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DEUS EX MACHINA  作者: 響かほり
二幕
10/13

魔物王殺しの代償2


 今にも自分に振り落とされそうなそれを、竜は成す術もないままじっと見ていた。


「待って!殺しちゃ駄目っ!」


 炎を纏った長身の男の横腹に、少女が飛び付いてぎゅっとしがみついた。


「またそんな、くそたぁけた事言うンか、おみゃーは!」

「だって嫌なんだもん!死んじゃう所なんて、見たくないもん!」


 泣きそうな声で必死にそう訴える少女に、青年は歯ぎしりする。


「また殺せんのか!あれも殺すな、それも殺すな、殺すな、殺すな!大概にしとかなかんて、おみゃーはっ!これじゃオレっちが死んでまうわ!」

「ドゥマーも死んだらやだっ!」

「だったら、オレっちに殺させろ!こいつは太祖に乗っ取られとる!」

「…だけど、この子は悪くないよ」

「割に合わん!毎回毎回、タダ働きさせといて!たまには、見返りくらいよこしゃー!」


 苛立ちを抑えきれないドゥマーと言う青年を見げた少女は、唇をかみしめ視線だけを瀕死の竜に向ける。

 そして何事か覚悟を決めた様にドゥマーの腰から少女は手を離し、彼の腕を取って彼の体を下げさせる。そして、自分は背伸びをして、少女は青年に何かを耳打ちする。

 途端に、青年の表情が喜色に染まり、少女の顔を両手でとらえて彼女の額や頬に幾つも口づけを落とす。


「ドゥ、ドゥマー!?」

「今夜は、おまさんが気ぃ失う位なかせて良いんだな!いっぱい楽しませてもらうで、それで赦したる!こいつはおみゃーに譲ったる!」

「ふぇ!?…ま、前みたいに、痛いのはやだよ…」


 とんでもない発言をした男に、少女は愛らしい顔を青ざめさせる。ドゥマーは満面の笑みで少女の涙で潤んだ眼元を自分の舌先でなぞる。


「そいつは、夜のお楽しみだでよ、楽しみに待っとりゃーせ」


 僅かに零れた涙を掬った青年は、口の中で少女の涙の味を堪能しながら、淫靡に笑って見せた。

 少女は蛇に睨まれた蛙の様に固まっていたが、思い出したように倒れている竜を見る。

 一応、竜の生殺与奪の権限を青年から得た少女は、青年から離れ、蒼白した顔のまま竜の顔の前に歩み寄る。

 竜は臓腑を焼き尽くす熱に呻き、苦痛を耐える呼吸を繰り返しながら、少女を見る。

 竜にその気があれば、その小さな体など一飲み出来る場所に立った少女に、竜は威嚇するように唸る。少女は悄然とする。


「ごめんね…痛いよね。治すから、少しだけ触らせて」

『…施しは要らない』


 成体のおよそ半分の身体しかない小さな竜の口から出たのは、声変わりもしていない少年の声。それでも言葉は威風堂々としたものだった。


「でも、貴方は助けてくれたでしょ?太祖に身体を取られて苦しいのに」


 効き慣れぬ太祖と言う言葉が、自分を支配していたおぞましい欲の塊であると言うことは分かった。

 今は竜の身体からその思念は消えているが、心の奥に黒い澱が燻っているのは分かる。始祖と呼ばれる思念は引っ込んだだけで、消えた訳ではない。それを竜も分かっている。

 竜は、少し離れた場で自分達を見ているドゥマーに視線を向ける。


『殺せ…こいつはきっとまた、お前たちを狙う』

「やだね。おみゃー殺したら、フォンとの約束がわやになってまうでよ」


 鼻で笑ってそう拒否をした男を、竜は愚かだと思った。

 危険と解っているものを生かすなど、まして、命を助けることに何の意味があるのか。危険は回避するために潰すべきだろうと竜は思う。

 だが、目の前に居る者たちの思考はどうやら違うようだった。


「ドゥマーの事、怒らないでね…彼は私を守ろうとしてくれただけなの…」


 恐る恐る竜に近付き、そっと突き出た口の鱗を少女は撫でる。


「貴方は生きたくないのかもしれない…貴方を生かすことも危険なのかもしれない。でも、私はもう誰も目の前で苦しんでほしくないの…これは私の我がままなの。ごめんね」


 申し訳なさそうにそう謝った少女は、竜の左の首あたりへ移動し、右手の人差し指を自分の口元に当て、歯で指の腹を傷付ける。

 ジワリと血が滲んだ指を竜の虹色に乱反射する蒼い鱗の肌に押し当て、文様を描く。

 それはゴスペルの魔導師が使用する回復の法陣。

 言葉もないままに少女が法陣を描き切った瞬間、竜の体から身を蝕む苦しい熱が消えていく。そして傷ついた組織が再生していく歯痒い感覚と同時に、身体が急激に疲労していき、強烈な睡魔が襲ってくる。


「次に目が覚めたら傷は塞がっているから、心配しないで」


 あやすように撫でられ、妙なくすぐったさと安堵を感じた竜は、無意識に喉を鳴らす。

 もう一度彼女を見て、顔を、姿を覚えておきたいと思うのに、瞼は鉛の様に重くなる。

 せめて「ありがとう」と、伝えたいのに身体を襲う倦怠感がそれを許さない。

 竜の瞳は再び彼女の姿を捕えることなく、静かに閉じられていった。





 お久しぶりの更新です。

 アクシデントがあって、DEM(DEUS EX MACHINA)の更新が大変遅くなりました。

 今後は、出来れば週一で更新できるくらいには、頑張りますので、どうぞよしなに。


 ちなみに、ドゥマーの喋っているのは名古屋弁…若干胡散臭いですが…可笑しかったり、意味が分からない言葉などあればご一報くださいませ。


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