第一章 希望2
「あの、ありがとうございます…」
「いいってことよ」
僕たちは地上に無事たどり着いた。
じいさんの波動のおかげで、着地の衝撃は少なかった。
じいさんは小さいボトルを取り出し、ぐびぐび飲む。
「貴様は、まだ死んではいけない。やらなければならないことがある」
「やらなければ…ならないこと…?」
一体なんなのだろうか。
じいさんはサングラスの下からニコニコこっちを見ている。
「貴様、今波動は使えるかの?」
「…すみません、僕捕まる前の記憶がないんです。なんにも…覚えてなくて…」
「そうかそうか。そういえば忘れてたわい。ほれ」
そういって、じいさんは指輪らしきものを僕に向かって投げる。
かろうじてキャッチし、掌の中を見てみるとそれは錆だらけの指輪だった。
「あの…これは」
「わしがシエルを偵察したときの街中で拾ったものじゃ。貴様のだろう?」
「…」
ぴったりはまったその指輪はダイヤのような宝石がついていて、錆びてなければ相当高く売れそうな代物だった。
僕は人差し指の指輪を見て、太陽にすかした。
「自然を感じろ。風を感じろ。とても小さいがこれも波動エネルギーなのじゃ。それを理解し、発動することができるのが、波動師」
じいさんの言うとおりに、僕は目を瞑り、風を感じた。
小さいけど、気の流れを感じることができた。
すると…
ビューーーーン!!!
いきなりの突風が僕の手から発動する。
その突風は空に向かって竜巻を作りながら消えて行った。
じいさんはヒューと口笛を吹き
「いまのが波動じゃ」と得意げに言った。
僕は今の一瞬の出来事に圧倒されて言葉が出ない。
「やはり本能的には波動を忘れてないようだな。その指輪は波動師がもつエネルギー増強用具。それがあれば貴様もなんとかなるだろう」
ほほほっと笑うと、拘置所の時計を見て、いきなり立ち上がった。
「いかんいかん!そろそろ議会が貴様のことで騒ぎ始めるぞい!」
「僕は…どうすれば…!」
つられて動揺してしまっている僕に、じいさんは一枚の紙切れと小銭の入った巾着を渡してきた。
「とりあえず、貴様はその紙に書いてある場所へいけ。わしの孫が匿ってくれるはずじゃ。では、健闘を祈る♪」
「待っ…!」
僕の声を聞かないうちにじいさんは、消えてしまった。
牢屋の時と一緒だ。
あのじいさんはいきなり現れて、いきなり消える。
それも波動なのか。
ぶつぶつ考えているうちに、甲冑の鎧六人に囲まれていた。
よく考えたら、僕が今いるところも拘置所の領域。
見つかって当然である。
「リョー・ウェイヴ。貴様に議会から強制拘束令状が出ている。発砲許可もだ。今なら間に合う。おとなしくついてくれば、殺さないでおく。さあどうする」
甲冑が一歩一歩僕に近づいてくる。
「…どうせ…死刑なんだ」
僕はじいさんの言葉を思い出した。
~やらなければならないことがある~
意味はわからないけど、どっちみち死ぬのならまだ足掻いてみようと。
そのとき、僕は、決意した。
「…やってみるか」
掌を一人の甲冑に向ける。
後ずさりをする鎧。
風が吹いている。
花の匂いがする。
低いすきま風の音。
僕は五感全部を使って、風を理解しようとした。
…今だ。
そう思った瞬間、
「ぐわあああっ」
標的の甲冑が飛ばされた。
僕は足を軸にして、囲んでいた残りの甲冑に突風を発動。
六方各地に飛ばされた甲冑は、もう戻ってこれない位遠くにいた。
僕は紙切れと巾着を握りしめ、拘置所を後にした。
その日から指名手配の貼り紙が各地に貼り出された。
リョー・ウェイヴ
身長175〜180。黒髪に青い目。
右手の人差し指に指輪。
風の波動師。
罪名~波動法違反
及びシエル住民3462人の無差別殺人




