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DEUS EX MACHINA  作者: 響かほり
二幕
11/13

魔物王殺しの代償3



 レックが意識を取り戻したのは、常世の開門と称された魔物王討伐の日の翌日。

 だが、意識はあれども自分の意思で指一つも動かなせなかった。それどころか、声も出せなければ、瞼すら開かない。

 だが五感は鋭敏に研ぎ澄まされ、小さな物音一つ、囁き声も聞きのがさす、気配で人の動きを感知できたので、かろうじて恐慌状態になることは免れた。

 自分がベッドの上に寝かされ、身体に管を多くとりつけられているのも、鋭くなった皮膚の感覚が正確にレックに伝えた。

 そして、自分の体に何が起こっているのか、それは医者と思しき人間の言葉で何とか把握ができた。


「しかし、筋骨の再生は聞いた事があるが、臓器の再生とは一体どういうことだ?」


 一人の男が、レックの傍で呻くように呟く。

 その声が、水の中に居るかのようにくぐもった音となり、頭の奥で波打つように反響して聞こえる。

 呟いた老年の男の他にあと三人、人の気配がする。


治療布エラクの力では、損傷した傷は治癒できても、喪失した臓器再生までは出来ぬはずではないか?」

「しかも喪失したのが心臓ともなれば、死者蘇生した事になる」

「事切れる前に処置を施した結果かは分からぬが、恐らくはこれに関係があるはずだ」


 身体を包んだ布が衣擦れと共に僅かに剥がされ、胸が肌蹴るのがレックには分かる。


「こ、これは…」


 一様に男達が驚嘆の声をあげる。

 男の一人が、恐る恐るレックの左の胸に触れた。

 其処はレックが魔物王から致命的な攻撃を受けたはずの場所。

 傷自体は綺麗に塞がっていた。しかし、その皮膚は光を反射する蒼鱗がびっしりと生えていた。


「鱗?この形状は水生の魔物に見られる魚鱗か?」

「いや、この鱗の光沢と硬度は竜鱗に近い」

「分析した結果、その双方の遺伝子が組み込まれた魔物の物だ」


 基本的に、魔物は同族の物と交配して子孫を残すとされている為、二つ以上の異種の魔物の遺伝子を持つものは存在しないとされてきた。


「なんと!では、新種の魔物が居ると言うことか?」


 その言葉に、抑えきれない興奮があるのをレックはぼんやりと感じ取った。

 魔物との戦いで負傷することの多いギルドの民を治療する為か、ギルドの医師はその大半が魔物生体学にも精通した医学者でもある。

 魔障を治癒する為に、まず魔物の生態と特性を熟知しなければならないため、新たな症例・新種の魔物に対して気分が高揚しているのだろうと、レックは思う。

 自分の事を言われているにもかかわらず、レックの中には大した驚きはない。

 ただ、淡々とそれを吸収する様に記憶に叩きこむ。


「解らぬ。この傷は魔物王から受けたものだと報告を受けたが、魔物王が消滅した今、これが魔物王の遺伝子から成る物かは判然としないのだ」

「魔物王は伝承では確か竜属の魔物ではなかったか?」

「所詮文献のみで、今回の戦いでは人型を取っておった上に、灰となり亡骸も回収不能。遺伝子情報が以上、魔物王の種族を特定する物は何もない」

「仮に魔物王の魔障ならば、本体が滅びれば宿主のそれは消滅するはずだ。魔物王の物と考えるのはこれまでの研究結果に沿わぬ」

「そうであるならば、この者のこれは、魔障ではないと?」

「可能性は否定できない。だが、これが魔物王の物ではなく、戦闘の最中に別の魔物から受けた魔障である可能性も否定は出来ぬ」

「いずれにせよ、こ奴を目覚めさせるわけにはいかぬ」

「ウィリアム殿下には殺せと命じられたが、新たな魔障であるならば生かして検体とせねばならぬ」

「生かさず殺さず、今まで通り薬で眠らせ続けていくしかあるまい」

「殿下へは、意識が戻らぬままとこれまで通りに報告を。この者を決して目覚めさせぬように」

「殿下のご気性ならば、目覚めれば殺さねばなるまい」


 不穏な言葉を口にした医者だが、どうやらウィリアムの思惑とは裏腹に、医師であり研究者としての男達の精神がレックの生命を繋げている様だった。

 そして、自分は何やら訳のわからぬ身体の変調で命は助かったが、研究者の欲望の為に生かされる為に今の様に動けない様に薬漬けにされているのだと、状況を理解する。


“面倒くさい事態だ…腹も減った…動きたくない”


 下手に動けば追われて殺される。

 まして今は武器もなければ、異常な疲労感と空腹感で、身体が鉛の様に重く起き上がる事も出来ない。

 これが魔物相手の戦闘ならば無理にでも身体を起こして戦うが、人間相手では興を削がれて自分の事とはいえレックは干渉する気にもならない。

 戦闘では烈しい気性で同じ白騎士の仲間ですら怯えさせるが、ひとたび戦闘から離れれば、呆けていると疑われるくらいに物静かで、寡黙だった。

 痴虎などと揶揄されるが、単に戦闘以外に興味がない極端な面倒くさがり屋だった。

 傍にエルザやマルシェが居れば、彼らがあれこれと世話を焼いてくれるが、今は彼らも居ない。

 何にせよ、身体の自由は奪われてはいるが、今の所、さしあたって生命に緊急性の危機がないと判断したレックは、今は無闇に動かない方が良いと、再び薬による強烈な睡魔に身を委ね意識を手放した。



 オオカミ更新で本当にすみません…


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