保持量の多いと言われてるサウシアの人達が砂漠の先の他国にいるサウシア生まれの仲間と協力して商売とかに使われているらしいんだけど、これがとんだ魔力喰いなんだとか。
少なくとも10人はいないと魔力不足で発動すらしないみたい。
そんな点を踏まえてオレはそのテレポートの話が気になったんだ。
「テレポートって大魔法ですよね? 魔物さんなら単身でも扱えるかもしれないけど……」
言葉に詰まった。何が言いたかったんだっけ?
おおそうだ。
魔物さんの話だとこの後品物がテレポートの魔法で届いて、問題が無ければ伝票やら代金やらを魔物さん達のところへ転送……つまりテレポートしろって言ってたんだよね。
でも誰がテレポートさせるの? って疑問を聞こうとしてたんだった。
「もしかしてジェシネスさん、1人でテレポートの魔法を使えたり……? えへへ、冗談」
ジェシネスさんは雑貨屋さんで魔物との流通で珍しい道具とかも手に入れてるかもだから多分その道具とかで……
「ライトちゃん……お願い、私がテレポートの魔法を使えること、誰にも言わないでっ……」
「……え?」
いつもの頼れるお姉さんなジェシネスさんからは想像出来ない。そんな弱々しくも必死な様子のジェシネスさんがそこにいた。
オレの脳はジェシネスさんの予想外のリアクションに少し焦った。
「あ、あの……ジェシネス……さん?」
ジェシネスさんは少し涙腺の緩んだ表情でこちらを見つめてくるばかり。
どうやらこちらが口を開かないといけないみたい。
「え、えっと……大丈夫ですよ? オレ、結構口は堅いんで……」
「……ありがとう」
オレがそう言うとジェシネスさんは少し安心したのかその場に崩れた。
もちろん言葉に偽りはない。
わざわざ聞かれてもない情報を他の人にバラまく事に何の意味がある? それも知り合いに害のある情報を。
あと、オレはそんな人間じゃない。
「でも凄いですね、テレポートが使えるなんて。やっぱり商人をやってると魔法を使いやすくする道具とか手に入るんですか?」
「……褒めてくれてるのね、ありがとうライトちゃん。でも違うの」
「……?」
「ライトちゃん、実は私は……」
ジェシネスさんはもみあげ辺りの髪を上げた。すると長く尖った耳が出てきた。
「も、もしかして……人間じゃない?」
「そう、私は人間ではないの。いや、私は人間から人間とは言われない長耳族っていう種族なの。いわゆるエルフと言われる種族よ」
人間じゃない。エルフ……。
「……どう? やっぱり怖い? ……そうよね、ライトちゃんは人間だもの。人ならざるモノは怖くて当たり前よね……」
そうだった……ここはファンタジーな世界。当然のように魔法やらヤバい力やら使えてたから忘れてた。
それと多分さっきの魔物さんだけじゃ実感が沸かなかったんだ。
そしてだいたいの国は人間以外を魔物として差別意識を持ってるんだった。
「怖くなんかないですっ」
がばっ
オレは無意識のうちにうなだれるジェシネスさんを抱きしめていた。
優しい温もりというか自然な温もりというか、とにかく心地の良くなる感じがした。
これがエルフか……。
「……え? で、でも……」
「怖いならオレは今ジェシネスさんにくっついていません」
「……私はいわゆる人ならざるモノ……言ってしまえば魔物よ……?」
「オレからすれば人間も魔物も同じです。人間は数だけで力も魔力も少ないとても弱い種族。それらを力で制さない魔物さん達の方が優しくて人より人情に溢れていると思います」
何口走っているんだろうオレ。これじゃオレが人間嫌いみたいじゃないか。
「…………! ……ふふ、ライトちゃんってビックリするくらいに大人なのね……人と魔物をまるで外から眺めるように語れるなんて……。ありがとうライトちゃん。私、ちょっと元気になれたわ……」
少しして落ち着いてからジェシネスさんは自分の事から色々な事まで話始めた。
「ライトちゃんはエルフって言う種族がどんなものか知ってる?」
「こちらの認識が間違っていなければ、エルフは長い耳が特徴で、それ以外は外見では人間とほとんど同じ。そしてあらゆる種族の中で上位に入るくらい魔力を沢山持っていておまけに魔法の扱いが上手い……って感じですか?」
「だいたい当たってるわ。ライトちゃんって博識なのね」
「……あ、ありがとうございます」
ゲームやら何やらのエルフの特徴というか、そんな感じのをただ答えただけで誉められるなんて……ちょっとむずかゆいなぁ。
「でもねライトちゃん。世の中はエルフにとってはそんなに甘くないのよ……。そこまで魔法の扱いに長けている訳でない人間は魔法の扱いに長けているエルフを基本的に良く思わないの」
そういえばそうだった。
この世界の国は基本的に多種族には排他的なところばかりだったね。
それでもお互いに戦争を起こさないのは人間とそれ以外の種族が不干渉を努めているからなんだよね。
知的な魔物はいくら人間より強いとはいえ数的には人間の方が圧倒的に上なので全て潰すのは少々面倒なんだとか。
そして、そもそも知的な魔物側は戦闘意識は特にないという平和思考。
一方人間側(主に侵略国家)は領土は欲しくても知的な魔物側相手だと数はあれど結局力の差でとんでもない被害が出るのは目に見えているので仕方なく人間同士で国取り合戦するしかないとか。
「この国は知的な魔物……つまり私のようなエルフやさっきのホーンデビルさんみたいなのは一応は入国出来るわ。でも外見だけで快く思わない人は沢山いるの。私みたいなエルフ達は耳さえ隠してしまえば色眼鏡を掛けて見られることはないけれど……」
「難しい問題ですね……」
見た目で色々判断されちゃうのは仕方のない話だ。キレイゴトでどうこう出来るものじゃない。
よし、じゃあちょっとだけジェシネスさんが元気になるかもしれないことをしよう!
昨日の償い的なこともしなきゃだしね。
「ジェシネスさん、エルフは限りなく人間に近い種族ですよっ」
「……?」
オレは左手に『透明化』の呪文を込めた。
ちょっと綺麗で透明な石のようなものがオレの左手の中でほわほわと浮かび上がった。
「ライトちゃん……?」
そして左手の力を放った。
……これで透明になった筈だ。
「あ、あれ? ライトちゃんが急に消えた……」
「オレはジェシネスさんの前ですよー」
きょろきょろするジェシネスさんの前で適当な防御魔法を使って透明化を解くと驚かれた。
「ど、どういうことなの……? ライトちゃんはもしかして人間じゃないの……?」
「大丈夫です。オレは多分人間ですよ。ほら、耳も普通です」
「……ホントだわ」
「人間は日々進歩しています。こんなチビなオレだってさっきみたいな魔法を使えるんです。エルフは人間より魔法の扱いに優れているからと気負いしなくても良いんですよっ」
……まぁオレはドーピング人間みたいなものだから七割以上滅茶苦茶理論なんだけどね。でも少しはジェシネスさんの持っている悲しめな常識を変えてあげられたかもしれない。
「ライトちゃんって可愛いだけじゃなくて優しいのね……」
「……!」
ジェシネスさんはオレに近寄ると優しく抱きしめてきた。
「それと……不思議……。なんだかとっても安心する感じがするわ……」
誰かにこんなに愛おしいもののように抱かれる経験なんてずっとずっとしていなかった。
オレはその感覚に酔ってしまい、少しの間抵抗することなく抱かれたままでいた。
いつものようにお店の手伝い。
そして休憩を始めてお茶やらお菓子やらをご馳走になっていると、ジェシネスさんがオレが何故ホーンデビルの後を着いてこの店へ来たのかを聞いてきた。
「ああ、それはですね……。まぁ、はい……。昨日仕事を途中ですっぽかしちゃったから何かお詫びの品を探そうとウロチョロしてたらあの魔物さんのお眼鏡に掛かったんですよ」
オレがそう言うと、何故か今にも泣きそうな顔をした。
「(い、良い子すぎる……っ!!)」
「ど、どうしたんですか?」
「……え? な、なんでもないのよ? ちょっと砂が目に入ったみたい……」
ここ室内なんですけど……。
「なんというか……ライトちゃんは良くできた子ねぇ……。今の子ってみんなライトちゃんみたいなの?」
おっと、おっちゃんに「少しは子供らしくしろ」って言われていたんだった。
「んー、今とちょっと先のことで手一杯なので他の人なんて見てないから分かりません……」
濁して逃げないとね。
……ん? 普通子供なら言葉を濁すなんてしないような……。
あ、あまり深く考えない!
★ ★ ★
ー宿屋
夕方頃に宿屋に戻ると、ダークSUN は既に帰っていて、いつも通り愛用の長い刀のような武器の手入れをしていた。
「ただいまダークSUN 」
「……ああ」
時間、夕方、ダークSUN 。このワードがふと浮かんだ瞬間、オレにある決意が浮かんだ。
「ねぇダークSUN 」
ダークSUN は無言でこちらへ顔を向けた。
「もしかして今日はこの後『仕事』?」
「……ああ」
「じゃあさ、内容は聞かないけど一緒に行っていいかな」
「……お前は来ない方がいい」
大人の対応をされた。
まぁ当然か。ヤバい仕事に子供を連れて行くなんて普通はしないよね。教育に良くない以前に邪魔になるし。
「オレは気配を消してるから邪魔にならないよ」
消音魔法を使った後に透明化魔法。消音魔法は透明化魔法と違って発動してから何をしようとも一定の時間を過ぎるまで効果が消えない。
これによってオレから声以外の音は発せられなくなる。更に透明なので人に気づかれる事はない。
「……だが」
「オレも見たくないものを見る耐性が必要なんだ。神と関わっている以上メンタルが人でいてはならないんだよ」
そう、オレ達は神に頼まれごとをしているんだ。少しでも人間離れしないと身が保たない。
……いや、オレに限っては身は保つだろうけど、心の方が保たない。
なんせいまだにこの心は戦争なんかとは無縁で、バイトをいくらも掛け持ちして迷惑な客に難癖付けられても真に受けず頭を下げる頃となんら変わらない程度のメンタルだ。
血を流した何かより迷惑な客の方がずっとずっと可愛く思える平和メンタルだ。
「……ずいぶんと賢いお子様だ」
ダークSUN は表情を変えずに言った。
羨ましいなぁ、そのポーカーフェイス。
「じゃあいいんだね?」
「……ああ、本当のところはお前のような子供を連れて行くのは望ましくないんだが、お前は特別な存在な気がしてな。特別な何かには人が集まり、人が集まるところはいつも良くない事が起こる。事が起こりお前の精神がそれに耐えられないような事態があってはもう遅いからな」
「うん」
そう、そんな事になったらもう遅い。そうなる前にオレはオレを責め込んで鍛えなきゃいけない。
力のある者が精神崩壊してしまうと……そんな話をおっちゃんに聞いたからね。自分の持つ力の分だけ責任を持てとも言われたからね。
なにより、せっかく強くてニューゲームな人生をさせて貰えてるんだ。負けてゲームオーバーなんて考えたくない。
「……お前はお前を邪魔にならないと言った。だから俺はいつも通りにやる。着いて来れなくても文句は言うなよ」
「もちろん! 文句を言う気なんて更々ないよ」
ダークSUN が少し笑ったような気がした。




