再生の女神 血に濡れる
これが真の厨二病だッ!!
と言い切れるくらいに今回はぶっ飛んでます
それは二回目の北東の砦戦が終わって1週間も経たない頃に起こった
「北東が落ちたぞ!」
「もうすぐ奴等がこちらに来るぞ!」
「ああ、リスエル様ハトル様、とにかく神様お助けぇ!」
誰も敵が攻めてくるのは昼間だけとは言ってない
そう、夜襲だったのだ
まだ勝利によって浮かれていた砦の兵士達は皆酔っぱらっていて、ろくに剣も振るえずに打ち倒された
彼等の剣がいくら強化されていても当たらなければ意味がない
彼等の防具がどんなに軽く硬く出来ていても酔っていては身軽に動けず、軽装なので丸だしの首を飛ばせば万事OK
「何処へ逃げれば…」
「そうだ、インサンドを使おう!」
「それだ!」
新エイナ帝国はまもなくサウシアの首都へ来るだろう
しかしそこにはサウシアからすれば天使、新エイナ帝国からしたら悪魔というカオス少女がいた
・・・・・・・・・・・・
―サウシア王宮
―ライトの部屋
「ライト、起きろ!」
ライトの元の世界で言う月という星の代わりに夜を制する青白い星が沈み始めた頃、慌ててライトを起こす者がいた
ロイ王である
「んぅ〜?…うあぅあぅ」
ライトは起きるのを拒んだ
今は深夜だ。よく眠る子供が起きれる筈がない
「頼むライト!もうお前しかいないのだ!我とカースジックと兵士だけでは無理だ!このままでは民に被害が出てしまう!頼むライト!起きてくれ!」
流石に耳元でギャーギャー騒がれては夢の中へ帰ることなど出来ない
「うぅあぃあぁ…」
ライトはゆっくりと起き上がりゆっくり目を開けた
ロイ王はライトと自分の顔を向き合わせた
「……?」
「ライト、分かるか?我だ、ロイだ」
「ローイ?うん、分かるよ」
「北東が突破された。敵はまもなくやって来る」
「敵?」
「そうだ。やらねば死ぬ。それは嫌だろう?」
「死ぬ?死ぬのはイヤ」
「我は戦う。生きる為に。我は欲深き人間。民を忘れて自分だけ助かろうとするだろう。だがライト、お前がいれば話は変わる」
「戦うんだね、私。巻き込まれるんだね、私」
ライトはベッドから降りて立ち上がると、ロイ王を意味深な瞳で見つめた
「ぬ?大丈夫かライト?なんだかいつもより変ではないか?」
「私はいつも通りだよ。また、誰かの為に何かをするの。いつも通りだよ」
「……そうか?まぁいい、急ぐぞ。もしかしたらもうそこまで侵攻されているかもしれん」
ロイ王の言葉でライトは頷くと、急に物凄い速さで走り出した
ロイ王は着いて行こうとしたのだが、あまりにもの速さに着いて行けず置いてかれてしまった
「……ライトよ、どうしたというのだ?」
―サウシア城下街
深夜の城下街は敵の進軍を知った住民がパニックを起こしてすっかり賑やかになっていた
「皆さん!落ち着いて下さい!」
その住民達に必死に声を掛ける人物が1人
シェリルだ
「これが落ち着いていられるか!敵が来るんだぞ!?」
住民は当然と言える返答をした
「慌てずに!私の話を聞いて下さい!インサンドを使うのです!」
「インサンド?あの魔法は普通の人間だと時間が掛かるんじゃないか?」
「確かにそうです。でもこの広大な砂漠の何処に逃げ場があるのですか!砂の中以外ないでしょう!」
シェリルに説き伏せられ住民達は下を向いた
「急がなければみんな死にます。死にたくなければ一刻も速くインサンドを使うのです!」
「……そ、そうだな。君の言う通りだ。みんな!さっさと家に入れぇぇぇ!インサンドを使うぞぉぉぉ!」
シェリルと話していた住民がそう叫ぶと周りの住民は聞こえていなかった住民に伝言を回しながら家へ入っていった
間もなくあちらこちらから呪文を唱える声が充満し、ゆっくりだが家が沈み始めた
「(ふぅ、一先ず安心ね。外側の方だと被害は避けれないだろうけど全滅は免れそうね)」
そして額の冷や汗を拭っているシェリルの元へ土煙をあげて近づいてくる者が1人……ライトである
「ライト……様?」
シェリル急に現れたライトに驚いた
「シェリルさんですね?状況を把握したいのであなたが行った事を報告して下さい」
「え?あ、はい」
シェリルはライトの様子に困惑しつつ、先程の事を話した
「なるほど、家が沈んでいる理由はそれでしたか。あなた住民の為に事を行った。あなたは偉いですね」
「いえ、住民あっての国ですから。全てはこの国が滅びない為です」
「ふふふ、そうですか。あなたはますます偉いですね」
「ライト様?失礼ですが今日はなんだか様子がおかしくありませんか?」
「『私』はいつも通りですよ。『私』はね」
「……?」
困惑しているシェリルを全く気にしない様子でライトは話を続けた
「あなたは戦えますか?」
「私ですか?もちろん戦えますよ。VIPメイドはVIP客を守る程度の力は備えていないと勤まりませんから。それにライト様から受けた修行のお陰で更に強くなりましたしね」
「そうですか。それでは前線で死になさい」
ライトの言葉にシェリルは『えっ?』という表情をした
無理もない
「頑張ってシェリル♪ あなたなら敵の数が5万だろうと100万だろうと関係なく敵に埋もれて死ねるわ♪ ……それじゃあ私は蔓延るクズ共を惨殺してくるから〜っ」
困惑するシェリルをよそにライトは国の外側まで飛ぶように走っていった
国の外側に出たライトの目には敵軍と思われる者達の灯りが遠くで横一列になっているところが映った
「アレは使えないけどこの子は十ニ分強いから大丈夫ね。さぁさぁ、バカみたいに長い射程とバカみたいに強い威力を持ったこの魔法を喰らってその自己主張の激しい灯りで出来た線を保てるかしら?」
ライトは意味深な動きを見せる事なく片手でいきなりライトニングテンペストを撃った
青いビームのようなものは真っ直ぐ敵軍の方まで飛んでいき、無知な者達を肉片どころか骨すら残さない……いわゆる分子や粒子……言いやすくすると単なる砂に変えた
「あははっ、ここまで無事に来れると思っていたの? 群れになったところでバカはバカね。あらあら急に急ぎ足になっちゃって……。そんなに急がなくてもちゃんと辿り着けるよ」
次にライトは広範囲に爆発する炎系の魔法エクスプローションを某野菜王子のように連射した
一秒間に発射されるエクスプローションの数は10発近くあった
まるでグレネードランチャーと軽機関銃が合体したかのようだ
そんな馬鹿魔法を喰らって無事な者がいる筈もなく、攻撃の範囲内にいた者は爆ぜたか焼けたか体の一部が吹き飛んだ
「そう、あの世へね」
ライトは少しの間目の前の惨状を嬉しそうに見つめていた
そして突然、速く高く跳躍した
「この子の力、凄く面白いかも♪ 爽快感っていうのかしら? とってもスッキリするわ♪ じゃ、お次は近接戦なんて面白いかもね」
「な、なんだお前は!」
新エイナ帝国の兵がウジャウジャいる中、1人の兵を馬から蹴落とし仁王立ちするライトを他の兵が怒鳴りつけた
「私? さぁ、誰だろうね。少なくともあなた達の敵……かな」
律儀にライトは答えたが、それに反応する者は既にいなかった
ライトは反り血で全身が紅く染まっていた
「一瞬でこの惨状……。なぁんでこの子はこんなに素敵な力があるのに敵さんを仲間にしたり逃がしたりするのかしら?こっちの方が手っ取り早いじゃない」
程なくして、サウシアの外側から上がる様々な声はピタリと止んだ
総勢7000名以上の新エイナ帝国の兵は皆砂漠の潤いとなったのである
そしてそんな大量の命を一方的に奪った悪魔のような少女、スターライト・エクスシーションは自分で作った血溜まりに仰向けになって浸かっていた
「ふう、単調な作業だったけど、全部終わらせるとスッキリするね」
両足をバタつかせること自体は少女らしい
しかしそれによってビチャビャと音をたてながら跳ねる紅い液体が全てを台無しにしていた
「ふぁ〜……。眠いところを起こされてきたからまだ眠いなぁ……。ま、そんな訳だしオヤスミ〜♪」
そして少女は眠りにつき、ライトが目覚めた
「(んぅ……。なんだぁ……? この変な感触は……。はっ!? まさか漏らした!?)」
ライトは飛び起き、周囲を見回した
「……な、なんだこれ? 血…? もしかしてダイナミック生理? いやいや、規模が違うだろ規模が。こいつは世界地図どころかプラネタリウムじゃん」
生理とオネショについて熱く語っているが、それはただの現実逃避
先程まで活動していた為視界は良好
そこら中に跳んでる誰かの身体の一部などすでに視界に入っていた
「うわあぁぁぁぁ!?」
ライトは叫びながら尻餅をついた
それと同時にビチャッと音がし、血が跳ねた
「な、なんなんだよ!? ここは何処なんだよ!? これはなんなんだよ!? なんでオレはここにいるんだよ!? ……う……うぅ、ひっく……ひっく……」
ライトは散々叫んだら末に、ショックで泣き出してしまった
「ライト様ぁぁぁぁ!」
泣きじゃくるライトの元へやってくる人物が……
シェリルである
「うっ……。凄い臭い……。ライト様、大丈……夫ではないようですね」
「えぐっ……うぅっ……? シェリルさん……?」
シェリルの目の前に広がる紅い世界、鼻を刺す悪臭
単なるVIPメイドがこんな凄まじい光景を見た事は無かっただろう
「はい、シェリルです」
「シェリル……さん。うっ……ふわあぁぁぁん!!」
ライトは自制も出来ずに血まみれのままシェリルに抱きついた
シェリルはそれを嫌がる素振りを全く見せずに受け入れた
「さぁ、帰りましょう? 早く洗わないと血でカピカピになっちゃいますよ?」
「うん……うん……」
相当ショックだったのか、散々泣いた後はシェリルの胸の中に安心して眠ってしまった
「すー……すー……」
「(よかった、いつもの……って訳じゃないけどライトちゃんだ)」
シェリルはライトを優しく抱えると、そのまま王宮の方角へ向けて歩いていった
血の水溜まりも砂に吸われて浅くなってきた頃、沢山の屍が転がる上空に2つの影があった
『もうっ、誰なの? あのままもっと凄い事をしようとしてたのに!』
片方は半透明の謎の浮遊物。見た目は17歳程の少女
もう片方はアルスフィガーデン担当神のハトル
お互い睨みあっていた
「あまり神の重要観測対象に余計な事をしないでほしいものだな」
『観測対象……ねぇ』
「そうだ。この地は観測の地となった。神工的にどこかを弄くった不自然な地だ」
『へぇ、自分が創った世界だからってそんなこと言っちゃうんだ』
「神は善神でも悪神でも便利屋でも正義の味方でもない。神は神だ。それをお前達にどうこう言われる筋合いはない」
『キツい事言うね』
「真実を言ったまでだ」
『じゃあ、力を与えた者はみんな揃ってただの観測対象ってのも真実なんだね』
「……さて、どうだろうな」
『……ふーん、濁すね。私、あなたの返答次第じゃまたあの子に取り憑いて大暴れしているところだった』
「そうか」
『……。じゃあねっ』
少女はすうっと消えてしまい、そこに居るのはハトルだけとなった
「……神と話す出来る者は神に手を加えられた者のみ。奴は一体……?」
ハトルは空中で胡座をかきしばらくその場で考えていたが、下からむわむわと湧いてくる悪臭に参ってしまった
「ぬぅぅ、集中できない……。一旦帰るか……」
ハトルは血溜まりに何かをばら蒔いて消えていった